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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
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第41話

■2015/09/05 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第41話



 転移門襲撃事件の翌日の早朝から、ハンターギルド職員の立会いの元で俺とヘルガは、シグブリット辺境伯本人と駐留軍と諸行軍から別々に事情聴取を受けた。


事情聴取自体はどうでも良いのだが、睡魔と激痛に交互に襲われる上に、痛みで喚きすぎてガラガラ声しか出なくなったし、噛み締め過ぎて歯茎から血が出てきたし、脂汗が止まらないしで、非常に不愉快だった。


 翌々日の早朝にヘレナたちが、転移魔法使いを雇ってジルヴェスター辺境伯領から戻ってきた。


以前の仕返しとばかりにヘレナとヴィクトリアは、俺が苦痛に喘いでいる姿を見ながら腹を抱えて笑っているので、やり場のない怒りで爆発しそうになった。


ヒルダただ一人だけは心配してくれている。


「ソード。大丈夫?」


「ああ、大丈夫だよ。」


「ソード。大丈夫?」


「大丈夫だよ。ありがとう、ヒルダ。」


「ソード。大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ。」


「―――」


「―――」


しかし、何度も何度も頻繁に「大丈夫?」と聞かれていると、「大丈夫な訳あるか!」と怒鳴りそうになってしまう。


それを堪えるのとそれについての自己嫌悪がまた怒りをかきたてる。


「(せっかく、姪っ子が心配してくれているのに、キレてどうする?!痛ったぁぁぁ!!!

あれ?姪っ子だったっけ?!痛いぃぃぃ!!!

でも、姪っ子は中学生になったハズだよな?!痛っぅぅぅ!!!

じゃあ、この子は幼児園に通っている甥っ子か?痛ってぇぇぇ!!!

いや、ヒルダは女の子だったよな?!

くっそぉぉぉ!!!この痛みを何とかしてくれ!)」



 笑い疲れてやっとまともな会話の出来る状態に戻ったヴィクトリアが、あの緑色の肌をした巨人の名称を教えてくれた。


「ソードがあの巨人にとどめを刺す直前に現場に到着したギルドの審査担当たちの話しでは、『ヒト型昆虫類 インセクトノイド科 デミ・ケーファーノイド・タイプ3』で、ランク7相当のレベル350の生物だったそうです。」


「ヒト型昆虫類 インセクトノイド科って、この妖精と同じじゃないのか?」


俺の膝の上に座っているヒルダと戯れている妖精に視線を向けて、俺はヴィクトリアにそう確認した。


「一応そうなりますが、学者たちの論文に拠りますとステータスの名称は、必ずしも生物学の分類と同じになるとは限らないそうなので、関係性は分かりません。」


「そんな気はしてたんだが、やっぱり、あのステータスは生物学の分類じゃなかったんだな。

それに、知らなかったから良かったものの、あの巨人は俺の3倍近いレベルだったのか。

という事は、あのステージに登ったのは、自殺行為でしか無かった訳だ。」


「ヘレナの話ですとソードはレベル120だった筈ですが、眠気はないのですか?」


「今も眠気と激痛の鬩ぎ合いの真っ最中で、激痛の方が有利だから辛うじて起きているようなもんだな。

眠気がなんか関係があるのか?」


「過去の事例から、レベル差が200以上の生物を倒した際には特殊な状態になる事が分かっています。

先ず、通常の数十倍以上の急激なレベルアップが起こり、それに伴って身体組織が作り替えられます。

そして、それが終了するまでは眠り続けるか、強烈な眠気に襲われ続ける事になります。」


「何それ、ヴィクトリア。俺は人間じゃなくなるのか?」


「いえ、普通に子供も作れますので、多少丈夫なだけの人間ですよ。

ヘルガもヘルミーネを産む前に急激なレベルアップを経験したそうです。」


「ああ、あの頑丈さはそういう事か。なるほどな。

そう言えば、俺の今のレベルが幾つか分かるか?

