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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第2章
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第27話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第27話




 東門から北門までの外周道路の長さは約11マイル、そこに20組の即席チームが、ほぼ等間隔で並んでいた。


0900時丁度、第4郭跡付近で待機していたギルドの職員が『光球』の魔法で閃光を放った


それを合図に、20組の第二次調査隊が一斉に真東へ向かって、深淵の森に進み始める。


北門側から4番目にいた俺たちのチームも、『探査』の魔法を使いながら深淵の森へ分け入った。


ヘレナは南側の隣のチームだ。



 3マイルほど奥へ進んだ頃から、ランク4ハンターたちがキョロキョロと周りを見渡し落ち着かなくなってきた。


「(どうしたんだ、コイツらは?・・・ああ、そう言う事か。)」


ランク4ハンターの推奨狩猟場は、深淵の森の1マイルほど奥までの浅い領域とされているが、これは3マイルより奥からはランク5の生物も生息している領域とされているからだ。


同様に、ランク5ハンターの推奨狩猟場は、深淵の森の12マイルほど奥までの領域とされているが、これは15マイルより奥からはランク6の生物も生息している領域とされているからである。


実際には、ランク5に分類されるグリフォンなども、獲物を追いかけて外周道路付近まで出没する事が頻繁にあるし、ランク6に分類される亜竜なども、血の匂いに誘われて3マイルほどの場所に出没する事が度々あるので、あくまでも目安でしか無い。


俺も、50マイルより奥に生物している筈のランク7に分類される下等竜と30マイル付近で交戦した経験があるし、20マイル付近でもう1匹を目撃した事がある。


以前にヴィクトリアから聞いたウンチクでは、この領域というのはハンターの死亡率が大幅に変わる分かれ目を基に告知しているに過ぎない、といっていた気がする。



 1時間に1マイル程のペースで進んでいたのだが、風が全く吹いていない事もあり、7マイルほど奥まで進んだ頃に突然、濃密な死臭が漂いだした。


俺と一緒に先頭を歩いていた奴がハンドサインで後退を告げた。俺ではなく、最年長の彼がこのチームのリーダーである、俺が任命したのだが。


死体や死臭くらいで吐くようなハンターは居ないが、俺達は一旦数十ヤードほど後退し、『収納』の魔法で格納しておいた防毒マスクを取り出し、ヘルメットと取り替えた。


これは本作戦のためにギルドから貸し出された装備の1つで、防毒マスクといっても潜水ヘルメットみたいな形状をしており、毒ガスや細菌を防ぐエアフィルターの様な機能が内蔵されているそうだ。


死体が周囲に無く、空気も流れていないのに、あれほど濃密な死臭が漂っているということは、山のように大量の死体が近くに遺棄されている可能性が高いので、屍毒だらけの場所で戦闘する事を想定しての用心である。


俺は今回他の奴らと同じ様に、トーガではなく鎖帷子で補強されている革製のシャツとパンツの上から鎧を着けているし、ブーツだけでなく全身にまでニコチンなどの忌避剤をふりかけている。


唯でさえいつもより暑くて臭いのに、そこへ顔まで覆わなければならない事に辟易していたのだが、この防毒マスクを被ったら頭頂部から空気が吹き出してきた。


「(どのような原理かは分からないがありがたいな、これは。)」


 ふと、南の方角の頭上を見上げると樹木の上に、倒木みたいな木が引っ掛かっているのが見えた。


ワーウルフ第4形態が周囲に居た可能性が高い。


ハンドサインで他の奴らにもその存在を教えると、息を飲む音が聞こえたので、驚いているのだろう。



 前進を再開して数十ヤードほど進んだところから、スタンピード終了後みたいに、大量の死体が転がっているのが見え始めた。


風船のように膨らんでいる死体や既に破裂している死体が多いので、今日や昨日に殺されたモノではなさそうだ。


それなのに、内蔵を食い散らかされている死体に昆虫類なども群がっていない。


足元の血の絨毯には、小動物の歯や爪の欠片および、昆虫類の脚や羽の破片なども混じっているので、小さな昆虫類まで粉々にされて殺されたかのように見える。


炭化しているモノや硬化しているモノなども複数存在するし、死体の傷口などや状態からして、ワーウルフ第4形態に殺されたのではなく、お互いに殺し合いをしたとしか考えられない。


