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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第2章
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第28話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第28話




 俺たちが深淵の森から戻ったのは、第二次調査2日目の1110時頃だった。


既に17番目のチームが、本日早朝に9マイルほどの位置でワーウルフ第4形態を発見して1050時頃に戻って来たため、駐留軍200名と諸侯軍500名からなる討伐軍第1陣がつい先ほどの1100時に討伐に向かった後だった。


その他に戻ってきたチームは未だいない。


その代わり、昨日俺たちが出発する際には居なかった筈の見慣れない装備をした500名ほどの部隊が増えていた。


5列縦隊の中央の駐留軍と同じ装備をしている下士官らしき者たちの事はまあ良いとして、その左右に居る兵士たちがおかしい。


揃いも揃って身長が8フィート以上、体重は440ポンドを下らない巨漢だし、この蒸し暑い中で毛皮を着込んでいる上に、作り物のマスクを被っているかのような似通った顔立ちをしている。


しかも、あの胸部のお椀型の膨らみは大胸筋ではなく、乳房である可能性が高いし、何か見た事のある体形だ。


その明らかに異常者の集団が気になって、俺は彼女らのステータスを読み取ってみた。



【名称】

 ヒト型哺乳類 キメラ型セリアンスロゥプ科 ワーウルフ2

【レベル】

 66


【名称】

 ヒト型哺乳類 キメラ型セリアンスロゥプ科 ワータイガー2

【レベル】

 66



「2って何だ?

 頭部が人間形態だから2なのか?頭部が人間形態でもレベルは下がらんよな。すると新型だから2なのか?新型なのにワータイガーよりもワータイガー2の方がレベルが低いのは何故だ?

 ワーウルフ2の焦茶色の毛皮はまだしも、ワータイガー2の虎縞模様は街中で目立つだろ?それにあの酷い顔は何だ?ハロウィンの仮装の方がよっぽどマシだぞ。一体何がしたいんだ?」


突っ込みどころが多すぎる。



 深淵の森での調査結果を報告するために俺とチームリーダーは、その異常な部隊の直ぐ傍におかれている討伐軍本部に赴いた。


チームリーダーが一通りの説明を終えた後で、俺が補足をする。


「彼らが撤退後に俺は、キメラの第2形態2匹と交戦し、これを撃破した。

更にその1匹は、俺が昇格試験の時に撃退したワータイガーだった。

これがその残骸だ。」


俺は『収納』の魔法で格納しておいた4本の腕を取り出して、テーブルに置いた。


「この前腕部分の切り口は、確かにソードが斬ったモノに良く似ています。」


本作戦のギルド側の責任者であるヴィクトリアがそう言うと、駐留軍と諸侯軍の責任者である士官たちは直ぐ様、4本の腕を持ってジルヴェスター辺境伯の元へと報告に向かった。


当初の予定では、ヴィクトリアもランク5ハンターとして本作戦に参加するはずだったが、他の街のハンターギルドから4名のランク5ハンターが援軍として参加したので、ヴィクトリアみたいに役職持ちのギルド職員は他の仕事を受け持つことになった。



 駐留軍と諸侯軍の士官が戻って来るまで待機となった俺は、あの異常な部隊についてヴィクトリアに尋ねた。


「ヴィクトリア。何だアノ部隊は?」


「昨日、皆さんが深淵の森を調査している間に、王都から転移門を使用して辺境伯領に送り込まれていた増援みたいです。

導入評価を行っている事しかギルドは知りませんでしたが、ミクローシュ辺境伯領でのスタンピード後に正式に配備されたばかりの量産型の獣人で編成された部隊だそうです。

先程、ジルヴェスター辺境伯の部下の方から、初陣ではあるが第2陣として投入するとの連絡がありました。」


「大丈夫なのか?」


「今も渉外担当が問い合わせているのですが、詳しい情報は全く公開されていません。


ジルヴェスター辺境伯の研究所で試作された獣人の胚を、王都の研究所が品種改良したモノらしいです。


試作体の獣人との違いで現在知らされている情報は、生産性を高めたためにレベルが落ちた事、勝手な繁殖を防ぐために雌しか存在しない事、変異しても知性が残っている限りは制御可能な事くらいです。」


