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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
45/78

第45話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第45話




 俺たちが建物の陰に飛び込んでから数秒後に、大型トラックが目の前でクラクションを鳴らしたかのような巨大な咆哮が聞こえてきた。


思わず駆け足を止めて、耳を塞ぎたくなるほどの音量である。


「ソード。あんたをご指名みたいだよ!」


「ご指名とは光栄だねぇ。」


「チークダンスに気乗りしないなら、ジルバでもオーダーしてみたらどうだい?」


「おいおい、ヘルガ!街中で盛大に焚き火をしろってのか?!頭の固い奴だな。」


ヘルガは猪突猛進が信条だから、僅か数秒間逃げただけで既に嫌気が差しているのであろう。


先程、巨人の雷撃一発で周囲の兵士や街路樹が燃え出した事も忘れて突撃する事を考えているみたいだ。


「簡単に砕けちゃう頭だよ。この前も陥没したしね。」


「ヤワな頭だな。」


「追い掛けるのは好きなんだけど、どうも追い掛けられるのは苦手なんだよ。」


「どうせステージに着いたら、嫌でももう一曲踊る事になるから我慢しろ!」


「努力はするよ。」


このままではマズいな。


努力する、頑張る、検討する、というのは出来ないと言ってるのと変わらない。


何か達成感を感じさせて、充実感を与えないと勝手な事をやり始めるに決っている。


「ヘルガ。あそこの角に『氷湖』の魔法で障壁を作ってアイツの足止めをするぞ!」


「あいよ!」


ヘルガと会話しながら逃げている最中にも、何かが地響きを立てながら近付いてくる音が大きくなっていく。



 この大陸の街には基本的に全て、亜竜対策用の転移門が街の中に複数配置されているらしい。


各都市を守っている結界はランク4以下の危険生物にしか効果が無いので、亜竜対策用とは謳っているものの実際にはランク5以上の全ての危険生物に対抗する為の手段となってるそうだ。


しかし、この転移門へ危険生物を誘導する最中にも甚大な被害が出てしまう諸刃の剣でもある。


 この亜竜対策用の転移門も、遺跡として発掘された転送門の複製品なので、転移先を変更する機能が無く、対となる2個の転移門の間のみしか移動出来ないし、1度使用する毎に十数時間に及ぶクールダウンが必要となるらしい。


その代わりに、1度に移動可能な容量が本物よりも桁違いに多いそうだ。


また、安全装置として人間は転送出来ない仕組みになっているみたいである。


これは恐らく侵略戦争に使わせない為というのが本音であろう。


 亜竜対策用の転移門の直径は約50フィート、大抵の場合はそれが地面に寝かせた状態で設置されており、パッと見た感じは、大きな円が地面に描かれているように思える。


転移門の本体である幅約5フィートほどの円環、その内側に接地した瞬間に、人間を除く生物は強制的に目的地へ転移させられる仕組みとなっているらしい。



 俺とヘルガが、亜竜対策用の転移門が設置されている最寄りの場所へ辿り着いた数秒後に、俺たちを追って紫色の巨人が現れた。


巨人の姿を確認した直後にヘルガが、巨人を見つけた際の合図である『光球』の魔法を放ったので、分厚い雲のせいで真っ暗な空に閃光弾が輝いた。


ここに来るまでに何度も『氷湖』の魔法で罠を作って紫色の巨人の足止めをしたので、何とか追い付かれずに済んでいる。


そのお陰で、こいつは走っている最中に偏向シールドを張る事が出来ないか、少なくとも張っていない事も分かった。


そして何よりの収穫なのが、先程俺が潰したコイツの手首と目玉が全く復元していない事である。


 更に、簡単な罠を張る時間を稼ぐ事まで出来たのは僥倖だった。


「こんな夜中にランニングとは精が出るねぇ。

もしかして俺に逢いに来てくれたのか?

