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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
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第49話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第49話




 ハンターギルドに到着するとヴィクトリアやカールが同行していた事もあり、俺たちはそのまま会議室へ通された。


数分後にギルドマスターと幹部職員が会議室へ入って来た際、フロアでその他の職員たちが何故かいつもより忙しく動き回っている姿が見える。


ランク5ハンターたちが勢い込んで、青色の巨人を追ってミスター・ジョンドゥーが現れた件を報告したのだが、ギルドマスターたちの反応は予想外に冷やかであった。


「その件は、別途対策案の検討を行う。

それよりも、ランク6ハンターとランク5ハンターの諸君には、最優先の緊急案件の対応を要請する。」


ギルドマスターはそう告げると、ヴィクトリアとカールを連れて出ていってしまったので、幹部職員が説明を引き継いだ。


「先程もたらされた情報によれば、紫色の巨人は大穴を開けた場所以外にも、塞いであった通路を幾つか壊して回っていたらしい。


 その1つが、用済みとなった試作体や手に負えない実験体を処理する実験体破棄施設に繋がっている通路だったそうだ。

そこから数十匹の寄生生物の試作体が逃げ出した。それも変異体や獣人などの死体を宿主としたままで。


特に、犀頭人身のキメラ、ワーライノセラスは、繁殖力が異常に低い事から獣人部隊への正式採用は見送られたが、レベル50と身体能力は低いのにタラスクの甲羅並みに全身が頑丈らしい。これが8匹いる。


その他はスネークピープルなどの変異体やランク4以下の生物だった死体なので、諸君らにとっては大した相手では無いハズだ。

これらが南門付近の出入口から街中へ侵入した姿が確認された。


 もう一つ、魔道具の試作品が保管されていた施設へと繋がっている通路も壊されており、そこから認識阻害効果のある煙幕の試作品が漏れ出している。

これは高さ15フィート以下の位置に丸1日ほど留まり、ランク7以下の生物の方向感覚を狂わせて、まっすぐ真っ直ぐ進んでいるつもりでも同じ場所をグルグルと回る様に仕向けるモノらしい。

これが現在、東門の近辺から噴き出し、風に乗って中央方向へと進んでいる。


そこで、諸君らにはキメラどもの捜索と駆除を依頼する。

作戦の詳細については、現場責任者となるギルド職員に尋ねて欲しい。ここまでの概要について何か不明点があれば質問してくれ。」


「青色の巨人の対応を後回しにして、ホントに大丈夫なのか?」


ランク5ハンターたちがギルド職員に質問していく。


「ミスター・ジョンドゥーも巨人を追い掛けている姿を目撃された以上は、名誉の為にも投げ出す事はしない、とギルドでは判断した。」


「紫色の巨人の件から数日も経った今になって、突然キメラが逃げ出したり、煙幕が漏れ出すなんておかしいだろ?!」


「巨人があまりにも思い通りに動かないから、ミスター・ジョンドゥーが次のシナリオを前倒しにしたんじゃなのかい?」


レナートとヘルガが続けて疑惑を口にする。


「ミスター・ジョンドゥーの黒い噂についてはギルドでも把握している。

しかし、どれだけ調査しても証拠が一切出てこないのが現状だ。」


「悪知恵の働くヤツだねぇ。」


「くそったれめ!目の前にぶら下げておいてお預けだと?!白けさせやがって!」


「お預けになったメインディッシュを気にしても仕方が無い。先ずは目の前のオードブルを片付けるぞ。

巨人を相手にするのに比べれば楽勝だろ?」


「そうだな。じゃあ、気合いを入れて食い尽くしてやるか!」


俺たちは回議室を出ると、フロアに続々と集まって来ているランク5ハンターたちと合流し、責任者から作戦についての説明を受けたあと、割振りに従って街の各所へ散って行った。



