表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
39/78

第39話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第39話



 第二次駆除作戦終了後に購入した『潜水』の魔法、正確にはその『秘伝』の耐圧を修得するのに2ヶ月間近くも要した。


見た目を真似るだけなら得意なんだが、見た目は素潜りや甲冑泳法などと変わらないのに感覚的な違いだけが多岐に渡り過ぎて何度も挫折しかけたほどである。


この魔法はイルカやシャチの潜水を再現したものらしいのだが、俺の修得した武術には受ける技なんてなかったせいで、圧力に耐えるという感覚を理解するのに余計に手子摺った。


主観的には、見た目はそっくりの卵の個体を識別するくらいに大変だった気がする。


 この苦労に比べたら、ヘレナとヴィクトリアとヘルミーネが妊娠しているのが分かった事など大した事ではないのだが、そんな事を口に出す訳にもいかない、自分の身の安全のために。


ヘレナと同棲を始めてから約9ヶ月間が経つが、逆算するとヘレナが妊娠したのは俺とのレベル差が「20」の時になる。


この世界ではレベル差が20までしか婚姻が推奨されていないが、シグブリット辺境伯領での第二次調査前には2人のレベル差が「13」の期間が2ヶ月間くらいあったのに、僅か1週間くらいしかないレベル差が「20」の時期に妊娠するという事には、何か意味がある気がするがこれも検証は難しい。


 ヴィクトリアの相手は、第二次駆除作戦で俺が『倉庫』の魔法で保護したランク5ハンターだが、黒髪ブラックヘア青色ブルーの瞳の黒人種ネグロイドで、ハンサムな上にクールでしかも面白いヤツだ。


ヘルミーネの相手はギルド職員で、第二次駆除作戦では作戦本部に詰めていたゴツイ奴だが、黒髪ブラックヘア濃褐色ブラウンの瞳の黄色人種モンゴロイドで、毛むくじゃらのゴリラみたいな見た目に反して、物腰は柔らかい。