痛みで集中出来なくて、ステータスを読取ることが出来ないんだ。」


「今のソードはレベル153になっています。

ヘルガのレベル152を抜きましたし、私たちの一族クランでは5本の指に入ります。」


「33も上がっているのか?これならあのデミドラゴニュート共も何とかなるかもしれん。

あっ、そうだ。

巨人のデミ・何とか・タイプ幾つ、という名称部分だが、デミドラゴニュートと似ているような気がしないか?」


「デミドラゴニュートというのは、ソードが最近毎回狩ってくるお気に入りの生物でしたね。

確かドラゴニュートの亜種で、デミ・ドラゴニュート・タイプ1という名称だった筈ですが、そう言われるとそうですね。

色が違うくらいで外見はドラゴニュートと全く同じなので、気にしていませんでしたが、後で調査担当に連絡しておきます。」


「お気に入りなんじゃなくて、何処へ行ってもアイツらが襲ってくるだけなんだが、まあ良いや。

一つ気になったんだが、俺ではあの巨人のステータスを読み取れなかった。

現場に居たギルド職員の中には俺よりもレベルが高いヤツがいたのか?」


「え?ああ、違います。

ステータスを読み取る能力の高さと、レベルの高さには何の関係もありません。

もしも、レベルの高さと能力の高さがイコールだったら、私たちは大抵の危険生物より劣る事になってしまいます。」


「なるほどな。確かにその通りだ。ありがとう、ヴィクトリア。」


いつの間にか、レベルの高さがイコールで能力の高さだと勘違いしていたが、もしそうだとしたら俺はデミドラゴニュートどもよりも全ての能力が劣る事になってしまう。


レベル差をひっくり返すための能力や技術力である事を再認識する機会をくれた事についてだけは、あの巨人に感謝しておくとしよう。


どうも最近の俺は物事の一面を見ただけで判断する愚か者になっている様な気がする。


下士官教育の際に教わった事を今更ながらに思い出す。無能な下士官ほど自分の経験だけに頼るが、有能な下士官は先人の教訓を活かす事が出来る。


「ソード。それと、紫色と青色の肌をした人型の生物の姿は、未だ発見出来ていないそうです。

これらが転移してきた時に転移門の周辺に詰めていた役人や兵士は、辺境伯の元やギルドへ連絡に赴いた者を除いて全滅しているので、何方へ向かったかも分かりません。

また、これらが転移に使用した転移門も大破していて何処と繋がっていたのかも分かっていませんので、調査が難航しているみたいです。」


「何か他に情報はないのか?」


「今分かっているのは、紫色と青色の肌をした人型の生物だった事、体長が17フィートほどだった事、丸裸で体毛が一切無く全身がツヤ光りしていた事、転移門施設の外では一切の目撃情報がない事、くらいです。」


「あんな巨人が避難中の住民に見られていないって事は、擬態能力で認識出来ないのか、飛行能力で飛んでったのか、掘削能力で地面に潜ったのか、何れにしても厄介な能力を持っているに違いないな。」


「それから、緑色の巨人ですが、全く刃が通らないので検死も解剖も出来ない状態だそうです。」


「そうだろうな。メスなんかで切れたら、今頃は俺のポール・アックスとヘルガのロンコーネが草葉の陰で泣いてるぞ。」


「私が何だって?」


「ヘルガ!?どうしたんだ?大丈夫か?」


俺とヴィクトリアの会話に加わってきたヘルガは、焦点があっておらず視線が空を泳いでいる。


「ヘルガったら、芥子の実と痛み止めを酒で流し込んだんだよ。」


ヘルガを支えているヘルミーネがそんな事を言ってきた。


「マズいだろ、それ?」


「大丈夫だよ、暫くすれば治るから。毎度のことさ。」


俺は外人部隊時代に、痛みに耐えかねてモルヒネのオーバードースで廃人になった人間を何人も見てきている。


特に普段から大酒を飲む奴とか痛み止めや麻薬を常用している奴ほどその傾向があるのだが、大酒飲みのヘルガがこんな状態になるほどの量を服用したのだとすれば、深刻な影響が出る恐れがある筈だ。


