第48話
■2015/08/30 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。
第48話
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家を建てられるほどの金額を酒代として俺が支払った翌日の昼過ぎ頃、ボーラの試作品と罠の初期配置が出来上がったらしい。
俺とヘルガとレナートの3人は、ハンターギルドからの確認依頼を受け、ヴィクトリアに引率されて工業系ギルドへ赴いた。
ヘルミーネは自宅再建の手配を行っているし、ヘレナとヒルダは船内の探検へ嬉々として出かけている。
工業系ギルドの職員が2人掛かりで運んできた100ポンド近くもあるボーラを受け取ってみたが、俺にはソフトボールくらいの重さにしか感じられない。
こういう時でもなければ、パワーアップしている事を実感しない程度には身体を自由に操る事が出来る様にはなっている。
違和感がある事には違いはないが、ハリボテだと思い込めば今の所は何とかなりそうだ。
俺たちの他にも同じ依頼を受けたらしい何名かのランク5ハンターが後から実験場に到着したので、一緒にボーラの投擲訓練を行ったのだが、彼らは投げる速度は速いものの10フィート前後の近距離で投げる者が多かった。
それを見ながら俺は最初、「ランラ5ハンターの奴らは思ってたよりもパワーが無いのか」などと考えていた。
しかし、『強化』の魔法なしでも『強化』の魔法を使っている俺と同じくらいのパワーを発揮できるヘルガまでもが、ダミーの標的から必ず12フィート以内で投げている事に疑問が浮かんできた。
分からない事があったら取り敢えず、ヴィクトリアに尋ねるのが一番無難である。
「ヴィクトリア。10フィート以上離れての運用はやはり難しいのか?」
「そうですね。余程の初速がなければ、10フィート以上離れたら固有領域に反らされて当たらなくなります。
かと言って、大砲とかで打ち出したりたら今度は運動エネルギーが大きくなり過ぎて、フィールドで急激に減速させられてしまい、却って届かなくなってしまいます。
ミスター・ジョンドゥーみたいに遠心力を利用して高速で投げつける事が出来れば、15フィートくらい離れても当てられるかもしれません。
ランク6ハンターのソードとヘルガも、12フィートくらいなら命中させれるでしょう。
しかし、ランク5ハンターはやはり、フィールドの効果が低い10フィート以内で投げるのが確実だと思います。」
「そうだな。ありがとう。」
◇
あれ?固有領域の効果って、魔法の霧散だけじゃないのか?
一部を除く危険生物に対して遠距離から魔法攻撃を仕掛けると狙った箇所に命中はするが、まるで炎天下に置かれた氷柱が解ける様子を高速再生したかのように、標的に近づくほどに魔法が急速に霧散していくのは知っている。
しかし、物理攻撃を仕掛けた場合だと運動エネルギーまで減衰したり、軌道を偏向させられるとは知らなかった。
いや、魔法を習い始めるまでは、中折式単身散弾銃や大砲が大して進歩してない理由を疑問に思って調べていた筈だ。
図書館の書籍には、遠距離攻撃手段としては中折式単身散弾銃や大砲よりも弓矢が最も減衰率の低い武器であると記載されていたのはこういった意味だったのか。
いつの間に納得して、疑問に思わなくなったのだろう?
下士官教育で、「何故フェンスが建てられたのかが判るまでは決してフェンスを取り外してはならない」と教わっていたのに、これも忘れていた。
未知との遭遇が多過ぎて、関心がそっちへ集中してしまっているせいだとばかり考えていたが、地球にいた頃の記憶に膜がかかっているかの様で、切っ掛けがなければ思い出せなくなっている気がする。
しかし、そうするとあの巨人は、戦車みたいに頑丈な外殻に、魔法を無効化する偏向シールドを纏っているだけでなく、遠距離からの物理攻撃も無効化する、という事になる。
そう言えば、下等竜を仕留めたあと、周囲を調べた際に変な向きから銃弾がめり込んでいる樹木が幾つかあったが、あれは偏向シールドに撥じかれたのではなく、フィールドに因って軌道を反らされていたモノなのかも知れない。
モーニングスターみたいな鉄球を投石機や大砲で打ち出す攻撃方法を検討していたが、言い出さずにおいて良かった。下手にこんな事を口走っていたらどうなっていたか分からない。
この世界には物理法則さえ歪めてしまう魔法や生物が存在するので、地球みたいに言葉が分かれば何とかなる訳ではない、という事をもう少し心に留めておく必要がある。
◇
ハンターたちがボーラを30回ずつくらい投げた所で問題点を出しきったので、それを聞いていた工業系ギルドの職人が改良するために台車に載せて引き上げていった。
俺たちは次に、亜竜対策用の転移門に設置されている罠の状況を確認しに向かった。
ここには既にカールが来ており、土木系ギルドの職員と打ち合わせを行っている。
ざっと確認を行っただけだが、俺とヘルガが前回作った落とし穴を参考にして、バリスタや網、鉄線などを追加で配置した様に見受けられた。
