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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第2章
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第26話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第26話




 転移後、俺たち3人はハンターギルドへ駆け込んだ。


自宅ではなく、ギルドへ直接転移すれば良かったんだが、逃げ出す時にはそんな事を考えている余裕はなかったので今となっては仕方がない。


ワーウルフ第4形態がもう1匹存在するという情報は、ハンターギルドからジルヴェスター辺境伯へも報告され、諸行軍と駐留軍も動員される事になった。


 アドルファ王国では一応法令にて、諸行軍は軽武装で治安維持を分担し、駐留軍は重武装で都市防衛を分担する事になっている。


しかし、雇い主こそ違えど諸行軍の兵士も駐留軍の兵士も家族共々この街に住んでいるので、街の為なら一致団結して行動する。


研究所の件で隊長格を大量に失い、再編成に忙しい最中なのだが、駐留軍は素速く偵察と監視のために結構な数の兵士を送り出した。


諸行軍も連絡係として兵士を同行させた。


ワーウルフ第4形態を放っておくという選択肢はない。


殺らなければ、此の街がいずれ必ず襲われるからだ。


 もう1つ問題になっているのが、ワイバーンの死体の存在である。


大量の血の匂いに誘われて浅い領域にまで来ることはあるが、ワイバーンは基本的に深淵の森を10マイル以上入った所よりも奥の領域に生息している。


少なくともワイバーンの死体を見つけた、あの木々が疎らにしか残っていなかった場所には、その他の死体などなかった。


また、ワイバーンの存在を認識出来ない筈の小動物が周囲から消えていたが、恐らく巧妙な擬態能力を持つワーウルフ第4形態が小動物に感知されるとも思えないので、その他にランク5以上の危険生物が相当数いるせいで、小動物が逃げ出した可能性が高い。


当然俺達も事情聴取されたが、駐留軍と諸行軍が自分たちの目で情報の真偽を確認するまで、ハンターギルドは基本的に待機となっている。



 ヘレナから習った基本20種の魔法は実際に使えるようになるまで面倒を見てもらえたが、商業系ギルドで購入した『秘伝』の講義は10回連続で発動出来た段階で終了となった。


そのため、今のところ臨機応変に使うことなど出来ず、予め予想しておいた状況以外の場面では手間取ることになる。


ワーウルフ第4形態から逃げ出す際に、ギルドではなく、自宅へ転移してしまったのもそのせいである。


そもそも今回の調査は、商業系ギルドで購入した『秘伝』の魔法の習熟訓練を行うためと、ヘレナたちのリハビリのために請け負ったものだった。


この『秘伝』の魔法の扱いで一番手間取っているのは威力の調整で、俺に教えた教師たちはレベル17〜32だったので手本を見せてもらった時には大した威力ではなかったが、レベル90の俺が出力を最低限に抑えて放っても彼らの3倍以上の威力になってしまう。


非戦闘系の魔法のはずだが俺との相性が良いせいか、最大出力だとヘレナから習った戦闘系の魔法など比べ物にならないくらいに威力が高い。


強力な攻撃手段が手に入ったのは良いのだが、教師たちによると習熟したとしても遠距離での照準精度はかなり低いらしいので、今のままではヘレナたちの傍で気軽に使えない。


当分の間は待機状態なので俺は今、ハンターギルドの訓練場でヘレナに監督して貰いながら習熟訓練をしている。



『電撃』……静電気の放電を再現したもの。

 元々は落雷の再現を目指していたものらしいが、後述の『溶接』や『投影』の魔法を覚えるには必須だと言われて購入しただけだった。

 範囲の制御が『秘伝』。大雑把にいうと『電撃』の魔法で電流を流して発生させた磁場で覆った空間に『電撃』の魔法を放つことで、周囲に居る鎧を着た仲間に当てること無く、対象にだけ『電撃』の魔法を集中砲火することが出来る。

 射程距離や威力は個人の力量に比例するが、距離に比例して照準精度が下がる。どれくらいの電流と電圧なのかは分からないが、最大出力だと直径1フィート程の樹木が1撃で燃え出したので、威力的には落雷といっても通じる気がする。


『溶接』……ガス溶接を再現したもの。熱で溶かしている訳ではなく、光で溶かしている。

 説明文を読んだ時には、太陽光を収束するビームかと思っていた。

 魔法の複合が『秘伝』。大雑把にいうと『氷湖』の魔法でガスを封じ込め、そこに『電撃』の魔法で放電することで発光させ、気体レーザーを放って対象を溶かす。

 射程距離や威力は個人の力量に比例するが、数ヤードも離れると威力が急激に減衰する。どれくらいの焦点温度なのかは分からないが、1インチほど離れた位置からの最大出力だと3フィート四方の城壁補修用石材を貫通したので、レーザー光線銃といっても構わない気がする。


