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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第1章
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第03話

■2015/09/04 誤字・脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第03話




 水筒の水は何度か口にしていたが、流石に腹が減っていた。


浄水剤は支給品だけでなく私物も大量に持っているし、ろ過器もあるので、ジャングルの中にいる限りは水不足の心配はしないで済む。


ここが俺の知っているジャングルと同じなら、水だけでなく食える物も山ほどある筈なので、緊急時のために3日間分のレーションや3本しか無いスニッカ○ズは残しておける。


しかし、周りを見る限り知っている樹木や草花が一つもないし、先程からカエルやヘビは疎かアリや虫の類いも一切見かけない。


そこら中にぶら下がっているマンゴーや花梨みたいな果物類は、腕に汁を塗りつけて毒の有無を確認した後で、舌に乗せてシビれなかったら食べられるだろうが、問題は脂質やタンパク質などが足りないことだ。


となると、貴重な栄養源だし、あいつらの肉を食うしかないが、少しだけ食って様子を見る必要がある。


 水筒の水を一口飲んで口を拭ったら、簡易化学防護服のマスクに詰められていた活性炭のせいで、袖が真っ黒になった。


迷彩フェイスペイントをしてなかったから丁度良いので、顔を擦って炭を全体に広げる事にした。



 ドラゴンの背中に生えていたのは、羽根というより孔雀の尾羽根みたいな飾りだが、軽くて弾力性があるので、刈り取って捕虜運搬用の麻袋に詰め込み持って行く事にする。


先ほど作ったカマドに固形燃料を追加投入して、拾い集めた生乾きの枝を乾かすついでに、麻袋に詰めた羽を煙で燻してノミやダニを駆除しておく。


また、丈夫そうだし何かに使えるかもしれないので、剥ぎ取ったドラゴンの皮もカマド近くに立て掛けて乾かしておく事にした。


 ある程度乾いた枯れ枝を固形燃料と一緒に燃やしてから、アジア象なみの大きさのイノシシの肉とドラゴンの肉をナイフで切り出し、細い枝を刺してからカマドでグリルしてみた。