でも今は忙しいから自分の右手に良い事して貰いな。」


俺の挑発に答えるかのように、巨人は俺に向けて巨大な咆哮を上げた。


防壁代わりに『氷湖』の魔法で自分の周囲の空気をドーム状に固めて無色透明な障壁を張る準備を予めしておいたので、巨人の咆哮は俺たちに届かなかった。


「ああ、悪い悪い。そう言えば、お前の右手首は俺が預かってたんだった。」


この巨人を転移門へ誘い込むための罠として、俺もヘルガも『氷湖』の魔法で斜めの無色透明な障壁を何箇所か作っておいた。


俺たちに向かって巨人が突進してくれば、その障壁に斜めに接触して進行方向が転移門へ向かう様に仕向けるだけのモノである。


巨人が俺の言葉を理解しているとは思えないが、挑発には乗っているので、後は餌を投げ込むだけである。


「ほら、お前の右手首だ。土左衛門とでも激しいタンゴを踊ってきな。」


俺は転移門の中心へ、切断された巨人の右腕を放り投げた。


この場所にある亜竜対策用の転移門の対となる転移門は、碧翠大陸の近海で最も深いプルモナリア海の海底に設置してあるので、転移した直後には深海約1万マイルの圧力が襲いかかる事になる。


「ヤローに見られて興奮する趣味はねえからな。そんなに俺を見詰めるなよ。穴が空いたらどうするんだ。」


 巨人は俺を睨みつけるだけで、転移門の中心部分に放置されている自分の右腕を見向きもしない。


しかも、間が悪いことに大雨が突如振り始め、『氷湖』の魔法で作っておいた無色透明な障壁の表面で、雨水が撥じかれたり、滴が流れたりして、罠の存在が見える様になってしまった。


巨人が視線を動かして、罠をじっくり観察しているのが分かる。


「マズい!プランBに変更だ!」


俺とヘルガは即座にプランを変えて『泥沼』の魔法を発動し、巨人が障壁を飛び越えた際の着地予想地点に、狭くて深い泥沼を複数配置していく。


普通なら魔力の供給を断った段階で『泥沼』の魔法で作った泥沼も元の状態に戻るのだが、これだけ足元に雨水が溜まっていれば排水されないので、魔力の供給を断っても落とし穴が空いたままである。


 案の定、巨人は突然疾走を始め、障壁を飛び越えて俺に襲いかかろうとしたが、落とし穴に足を取られて盛大な水飛沫を上げながら地面と抱擁を交わした。


俺とヘルガは直ぐ様、転移門を挟んで巨人と反対側になる位置へ移動しながら魔法攻撃を叩き込もうとしたが、巨人も転倒後即座にド派手なエフェクトで演出された偏向シールドを展開したので、ハルバートを巨人のもう一つの眼に向けて投擲する事しか出来なかった。


当然ながら、『氷湖』の魔法で動きを封じていない状態で命中する訳もなく、ハルバートは2本とも巨人の腕で叩き落とされ、柄が折れてしまっている。


「やれやれ、今日だけで槍を2本も駄目にしちまったよ。全く、この巨人に関わると毎回赤字だね。」


「俺なんか3本目だぞ!」


ハルバートは大量生産されているから、ポール・アックスやロンコーネなんかに比べれば遥かに安価だが、それでも俺たちの使用に耐える様な品質だと1本辺り最低でも小金貨数枚、約数千ドルはする。


しかし、本日の獲物は2人合わせて十数匹なので、ハルバート1本分程度の収入しかない。


「あんたのは指名料になったからマシじゃないか。私のは丸っきりの無駄なんだよ。」


「アイツの目ン玉が受け取った槍の事を言ってるのか?

ふざけんな!何で指名される側が指名料を払わなきゃならないんだ。」


俺たちはくだらない話しをしながらも先程と同じ様に、防壁代わりに『氷湖』の魔法で自分の周囲の空気をドーム状に固めて無色透明な障壁を張る準備をしつつ、巨人が障壁を飛び越えた際の着地予想地点に、狭くて深い泥沼を複数配置していく。


数秒後泥沼から抜け出し、泥まみれになりながらも起き上がった巨人が俺を睨みつけたまま咆哮を上げる。


当然、巨人の咆哮は俺たちに届かなかったが、ヘルガが今にも突撃しそうな構えを見せ始めた。


「じゃあ、今度は私がチークダンスにでも誘ってみようかね?!」


「ワガママ吐かすんなら、泥沼にでも浸かってろ!アイツは予定通り、海の底に沈めるぞ!」


偏向シールドを装備している重戦車みたいな奴を相手に、ヘルガは槍なんかでどうするつもりだというのか?


