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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第2章
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第22話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第22話




 辺境伯の圧壊命令の直後は混乱したが、暫くしてから対策本部にて、討伐隊第3陣に対する事前説明があった。


第2陣の生き残り8名に加えて、諸行軍と駐留軍から各4名、さらに傭兵ギルドカメリアから8名を補充して、第3陣を編成する。


ワーウルフ第4形態を牽制しつつ、地下隔離施設内の四隅に保管されている時限爆弾を回収して起爆時刻を明日の0600時に設定後、時限爆弾を所定の位置に設置して回り、設置完了後に撤退する。


時限装置はゼンマイ式である事から僅かながら作動音がするので、所定の位置にしっかりと押し込まないとワーウルフ第4形態によって破壊される可能性がある。


地下隔離施設の柱は対衝撃性に非常に優れているので、爆弾を設置しない柱については、余裕があれば切断する。などの事が告げられた。



 圧壊しろ、と辺境伯が簡単に命令したから、俺は地下隔離施設内に爆破装置などが既に設置されていると思い込んでいた。


実際、遺跡を地下隔離施設として利用し始めた時から自爆装置は設置してあるらしいが、経年劣化した爆薬を入れ替えるために丁度撤去させたばかりだったらしい。


それを知らなかったか忘れていた辺境伯は、全員の前で格好付けて命令を下してしまい、恥を晒したみたいだ。


今回、爆弾を設置する所定の位置というのも、元々自爆装置の在った場所である。


 カメリアが参戦して何の役に立つのか、との疑問の声が全員から上がっていたが、カメリアは爆薬の回収、設定、設置のみを請け負い、対ワーウルフ戦には一切参加しないと説明されると全員が納得していた。


反対した理由と納得した理由が俺には分からなかったので、会議後にヴィクトリアに尋ねてみた。


「なあ、ヴィクトリア。カメリアってどんな組織なんだ?」


「あのカメリアは、賞金クビ稼ぎが専門の傭兵ギルドですが、特殊な魔法を用いた戦い方に特化している事で有名です。

 1つ目が『隠形』の魔法で、ワイバーンの迷彩を再現したものです。ワイバーンの迷彩ほどの性能はありませんが、それでも数秒ほど直視しなければ認識出来ないそうです。


 2つ目が『滑走』の魔法で、氷の表面を滑る光景を再現したものです。実際に摩擦を無くしている訳ではありませんが、音も無く高速で疾走して擦れ違いざまに攻撃出来るそうです。


人間相手なら顎への一撃で昏倒させられますが、踏ん張る事が出来ないために攻撃力が軽いので、大型の獣との戦いでは撥じき飛ばされてしまい、役に立ちません。」


「なるほどな。ありがとう。」


それにしてもゼンマイ式の時限爆弾って何だ?