しかし、俺の心配をよそに、ヘルガの実の娘であるヘルミーネはお気楽そうな表情をしている。


そして、ヘルガはヘルミーネに支えられたままイビキをかいて眠ってしまった。


「ソード。本当に心配しなくても大丈夫ですよ。

急激なレベルアップによって作り替えられた身体は、普通の人間なら死に至る様な量の毒でも分解してしまいます。」


「ヴィクトリア。それって、やっぱり人間じゃないよな。」


「ヘルガは現役を引退するそうだよ。」


「どうゆうことだ?ヘルミーネ。」


「今までも酷い怪我をする度に、ヘルガはうちの『秘伝』を暫くの間はまともに使えなくなってたんだけどさ、今回のは神経系の損壊が酷すぎて、元通りに動かせるまで何年掛かるか分からないから、予備役に就くってさ。」


眠ってしまったヘルガをヘルミーネが抱えてベッドへ運んでいった。


「予備役って何だ?」


「ハンターギルドには在籍しますが、普段はハンターで生計を立てないで、緊急事態や災害訓練の時のみハンターに戻る者の事です。私の母親のヴェネッサも予備役です。」


ヘルミーネへの質問に、ヴィクトリアが代わりに答えてくれたが、軍の予備役と似た様なモノらしい。


「なるほどな。

そう言えば、ヘルガの外見は俺と同じくらいの年齢に見えるけど、ヘルガはヴェネッサと同じで40歳以上だと聞いた事があったな。

引退の頃合いという事か。」


「確かにヘルガとヴェネッサは同じ年齢です。

しかし、ソード。貴方はヘルガみたいな30歳前後ではなく、20歳前後にしか見えません。」


「え?黒髪ブラックヘア濃褐色ブラウンの瞳の黄色人種モンゴロイドだから若く見えるだけだろ?」


「そんな事は関係ありません。

ヒルダの亡くなった父親のランベルトも貴方と同じ様に、黒髪で濃褐色の瞳の黄色人種でしたが、歳相応の外見でした。」


咄嗟に、ヒルダに父親は亡くなったと言って良いのか?と疑問に思い、俺は膝の上にいるヒルダを見てみたが寝息を立てて眠っていた。


「大丈夫ですよ。ヒルダはランベルトが亡くなった事を知っています。

但し、未だ幼いので何処まで理解出来ているかは分かりませんが。」


「そうか。まあ、突然知らされるよりはマシだな。」


「今はソードやカールが父親代わりをしてますからね。」


「外見の事はどうでも良いや。

それよりもヘルガが引退する程だとしたら、俺の左腕が何処まで治るのか不安になってきた。

ギルドの治癒魔法使いよりも腕前の良い奴は他にいないのか?」


「そりゃあ居ますけど、かなり高いみたいですよ。」


「元通りに動ける様になるなら、金は幾ら掛かっても良い!」


「そんなに心配しなくても、大丈夫ですよ。

先程も話しましたが、急激なレベルアップに伴って丈夫な身体へと体組織が作り替えらる際には、生きてさえいれば例え身体がグチャグチャの状態からでも、健全な状態に戻る事が過去の事例から分かっています。」


「マジかよ。本当に人間なのか、それ。」


「そのせいで、無謀な挑戦を行うハンターが後を絶たない訳でもあります。」


「そう言えば、以前のヘレナもそんな感じだったな。」


「はい、ヘレナが初めてバジリスクを狩ってきた時も、本当は独りで下等竜を狩りに行ってたみたいなんです。

その際に大怪我を負ったので、それ以降は大人しく居ていたんですけど、ソードと組んでからはまた暫くの間、無茶をしていたようですね。」


「過去のこと。」


俺とヴィクトリアに話題にされたヘレナが、そんな事を言ってから俺たちに顔を背けた。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。


ヴェネッサ……ヘレナの叔母。ヴィクトリアの母親。ランク5ハンター。



【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。


アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。


ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。

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