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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
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第47話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第47話




 翌朝、全員で土木系ギルドへ寄ったあと、ヘルミーネを除いてハンターギルドへ向かった。


街中には昨日、巨人が通過した際に踏み躙って行った家屋が大量に損壊しているし、外見からは分からないが建物は無事でも危険生物が内部で暴れまわったせいで住めなくなっている家も沢山存在する。


 特にヘルミーネの住んでいた家の周辺は、丁度巨人が何度も通った場所らしく、綺麗さっぱりと建物が倒壊したブロックになっている。


土木系ギルドの職員は慰めの言葉のつもりで「崩れかけているのを修復したり、取り壊してから建て直すよりは安く済みますよ」と言ったのだろうが、それに怒ったヘルミーネが殴りかかろうとして大変であった。


 何時迄も付き合ってはいられないので、ヘルミーネが落ち着いた段階で放置して俺たちはその場を離れた。


土木系ギルドへ置いて行く訳にもいかないとはいえ、ヘレナが抱きかかえてヒルダをギルドまで連れてきてしまったが、俺たちはそのまま会議室へ通され、ヴィクトリアがギルドマスターの元へ説明に赴いていった。


数十分後、カールを連れてヴィクトリアが戻ってきた。


「おはよう、みんな。

早速だけど、罠の設置については既に昨晩の内に辺境伯に打診済みで、今朝がた条件付きで了承も得ているよ。」


「カール。条件ってのは何だ?」


辺境伯がこの街の支配者だとしてもハンターギルドを無下には出来ない。


この街の成人人口の約2割がハンターを職業にしているので、約1万5千人もの人間がハンターギルドの指揮下にあるからだ。大半の者は10歳頃からハンター見習いとして働き始めるし、ハンターを引退して予備役に就いている者もいるので、動員数だけなら実際にはもっと多い。


それに対して辺境伯の指揮下にあるのは、諸行軍約5千人、駐留軍約2千人でしかない。この世界では役人なども諸行軍の軍人なので、実働部隊である兵士はもっと少なくなる。


しかも、補充に時間のかかる諸行軍の兵士の損耗がこのところの事件で激しいし、駐留軍の補充兵がいつ送り込まれてくるかは辺境伯にも分からない。


また、この大陸では基本的に同じ国内なら誰にでも移動の自由は認められているし、ランク4以上のハンターなら他国へも自由に移住できるので、下手に貴族という地位を傘に来て圧力をかけると住民に逃げられてしまう。


住民数がどうであろうが、所領持ちの貴族は一定数以上の諸行軍の兵士を確保しなければならないので、最低限必要な経費は大して変わらない。


そして2割もの住民が、それも大金を稼ぐハンターばかりが減った場合、税収的に諸行軍を維持する事すら難しくなってしまう事になる。


つまり、辺境伯は軍事的にも資金的にも、優先的にハンターギルドを慮る必要があるという訳だ。


とは言え、正規軍の行動に民兵が加わると暴虐に歯止めが効かなくなるし、ハンターは民兵ではないが自警団気質ではあるので、軍事行動の主導権はあくまでも辺境伯が握る事になっている。


