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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第2章
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第23話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第23話




 研究所周辺が地盤沈下してから6日間が経つが、ヘレナとヴィクトリアは未だギルドに併設されている医療施設に入院している。


とは言っても、ワーウルフの針毛で開けられた太腿から脹ら脛にかけての穴は疾うの昔に塞がっているし、針毛のせいで骨折した箇所も同様に繋がっているので、怪我がある訳でも寝込んでいる訳でもない。


2人は痛み止めがあまり効かない体質のせいで、「苦痛に喘いでいるだけで仕事にならない」との理由からギルドマスターに放り込まれただけだ。


 この世界の治癒魔法は、負傷箇所を高速再生している訳ではなく、治癒魔法使いが修復しているだけなので、身体の構造を知らない箇所には作用しない。


死刑囚を解剖しては魔法で治癒するという事を繰り返しながら体得しているので、軍医みたいに深い傷を治せるほどの腕を持った治癒魔法使いなら、太い神経の痛みを抑える事くらいは出来る。


しかし、殆どの治癒魔法使いは、神経については自然治癒任せなので、痛みだけが残ることになる。


俺からすると、治癒魔法と地球の手術は大差ない様な気がする。


 そしてこの医療施設には、そんな痛みに悶絶するハンターたちの身体を強制的に動かして痛みに慣れさせる事を目的としている、リハビリコーナーみたいな場所がある。


俺も郷にいた頃、大腿骨を槍で貫かれた事があるので、あの何とも言えない疼痛の事は分かるし、2人ともそんな穴が10個以上ある上に、骨に損傷を負ったのは今回が初めてらしいので、余計に悶えているのだと思う。



 ヘレナとヴィクトリアが入院した初日は、2人が喚きながら組手を行う姿を見て、俺もヴェネッサと一緒に大笑いしていたのだが、笑われるのに腹を立てたヴィクトリアに、「そんなに暇なら『秘伝』でも買ってみては如何ですか?」と凄まれたので、そのアドバイスに従って俺はこの5日間ほど商業系ギルドで魔法を習っている。


俺の知っている範囲内だがこの世界の人間の魔法は、何かを真似て再現したモノだけで、抽象的な事は行えない。


その代わり、豪雪地帯で雪解け時に出てくる凍死体を再現したという魔法ですら、生きた人間の頭部を10秒ほどで凍結出来るほど強力である。


 そして日本刀と同じ様に、姿形は分かっているのに再現させられない、そんな魔法は『秘伝』となっている。


しかし、本来血族のみにしか継承しない筈の『秘伝』だが、何らかの理由で売られている場合がある。


それを買いに来た訳だが、数件くらいしかないと思っていたら、この街の商業系ギルドだけでも100件近い数の『秘伝』が売りに出されていた。


 ヘレナから習った基本20種の魔法は全部で大金貨5枚、約5万ドルだったが、『秘伝』は最低でも1件が大金貨30枚、約30万ドルもする。


しかも、貼りだされている説明文が抽象的過ぎて、何で秘伝扱いされているのかが分からないものばかりだった。


説明文から探していても埒が明かないので、商業系ギルドの窓口でお勧めの『秘伝』を尋ねることにした。


応接室に通されて契約担当から勧められたのは、商業系ギルドの幹部だった人間が売りだしたばかりの2つの『秘伝』だった。



『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。

容量は『収納』の魔法と同程度だが、床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能なので、本物の倉庫と同じ様に内部に棚などを持ち込まないと床に山積みする事になる。


『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。



 相変わらず何処が『秘伝』なのか良く分からない説明だったものの、役立ちそうな魔法だったので買うことにしたのだが、2つ合わせて大金貨500枚、約500万ドルになった。


教わり始めてから漸く分かったが、これらは魔法部分ではなくて、空間把握技能が『秘伝』であった。


一般相対性理論や量子力学などの理論は知らなくて良いが、何処から何処までの空間を支配しているのかを確り認識しないと荷物が消失するし、何処の空間を折り曲げているのかを把握していないと何処へ出るか分からない。


恐らく、『収納』の魔法で生きているモノを格納した際に消失する事があるのも、作成者が支配していない空間へ生きているモノが勝手に移動する事が原因かもしれない。


支払った金額は修得するか諦めるまでの値段なので、ヘレナの時と同じ様に毎日12時間の集中訓練を依頼した。



 ヘレナとヴィクトリアが入院してから1週間後、漸く痛みが我慢できる程度に治まったらしく、2人は明朝退院する事になった。


この5日間ほどは、俺も新たな魔法の修得に忙しくて顔を出してなかったので、今晩は付き添って泊まることにした。


彼女たちが入院しているのは、12個のベッドがある大部屋だが、ここ数日間は深淵の森で大怪我するものが全くいないらしく、現在は彼女たちしかいない。


多少込み入った話しをしても大丈夫という事である。


俺はヴィクトリアにずっと抱いていた疑問を直球で尋ねた。


「ヴィクトリアとヴェネッサが戦闘中に鼻血を流す理由を聞いても良いか?」


「そうですね。

これだけ何度も見られていますので、ソードになら教えても構いません。

勿論、『秘伝』部分についてはお話し出来ませんが、長所と短所くらいなら知っておいて貰った方が良いでしょう。

ソードは外国人との事ですが、私たちの『秘伝』という概念については理解されていますか?」


「俺の国には、折れず曲がらず良く斬れる日本刀という独自の武器が在るんだが、他の国が日本刀自体を手に入れても複製する事は不可能に近い。


日本刀固有の鍛冶製法は公開されているんだが、これだけでも複数の工程があるので、鉄を流し込んだだけの鋳造品や鉄をぶっ叩いただけの鍛造品で刀剣を作っている国には複製するのが難しいのに、更に工程の至る所に秘伝が隠されている。