 とは言え、スタミナに優れ、パワーに優れ、スピードに優れる敵を相手にして、受け身に回っていたらジリ貧に陥るだけである。


ましてや、逃げ回るのに重いからと武器を捨てるなど愚の骨頂としか言えない。


機動力を上げるなら鎧などの防具を先に捨てるべきなのだ。


俺たちは直ぐに『収納』の魔法で格納してある予備のハルバートを取り出し、胸当などを外し鎧を脱ぎ捨てた。


攻撃は最大の防御と言う様に、こちらから一撃加える事で敵の攻撃を潰したり、敵の攻撃の意志を潰したりして、敵に攻撃自体を行なわせない事を優先した方が効率的である。


その後も巨人は転移門を飛び越えて俺たちに襲いかかる事を繰り返し、俺たちはその度に巨人の目ン玉や耳の穴に向かってハルバートを突き込む事で、極力その後の巨人の攻撃の出だしを潰し続けた。



 十数分間以上経過した頃になってやっと、駐留軍や諸行軍およびランク5ハンターたちが駆けつけてきた。


恐らく大雨のせいで物音が聞こえず、発見が遅れたのであろう。


ハンターたちの中に見慣れない武器を引きずっている奴が一人いるのが見えた。


モーニングスター自体が珍しいのに、何だあの巨大な鉄球と太い鎖は?


普通のモーニングスターは、5ポンドくらいの重さの鋼鉄の塊か、中空の鋼鉄の球にトゲが生えている筈だ。


しかし、地面への減り込み具合からして、あのモーニングスターは直径が2フィート近い大きさなのに、中空ではなく隣にいるギルド職員と同じくらいの重さがありそうな金属の塊だ。