 例によって俺とヘルガが、一番厄介なワーライノセラスどもの相手をする事にはなっているが、先ずは見つけない事にはどうしようもない。


俺たちも捜索しつつ合図があったら駆け付ける事になった。


しかも、今回は逃げ遅れたというか、避難所へ向かう事が出来なかった住民が多数残っているので、いつも以上に家屋にも配慮する必要がある。


「おいおい、ホントに真っ直ぐに進めないぞ。」


「これは、思った以上に厄介だね。」


俺たちは単に直線道路を歩いて直進しているだけなのだが、この霧みたいな煙幕の中では、注意していても無意識の内に右斜めの方向へ向かって行ってしまう。


更に、視界も十数フィートほどしかないし、石畳や石壁の温度が体温くらいになっており、温度分布やエックス線を映像として視るタイプの『探査』の魔法では全く役に立たない。


特に、少し離れるだけでハンドサインを視認出来なくなる事が、地味に作戦の支障となっている。


「ソード。あそこに住民がいるみたいだよ。」


「待て、ヘルガ。どう考えてもおかしいだろ。街路灯と比較すると身長が8フィート以上あるぞ、あれは。」


「じゃあ、あれが獣人の人間形態ってヤツなのかい?」


「多分な。この煙幕のせいで、ここからだとステータスが読み取れないから断言は出来ないが。」


このステータスの読取り能力にも神官の神託と同じ様に数段階の分類があるみたいで、俺の能力で確実に読取れるのは格下だけだし、しかも読取るには数秒間の集中を要する。


格上が対象だと油断している相手でないと読めない上に、こういった魔道具などの干渉がホンの少しあるだけで、格下相手にも全く使えなくなってしまう。


「取り敢えず、接近するよ。」


「了解。」


俺たちは十数フィート先にいる標的に近付いて行ったハズなのだが、標的が一歩も動いていないのに、距離が少しずつしか縮まらない。


まるでコントか、酔っ払いみたいに標的の右斜めの方向へ向かって行ってしまうからだ。


そのせいで俺たちの姿が標的の視界に入ってしまったらしく、大して近付く事も出来ない内に気付かれてしまった。


俺たちに向き直った標的の姿を見て、俺は呆れてしまった。


「おいおい、マジかよ?!これは何の冗談だ?」


「どうしたんだい?ソード。」


標的の身長は約8フィート、体重も440ポンドほどの巨漢だし、胸部にはお椀型に膨らんだ乳房があり、作り物のマスクを被っているかのような顔立ちをしている。


明らかにワータイガー2やワーウルフ2とそっくりの体形と顔だ。


外見で違うのは全身を覆っているのが、毛皮ではなく、灰色の皮革になっている事くらいである。


こいつは恐らく、アドルファ王国製の獣人か、その製造技術が使われている。


「以前口説いた女の子に似てただけだ。」


「ジルヴェスター辺境伯領でかい?」


「ああ、こいつがワーライノセラスで間違いない!」


俺が返事をすると同時に、獣人が咆哮を上げながら人間形態を解除した。


「ショータイムだ。踊ろうぜ。」


俺たちと獣人は相手に向かって同時に駆け出したが、締まらないことに相手の右斜めの方向へ向かって行ってしまい、逆に離れてしまった。


「くそったれめ!ダンスタイムだってのに、ステージに上れないってのはどういう事だ!」


「こりゃあ良いや。あっはははは―――」


ヘルガなどは腹を抱えて大笑いを始めてしまった。


「ソード。アンタはハンターを引退してもコメディアンとしてやってけるよ。いっひひひひ―――」


「他人事みたいに言ってんじゃねえよ。今の状況をヒルダの前で語ってやろうか?」


「冗談じゃないよ。そんな事したら私の威厳がなくなっちまうだろ。さっさとコイツを片付けるよ!」


ヘルガは傍からすれば孫を溺愛する親バカならぬ祖母バカにしか見えないし、ヒルダもヘルガの事を面白くて優しいお祖母ちゃんとしか認識してないのだが、ヘルガ本人だけはヒルダに威厳を示しているつもりらしい。


