表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
43/78

第43話

■2015/09/05 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第43話




 駐留軍の士官の『収納』の魔法に格納されていた、水陸両用の装甲兵員輸送車にしか見えない潜水艇が、地底湖の前で最終調整されている光景を俺はレナートやカールと一緒に眺めていた。


こんなモノが存在しているとは知らなかった。


またしても俺はいつの間にか、この世界は文明が遅れていると思い込んでしまっていたようだ。


そう言えば誰かが、「人間の作った最高で最低の発明はテレビだ。テレビは情報によって人間を操っている。」と言っていたが、俺はテレビこそが文明の象徴であるかの様の刷り込まれているのかも知れない。


それと駐留軍の兵士たちの水中装備は、ハンターギルドや商業系ギルドで販売されている潜水服などに比べると、カトゥーンに出てきそうなパワードスーツみたいで動き易そうである。


燃焼機関の存在しないこの世界であの無限軌道や推進装置をどのような原理で動かしているのかとか、どうやってこんな金属の塊を自由に浮き沈みさせているのかなど色々と不思議でたまらない。


 先日の俺の発言を聞いたハンターギルドからの報告により、辺境伯が即座に調査隊を出すように指示を出した為に、こんな事態になってしまった。


しかも隠蔽工作を恐れて駐留軍だけでなく、諸行軍やハンターギルドの人員まで動員する程の軍事作戦になっている。


最初は俺にも同行するように要請があったんだが、自前の潜水服で潜るとばかり思い込んでいたので断ってしまった。


こんな潜水艇で行く事が分かっていたら同行を了承したのだが、一度吐いたツバは飲み込めない。


 いざ調査が始まり潜水艇が行動を開始すると潜行速度は想像以上に速かったが、調査後の浮上速度は逆に想像以上に遅く、全調査時間の半分程度を復路に要し、結局半日近くも俺たちはこの場に待機する事になった。


調査隊によると、俺の証言通りに龍神の像を祀った祭壇は存在したが、どうやら碧翠皇国滅亡の原因とされた祭壇とは龍神の像の形状が大幅に異なるらしい。


しかも、俺の証言通りに龍神の像を祀った祭壇を破壊する事も出来なかったみたいで、対策を検討する間、地底湖のある鍾乳洞部分は封鎖される事になってしまった。


妖精の住処になっている中央の鍾乳洞くらいにしか用がないから俺は別にかまわないのだが、兵士やハンターからは残念そうな声が上っているので、意外に人気スポットだったのかもしれない。



 先日の発言で、俺が他所の大陸から来た外国人だと勘違いしたレナートやカールが、この大陸の常識を待機中の雑談の話題にした。


「そう言えば、ソードって何歳だ?」


「俺か、28歳だ。」


「俺と同じ年齢だったのか?!カールと同じくらいの年齢だと思ってたぞ。」


「俺は、そんなに苦労知らずに見えるのか?レナート。」


「ちょっと待ってよ。それじゃあ、僕が苦労知らずみたいじゃないか!

ソードって、他に子供がいないでしょ?」


「良くわかったな。ヘレナの腹ン中にいるのが初めての子供だ。」


「やっぱりね。子育ての苦労を知らないから、ソードは若くみえるんだよ。」


「その理屈だと、俺も若くみえるはずだろ?」


「え?レナートも他に子供がいないの?ああっ、2人ともレベルが高いからだね。」


「まあな、俺らくらいの年齢だと普通は3人目の子供でもおかしくないからな。カールは何人目だ?」


「僕は2人目の子供だよ。ヒルダと同じ年齢の子供が隣の街にいるよ。」


「そう言えば、この大陸では兄弟姉妹が同じ街に住んでいるのを見たことがないな。」


「ソードは兄弟姉妹と一緒に住んでいたの?」


「ガキの頃はな。成人してからは別の国だったが。」


「この大陸でも一緒だよ。

スタンピードとか厄災が発生した際に、血統が1度に途絶える事を防ぐ為に成人した兄弟姉妹が同じ街に済む事は滅多にないけど、子供の頃は一緒の街に住んでいる事の方が多いんじゃないかな。

僕の場合は、神官の助言に従って子供を託した以前の番いが、たまたま転居しただけだよ。」


神官の助言って何だ?また知らない言葉が出てきたな。

この世界に宗教は存在しないが、神々や精霊が実在するし、シャーマンまでそこら中に居るから実際に神社と関わってみないと分からない事が多すぎる。


「それと、俺の国では、同じ父親と母親から生まれた兄弟姉妹が多かったんだが、この大陸は違うんだな。」


「ソードの国は疫病が少ないんじゃないのか?