「俺の知っている範囲だと、第2形態までは知性があったが、第3形態には知性なんか無かった。

どれくらい改良されたのかは知らないが、俺たちが発見した時に試作体の第3形態が新種認定された事からすると、その前に作られていたあの量産型が第3形態での制御を考慮している筈がない。」


「やはり用心しておいた方が良いみたいですね。

ギルドからランク4以上のハンターには通達しておきます。」


「ヴィクトリア。今の会話から、もう一つ気になる事が出来た。」


「何ですか?」


「量産型の獣人と試作体の獣人とでは繁殖可能なのか?」


「分かりません。」


「昨日俺が始末したワータイガー第2形態だが、変異する前に戦った時は、身長こそ約6フィートぐらいと低かったものの体形はあの量産型のワータイガー2と同じだった筈だ。覚えているか?」


「言われてみれば確かに、縮小したら同じ様な体形でした。」


「それがワータイガー第2形態に変異したあとでは、小さい6個の乳房になっていた。

また、俺が遭遇したワーウルフ第3形態には2匹とも、小さい6個の乳房があった。

つまり、これらは全て雌である可能性が高い。


試作体は雄雌2匹ずつ計8匹作り出されていたはずだが、試作体のワーウルフは雌が2匹とも変異しているし、1匹は生埋めだ。試作体のワータイガーも雌が1匹死んでいる。

では、もしも試作体の雄がまだ変異してなかったら、どんな行動をすると思う?」


「まさか量産型を狙うと?」


「試作体よりも量産型の方がかなりレベルが低いから単独の時を狙えば、夜這いは決して難しい事でもない。」


「しかし、私たちにはどうすることも出来ません。」


「その通り。だから、気になる事が出来た、と言っただけだ。」



 ジルヴェスター辺境伯からの「念のために確認を求む」との要請を受けて、ヴィクトリアが指示を出したので俺達も案内役として、1200時に出陣する諸侯軍100名と獣人部隊100名からなる討伐軍第2陣に同行する事になった。


先頭は道案内として、ヴィクトリアが呼称するところの4番隊である俺たちハンターが務めている。


俺達の直ぐ後ろに位置する獣人部隊だが、外見だけでなく、武装もおかしい。


 通常のランク2以下のハンターのメインウェポンは、単純に斧頭と柄を組み合わせただけの全長約5フィート、重量約6.5ポンドほどのバトル・アックスである事が多い。


ランク3以上のハンターや駐留軍のメインウェポンは、槍・斧・鉤を組み合わせたような複雑な形状をした全長約6.5フィート、重量約5.5ポンドほどのハルバートである。


諸行軍のメインウェポンは、全長約6.5フィート、重量約4.5ポンドほどのフットマンズ・アックスだが、相手を引き倒すための鉤爪の形状だけがハルバートと異なる。


俺のメインウェポンは、全長5.9フィート、重量5.5ポンドのポール・アックスだが、円形状の鍔の存在だけがハルバートと異なっている。


獣人の試作体のメインウェポンは、全長6.6フィート、重量7.1ポンドの方天画戟みたい武器だが、鉤を無くしたハルバートでしかない。


一般庶民がスタンピード時などに使用するメインウェポンは、全長約6.5フィート、重量約6.5ポンドほどの槍鎌で、普段使っている農具の鎌と同じように扱える。


ヘレナファミリーのメインウェポンは、全長8.2フィート、重量6.1ポンドの両鎌槍で、 ヴィクトリアファミリーのメインウェポンは、全長8.2フィート、重量6.1ポンドの片鎌槍だが、これらは槍鎌の一種である。


稀に傾奇者が変わった形状の武器を携えている事もあるが、基本的にはこの様にバトル・アックスやハルバート、槍鎌の派生の武器である。


俺も予備のメインウェポンが、穂先の根元の両側に蝙蝠の翼の様な形状の刃がついた全長7.2フィート、重量4.8ポンドのショヴスリなので、傾奇者の事はあまり兎や角言えない。


