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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第2章
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第25話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第25話




 夜が明けて未だ30分も経っていないのに、既にハンターギルドの解体場では、夜間に北西の森林で狩猟をしていたハンター達が、仕留めてきた獲物をぶち撒けていた。


そんな所狭しと皆が忙しなく動きまわる中を俺たち3人は、解体場の一番奥を目指して通り過ぎていく。


 いつもなら、手前にある1ブロック約18フィート四方の作業スペースに直行し、平均35匹前後の獲物を凍らせずに平積みにするだけだ。


しかし、今回は昨日の夜に予約しておいた、一番奥にある広めのスペースが並んでいる場所で、『収納』の魔法で格納しておいた獲物を取り出していく。


1ブロック約70フィート四方の作業スペースに獲物を隙間無く並べてから『凍結』の魔法で凍らせ、その上にも同じ様にどんどん積み重ねていく。


ウサギほどの大きさのネズミが1段辺り約8千匹、平均10段重ねが3ブロックにもなった。


これは普段なら1週間で持ち込まれる量のネズミである。


この他にもう1ブロック、その他の小動物が山積みになっているスペースがある。


 積み終わってから数分間が経過した頃、解体担当の爺さんに連れられてやって来たハンター見習いの少年たちが、「これを今から全部解体しなけりゃならんのか?」と言いたげな途方に暮れた顔で、山積みの獲物を見詰めていた。


爺さんはいつも通り、俺たちの獲物の種類と数と状態を書類に記入した後、ヘレナにギルドカードの提示と署名を促し、署名が済むと書類をヘレナに渡した。


ヘレナが、爺さんから受け取った書類を受付にいる買取担当者へ渡したら、今回は即応ではなく処理待ちとなった。


以前の様に、フリーズしてしまった少年たちを爺さんが拳骨を落として再起動させるのかと思っていたら、爺さんまで途方に暮れた顔をしてフリーズしてしまっていた。


「3等分。」


俺がそんな光景を眺めて笑っている内に、買取担当者から代金と明細書を受け取って署名を済ませたみたいで、ヘレナはそう言って、硬貨の入った麻袋を俺へ差し出した。


 明細を見せて貰うと、ネズミが1匹当たり銅貨6枚、約6ドルとなっているが、その他は食用にならない小動物がかなり多かったみたいで、逆に廃棄手数料を結構取られたみたいである。