「亜竜対策用の転移門が設置されている場所や公園などには自由に罠を設置して構わないが、道路や所有地については許可出来ない、との返事だったんだよ。」


「俺たちは初めからそのつもりだったんだが、ギルドは土が露出している地面だけじゃなく、あの頑丈な石畳にまで穴を開けるつもりだったのか?」


「流石に道路までは考慮してなかったけど、損壊している家屋なら今更だし、穴を開けても良いんじゃないかと思ってね。」


「ヘルミーネが居なくて良かったな。アイツがそれを聞いてたら、今頃お前はマウントポジションでタコ殴りにされてたぞ。」


「あれ?ヘルミーネは何処へ行ったの?」


「自宅の再建依頼だよ。」


「そう言えば、ヘルミーネの家が壊れてるのを忘れてた。」


「ヒルダは当分、俺の船の中に預かってヘレナが面倒を見るから、ヘルミーネの事は任せたぞ。」


「ああ、分かってるよ。」


「ボーラの採用はどうなんだ?それと罠の設置プランとかはもう決まっているのか?」


「ボーラは予算などを含めて未だ検討中だよ。今までオール金属製の巨大なボーラなんて使用した事がないからね。

罠の概案は出来てるけど、これは土木系ギルドへ協力要請をしたばかりだから細部は変更になるかもしれない。」


「対人戦じゃないんだから巨人がどう動くかなんて分からん。使いモノにさえなれば、それで良いさ。」


「それと、夜明け前にまた神託が降ったんだ。」


「おいおい、昨日の今日で巨人に襲われても対処のしようがないぞ。

ハンターも兵士も相当死んでるし、補充兵も未だ揃ってないだろ。」


「どうやら、巨人ではない様だよ。逆に巨人だったら絶望的だね。」


「それで内容は?」


「森から数多の災いが挑み掛かる、だってさ。」


「どういう意味なんだ?」


存在意義が違うので同列には語れないが、神託が降った神官なんてのは、周波数が合ってない無線機で宗主国の将軍の命令を聞いた植民地軍の無線兵みたいなモノらしいから、ヒアリング能力次第でどうとでも意味が変わってくる。


「この国はアドルファ王国と違って、位階が高い神官は沢山居るけど能力が高い神官は少ないから、未だ真意を読み取れていないんだよ。

取り敢えず、各城門に駐留軍と諸行軍が待機しているみたいだよ。」


間違った解釈をしないようにすると動きが重くなるが、手を拱いていては折角の神託が無駄になる。かと言って急いては間違えた対応を取る可能性もある。結局は兵士を待機させることしか出来ない、という訳だ。


「流石は神官、泣けてくるな。」


「能力が低くても彼らは全員、働き者だよ。

それよりも能力が高い神官の言葉の方が、大惨事を告げる事が多いから好きになれないけどね。」


「有能か低能かは関係ない。神官という存在が余計な仕事を増やしている事に変わりはないだろ。」


「とは言え、祈るだけで何もしない人間を神が助ける道理はないからな。

俺たちも城門に行けば良いのか?カール。」


「いいや。君たちにはこのまま待機していて欲しい、とのギルドマスターの要請があったんだ。」


「了解した。」


カールは仕事に戻り、俺たちはそのまま談笑しながら待機となった。



 昼食を取ったあと、ヘレナとヴィクトリアがヒルダを昼寝させるために俺の船の中へ連れて行った。


それから数分間ほど経過した頃、警報が鳴り響き出した。しかもスタンピードの際に鳴らすタイプの警報である。


俺たちは、即座に会議室からメインホール横の酒保へ移動した。


緊急時なのでいつも通り、ギルドビル内に居るのはランク3以上のハンターだけで、ランク2以下のハンターたちはギルドビルの周辺に屯している。


慌ただしくハンターや職員が出入りした数分間後、ギルドビル内に集っているハンターたちへ、ギルドの幹部職員から状況説明と協力要請があった。


「スタンピードの際の警報がなっているが、襲いかかってきた危険生物の数自体は数十匹程度だ。

但し、全てランク6の亜人、しかも魔獣である可能性が高い。

つまりこの街は現在、スタンピードと変わらん危機的状況にある。」


通常、亜人はチンパンジー程度の知能しか無いので、武器を持っていても振り回す位しかしないし、魔法が使えても大した事は出来ない。


しかし、人間並みの知能を有するに至った危険生物は魔獣と呼ばれ、武器を使い熟し、魔法でもハンターと大差ない事が出来るようになる。


スタンピードの時でもなければ、ランク5以上の危険生物が深淵の森から出てくることは滅多に無いが、各都市を守っている結界はランク4以下の危険生物にしか効果が無いので、単なるランク5以上の危険生物の群れに襲われるだけでも対応は難しい。