『投影』……蜃気楼を再現したもの。任意の映像を空間に投影出来る。

 これも、魔法の複合が『秘伝』。大雑把にいうと『炭化』の魔法で電子を空間に放出させ、『電撃』の魔法で加速し、『氷湖』の魔法で固定した空間に照射して映像投影する。数ヤード離れるだけで映像が歪んでしまう。

 以前何処かで、荷電粒子砲はブラウン管式テレビジョンと同じ原理だと聞いたことがあったので、『氷湖』の魔法を省いて3フィートほど離れた位置から照射してみたら3フィート四方の城壁補修用石材が蒸発した。射程距離や威力は個人の力量に比例するが、数ヤードほどしか直進しない。



『爆破』……建物解体用の時限爆弾を再現したもの。

 指向性が『秘伝』。モンロー効果により穿孔を穿つ事や爆切を可能にする。

 威力は個人の力量に比例し、任意の方向や時間で発動出来るが、手元を離れると10秒程で霧散する。最大出力だと3フィート四方の城壁補修用石材を切断出来た。



 商業系ギルドで追加で購入した『秘伝』は、使い方次第でワーウルフ第4形態とも渡り合えると考えているが、『爆破』の魔法以外は発動までタイムラグがあるせいで、接近戦以外の有効な攻撃パターンが見いだせない。


3度もケツをまくって逃げ出してしまったので、今度こそアイツとのダンスを満喫したいところだ。


煮詰まってきたので、ヘレナと一緒にギルドの酒保で談笑しながら、ハンターたちの打ち合わせを何となく見ていた。


 この世界は、燃焼機関みたいな物や電化製品などが存在しないせいで、日本や欧米よりも後進国に見える。


しかし、図書館に納められている書籍の内容からすると数学や科学などの文化水準は日本と大差ない。


実際に、街中にいる平均的な成人の識字率や計算能力は、日本の一般的な高校生なみに高い。


更に、言語もこの大陸の公用語だけでなく、他の6つの大陸の公用語を使える者が多いし、ギルド職員に至っては少数民族の言語まで幾つか理解している。


そして、ハンターたちには下士官教育を受けた者達と遜色ないほど、論理的な思考や抽象的な思考を行う事が出来る者が実に多い。



 昨日までの3日間、駐留軍と諸侯軍から発見の報告はなかった。


ワーウルフ第4形態やワイバーンどころか、数インチほどの大きさの生物すら一切見かけないそうだ。


ギルドでは、20名のランク5ハンターそれぞれに、ランク4ハンター5名ほどを率いさせて、調査を行う作戦が検討されていたらしく、辺境伯からの要請もあって本日から実行される事になった。


俺たちランク5ハンターは、昨日の段階で既にギルド職員から第二次調査作戦についての詳細を聞いている。


 約90名ほどのランク4ハンターたちには今朝、ギルド職員から本作戦の概要だけが説明された。


東門から北門までの外周道路に等間隔で並んだ後、一斉に20組が深淵の森の中へ15マイルほど奥まで進む。


何も発見出来なければ帰還して終了。


要するに、下手な鉄砲も数撃てば当たるハズ、と言うことだ。


もしも途中で、ワーウルフ第4形態やワイバーン等を発見したら一旦外周道路まで撤退し、第4郭付近で待機している駐留軍と諸侯軍を率いて討伐に赴く。


そして、ワーウルフ第4形態については、ジルヴェスター辺境伯の研究所で試作されていた下等竜対策用の兵器を使って抹殺する。


 それにしても楽しそうな顔をしているハンターの何と多い事か!


俺が地球にいた頃に所属していた部隊のヤツラが出撃前に見せるのと、全く同じ表情をしてやがる。


しかし、こいつらは無謀としか思えない行動をする奴は多いが、無茶はしても決して無理はしない。


生死の境界線上でスリルを長く楽しみたいのであって、死にたい訳ではないからだ。


そして、久しぶりに深淵の森の奥まで進める事が楽しみで、俺もこいつらと同じ様にニヤついていた。


ヘレナの表情はなんか炭酸の抜けたソーダ水みたいになっているが、まあ、いつものことか。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。


ヘレナ……傭兵ギルドの教育担当。ヴィクトリアの従姉妹。ソードと同棲中。


ヴィクトリア……ハンターギルドの契約担当。ヘレナの従姉妹。



【魔法紹介】

『炭化』……サラマンダーの炭化攻撃を再現したもの。対象の内部を高温で加熱し、炭化する。威力は個人の力量に比例し、接触している対象に発動する。


『氷湖』……物体が湖の氷に閉じ込められている光景を再現したもの。対象を凍らせる訳ではなく、指定位置周辺の動きを止める。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。

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