ヴィクトリアがレベル71、その相手のレナートがレベル81で、ヘルミーネがレベル32、その相手のカールはレベル42で、2組とも同棲を始めて直ぐに妊娠した。


2組が妊娠した時のレベル差が「10」というのも気になるが、これも検証は諦めるしかない。



 漸く鍾乳洞の地底湖にある遺跡へ行く準備が整った、そんなある日の事。


ヘルミーネの家で、俺とヘレナ、ヴィクトリアとレナート、ヘルミーネとカールが集まって談笑をしているところへ、ヒルダを連れてきたヘルガの顔は引き攣っていた。


駆け寄ってきたヒルダが俺の前に差し出したポシェットの中に見えたのは、妖精がフルーツを食っている様子である。


「ソード。妖精とお話ししたいの!」


俺たちが呆然と妖精を見ていると、ヒルダの口からはそんな無茶な言葉が出てきた。


「ヘルガ?これは―――」


「ソードは妖精の言葉が分かるだろ?ヒルダの言う事を聞いてやってくれないかい?頼むよ!」


ヘルガは基本的に孫のヒルダを溺愛しているから、俺の疑問の声を遮ってまで無茶な願いを言ってきた。


分からない事があったら取り敢えず、ヴィクトリアに尋ねるのが一番無難である。


「ヴィクトリア。妖精との会話は可能なのか?」


「ソードみたいに魔道具を使わずに読唇術で読取って、『秘伝』の魔法で発音するという事を真似るのは不可能です。

跡継ぎでもない子供に『秘伝』を継承させるのには制約がありますし、そもそも知らない言葉を読心術で読取るなど子供には無理だからです。

但し、妖精の言葉を覚える事は出来ますし、専用の魔道具を使えば、妖精の声を聞く事も妖精に話し掛ける事も可能です。」


「専用の魔道具?」


「妖精と会話するためだけに作られた装置で、翻訳機能などはありませんが、周波数などを変える事が出来るみたいです。

妖精の話す声が聞こえて、人間の話す声が届くらしいですが、私は見た事がありません。」


「珍しいものなのか?」


「そうですね。実用性が低すぎて、研究所くらいでしか使われていないのではないでしょうか。」


「なるほどな。それと、妖精の言語は解明されているのか?」


「以前、図書館でそんな論文を見た記憶があります。」


「ありがとう。ヴィクトリア。」


ヴィクトリアに礼を言ったあと、俺は目の前でポシェットを抱えているヒルダに向き直った。


「ヒルダ。準備してくるから少し待っててくれ。」


「うん。」


「ヘレナ。商業系ギルドと図書館に行ってくる。」


「一緒に行く。」


期待に満ちた目で俺を見つめるヒルダの頭にポンっと掌を軽く置いてから、俺はヘレナと買い物に出かけた。


ヒルダが俺に懐いている事に絆された訳ではないが、その魔道具とかをついでに見てみるのも悪くない。


 妖精の言語に関する書籍も専用の魔道具も商業系ギルドで売っていたが、何れも簡易転移門並みの巫山戯た金額だった。


養育費として持ち金の半分をヘレナに渡しはしたが、それでも未だ俺にとっては大した額ではないので、その書籍と魔道具2個を購入した。


商人から俺は絶好のカモだと思われたみたいで、その他にも珍しいだけで役に立ちそうにないモノを色々と勧められた。


まあ、珍しいモノが見れて楽しかったし、いつか機会があれば購入してみるのも良いかもしれない。


 数時間ほど掛かったが準備も出来たのでヘルミーネの家へ戻ると、妖精を頭の上に乗せたヒルダが俺の足に抱きついたあと、顔を見上げて尋ねてきた。


「ソード。準備出来たの?」


「ああ、向こうで少しずつ練習しようか?」


「うん。」


ヒルダを抱き上げると俺はリビングへ向かった。


補聴器というかイヤホンマイクみたいな魔道具を耳に装着すると、確かに妖精の言葉が聞こえるし、俺の言っていることも妖精に届いた。


俺が日常生活に必要な言葉を一言ずつヒルダに教える姿を見ながら、他の者達は談笑していた。


 どうやら、この妖精はヒルダを気に入って追いかけてきたみたいだが、この街には他にも人間を気に入って追って来た妖精が何匹かいるらしい。


但し、普通はネコみたいに扱って放し飼いにするらしいので、言葉が通じるなんてのは初めてみたいである。


この妖精という生物は口の構造といい、人間に懐く事といい、昆虫類から進化したとは思えない。



 ヒルダに言語学の才能があったのか、これぐらいの子供の柔軟な脳ミソ故なのかは分からないが、たった1周間でヒルダは妖精とある程度の意思疎通が可能になってしまった。


好きこそ物の上手なれというが、仮に才能に限りがあっても努力には限りがない、という事なんだろう。


俺にとって初めての弟子の成長を見守るのがこんなに楽しいとは思わなかった。


人間にとって最も不幸な事は、昔は幸せだったと感じる事らしいが、この世界に来てからの俺は昔よりも確実に幸福感を感じている。



 この遺跡を見付けてから2ヶ月間以上経ってやっと、遺跡に行く準備を整えて鍾乳洞の地底湖にくる事が出来た。


図書館で見つけたこの遺跡の調査記録には、内部の様子だけでなく深度などの色々な情報が記載されていたので、今回のために潜水服や重石の付いた細い鎖などの道具類も事前に購入してある。


その鎖の一端を太い鍾乳石に縛り付けた後、重石の付いた側の鎖を水面から遺跡に向かって投げ込んだ。


水生生物との戦闘を考慮して試しに『電撃』の魔法を最大出力で地底湖に撃ち込んでみた。


浮いてきた生物は片っ端から『収納』の魔法に格納しておいたが、大カブトエビというレベル70の水生生物にも効いたので、水中での格闘などという面倒な事をしなくても何とかなりそうである。