それがランク6の魔獣の群れともなると、普通なら絶望的な状況となる。


「しかし、この魔獣どもは群れで行動せず、南門で警備に就いていた百人隊へ、わざわざ単独で襲いかかっているらしい。

こいつらの意図は分からんが、駐留軍や諸行軍に被害は出ているものの、未だ街中へは1匹も侵入していない。


そこで、諸君らにも協力を要請する。

ランク6ハンターとランク5ハンターには、魔獣どもの対応を任せる。

ランク4以下のハンターは、今回は後詰となる。


詳細については、それぞれの現場責任者となるギルド職員に尋ねて欲しい。

ここまでの概要について何か不明点があれば質問してくれ。」


「どんな種類の亜人なんだ?それと特徴は?」


ランク5ハンターたちがギルド職員に質問していく。


「今まで10匹ほどしか仕留めた記録のないドラゴニュートの亜種だ。

鱗が極彩色をしている巫山戯た外見と、ハンターと遜色のないくらいに武器や魔法を使うのが特徴だ。」


「いつも通り、亜竜対策用の転移門へ追い込めば良いのか?」


「いいや。街の外に居る奴をわざわざ街中へ入れる必要はないから、基本的には深淵の森へ追い返す。

それに1匹ずつ相手に出来るなら、ランク6ハンターでなくとも、ランク5以上のハンターが複数で対応すれば、駆除する事も不可能ではない。」


「街中に被害が出ないなら特に文句はない。」


「では、現場責任者となるギルド職員の指示に従って、作戦を開始して欲しい。以上。」


ランク4以下のハンターたちは続々とギルドビルから出ていき、ランク5以上のハンターたちは現場責任者の元へ集まっていく



 酒保に陣取っていた俺たちだが、ギルド職員の話しが終わった途端に、ヘルガやレナートが俺に尋ねてきた。


「ソード。極彩色をしているドラゴニュートの亜種って、あんたが以前毎回狩って来てたお気に入りの生物じゃないのかい?」


「お気に入りなんじゃなくて、何処へ行ってもアイツらが襲って来ただけだ。」


「確か、デミ・ドラゴニュート・タイプ1とかいう変な名称のアイツらのことだよな?」


「多分な。」


「それにしても、集団で不意打ちするのが争いの基本なのに、何処まで巫山戯た事をすれば気が済むんだ、アイツらは?」


「勇者にでもなったつもりなんじゃないのか?」


「そりゃあ、良いね。巨人の相手もしてくんないかな。」


「案外、人間を挑発して、逆上させて本来の実力を出させない様にしてるんじゃないのかい?」


「挑発に乗るような未熟な人間は子供だけだろ。

亜人が思いつく奇策ぐらい全て見破った上で、的確に仕留めるのがハンターってもんじゃないのか?」


「何よりも、アイツラは殺気が駄々漏れだからな。何処を狙っているかなんて丸分かりだ。身体能力と戦闘技術に差異がなければ負ける要素は何処にも無い。」


「気配を消す事もしないなんて獣以下じゃないか。」


「顔が爬虫類だからそうは見えないだけで、感情を高ぶらせる熱血タイプなのかもしれないねぇ。」


「それじゃあ典型的な結果を出せないタイプじゃねえか。

顔付きは熱くなっている様に見えても、クールに平常心を維持してないようでは仕事にならないぞ。」


「だから、個人で楽しんでるんじゃないのかい?」


「なるほどな。これはアイツラにとっての自慰行為って訳か。」


「生と死の境目は相当な快感らしいからね。」


「確かに。敵を殺した事なんかどうでも良いが、何とか生き延びる事が出来た、と実感した時の喜びは思わずイキそうになるからな。」


「悪いがレナート。俺には理解出来ん。」


「私もだよ。」


「ソードもヘルガも裏切りやがったな。何だよヴィクトリア、その目は?違う、そうじゃないんだ。―――」


