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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
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第35話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第35話




 翌朝、ハンターギルドに行く前に工業系ギルドに寄って、昨日のドラゴニュートとの戦いで傷ついたポール・アックスの修理を依頼しようとしたが、ここまで斧刃部分に切れ込みがあっては鋳潰すしかないそうで、武器を一本駄目にしてしまった。


そう言えば、あのドラゴニュートが振るっていたハルバートには、この国の紋章が彫ってあったので駐留軍から奪い取ったモノみたいだったが、アイツはどうやってあの武器を修理するつもりなのか。


俺には未だ、予備の武器としてポール・アックスが1本、ハルバートが3本、ショヴスリが1本有るが、全長8.2フィート、重量5.5ポンドで、槍鎌の背に刺突用の穂先を取り付けてハルバート化した様な武器であるロンコーネなど数種類の武器を購入しておいた。


基本的に武器なんか、薙ぎ払い、突き刺し、叩き斬る事が出来ればそれで十分なんだが、俺の修めた武術の真価を発揮し難いポール・アックスを選択した事も、ドラゴニュートを殺しきれなかった事の原因の一つなので他の武器を用意した。


また、技能スキルとは、技術テクニックを知っている事ではなく、性能アビリティを使い熟す事だが、この世界ではレベルアップすると身体能力が突然上がるので、恐らく俺が現在の自己の性能を正確に把握し切れていないのも、原因の一つである。


ダイヤモンドを輝かせる為には、同程度に硬い物で磨く必要がある。


レベルアップで上昇した俺の身体能力の限界を発揮するためには、あのドラゴニュートとの戦いは丁度良い。



 ヘレナとヴィクトリアはお互い自分の方がお姉さんだと考えているから相手の面倒を見る事は好きだが、ヘレナは世話を焼かれるのが嫌いなのでヴィクトリアを面倒臭い相手だと認定してしまっている。