潜水服を着てから、『潜水』の魔法を発動して、細い鎖を握りながら水の中へ入っていく。


この街の年間平均気温は摂氏30度くらいなので、潜水服を着ていても摂氏4度ほどの水に潜るにはかなりの抵抗を感じる。


細い鎖を頼りに潜っていくと、魔法のお陰で圧力は感じないが、あまりの水の冷たさに全身が火傷したみたいに痺れて痛くなってきた。


この潜水服は、ヘルメット部分が酸素ボンベの代わりになるから装備しているだけなので、防寒性能はあまり期待していなかったがここまで酷いとは予想外である。


 全身の感覚がほぼ麻痺した頃に漸く遺跡に到着した。


調査記録で何処が入り口なのかを予め知っていたから良かったものの、この状態で入口を探していたら確実に低体温症で死んでいた気がする。


遺跡の内部へ入って水面から出ると直ぐ様、『倉庫』の魔法で造ってある俺のプライベート空間に飛び込み、服や装備を脱ぎ捨てると、予め用意しておいた湯船につかった。


『転移』の魔法は、日の差す角度もしくは天体と視地平との間の角度が分からない場所へは転移出来ないので、遺跡内部へ転移してくることは出来ないが、遺跡内部から先程まで居た湖面へは転移で戻る事が出来る。


それに『潜水』の魔法の効力で潜水病も何とかなるので、もう一度あの水の中を通らなくても帰る事が出来るのはありがたい。


 身体の震えが収まったら、防寒具の上に潜水服を着込んだあと、『探査』の魔法を発動してから真っ暗で凍える様に寒い通路を進んでいく。


ガスランプに火が灯らない事から酸素がないと思われるので、潜水服は酸素ボンベ代わりとして装備している。


通路は高さ7フィートほど、幅約3フィートしかないので、念のためサーベルだけを携行しておく。


 ある程度進むと登り階段になっており、途中には幾つかの部屋があった。


各部屋には一面壁画が彫ってあり、獣頭人身の像や石棺みたいな物が床に固定されている。


この遺跡は外見もそうだが、内部構造もピラミッドに似ている気がする。


 突き当りの部屋には、調査記録には記載されていない大きな像が中央に祀られていた。


この世界は絵空事ではなく、神々や精霊などが実在するので、目に見えない神々を勝手に形にした神像を作る事が禁忌とされている筈である。


しかもこの像は人間を神格化したモノではなく、良く言っても東洋の龍みたいなモノで、口に咥えているヒトらしき複数の小さな像に牙が突き刺さっているので、少なくとも人間を守護する存在には見えない。


祭壇の周りの描かれているのも、この龍みたいモノが動物を襲っている様子である。


 祭壇の周りを色々と調べてみたが、俺の力で動く物は全く存在しなかったので、恐らく動かせる物は全て調査隊が持ち出してしまったのかもしれない。


これが何の像なのかは気になるが、調査記録からも抹消されているのではこれ以上調べる手段がないので、残念だが諦めるしか仕方がない。


次は未だ調査されていない遺跡を探すのも面白そうである。


とはいえ、過ぎたるは猶及ばざるが如しという諺の通り、物事は大抵調子に乗った所が折り返し地点になるから、今まで通りのスタンスでいたほうが長く楽しめるだろう。


一通りの探検が済んだあと、湖面に転移すると既に夕方になっていたので、急いで鎖を回収してから家路に着いた。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。



【魔法紹介】

『電撃』……静電気の放電を再現したものだが、秘伝により実質的には雷撃。距離や威力は個人の力量に比例するが、距離に比例して照準精度が下がる。発動までにタイムラグがある。


『楽器』……様々な種類の楽器の音を再現するもので、人間楽器では出せないような周波数や振動数で音色を変化させる。秘伝と裏ワザにより実質的には超音波振動攻撃が可能。


『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能。


『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。


『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