金に糸目を付けずに希少な金属を使って、折れず曲がらず良く斬れるといった性能を再現し、日本刀の外見に成型したモノが稀に存在していたが、殆どが外見を真似ただけで折れるし曲がるし斬れないといった粗悪な鋳造品の日本刀ばかりで、近隣の国ではこれが土産物屋で売られているほど出回っていた。


ヴィクトリアのいう『秘伝』とは、そういった製法みたいなモノの人間版ではないかと俺は認識している。」


「多少違う気もしますが、概ね相違ありません。

その『秘伝』部分を省いて話しますと、私と母のファミリーは幼い頃から瞬発力のみの増強を行う事で身体能力の強化、つまりレベルアップをしてきましたので、高速移動を得意としています。


そして、戦闘時には自己催眠術みたいなモノで、身体能力や意識の更なる強化を行います。

しかし、反動で持久力が大幅に落ちるので、数時間も連続使用すると鼻血を流して昏倒してしまうという訳です。」


ヴィクトリアたちは忘我状態にはならないが、危急の際には鬼神の如く戦い、その後、虚脱状態になる部分などは、北欧神話のベルセルクに似ている気がする。


「ヴィクトリアが若くして天才と呼ばれるのは、縮地法みたいに相手の死角に入り込む体捌きに加えて、意図的に火事場の馬鹿力を発揮出来るから、と言う訳か。」


「それも多少違う気がしますが、強ち間違ってはいません。」


「ヘレナも同じか?」


「違う。防御。」


「防御?」


「ヘレナの父ヴィンセントから聞いた事がありますが、ヘレナのファミリーは防御技術が優れていて、人間からの攻撃なら刀剣での斬撃や斧槍での刺突を生身で受け止める事が出来るそうです。」


俺の修得した武術には、避けるとか払うとか巻き込むと云った技はあったが、受ける技なんてなかったから良く分からないが、大陸の硬気功みたいなモノか?


こういった技を実戦で使うには、優れた動体視力と身体操作能力が必要とされる筈だから、幼い脳には過負荷となってヘレナは表情や口数を減らしたのかもしれない。


「なるほどな。ヴィクトリア、ありがとう。」


「ソードの戦闘技術についても教えて貰えますか?」


「ああ、勿論だ。少し長くなるが聞いてくれ。

 俺の生まれ育った郷は、400年ほど昔に領主から『お止め流』とされた武術の、指南役一族と高弟一族が隠れ住んでいた村で、今も尚、子孫たちは頑なにその武術を代々継承している。


『お止め流』というのは、他流の者に稽古を見せる事も他流の者と仕合する事も領主より禁じられた武術の流派のことだ。

俺の修めた流派は、約400年前の大将軍の監察官に危険視されて、刺客を送り込まれたが全て返り討ちにしてしまった為に、表に出れなくなったらしい。


 俺の国では現在、古流武術は血族でしか継承されていない場合が殆どなのだが、これは苦心の末に編み出された技術が、骨格や適正が異なる者に伝えたせいで、使い難いとか使えないなどと勝手に切り捨てられて失伝してしまう事を恐れているためだ。

しかし、俺の修めた流派は、骨格や適正が異なるにも関わらず口伝まで修めた十傑と呼ばれる10人の高弟が存在した時代から受け継がれているので、如何なる骨格や適正をしていても修得可能な伝授法も確立している。

だからこそ、伝授法が口伝とされて秘匿されている訳なのだが、この辺りはヴィクトリアたちの秘伝が血族だけで受け継がれているのと同じだと思う。


 戦闘技術は、全部で4系統、12種類ある。

太刀術、小太刀術、抜刀術。槍術、薙刀術、薙鎌術。柔術、甲冑組討術、暗器術。弓射術、鉄砲術、砲術。

大まかな技はハンターや傭兵が使っているのと同じ様なモノだが、人間を効率的に殺す事だけに特化している点が異なる。


 ヴィクトリアも適正と嗜好が一致する可能性が低い事は知っていると思うが、俺が好きなのは抜刀術なのに、師匠から実力を認められたのは小太刀術と槍術の方だった。

俺が修めたのはそんな武術だが、実はヘレナたちと出会う前に、実戦で使った事が有るのは小太刀術、槍術、鉄砲術、砲術だけだし、動物相手だと鉄砲術しか使った事がなかった。

こんな感じで良いかな?」


「では、ソードもその口伝を知っているのですか?」


「いや、口伝の目録は知っているけど、内容を知る事を俺は未だ許されていない。

口伝は11人の最高師範だけが修得している。」


「分かりました。ところで、新しい魔法の修得はどうなっていますか?」


「半分くらい進んだと教師は話していた。」


「そうですか。

ヘレナも明日から教師の仕事が入っているみたいですし、私も溜まっていた仕事を片付ける必要がありますので、暫くは3人ともハンターはお休みとなりますね。」


「仕方ない。」


「そうだな。」


結局、その後も雑談しながら夜を明かした。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。


ヘレナ……傭兵ギルドの教育担当。ヴィクトリアの従姉妹。ソードと同棲中。


ヴィクトリア……ハンターギルドの契約担当。ヘレナの従姉妹。


ヴェネッサ……ヴィクトリアの母親。ヘレナの叔母。



【魔法紹介】

『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。

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