それでも、買取り額から税金約2割と手数料約1割を差っ引かれた残りの手取りは、1人当たり大金貨50枚、約50万ドルとなった。


「これだけの量をまとめて買い取ったのですから、ギルドも当分の間はネズミの買取額を下げざるをえません。

私の予想では、本日の調査でも同じような数のネズミを狩って来る事になると思いますので、良くて4分の1、恐らくは5分の1以下の単価で買い取られる事になります。」


ヴィクトリアは伊達メガネを押し上げながら、そんな事を告げた。


「そりゃぁ、ご機嫌だ。」


俺の口からは、そんな皮肉くらいしか出てこなかった。


俺の目的は未知と遭遇する事だし、ヘレナの目的は自分よりもレベルが高い生物を殺してレベルアップする事だ。


それなのに、珍しい生物など一切見かけない上に、ウサギほどの大きさのネズミの群れを狩るだけの仕事だから、俺もヘレナも既にテンションが低くなっている。


そこへ更にヤル気が失せる様なことを言わないで欲しいモノだ。



 今日は東門から出て深淵の森に入り、反時計回りに最大6マイルほど奥まで進みながら、北門から戻る予定になっている。


流石のヴィクトリアも今日は口数が少なく、深淵の森に着くまでにウンチクの披露がなかった。


昨日と打って変わって深淵の森の中では、1フィートくらいの大きさの小動物はネズミすら一切見かけず、数インチ程度の大きさの昆虫類くらいしか姿を表さない。


明らかに異常である。


 昼食後、行動を再開して10分間くらい歩いたところで、倒木が点在している場所に出た。


樹木が倒れる事や倒木を見かける事自体は珍しくないが、その倒木は全て最近薙ぎ倒されたかの様な断面をしているのに、周囲にはそんな根っ子部分が全く見当たらない。


ふと頭上を見上げるとそこら中の樹木の上に、倒木と同じ様な木が複数引っ掛かっているのが見えた。


ハンドサインでヴィクトリアにその存在を教えると、目を見開いて驚いていたので、やはり珍しい光景だったのだろう。


暫くの間、倒木の断面などを調査した後、数十ヤードほど進むと木々が疎らにしか残っていない場所に出た。


この空間は見渡す限り、断面が倒されたばかりに見える倒木の根っこだらけである。


恐らく先程の倒木はここから吹き飛ばされた物ではないかと思われる。


 問題は吹き飛ばした方法である。


商業系ギルドで売り出されていた『秘伝』の中には、竜巻やダウンバーストを再現する魔法が存在していたので、魔法でもこの状態にする事は可能である。


そういった魔法を使ったのだとするなら何と戦ったのかが、今度は問題になってくる。


しかし、先程調べた倒木には枝葉が沢山残っていたし、葉っぱも萎れてはいなかった。


そうするとアレらの倒木は、一撃で吹き飛ばされたか、叩き折った後に投げ飛ばされた可能性が高い。


 嫌な予感がしてきた。


俺とヘレナが簡易転移門を使い捨てにして逃げるしかなかった、あのワーウルフ第3形態のもう1体は、ヘレナに頭部をミンチにされかけて変異を始めていた筈だ。


そして、地下隔離施設に生き埋めにするしかなかったワーウルフ第4形態は、体当たり攻撃を多用していた。


 倒木の根っこを調べて回っていたヴィクトリアが、何かを発見したとハンドサインを送って来た。


近づいて調べてみると、ワイバーンらしき生物の死体だが、針毛と思われる大量の棘が全身に突き刺さっていて、頭部は無く、腹部は食い散らかされている。


あの硬い頭蓋骨を食うとは思えないし、周囲には糸クズみたいな肉片が大量に散らばっている。


ワーウルフ第四形態も、針毛をフレシェット弾みたいに射出していたし、イソギンチャクみたいな無数の突起を超音波振動メスみたいに動かすか振動波を放射するかして、柱を粉塵に変えていた。


 周囲を調べていたヘレナたちをハンドサインで呼び寄せた直後、先程までヴィクトリアが居た場所の十数ヤードほど奥から、尻尾のないオオトカゲのようなシルエットが倒木の根っこの影から音も無く立ち上がった。


全長約17フィート、ハリネズミみたいに針毛に覆われており、後ろ脚がカエルの様に発達していて、4本の大きな脚とは別に小さな腕が2本あり、アノマロカリスみたいな形をした口の周りには顔中にイソギンチャクみたいな触手が無数に生えている。


俺は即座に、防壁代わりに『氷湖』の魔法で自分たちの周囲の空気を紡錘形のドーム状に固めて無色透明な障壁を作った後、コイツのステータスを読み取った。


やはり、ワーウルフ第4形態である。


俺たちとの相対距離は、凡そ30ヤード。


しかし、裸眼では見えているのに、温度分布を映像として視る事が出来る『探査』の魔法では全く感知出来ない。


俺よりも『探査』の魔法に長けている筈のヘレナやヴィクトリアが狼狽している様子からすると俺と同様に感知出来ていないのであろう。


 地下隔離施設に居たワーウルフ第4形態は感知出来ていた。アイツがこの能力を使っていなかっただけかもしれないが。


ワイバーンの場合は、見えているのに認識阻害の毒のせいで見えている事を認識出来ないだけである。


ワータイガーの場合は、俺と同じ様に太い樹木などを巧みに利用して悟られないように移動し、気配を隠していただけだ。


しかし、コイツの場合は体表の温度分布が、虫の居る樹木と全く一緒なので擬態である可能性が高い。


ある意味で『探査』の魔法を無効化しているとも言える。


俺は、ワーウルフ第4形態がダッシュの為に身を屈めた瞬間に、ヘレナたちを抱き寄せて『転移』の魔法を発動し、自宅へと逃げ帰った。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。


ヘレナ……傭兵ギルドの教育担当。ヴィクトリアの従姉妹。ソードと同棲中。


ヴィクトリア……ハンターギルドの契約担当。ヘレナの従姉妹。



【魔法紹介】

『凍結』……豪雪地帯で雪解け時に出てくる凍死体を再現したもの。対象を凍らせる。威力は個人の力量に比例し、接触している対象に発動する。


『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。


『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。


『氷湖』……物体が湖の氷に閉じ込められている光景を再現したもの。対象を凍らせる訳ではなく、指定位置周辺の動きを止める。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。

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