この大陸だと同じ父親と母親から生まれた兄弟姉妹は、疫病が流行った際には全員が感染するか全員が感染しないかの何方かになるからな。

血統が1度に途絶える事を防ぐ為に、別の相手との間に子供を儲けるのが一般的だ。」


「なるほどな。確かに疫病は滅多にないな。それに子供の人数も2人くらいが普通だった。」


「少ないね。この国だと子供は3人か4人が一般的だよ。記録上でもこの大陸の女性は生涯に平均3.5人の子供を産むそうだからね。それに番いを探すのも大変だからね。」


「そこら中に親類縁者がいるからか?」


「その通りだ。

至る所に親類縁者で結成された一族クランがいるから便利なんだがな。

複雑な家系図にもなるから、会った事がないだけで実は兄妹や姉弟だったなんて事はありふれている。」


「それに、兄弟姉妹じゃなくても近親婚を重ねるとマズいからね。

ソードみたいに他の大陸の人間で、しかも高ランクのハンターは、色んな意味で歓迎されるんだよ。」


「そう言えば、ジルヴェスター辺境伯領での騒ぎの直後に幾つか『秘伝』を購入したんだが、その売主たちの子供は全員が同じ研究所に勤めていて全滅していたな。あれは珍しいのか?」


「普通はそういった事を避ける為に、成人した兄弟姉妹が同じ街に済む事は滅多にないんだけどね。

研究者には、どうしても資金を出してくれるスポンサーが必要だし、自分だけは大丈夫だっていう甘い考えのヒトが多いから、同じ貴族の元に集まる事になるんだよ。」


「ソードの国は子供が少ないなら、この大陸以上に子供が大事にされていたのか?」


「逆だ。平和なせいで我が子を虐待する異常者が蔓延っていた。」


「そんな状態で崩壊しないなんて凄い国だね。」


「いや、破綻寸前だ。老人ばっかりでな、あと数十年もしない内に、姥捨て山になるのが目に見えている。」


「ソードの国とは違って、この大陸では絶滅の恐怖が常に付き纏っているから、子供は大事にされてるぞ。それに老人になるまで生き残る人間なんて珍しいから、年寄りも大事にされてるしな。」


「確かにな。老人なんてヘルガの母親のヒラリーしか見たことがないし、孤児もヘレナくらいしか知らない。孤児院なんか見た事すら無い。」


「孤児は沢山いるし、孤児院もあるよ。この街だけでも年間平均5千人以上のハンターや兵士が殉職しているからね。

でも、9割以上の孤児は一族クランの者がすぐに引き取って育てるし、クランが全滅していた場合でも神社が引き取って孤児院で面倒を見てるよ。」


「なるほどな。ここでも神社に孤児院があるのか。俺の国の孤児院はあまり恵まれた環境じゃ無かったんだが、この大陸ではどうなんだ?」


「ある意味では凄く恵まれているよ。神社には金が有り余っているから、衣食住も教育も一流のモノが与えられるんだ。その代わりに成人したら神社に勤めなければならないけどね。」


「それに、悪意を持っている神官の存在は、神々や精霊などからのお告げですぐにバレるからな。

無能な神官も沢山いるけど、全員が勤勉で善意の人間ばかりだ。」


「そう言えば、神社に昨日、神託が降ったらしいよ。僕はこの作戦の準備が忙しくて詳しくは聞いてないけどね。

例によって内容が抽象的過ぎて、この街の神官では真意を読み取れなかったから、取り敢えず駐留軍と諸侯軍がいつでも対応出来る様に待機しているそうだよ。」


「この街では神託は、神社にした降らないのか?」


「いいや。街中にも何人かは乙種や丙種の神官並みの能力を持った奴はいる。

しかし、この国はそういった能力を持った人間を高額で王都に集めてるから、他の街に比べると圧倒的に少ないんだ。」


「何の為にそんな事をしてるんだ?」


「さあな、この十年くらいの事だが、特に何か変わった事が起きたという話しも聞かない。」


「そうか。」


そんな会話をしていたら、作戦終了の合図が聞こえてきたので、カールが機材の回収などを行うために離れていった。



 潜水艇の回収が終わり、調査隊の面々が地下遺跡への通路へと続く分厚い二重の扉を開けると、微かだが警報が鳴り響いている音が聞こえてきた。


街の城壁から鍾乳洞までは徒歩1時間近く要するので約3マイルほど離れているし、所々に地上まで続く穴が開いているとはいえ分厚い岩盤があるせいで、『無線』の魔法が届かなかったのかも知れない。