イノシシの肉は、ドラゴンが食い漁った腹部では無く、先ほど俺の手で毛皮を剥いだばかりのもも肉を使用する。


ドラゴンの肉も、胃臓が破裂して内容物によって汚染されている可能性が高いので吐血がかかっている胸部の肉では無く、先ほど確認した太腿の傷跡周辺のもも肉を使う。


 これらの肉を食べる前に、俺は自分の腕の傷の無い部分にイノシシとドラゴンの血液を1滴ずつ垂らしてパッチテストを行ない、特に反応が無いことを確認しておいた。


小さな一切れだけなので断定は出来ないが、大きなイノシシの腿肉は地元で食べた猪と同じような味だった。


しかし、そんな事よりも重要な検証結果が判明した。


一口だけ食べたドラゴンの肉は、大きなイノシシの肉なんか比べものにならないくらいに、滅茶苦茶美味かった。


是非、このドラゴンの肉で燻製を作りたいが、塩やチップなどの材料が無いし、何より時間が掛かるので諦めるしかない。



 先ほど南西方向に見えた街みたいな場所を目指して、3歩目を踏み出した所で、何か大きな動物の鳴き声が聞こえてきた。


数秒後には、全長約12フィート、体高は俺の腰くらいで、ダチョウみたいに羽は小さいが尻尾の長い、大型犬くらいの大きさの鳥みたいな生物8匹が俺を包囲していた。


何となく、マジソン・スクエア・ガーデン内で、GODZIL○Aのベビーにジャン・レ○が囲まれている場面が思い浮かんだ。


羽の形や色などが微妙に違うが、俺はこいつらによく似た生物を、昔見た事がある。


俺の故郷の近くで、全身の骨格が発見されたとかで、街中に貼られたポスターに復元図が描かれていた。


こいつらの名前は確かデイノニクスの筈だ。


ガキの頃は見たくて堪らなかった恐竜が、目の前にいる状況に思わず興奮した。


「ショータイムだ。踊ろうぜ。」


頭部への3点バースト攻撃だけで、簡単にデイノニクスの脳みそが吹き飛んだ。


3匹目の頭部へ着弾した瞬間、一斉に残り全てのデイノニクスが、俺に背を向けて逃げ出した。


「クソッタレ!チークタイムだってのに、ステージから逃げ出しやがって!」


昔、任務中に野生の大型犬の群れに襲われて反撃した時と同じように、僅か数秒で銃声は止んだ。


俺の周りには大きなイノシシとドラゴンだけでなく、8匹のデイノニクスも転がっている。


デイノニクスには偏向シールドみたいなものは無かったので、まるでマリアナの七面鳥撃ちだった。


今回のことで全ての生物にあの偏向シールドみたいなものが有る訳ではない、という事がわかった。



 この先、襲われる度に銃撃していては、すぐに弾薬が底をつくので、弾薬類は対ドラゴン用の切り札とする。


俺は、ガキの頃から槍術や小太刀術を教え込まれた御蔭で、実戦でも近接戦闘では手傷を負った事など一度もない。


しかし、野生動物に襲われた際に着剣したアサルトライフルで反撃したら、銃身が歪んだ経験が何度かある。


それと防弾防刃ベストなんか着ていないので、あの爪で奇襲された時に心許無い。


機動力が落ちるから防弾防刃ベストなどは好きではないが、俺よりもスピードの速いドラゴンに襲われた際に、為す術もなく即死するよりはマシだろう


そこで急遽、盾代わりになるものと、投擲にも使える槍を作ることにした。


 先ずは、ナイフで木の枝から棒を削りだして、パラシュートコードで縛り、木製の盾を3枚作った。


次に、乾かしておいたドラゴンの皮膚と鱗とを盾2枚で挟んでから縛り、取っ手に首を通せば防刃板の完成である。


広告板を体の前にぶら下げてるみたいに見えるが仕方ない。


続いて、先ほど切開いておいたドラゴンの足の甲の傷跡から、10インチほどの長さの爪を引っこ抜き、根元に木の棒を縛り付けて、5本の短槍を作った。


最後に3枚目の大型の盾を、橇にも出来るように手直しした。



 腕時計についている方位磁針コンパスによると太陽が東から西に移動しているし、南に昇っていたので、此処がもしも地球なら北半球の何処かである。


太陽の位置から推測すると、俺が目を覚ましたのは午前8時頃で、現在17時頃の筈だ。


しかし、俺の腕時計だと目覚めたのが午前2時5分過ぎで、現在は午前11時5分前を示している。


敵の歩哨を始末したのが、午前2時から1分間以内だった筈なので、せいぜい数分間程度しか気絶してなかった計算だ。


時差がある場所で行動するのはいつもの事なので気にしてないが、どんな手段を使って僅か数分間で6時間も時差がある場所へ移動させたのか興味が尽きない。



 今は無風状態だから良いが、こんな血の匂いの充満する場所にいつ迄も居ると、日が落ちて風が吹いたらすぐに肉食の生物が集まってくる。


生態系の分からないジャングルを夜間に行軍などしたくないので、俺は先ほど登っていた樹木に一旦戻ることにした。


高さ60フィートあたりで二股に分かれているので、一晩くらいなら居座るのに都合がいいからだ。


ワニが火や煙を嫌がる事は知っているが、この辺の生物もそうだとは限らないので確認のために、カマドに薪を追加して放置しておく。


先ほど登った時よりも多い荷物を背負って再度樹木を登り、ドラゴンの羽入りの麻袋をクッションにして日没を眺めていた。


日が落ちた瞬間に真っ暗になった。


日没に合わせて腕時計の時刻を18時へ変更した後、周囲を警戒していたが、普段の俺らしくも無く、いつの間にか眠りに落ちていた。



 真夜中に頬を撫でる涼しい風で目が覚めた。


ドラゴンの肉を食った事による影響で気絶したのかと心配したが、今のところ特に食中毒の症状もないので一安心した。


周囲を覗ったあと、ドラゴンの亡骸などが有るはずの数百ヤード先の場所を双眼鏡で覗いてみる。


動物の目だとは思うが、真っ暗闇の中で大量のホタルの光みたいなモノがドラゴンたちの亡骸にたかっているのが見えた。


ドラゴンの肉は取り敢えず食えるのだと安心して、満天の星空を見上げたら俺の知っている星座が一つも無い事に気づいた。


興奮しながら星空を眺めていた筈なのに、またしても俺はいつの間にか眠りに落ちてしまっていた。



 翌朝、ドラゴンたちの亡骸は無残な姿になっていた。


デイノニクスと大きなイノシシの方は、俺が知っている野生動物の食われ方通りで、パッと見は血に濡れた骨だけしか残っていない。


問題はドラゴンの方で、脱ぎ散らかしたかのように皮膚の殆ど全てが残っているのと、吐き出された鱗がそこら中に落ちていた。


ドラゴンの鱗や皮膚は、この辺りの生物には消化出来ないという事である。


俺が狩った獲物が廃棄物扱いされているみたいで、何となく腹立たしい。



<続く>

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