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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
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第37話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第37話




 翌日の早朝になってやっと研究施設への立ち入り許可が出た。


ハンターギルド側では昨日の昼過ぎには対応可能になっていたのだが、シグブリット辺境伯自らが依頼した案件なのに役人どもが申請が云々と文句を言い出したせいで、結局昨日は研究施設の前で待機状態となってしまった。


この辺りにもこの街の危機意識の低さが窺える。


 辺境伯から今回の駆除作戦に関係する資料は一応渡されていたのだが、研究員が急いで作成したためか、詳しい情報などは一切記載されていなかった。


「おいおい!マジかよ、広すぎだろ!」


標的である寄生生物が逃げ込んだ研究施設の扉を潜った直後の俺の感想である。


 資料によると、ここは主に保管庫として使用している場所らしいが、通路に囲まれた部屋が縦5列、横10列の50個存在するとしか記載されていなかったので、狭い部屋が密集しているとばかり思い込んでいた。


しかし、実際には通路の幅は枝道でも約10フィート以上あり、各部屋の大きさに至っては縦約100フィート、横約90フィート、高さ約33フィートで小さな体育館ぐらいの広さがある。


更に各部屋には16フィートくらいの高さのところに、鉄格子状の床がワイヤーで吊り下げられており、ロフトみたいになっている。


 また、資料によると標的である寄生生物にはヤドカリに近い習性も組み込まれてるらしく、宿主が死亡した程度では起こらないが、宿主が損壊して行動不能になると、人間を除く他の生物へ宿主を自由に換える事が可能らしい。


起動実験で宿主として使われた生物は、レベル19前後のオークが4匹と、レベル40前後のスネークピープルが4匹の計8匹である。


だが、寄生生物が操る際には、レベルが低くて操り易い生物ほど身体が損壊して動かなくなるまで火事場の馬鹿力を常時使用できるみたいで、レベル40前後のスネークピープルなのに実際にはレベル80相当の身体能力を発揮するので、ランク4以下のハンターでは太刀打ちできないらしい。


特に、ステータスに表示されるレベルと実力との差異が大き過ぎるので、ステータスを素早く読み取れる兵士ほど油断して、多くが取り押さえる際に死傷したみたいである。


 今回の作戦は、当初は緊急対応の予定だったので、スリーマンセルのランク5ハンターで編成された8個分隊、俺とヘレナの1個分隊、ヘルガとヘルミーネの1個分隊の計10個分隊が、縦の列5部屋の探査と駆除を行うとだけ決めていた。


但し、ランク5ハンターには基本的に個性的なヤツが多いので、探査能力や狭小空間での戦闘能力だけを基準に分隊を編成するのではなく、相性を考慮するのに手間取った。


今更、分隊の編成を変更するのも時間の無駄なので、ギルドに連絡要員の追加派遣を依頼しただけで隊形はこのまま継続する事にした。


 そして、いざ状況開始となる寸前に、またしても役人が横槍を入れてきた。


機密データを持ちだされると困るので、各分隊に役人1名と研究員1名と護衛の兵士2名を同行させる、と言い出したのだ。


役人側の責任者とハンターギルド側の現場責任者とで押し問答となったが、結局は同行を認める代わりに、ハンターには護衛責任が一切ない事、駆除方法に口出ししない事などを書面で約束させた。


 この役人側の責任者は他の役人たちに向かって、自分が有能だからギルド側の責任者が引いたかように話しているが、ギルド側の責任者はシグブリット辺境伯に遠慮したに過ぎないので、虎の威を借る狐でしかない。


しかも、その肝心の虎の意向を無視しているのだから、虎の尾を踏んでいる事にも気づいていない無能である。


この世で唯一リサイクルできない時間が、更に無駄に浪費されていった。



 状況開始となったのは、1200時になってからであった。


しかも、ランク4以上のハンターなら誰でも、高さ約16フィート程度の場所くらい数歩のダッシュと壁蹴りだけでたどり着けるが、同行している役人どもは階段を使わなければロフトへ上がる事も出来ない上に、少し歩いただけで全力疾走したかのように呼吸が荒くなるので、俺たちは移動を大きく阻害されていた。


 ヘレナは温度分布やエックス線を映像として視る事が出来る『探査』の魔法に優れているし、俺は音を映像として視る事が出来る『探査』の魔法が使えるので、この程度の広さの場所に隠れているなら発見することは容易いと教えてあるにも関わらず、研究員は辺りをキョロキョロと見回して、ホンの小さな物音にもビクッと反応して震えている。