もしくは、この龍神像の調査は思っていた以上に優先順位が高く、他の事に関わらせたくなくて連絡をして来なかった可能性もある。


即座に数名の兵士とギルド職員が情報収集の為に全力疾走を開始すると同時に、他の者たちも一斉に駆け出す。


俺も即座にレナートやカールを連れてヘルミーネの家の庭に転移したのだが、眼に入ったのはヘルミーネの家ではなく、周辺一体が瓦解と化している光景であった。


「一体何があったんだ?!」


俺も一瞬とはいえ茫然としたもののカールのその呟きで我に返り、直ぐに『探査』の魔法でヘルミーネの家の残骸を確認したが、遺体も血痕も一切なかったので、俺たちは直ぐにギルドへ向かった。


「ソード!」


ギルドに到着すると酒保に居たヒルダが俺を見付けて駆け寄って来た。


「ヒルダ。怪我はしてないか?」


「うん。」


抱き上げる時にヒルダの服が埃まみれになっているのに気がついたので心配したが、服は何処も破れていないし、ヒルダも笑いながら答えているので安心した。


「ヴィクトリア。何があったんだ?」


「例の紫色の巨人が、神社の裏にある孤児院に大穴を開けて地下から突如現れたそうです。

その後、その穴からランク4以下の生物が大量に現れて暴れ回り始めました。

現在は、駐留軍と諸侯軍及びハンターが危険生物を駆除している最中です。」


「孤児院の子供たちは無事なのか?」


「子供たちに災いが降り掛かる、という神託が昨日の段階で降されていたみたいで、複数の子供がいる場所には諸侯軍が予め警備に就いていたので全員無事との事です。」


「危険生物どもは、その巨人が操っているのか?」


「いいえ。どうやら違うみたいです。」


「その穴は何処へ繋がっているんだ?」


「未だ分かっていません。」


「巨人の行方は?」


「それも分かりません。」


「そうか、ありがとう。

ヘルミーネの家を見た時には驚いたが、君たちが無事で安心した。」


「私の家がどうしたって?」


ヴィクトリアとの会話にヘルミーネが割り込んで来る。


「瓦礫しか残ってないのを知らなかったのか?」


「な?!―――」


ヘルミーネが何か喚きながらギルドビルの屋上へ走って行った。


ヘルミーネの家はここから歩いて5分間くらいの距離にあるから、恐らく屋上から様子を見に行ったのであろう。


「ソード。今のは本当なんですか?」


「ああ、本当だ。

君たちの服が埃まみれなのは、そのせいじゃなかったのか?」


「これはここへ来る途中に空から降って来た大量の土埃を浴びたからです。」


「そうなのか。まあ、何にしても無事で良かった。」


「お家が無くなっちゃったの?」


ヴィクトリアからの質問に答えると、抱きかかえているヒルダが尋ねて来た。


「今日は、この前乗った大きな船に皆で泊まろうか?」


「お船?うん。―――」


正直に答えて子供を不安にさせても意味がないので、『倉庫』の魔法の中に格納している俺の大陸間輸送船で遊ぶという話題に変えて、ヒルダをあやす事にした。


ヘルミーネがカールと同棲を始めた後のヒルダは、苦手なカールが傍にいるせいで実の母親であるヘルミーネよりも、ヘレナか俺にべったりである。


ヒルダの世話を焼くのが大好きなヘレナは、寝る時も一緒にいたいと毎晩の様に言っていたので、俺の言葉を聞いてかなりご機嫌になった。


屋上から茫然自失の状態で戻って来たヘルミーネやそれを慰めているカールと対照的である。


 カールは別に悪い奴ではないし、ヘルミーネのガキの頃からの弟分らしいので、どちらかと言うとヒルダをお姫様扱いしているくらいだ。


しかし、カールのゴリラみたいな外見を怖がってヒルダが近づかないので、カールはヒルダを可愛がることが出来ず、ヒルダは可愛がってくれないカールに近づかないという悪循環になってしまっている。


それでも最近はヒルダもカールの存在に慣れて来ていたのだが、昨日の件でそれも台無しになってしまった。


逆に俺とヘレナは、ヒルダが懐いてくるから余計に可愛がり、ヒルダは可愛がってくれるから俺やヒルダに懐いてくると行った感じになっている。


 そんな俺たちの目の前を、数名の兵士を連れたギルド職員が通過し、ギルドマスターの部屋へ駆け込んで行った。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。



【魔法紹介】

『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。


『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。


『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能。



【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