罠の配置については、前例が少な過ぎて巨人に対して何処まで有効かも分からないし、変更するにしても変更した事で起こる不都合と、今の状況で起こる問題とを秤にかける必要があるが、巨人が来る前に完成しなければ無意味になりかねない。
結局、巨人がどう動くかが分からないので、使いモノにさえなればそれで良いとして、特に誰も問題点を上げなかった。
依頼案件が無事に終了し、ギルドへ向かって歩き始めた途端にレナートが相棒のランク5ハンターに向かって愚痴り始めた。
「俺も狩りに行きてぇな。ランク4以下の奴らが羨ましいぜ。」
「ランク5以上のハンターは、青色の巨人を駆除するまで街中での待機だからな。仕方がないとはいえ確かに退屈だ。」
「折角の機会も誰かさんが、可愛い子ちゃんを独り占めしたしな。」
レナートは次に、俺に向かって前回のドラゴニュートの件を持ち出してきた。
「うるせぇな。あれだけタダ酒を食らっておいて、未だ文句があるのか?」
「良いじゃないか。あまりに手柄を立てすぎた勇者は、味方に足を引っ張られるってのが相場だろ。」
「好きに言ってろ!」
そんな事を話している最中に、上空から何か青い物体が高速で落ちて来る光景が目に入った。
数十ヤード先の公園から、大きな落下音が聞こえてきたので、結構な質量のある物体だった可能性が高い。
駆けつけた俺たちが見たのは、起き上がろうともせず蹲っている青色の巨人の背中だった。
「おい、アイツの背中に丸い凹みがある様に見えるのは気のせいか?」
「奇遇だな。俺にもそう見える。」
レナートたちがそんな会話を始めたが、確かに青色の巨人の背中は、棘付きのモーニングスターをぶつけられたかの様に何箇所か凹んでいるし、両腕と片脚は潰されている。
俺たちが青色の巨人を半包囲した所で、突然轟音をたてて、ランク7ハンターのミスター・ジョンドゥーが目の前に着地した。
「やあ、みんな。これは僕が先に見つけたからね。手出ししないでくれるかな。」
言葉尻は柔らかいが、ミスター・ジョンドゥーは有無を言わせぬ圧力を放っている。
ミスター・ジョンドゥーが巨人に視線を向けた丁度その瞬間、巨人の肩甲骨当たりの甲殻が開いて、巨大な翅が飛び出したかと思った時には巨人は空へ翔んで行った。
「あの巨人どもは空を翔べたのかい?」
「いいや。アイツだけだよ。じゃあね。」
ヘルガの疑問に答えた直後、ミスター・ジョンドゥーも巨人を追って空へ駆け上がって行った。
「おおっ!」
ミスター・ジョンドゥーがアイススケートみたいな走り方で天を駆けて行く姿に俺が感動していると、ランク5ハンターたちの会話が聞こえてくる。
「緑色と紫色の巨人の背中にはデカイ刺が生えていたから、確かに翅なんかが飛び出してくる余地はなかった。
しかし、あいつが何故、緑色の巨人が翔べない事を知ってるんだ?」
「まさか、アイツがこの街へ巨人どもを送り込んだんじゃあるまいな?!」
「―――」
「何やってんだい?!ギルドへさっさと報告に行くよ。巨人だけがまた戻ってくるかも知れないんだからね!」
議論が白熱しかかった所でヘルガの声がかかったので、俺たちは全員でギルドへ向かった。
今解決できない疑問に気を取られて、対応出来る事を疎かにしては本末転倒も良いところだ。
それにしても、ミスター・ジョンドゥーの天駆ける姿は見事である。
無理して魔法を使っているという感じではなく、文字通り手足として使い熟している様にしか見えない。
この魔法に良く似た飛行系統の『秘伝』が販売されているのは知っていたが、俺は自分が生身で空を飛翔している姿をイメージ出来なくて購入を躊躇ってしまった。
しかし、シネマの中の超人にではなく、目の前に居る人間にこんな光景を見せつけられると、自分にも出来るのではないかと思えてくる。
今回の件が片付いたら直ぐにでも飛翔系統の『秘伝』を購入しようと考えながら、俺はヘルガを追い掛けた。
<続く>
【人物紹介】
ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。
ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。
ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。
ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。
ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。
ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。
レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。
カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。
【基本魔法紹介】
『強化』……亜人の頑丈さとパワーやスピードを再現したもの。実際に筋力や筋肉を強化している訳ではない。
【その他】
シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。