標的は擬態能力など有していないオークとスネークピープルの筈なのに、研究員のあの怯え様はおかしい。


 その原因は2つ目の部屋に入った時に何となく分かった。


研究員が目を見開いたまま入り口で立ち止まって、この部屋に入ってこなかったからだ。


そこには様々な生物がホルマリン漬けなどのサンプルとなっているだけでなく、解剖されていないランク5の生物の死体や人間の死体が放置されていた。


「おい!まさか標的は死体でも宿主にする事が出来るのか?」


「ああ、出来る。しかも死体なら人間でも宿主にする事が可能だ!」


「他にも俺たちに言って無い事があるだろ?」


「アレは魔獣だ。」


「人間並みの知能があるってことか?」


「そうだ。」


「他には?」


「宿主の記憶を知識として利用出来るし、宿主を換えても知識は無くならない。」


「宿主を換える度に知識が増えるって事か?」


「そうだ。」


「他には?」


「それだけだ。」


研究員の襟首を掴んで数インチほど吊り上げてから俺が丁寧に尋ねると、そんな答えが返ってきた。


「今の件を他のチームにも連絡してくれ。俺たちは駆除を続行する。」


「分かった。」


俺が依頼すると、同行しているギルド職員はそう答えて即座に走りだした。


 研究員たちは、自分達に被害を齎す可能性を全く想像出来なかったから、こんな危険な生体兵器を平気で作り出したのだろう。


どんなに博識でも知識だけでは限界があるから、やはり想像力は重要だ。


知識は兵器を生み出すが、それを使うなとは言ってくれない。


 それにしても、宿主に寄生している状態でステータスを読み取っても宿主の情報しか読み取れないから、死体を宿主にされた場合だと生きた人間との区別がつかない可能性がある。


しかも、宿主の記憶を知識として利用出来るとなると、ランク5以上だった人間の死体に寄生されたりしたら非常にマズい。


仕方がない。


ヘレナを危険に晒すくらいなら、怪しい行動をする奴は片っ端から殺すとしよう。


恐らく、ヘルガもヘルミーネを守るために同じ様な行動をするだろうから、彼女たちと接触するのは極力最後にしないと手間取ることになる。



 3つ目の部屋の扉が開いた瞬間、何かが居る気配がした。


ポール・アックスを構えながらゆっくりと近づいていくと、ハルバートを持ったオークが突如逃げ出した。


俺とヘレナを避けてオークが向かった先は、入り口で突っ立ている役人たちだった。


しかもオークは、護衛の兵士や役人をワザワザ避けて、研究員にだけハルバートを袈裟斬りに叩き込んだあと、通路へ逃げ出していった。


直ぐにでも追いかけたい所だが、入り口の真上のロフト部分にもう1匹潜んでいる事が分かっているので、こちらを片付ける事を優先する。


数歩のダッシュと壁蹴りでロフトに飛び上がった後、挟撃する事をハンドサインでヘレナに伝え、俺はワザと物音を立てながら近づいていく。


スネークピープルが突如立ち上がりハルバートを振り回して、ロフト部分を天井から吊り下げているワイヤーを切断した。


直後にロフト部分が傾いて崩れ落ち、入り口で何やら喚いていた役人たちをギロチンみたいに真っ二つにする。


俺とヘレナは咄嗟に転がり落ちるのを防ぐために、ロフト部分の床になっている鉄格子を掴んだ。


その隙にスネークピープルは、唯一生き残っていた兵士にハルバートを横一文字斬りに叩き込んで真っ二つにしてから、俺たちを一瞬だけ見て嘲る様に嗤ったあと、通路へ逃げ出していった。


「面白い事をやってくれるじゃねえか!」


「ん!」


俺の怒りの声に、ヘレナがこめかみに血管を浮かび上がらせながら、口角を上げて同意した。


「役人どもを殺した事は、まあどうでも良い。

俺たちから逃げ出した事も仕方がない。

だがな、行きがけの駄賃代わりにあんな巫山戯た真似をされて見過ごす訳にはいかねぇ。

誰をコケにしたのか、きっちり思い知らせてやる!」


「ん!」


俺たちはスネークピープルを追いかけて駆け出した。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。



【魔法紹介】

『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。



【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。

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