 そのモーニングスターの鎖を持ったハンターが一歩前に出ると、その他の兵士やハンターたちが一斉に後ろへ下がった。


巨人と俺たちとの配置が入れ替わった瞬間、そのハンターが太い鎖で作られたボーラを2連続で投げつける。


ボーラに両腕と両足をそれぞれ絡め取られた巨人が這いつくばると、そのハンターは太い鎖を握ってモーニングスターをハンマー投げの様な動作で振り回し始めた。


高速回転していたモーニングスターが撃ち込まれた瞬間、巨人の足の甲は豆腐のようにあっさりと圧潰する。


今までで最大の咆哮が巨人の口から漏れ出た。


その後もこのハンターは、足首、脹ら脛、その次は膝といった具合に、正確に少しずつ巨人をモーニングスターで破壊していく。それも酷く純粋な笑顔を浮かべながら。


「すぐには殺さないから安心してよ。

僕はどうすれば死なないのかを良く知ってるから大丈夫。

じっくりと遊んであげるからね。」


そんな呟きがこのハンターの口から聞こえてきた。


まるで、子供が虫の解体を楽しんでいるかの様である。


 巨人の頭を最後に潰すまでの数十分間、あの巨大なモーニングスターを振り回していたのに、このハンターは一切の疲れを見せなかった。


俺たちはただ茫然とその光景を眺めているだけであった。


既に形状らしい形状など何処にも残っていないが、それでもとどめとばかりにこのハンターが何かを投げつけると、この大雨の中で巨人だった肉片が盛大に燃え出した。


テルミット反応爆弾みたいな焼夷爆弾かもしれない。



 火が消えた直後、数名の兵士とギルド職員が駆け寄り、このハンターに「協力を感謝する」などと過剰なくらいに労いの声をかけている。


それに対してこのハンターも明るく受け答えしているが、聞こえてきた言葉の中には、「流石はランク7ハンター」というモノがあった。


「おい、レナート。あれは誰だ?」


「彼は、ランク7ハンターのミスター・ジョンドゥーだよ。」


俺は近くに寄って来たレナートに尋ねたが、その隣にいたカールが代わりに答えた。


「ミスター・ジョンドゥー?」


「彼がそう名乗っているんだよ。勿論、本名では無いけどね。」


「悪趣味な奴だな。」


「彼には幾つも悪い噂があるんだ。

彼の狩りを邪魔した者は行方不明になる、とか。

彼が一度でも救援に赴いた街は度々厄災に襲われる、とか。

彼は感謝の気持ちが少ない街には二度と救援に赴かない、とかね。」


「何だいそりゃ?他人に感謝される為にやってんのかい、アイツは?」


カールの噂話しに、ヘルガが突っ込みを入れ、レナートが呆れたといった感じのジェスチャーをする。


 4人でそんな話しをしている内に雨が止み、ギルドの幹部職員が話題のミスター・ジョンドゥーを俺たちの元に連れて来た。


ランク6ハンターである俺とヘルガは、一応この街では敬意を払われているから、顔合わせの挨拶であろう。


ミスター・ジョンドゥーが満面の笑顔で俺たちに話し掛けてくる。


「やあ、―――」



 何だコイツは?


意思の強さとか実力に裏付けされた悠然さとか、そういった歴戦の戦士にあるべき品格みたいなモノが一切感じられない。


それどころか、明るく天真爛漫なだけで、酷く不安定に感じる。


俺が知っているヤツの中でコイツに似ているのは、あの危険なサイコパス野郎どもだけだ!


 一人目は、外人部隊時代の任地の政府高官の息子で、普段の様子は明るく無邪気で人懐っこい子供に見えたが、未だ13歳なのに僅か半年の間に30件近くの強姦殺人を犯したヤツだった。


俺たちが捕まえた時にも被害者はおろか目撃者も皆殺しになっているなど証拠隠滅手段も巧妙であり、50体以上の死体が見つかったのに結局は未成年なので無罪となった。


ヒトは信じたいモノだけを信じてしまう悪癖があるから、まさかこんな可愛い子供があんな事をやる筈が無いとの先入観を一旦抱くと目の前の真実すら見逃してしまう、という良い教訓になった事件である。


 二人目は、同じく外人部隊時代に現地で出会った医者で、明るく陽気で親切なヒトであるとの評判だったが、実際にはトロフィーでも飾るかの様に数十人以上もの人間の生首を堂々と自室に飾っている様なヤツだった。


あのドクターは自分が手術した患者が完治すると記念に殺している、と言っていたがあの時感じた怖気をコイツからも感じる。


 コイツならカールの話していた通り、感謝される為なら平気でマッチポンプでもやらかすだろう。


しかし、俺たち程度の力では、レベル300以上のコイツを何とかするなど不可能だ。


人類滅亡の危機が身近にあるこの世界でも、人間の最悪の敵はやはり人間か。


いや、危機的状況だからこそ人間は簡単に安易な道を選び、転がり落ちて行くのかもしれない。


踏み留まれるか否かは、その本人の資質如何なのであろう。



 ミスター・ジョンドゥーは一方的に喋ったあと、俺たちの応答も聞かずに駐留軍の士官たちが待っている方へ歩いて行った。


それをギルドの幹部職員が慌てて追い掛けて行く。


 ふと横を見ると、ヘルガは今にも吐き出しそうな顔をしているし、その後ろには真青な顔色をしたレナートと、鳥肌が立っている両腕を擦っているカールが居た。


「カール。大穴の修復や危険生物の駆除は終わったのか?」


「あっ、ああ。穴の埋立は終わったし、少なくとも見える範囲に危険生物はいないよ。」


「そうか。じゃあ、状況終了だな?」


「そうだね。君たちの手続きは僕が引き受けるから帰っても構わないよ。」


「悪いが頼む。

今夜は、ヘレナやヒルダたちと一緒に例の船に泊まるつもりだが、カールはどうする?」


「徹夜になるから僕の事は気にしなくて良いよ。」


「そうか。無理するなよ。」


そう言うと俺は、ヘルガとレナートを連れて『倉庫』の魔法の中に置いてある輸送船に向かった。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。



【基本魔法紹介】

『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。


『光球』……太陽の明るさだけを再現したもの。光だけで熱はなく、手元を離れると10秒程で霧散する。


『氷湖』……物体が湖の氷に閉じ込められている光景を再現したもの。対象を凍らせる訳ではなく、指定位置周辺の動きを止める。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『泥沼』……底なし沼を再現したもの。対象は地面や床に限らず、指定位置周辺を融解する。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。



【秘伝系魔法紹介】

『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能。



【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。

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