敵を殺すこと自体に快楽を得られるようになったら、あのランク7ハンターのミスター・ジョンドゥーと同じく異常者の仲間入りを果たしてしまう。


ヘルガほどではないが何方かというと俺も戦うこと自体に喜びを感じてしまう戦闘狂タイプだから、レナートみたいなギャンブラータイプの気持ちは分からないが、それでもミスター・ジョンドゥーみたいな快楽殺戮者タイプに比べれば、理解することは出来る。


レナートが訳の分からない自己弁護をしている姿を笑いながら見学している俺たちの所へ、カールが呼びに来た。



 南門の外で、ドラゴニュートの亜種が駐留軍や諸行軍に踊り込んで蹴散らしている光景が見えてきた。


深淵の森の中の暗い場所で見た時と異なり、薄い灰色をした岩肌に濃い緑色の苔が生えている岩石地帯の炎天下で極彩色の外見を見ると、ピエロが観客席に飛び込んで芸をしているかの様に滑稽に映る。


俺が最後にデミドラゴニュートと戦った時と比べて、槍術は大して進歩していないが、魔法での攻防が巧みになっている。


俺以降に戦ったハンターたちは魔法攻撃が主体だったのかもしれない。


兵士は定石通りに先ずは魔法攻撃で、デミドラゴニュートの腹や脚を撃って動きを止めようとする。


しかし、相手が人間なら動きを止めるどころか結果的に死んでいたかもしれないような魔法攻撃だが、デミドラゴニュートは片脚が無くなっても動きを止めたりせず、四つん這いで駆け回って千切れた脚を拾ってくっ付けるだけで直ぐに元通りに動かす事が出来るし、腹部に穴を開けられても数分もすれば治癒してしまう。


 兵士の百人隊を斬り伏せたデミドラゴニュートが俺の存在に気づくと、十数ヤードの距離まで近づいてから俺に向かってハルバートを突きつけた後、俺の目の前に瞬時に移動して斬り掛かって来る。


以前、戦った際には俺よりも圧倒的に優れていたこいつらのスピードとパワーに苦戦を強いられた。


しかし、今の俺の身体能力にとっては、膂力だけが取り柄のにわか仕込みの武術家が挑んできたようにしか感じられない。


俺と1合も槍を打ち合わせる事無く、デミドラゴニュートは袈裟斬りに真っ二つとなった。


まるで雑魚以下である。あれだけ苦労した日々は一体何だったのであろうか。


 その後も続々と、デミドラゴニュートが1匹ずつ正面から俺に挑み掛かってきたが、全て一閃で葬っていく。


残るデミドラゴニュートが兵士の百人隊と戦っている数匹だけとなったら、現場責任者に依頼して百人隊を順に撤退させた。


デミドラゴニュートの標的を俺に変更させたところで、先程と同じ様に順に葬っていく。


27匹のデミドラゴニュートを駆除するまでに、僅か2時間しか要しなかった。


更に、俺はレベル153からレベル160にまで上がっていた。流石は雑魚っぽくてもレベル187の生物だ。今の俺にはこれくらいの敵が丁度良いのだろう。


しかもハンター側は、損耗どころか負傷もゼロである。


 しかし、レナートを含むランク5ハンターたちからは、ブーイングの嵐だった。


大騒動の一番面白い所に居たのに見ていただけで、参加できずに楽しめなかったので不満なのであろう。


生死を賭したやりがいのある仕事と収入の機会を俺が奪ってしまった訳だから仕方がない。


この場にいるハンターたち全員に、今から俺が酒を奢る事を約束して何とか治まった。


聖書にも、不正の富で自分のために友をつくりなさい、と書いてある事だし、今回の収入は泡銭みたいなモノだから惜しくはない。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。




【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。

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