しかし、幼いヒルダがヘレナの世話を焼く事など未だ無理なので、ヘレナは一方的にヒルダの面倒を見る事を楽しみにしている。


そのため必ず毎日夕方に30分間ほどヒルダの顔を見に行くのだが、何故か俺までヘレナに引き摺られて一緒にヘルミーネの家に通うハメになっていた。


俺は子供の扱いに慣れてない、というような事を以前ヘルガに言ってしまったので、恐らく無理矢理慣れさせようとしているのだろうと思う。


 茹だるような異常に暑い日が数日続いたある日、ヘルミーネの家で涼んでいるとヘルガがこんな事を言い出した。


「次のヴィクトリアの休みの日に、一緒に涼みに行くかい?」


「鍾乳洞にでも行くのか?」


「良く知っていましたね。」


俺が適当に言ってみると、そんな返事がヴィクトリアから返ってきた。


俺の郷には結構深い鍾乳洞があったのだが、真夏でもかなり涼しい風がそこから吹き出していたし、年中一定温度なので食料の保存庫などにも使われていた。


「俺の郷ではそこで涼を取っていたからな。この街にも在るとは知らなかった。」


「この街の地下遺跡には迷路の様な通路が複数存在しているのですが、その内の幾つかは行き先が判明していて、その一つが鍾乳洞につながっています。」


「地下遺跡には研究所とかがあるから入れないんじゃないのか?」


「地下遺跡は幾つかのブロックに別れていて、最大の場所だけを研究施設が独占しています。

しかし、他のブロックはスタンピード時の避難などにも使われていますし、有料ですけど一般市民が使用出来ます。

但し、どんな原理かは不明ですが、地下遺跡は年間を通して摂氏5度前後なので、保存くらいしか使い道がないみたいです。

そして鍾乳洞の方は摂氏20度前後なので、過ごしやすいと思います」


「なるほどな。鍾乳洞も有料なのか?」


「いえ、地下遺跡から鍾乳洞までの通路は有料ですが、鍾乳洞の位置は街の外側になりますので無料です。

但し、鍾乳洞の中に兵士はいませんし、ランク3以下の危険生物もいますので、通路前の扉を潜り抜けたら自衛する必要があります。」


「そうゆうことか。」


ヴィクトリアとの会話を終えたタイミングで、ヒルダが椅子から下りてわざわざ俺の真ん前まで走ってきてから、大声を出した。


「ソード。妖精が居るの!可愛いの!」


「妖精?」


その後もヒルダは、キラキラした目をしながら拙い言葉でマシンガンのように妖精の可愛さを俺に説明し続けた。


どうやら鍾乳洞に妖精が居るらしいという事は分かったが、俺にどうしろというのか。捕まえてくれと言っているのか。


妖精は是非見てみたいが、カトゥーンみたいに人間の縮小版に羽根が生えているという事は有り得ないから、たぶん人型をしている蛾とか蜂みたいな羽虫の一種だと思われる。


ヒルダの様子だと標本にするという事もないだろうから、愛玩動物にするなら無傷で捕獲しなければならないが、少し力加減を間違えたらプチッと潰れそうで難しい。


「ソード。言っておきますが、妖精に危害を加えたりしたら大集団で報復に来ますので、絶対に変な真似をしないで下さい。」


ヒルダの熱弁が終わったタイミングで、ヴィクトリアがそう説明した。


「妖精って凶暴なのか?

それと街に入り込めるほどレベルも高いのか?」


「どちらも違います。

妖精は普段、花の蜜などを主食にしている全長7インチほどの人間に良く似た大人しい生物です。

但し、人懐っこい小鳥みたいな感じで人間にも平気で近寄ってきますので、それを捕まえようとすると指を切断されたり、目を潰されたりするなどの反撃にあいます。

そして、レベルは高くはありませんが、特定の魔法をある程度無効化する能力がありますので、妖精を殺したりすると数万匹で標的を追いかけて街の障壁を通り抜けてでも必ず報復します。」