「ヘルガ。試しに、ここから仕掛けてみるぞ。」


 接近するのを一旦諦めて、俺は『突撃』の魔法を放ち、ヘルガは『風の槍』を投擲してみたが、これも見事に標的の右斜めの方向へ着弾した。


「なっ?!」


この煙幕の最も厄介なところは、1撃目のズレを盛り込んで2撃目を標的の左斜め方向へ放っているつもりでも、その認識すら阻害して右斜めの方向へ着弾する事だ。


「次は、あの左側の建物を本気で壊す気で狙って放て!」


「あいよ。」


この煙幕の効果が、標的と認識している存在の必ず右斜めの方向へ着弾させる事なら、標的自体を一時変更したらどうだろうか、という思い付きだったが上手く命中した様だ。


「当たりはしたけど、何の痛痒も感じてないみたいだね。」


「タラスクの甲羅並みの表皮らしいからな。俺の魔法だと、3フィート以内に近づかないとダメージを与えられない。」


「3フィート以内なら、私の槍でも何とか貫けるよ。」


「そうだろうな。という事は、やはり何とかステージに上がるしかないな。」


「今のと同じ方法で行けるんじゃないのかい?」


「恐らくな。但し、下手にアイツが動かなければ、だ。」


「じゃあ、どうするんだい?」


「いつも通り、アイツを『氷湖』の魔法を使って周囲の空気ごと固めて足止めすれば、何とかなるんじゃないか?」


「魔法と歩行の両方の標的を変更しながら、接近するって事かい?」


「ああ。俺が先に見せ場を貰おうかな。」


「じゃあ、お手並みを拝見しようかね。」


傍から見れば、俺は獣人に向かってゆっくりと接近し、ハルバートを何度か斬り下ろしに叩き込んだだけの様にしか見えなかっただろう。


だが、主観では俺は何もいないハズの空間に仮想の獣人を思い浮かべて、そこへ向かって『氷湖』の魔法を放っているのに他の場所が固まっているし、そこへ向かって歩いているのに別の場所へ進んでいくし、そこへ向かってハルバートを素振りしているだけなのに硬いモノを砕いている手応えがある。


なんだ、これ?視界の上下左右が反転するゴーグルをかけた時みたいに脳が混乱している。


異常な行動をしているとしか認識出来ないせいで、吐き気も催すし、視界も歪む。


「お見事!」


「ヘルガ、マズいぞ。

この状態に慣れないと残りを手早く駆除出来ないが、この状態に慣れると暫くの間、通常の戦闘が出来なくなる。」


「まさか、ミスター・ジョンドゥーの狙いはそれなのかい?」


「分からんが、マズい事に変わりはない。」


「どうするんだい?」


「ヘルガは出来るだけこの状態での戦闘には参加せず、通常時に戻ってからの戦闘に備えておいてくれ。」


「仕方がないね。それにしても小賢しい手ばかり使ってくる奴だね。」


「それでも未だ、とどめを刺すだけミスター・ジョンドゥーはマシな方さ。もっと酷い異常者も存在するからな。」


「確かにね。」


「さて、次へ行くか。」


「あいよ。」


俺はワーライノセラスの死体を『収納』の魔法で格納すると、継続して担当範囲の捜索を再開した。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。



【基本魔法紹介】

『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。


『風の槍』……空気を固めて投げ槍の一種であるピルム・ムルスを再現したもの。軽いので威力が弱い。空気を圧縮したのに凍結しないし冷たくもない。質量は個人の力量に比例し、コンクリートくらいの強度を有するが、手元を離れると10秒程で霧散する。


『突撃』……カノン砲での砲撃の着弾を再現したもの。対象を吹き飛ばす。威力は個人の力量に比例し、火の玉を投擲後に対象との接触で無音発動するが、手元を離れると10秒程で霧散する。


『氷湖』……物体が湖の氷に閉じ込められている光景を再現したもの。対象を凍らせる訳ではなく、指定位置周辺の動きを止める。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。



【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。


アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。


ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。


ミクローシュ辺境伯領……アドルファ王国の最北東に存在する。

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