 7マイルほどの場所からずっと死体が転がっているが、9マイルほどの場所まで進んだ所で1800時となり、日が沈んだので野営を始めた。


とは言っても、『突撃』の魔法で死体を吹き飛ばしてから『火炎』の魔法で消毒して野営場所を確保した後に食事を取ったら、防壁代わりに『氷湖』の魔法で自分たちの周囲の空気を紡錘形のドーム状に固めて無色透明な障壁を作っておき、2人ずつ見張り番と睡眠を3交代で行うだけだ。



 翌朝の第二次調査2日目は、日の出直後に食事を取ってから、0600時に移動を再開した。


10マイルほどの奥まで進んだ所で、前方から沢山の獣が吠える音と何かがぶつかり合う音が聞こえてきた。


チームリーダーのハンドサインで、一斉にしゃがみ込んだ後、数十ヤードほど微速前進する。


十数ヤード先に見えたのは、レベル5の生物がバトルロイヤルというよりは、手近なヤツに向かって無闇矢鱈に攻撃を仕掛けて、殺し合いをしている光景だった。


いや、足元には小動物などの死体も大量に転がっているように見受けられるので、全ての生物がスタンピード状態となって暴れた結果、レベル5以上の生物が生き残った可能性が高い。


まるで、ヤクをやり過ぎて天国から帰って来れなくなったジャンキーどもが、マシェットを振り回して暴れ回っているかの様だ。


ワーウルフではない、キメラの第2形態や第3形態が10匹近く混じっているのが見える。


チームリーダーが撤退するようにハンドサインで指示した直後、何かが直ぐ傍の木に衝突した。


転がってきたのは、よりにもよってキメラの変異体だった。


そしてそれを追ってきたのも、前腕部分の半ばから先の左腕がないキメラの変異体だった。


両者とも全長約11フィート、体毛が一切なく、全身が乾いた血液みたいな赤茶色をしており、小さい6個の乳房がついていて、巨大化した爪を持ち、犬歯以外の歯も全て大型の牙と化している2足歩行の生物である。



【名称】

 ヒト型哺乳類 キメラ型セリアンスロゥプ科 ミノタウロス第2形態

【レベル】

 94


【名称】

 ヒト型哺乳類 キメラ型セリアンスロゥプ科 ワータイガー第2形態

【レベル】

 140



「まずった。敵の手札にエースとジャックが揃いやがった。」


ワータイガー第2形態は巨大化した右腕の爪を振りかぶって俺に向かってくるし、ミノタウロス第2形態は巨大化した両腕の爪を広げてチームリーダーへ向かっている。


俺は防壁代わりに『氷湖』の魔法で自分の周囲の空気を紡錘形のドーム状に固めて無色透明な障壁を作っておき、時間稼ぎをしている間に『突撃』の魔法の2連射で、ミノタウロス第2形態の膝を吹き飛ばす。