ヴィクトリアの説明通りなら、触らぬ何とかに祟り無し、という感じだ。


何にしてもイナゴや蛾みたいな害虫ではないだけマシである。


ヒルダからすると生きているバービ○人形みたいなモノだから興奮してたのかもしれない。


「ありがとう、ヴィクトリア。」


「ソード。妖精は可愛いの!───」


そしてヴィクトリアの説明が終わると、ヒルダが俺の膝の上によじ登って、またキラキラした目をしながら拙い言葉でマシンガンのように妖精の可愛さを俺に説明し始めた。


他の奴らは微笑ましいものでも見るかのような目で、俺とヒルダの様子を見守りながら談笑していた。


ヘルミーネから食事だからお終いだと言われて、ヒルダが頬を膨らませながら渋々諦めるまで、俺はひたすら相槌を打ち続ける事になった。



 3日後、鍾乳洞から通路へと続く扉に背を向けて、俺は感嘆の声を上げた。


「おお!」


鍾乳洞の右側の奥の方は、青色のLEDライトで照らされているかのように全体が青白く光っている。


正面の奥の方は、緑色の強力な蓄光塗料が塗ってあるかのように黄緑色の唐草模様みたいなモノが浮かび上がって見える。


左側の奥の方の鍾乳洞は常夜灯がそこら中で点灯しているかのように薄っすらとオレンジ色の光の点線が見える。


「左側には特に何もありませんが、右側には地底湖がありますし、正面には妖精がいます。」


「なるほどな。あの蒼いのは湖に反射した光か。」


ヴィクトリアの説明に俺はそう返したが、俺の郷にあった鍾乳洞は乳白色一色だったからどれもが新鮮である。


「ソード。妖精がいた!」


ヒルダが正面の鍾乳洞の上の方を指差しながら、片手で俺の手を掴んで走り始めたが、数歩で躓いて倒れそうになった。


ヒルダが接地する前に俺は咄嗟に片腕で掬い上げてから左腕に抱きかかえた。


「ヒルダ。何処か痛いところはないか?」


「平気。」


「何処へ行きたかったんだ?」


「あそこ!」


抱きかかえたままのヒルダが指差す方向へ俺が進んでいくと、後ろからクスクスと笑いながら他の連中が付いて来る。


 妖精の居る場所へ行くまでの途中で、全長3.3フィートほどの大きさのサソリが十匹ほど襲いかかってきたので、全てサーベルで対処した。


しかし、サソリの外殻が硬すぎるというよりも、サーベルの刃筋が微妙に立っていないせいで太刀筋が狂ってしまい、何匹かは切断出来ずに打ち飛ばすだけになってしまった。


これも、恐らく俺が現在の自己の性能を正確に把握し切れていない事が原因である。


 大量のつる植物が鍾乳石に巻き付いていて、天井の所々から太陽の光が差し込んでいる場所の手前までくると、数匹の妖精が蜂みたいな羽音を立てて向こうから近づいてきた。


「妖精!」


「お!?」


どうやら生きているバービ○人形ではなくて、生きているフラッター・バイ・フェアリ○の方が似ていた。


 ヒルダは満面の笑みで喜んでいるが、妖精たちが何か会話している事に俺は思わず驚いてしまった。


ワータイガーくらい大きければ人間並みの知能が有ってもおかしくはないが、こんな小鳥並みの小さな生物では神経細胞が少なすぎて高度な知能などを持ち得ない筈だと考えていた。


 ステータスにもヒト型昆虫類と表示されているから、昆虫が二足歩行生物へ進化もしくは変化したモノなのだろう。


妖精たちの外見はカトゥーンのエルガイ○に出てきたリリ○に似ているのだが、何故か全く似ていないシネマのミミッ○を思い出してしまった。


 その後も続々と俺たちの周りに集まってきた妖精たちは、飛び回りながら何かを会話していた。


まるで、ガリヴァー旅行記で小人の軍隊に囲まれたガリヴァーの気分である。


 俺がサヴァン症候群の1種だと診断される原因ともなった言語理解能力と形態模写能力を駆使して、妖精たちが会話する際の口の動きを解析する。


人間と妖精たちとでは、仮に構造が同じでも大きさが違うせいで話したり聞こえる周波数帯が異なるので、妖精たちの話し声が俺にはモスキート音みたいに聞こえる。


1時間ほどの解析で理解出来た範囲だけだが、俺は試しに話しかけてみた。


『俺の言葉が分かるか?』


しかし、「何かが聞こえた様な気がする」といった感じで妖精たちはこちらの方をキョロキョロと見ただけで終わってしまった。


モスキート音が聞こえない人間も多いのだから、妖精にも人間の声は可聴域外スレスレなのかもしれない。


今度は『楽器』の魔法で、もう一度話しかけてみる。


この『楽器』の魔法は、様々な種類の楽器の音を再現するもので、人間楽器では出せないような周波数や振動数で音色を変化させるだけのものだが、ヘレナに地球のクラシックの話しをした際に演奏してくれと強請られて購入した趣味の魔法である。


『俺の言葉が分かるか?』


妖精たちが俺を見ながら、驚いた顔をしたまま数秒間ほど固まった。


硬直から直ると妖精たちは俺の顔に群がって早口で何かを捲し立てたが、キーンという甲高い耳鳴りにしか聞こえない。


「キャー!」


ヒルダが耳を抑えて上げた悲鳴を聞いて、ヘルミーネ達が駆け寄ってきた。


「落ち着け!!!」 『落ち着け!』


妖精だけでなく、ヒルダまで俺の耳元で騒いでいるのに加え、ヘルミーネ達まで大声を出して詰め寄ってくるのに耐えかねて、俺まで怒鳴り声を出してしまった。


「ヘルミーネ。妖精たちはヒルダに危害を加えようとしている訳じゃない。」 『妖精。早すぎて分からない。口の動きを見せながら、ゆっくりと喋ってくれ。』


 妖精たちは俺が差し出した右腕の前腕に着地したり、旋回しながら、ゆっくりと喋り始めた。


それを見ていたヒルダの顔に笑顔が戻ったので、ヘルミーネたちも溜息をついて落ち着いたようである。


妖精たちの言葉は未だ解析途中なので、大した意思の疎通が出来た訳ではないが、彼らには小学生程度の知性があり、警戒心よりも好奇心の方が優っている事が分かった。


もしかしたらあのドラゴニュートたちも、変なハンドサインで話し合っていると思っていたが、あれは単なる身振りや手振りで、周波数帯が違うせいで俺の耳に全く会話が聞こえていなかっただけなのかもしれない。


次に遭遇したら即座に殺し合っているだろうし、どうせ頭蓋骨の構造が違い過ぎて、俺の能力では彼らの言葉を解析する事は出来ないので、どうでも良い事ではある。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。

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