 しかし、獣人部隊のメインウェポンは、刀身が炎のように波打っている全長約10フィートほどの蛇矛というか、長柄のフランベルジェである。


王都駐留軍の指揮官がサブウェポンとして携行している事があるので、フランベルジェ自体は珍しくもないが、それはあくまでも儀礼用の剣としてだ。


フランベルジェは、引き抜く際に傷口を広げ、抉りとるように肉片を飛び散らせる武器なので、軽傷であっても簡単には治らないし、醜い傷跡が残るなど、攻撃力に関しては問題ない。


しかし、フランベルジェを日常の戦闘で使用していたら、特殊な形状の刃のせいで砥ぎ直しなどの維持費がそれこそ将軍クラスでもなければ賄えない。


そのためフランベルジェはその装飾的な形状によってのみ、ファッションとして王都で持て囃されている。


王都の研究所は苦労知らずの貴族どもの遊び場であるとの噂だが、確かに危険生物との戦闘経験の無い奴らが見かけだけで武器を選んだ感じがする。



 1時間に2.5マイルほどのペースで進んでいたので、1610時頃には10マイルほど奥にある、キメラを発見した場所へ再びやって来る事が出来た。


これは街中ならゆっくり歩くくらいの速度だが、樹木の生い茂るジャングルの中を武装した兵士が行動する場合だと駆け足に等しい。


道中に危険生物が全くいない今だからこそ出来た荒業である。



 通常、ランク4以上のハンターがスリーマンセル以下の少数で戦闘行動をするのは、魔法攻撃の威力が高すぎて迫撃砲をメインウエポンにして戦闘を行う様なモノなので、連携による相乗効果よりも巻き添えによるデメリットの方が遥かに大きくなるからだ。


今回の4番隊のチームリーダーから待機中に聞いた話だと、俺やヘレナやヴィクトリアみたいに魔法をバンバン連射出来る奴は少ないので、実際には装備の維持費などが嵩み、4人以上だと利益にならない場合が多いというのが最大の理由みたいだ。


 そして、ランク3相当の実力の者が多い駐留軍や諸行軍では、複数の5人組が交代しながら間断ない魔法攻撃を加える事で、敵に消耗戦を強いる戦い方をする。


地下隔離施設の時みたいに、この陣形を張る前に各個撃破されると弱いのだが、ランク4やランク5相当の実力がある隊長に率いられて一糸乱れぬ行動が出来れば彼らは強い。


特に今回の獣人部隊は全員がランク5相当の実力を有しているので、30分間も経たぬ内に損耗も負傷もなく、スタンピード状態の生物の殲滅が終了した。


 ただし、獣人部隊は『突撃』の魔法で吹っ飛ばして転がした後、標的が沈黙するまで『爆裂』の魔法で爆破し続けるという行動をとった。


食用に出来ないキメラが相手の場合や自分達が危険な状況なら仕方がないが、こちら側からの一方的な攻撃状態なのに食用の生物まで木っ端微塵である。


一般のハンターや兵士なら、仕留めた以上は素材や食肉を回収する事を考えるので、トドメは『氷湖』の魔法で周囲の空気ごと固めて窒息させるか、メインウェポンで首を切断する場合が多い。


しかし、獣人部隊の行動は貴族どもの代わりに動物を弄んでいるかのようで、俺達ハンターだけでなく、予備兵力として控えていた諸侯軍100名の顔も嫌悪感に満ちている。


 こんな一方的な攻撃状態では、当然俺の出る幕など無い。


あの魚や鳥みたいな顔をしたキメラの第2形態はいなかったが、キメラは即死しなければ変異を繰り返す筈だから、こんな泥臭い殺し合いで即死するとは思えないので、別の場所へ移動した可能性が高い。


やはり、最初に見かけた時にじっくりと見物してから、冷凍するなり消滅させるなりしておけば良かったかもしれない。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。


ヘレナ……傭兵ギルドの教育担当。ヴィクトリアの従姉妹。ソードと同棲中。


ヴィクトリア……ハンターギルドの契約担当。ヘレナの従姉妹。



【その他】

ジルヴェスター辺境伯領……主人公が住む街。アドルファ王国の最南東に存在する。


ミクローシュ辺境伯領……アドルファ王国の最北東に存在する。

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