直後に、障壁にぶつかって体勢を崩したワータイガー第2形態の膝も、俺は最大出力の『突撃』の魔法の2連射で吹き飛ばした。


俺は隙かさず、2匹ともに『氷湖』の魔法を使って周囲の空気ごと固めて身動きを封じる。


「退け!」


「しかし…」


俺が指示するとチームリーダーが反論しようとするが、リーダー役を彼に押し付けたのは、元々俺1人で殿を引き受けるためだ。


「いくら俺が凄腕だろうが、こんな所でいつまでも勇者ごっこを続けられる訳があるまい。

俺1人ならどうとでも始末をつけられる。」


ミノタウロス第2形態の半分程度のレベルしかない彼らに残って貰っても、はっきり言って足手まといでしかない。


チームリーダーは不承不承、他のハンターたちを連れて撤退していった。


 やれる所までやってダメだったら、『転移』の魔法でトンズラするだけだ。


「へい、また逢いに来てくれたとは嬉しいねぇ。」


前腕部分の半ばから先の左腕がないワータイガー第2形態に、俺はそう声を掛けた。


唸りながら俺を睨みつけるコイツの左腕と顔面に薄っすら残る向こう傷は、俺が以前斬り付けたモノに間違いない。


 丁度良い機会だから、購入した『秘伝』の魔法が生物にどれだけの効果があるのか試させて貰うとしよう。


「ショータイムだ!ハイでクールなダンスを見せてやるよ。」


『氷湖』の魔法を解除した直後に俺は、ミノタウロス第2形態の頭部から心臓に向かって1フィートの距離から通常出力で『投影』の魔法を放った。


「レッツ、ロッカンロール!」


3ヤードほど先からスラロームの様に蛇行して地面を抉っていったが、ミノタウロス第2形態は両腕だけを残し、跡形もなく蒸発していた。


「お前も1曲どうだ?」


俺はそう言うと『氷湖』の魔法を解除し、直後にワータイガー第2形態の顔面に向かって1フィートの距離から通常出力で『電撃』の魔法を放った。


「レッツ、ダンス、ベイベー!」


轟音と稲光の後、ワータイガー第2形態は燃え出したのだが、暫くすると全身がビクビクと脈動して膨張し始めた。


「やってらんねぇから、俺はおさらばするぜ!」


どうやら即死させられず、ワータイガー第3形態への変異を促してしまったみたいなので、俺はそう言って呆れながらも別の攻撃魔法を発動する。


「ワン・ラヴ・ピース!」


俺がそんな別れの挨拶とともに、ワータイガー第2形態の頭部から心臓に向かって1フィートの距離から最大出力で『投影』の魔法を放つと、今度は両腕以外は見事に蒸発した。


 コイツらの両腕を放置しておいて、カトゥーンの強殖装甲ガイバ○に出来てきた獣化兵みたいに、全身を再生されたりするのは勘弁して欲しいが、かといって研究所に渡しても前回みたいに蘇生を試みられるので困る。


仕方ないので、コイツらの両腕を『凍結』の魔法で凍らせて『収納』の魔法で格納し、ギルドへ持ち帰ることにした。


 「(2発目の『投影』の魔法を放ってから前腕がヒリヒリするし、日焼けみたいに薄っすらと赤くなっているが、もしかしてこれは被ばくしているのか?)」


空気爆発などを警戒して、防壁代わりに『氷湖』の魔法で自分の前面の空気を盾のように固めて無色透明な障壁を作っておいたにも関わらず、この状態である。


今まではこんな事無かった筈だから、慣れてきて威力が上がったせいなのかもしれない。


次の時は念のため、前面だけでなく周囲にもう少し厚めの障壁を張っておく必要がある。


 あの魚や鳥みたいな顔をしたキメラの第2形態を間近で見物したいが、今はチームリーダーを追いかけて撤退するのが優先だ。


キメラどもとの逢瀬は心残りだが、生きていればまた戯れるチャンスはいくらでもあるだろう。


未だ大して時間の経っていない今のうちなら、ハンターたちに追いつくのは容易い。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。


ヘレナ……傭兵ギルドの教育担当。ヴィクトリアの従姉妹。ソードと同棲中。


ヴィクトリア……ハンターギルドの契約担当。ヘレナの従姉妹。



【魔法紹介】

『光球』……太陽の明るさだけを再現したもの。光だけで熱はなく、手元を離れると10秒程で霧散する。


『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。


『氷湖』……物体が湖の氷に閉じ込められている光景を再現したもの。対象を凍らせる訳ではなく、指定位置周辺の動きを止める。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『突撃』……カノン砲での砲撃の着弾を再現したもの。対象を吹き飛ばす。威力は個人の力量に比例し、火の玉を投擲後に対象との接触で無音発動するが、手元を離れると10秒程で霧散する。


『火炎』……火炎瓶の炎上を再現したもの。対象を燃やす訳ではなく、高熱で加熱する。威力は個人の力量に比例し、火の玉を投擲後に対象との接触で無音発動するが、手元を離れると10秒程で霧散する。


『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。


『投影』……蜃気楼を再現したものだが、秘伝と裏ワザにより実質的には荷電粒子砲。距離や威力は個人の力量に比例するが、数ヤードほどしか直進しない。発動までにタイムラグがある。



『電撃』……静電気の放電を再現したものだが、秘伝により実質的には雷撃。距離や威力は個人の力量に比例するが、距離に比例して照準精度が下がる。発動までにタイムラグがある。



『凍結』……豪雪地帯で雪解け時に出てくる凍死体を再現したもの。対象を凍らせる。威力は個人の力量に比例し、接触している対象に発動する。

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