あぁ、時限装置がアナログのキッチンタイマーみたいな物なのかもしれない。





作戦開始は1100時なので、1030時まで待機となっている。


ヘレナからハンターは使わないが傭兵が使う魔法の存在を教えて貰った。


「カメリアが使うかもしれないから、ハンターが使わない魔法を教えておく。

『轟音』の魔法は、カノン砲での砲撃の発射音を再現したもの。『突撃』の魔法の着弾が、発射音に替わっただけ。

傭兵はこれと『光球』の魔法を同時に使用するのを好む。」


「ありがとう。ヘレナ。」


要するに傭兵は、閃光弾と音響手榴弾を好んで使うということか。


今回の作戦でカメリアに使われる程度なら何とかなる。



 ワーウルフ第4形態との再戦だが、コイツは昨日まで使わなかった攻撃を色々としてきた。


1つ目は、ハリネズミの様に身体を覆っている全長約1フィートもある針毛を射出するのだが、矢の様にというよりも、まるでフレシェット弾の様に飛んでくる。


ワーウルフの突撃は柱で止められるが、この針毛攻撃は柱を貫通した後に鎧も貫通するほどの威力がある。


但し、正面にだけは飛ばせないらしい。


 2つ目は、顔に生えているイソギンチャクみたいな無数の突起部分から超音波を放った。


螺旋階段へ続く廊下に駆け込んで正面からコイツを見ていた駐留軍の兵士が、目耳鼻口から血を流して倒れた。


その直前、俺達は強烈な耳鳴りに襲われた。


カメリアの連中も『隠形』の魔法が解けたみたいで、膝をついている姿が見えた。


 3つ目は、突撃を柱に止められた直後にワーウルフが顔に生えている突起部分を柱に近づけると、まるで積雪に熱湯を引っ掛けたみたいに、柱が粉塵となって消えた。


振動波を放射して粉砕しているのか、超音波振動メスみたいに切り裂いているのかは分からないが、カトゥーンの強殖装甲ガイバ○に出来てきた獣化兵みたいな攻撃である。


そういえばコイツは元々、生体兵器として作り出された生物が変異を繰り返した化け物だから、生体兵器という部分では似たようなものかも知れない。


 そして4つ目は、これは見れば分かると思うんだが、駐留軍の兵士が正面以外への針毛攻撃と正面への超音波を避けるためにワーウルフの腹の下に潜り込んで攻撃しようとしたところを、腹部に生えている小さな2本の腕のナイフのような爪に切り刻まれた。


俺達ではないが別のハンターがその光景を見て「アイツは阿呆か!」と呟いていた。



 戦闘開始から数時間を超えた頃、鼻血を出してフラツキ始めたヴィクトリアを庇ったヘレナを貫通して、ヴィクトリアまで針毛に穴だらけにされたので、俺は即座に『強化』の魔法を最大出力にして、螺旋階段の最下部で待機している医療部隊の元へ二人を担ぎ込んだ。


不幸中の幸いだが、穴だらけにされたのは二人とも太腿から脹ら脛にかけての脚部だけだった。


とはいえ、大腿骨などの骨にも針毛が相当数突き刺さったり、貫通したせいで骨折しているので、ここにいる衛生兵程度の腕前しか無い治癒魔法使いでは、戦線に復帰させることは不可能である。


応急処置を終えたヘレナとヴィクトリアは、4人の医療部隊員に担がれて地上の対策本部へ戻ることになったのだが、そこへヴェネッサが鼻血を流しながら自力で歩いてきたので、3名が戦線を離脱することになった。


気合を入れ直して俺が隔離施設内へ戻ると、生き残っていたのはマティアスとオリンピオ、ハンターが2名、カメリアが2名だけだった。


ヘレナが倒れるまでは19人が生き残っていたのに、俺が戦線に戻るまでの5分間程度で、9名が亡くなっていた。


後からマティアスに聞いた話によると、ワーウルフが超音波を放つ度に、カメリアの連中は『隠形』の魔法が解けるだけでなく、必ず膝をついて踞るので、ボーリングのピンの様に6人が次々と吹き飛ばされたそうだ。


それを見た兵士がワーウルフに背を向けて螺旋階段へ脱げだそうとしたが、カメリアの連中と同様の目にあったらしい。


 取り敢えず俺は戦線を離脱する前と同じく、防壁代わりに『氷湖』の魔法で自分の周囲の空気を紡錘形のドーム状に固めて無色透明な障壁を作っておく。


それにぶつかってワーウルフが動きを止めたら、『衝撃』の魔法をワーウルフの口の中に叩き込み、ワーウルフが再度突撃しようと身を屈めたら『氷湖』の魔法をその分だけ大きくしてジャンプを阻害する。


そして、自由に身動き出来ない事をワーウルフが嫌がって逃げたら追いかける、という作業を繰り返した。


 遠距離攻撃用魔法の『風の槍』や中距離攻撃用魔法の火の玉みたいに、存在が分かる攻撃をワーウルフは避けてしまうので、遠隔攻撃用魔法くらいしか攻撃を当てられない。


『泥沼』の魔法を使って足止めしたいが、俺の魔力では隔離施設の床材を融解する事が出来なかった。


それでこんな単調な行動になっているのだが、俺の攻撃が当たっても全く痛痒を与えておらず、ワーウルフにとっては「煩い羽虫が飛び交っている」くらいにしか感じていない様に見える。


「任務完了!」


カメリアの1人が大声で皆に爆弾の設置が完了した事を知らせてきた。


俺が殿となってワーウルフを引き付けている間に、生き残りが螺旋階段へと続く廊下に逃げ込んだ。


俺への撤退の合図としてオリンピオが『轟音』の魔法をワーウルフの周辺に放ったのを見て、俺も廊下へ逃げ込み、全員で脱出した。


結局第3陣は、24人中9人しか戻れなかった。



 何となく数日間戦っていた気がするが、俺達が地表に出たときは、未だ1600時前だった。


対策本部に報告をした後、併設されている医療用の天幕ヘ見舞いに行ったが、相当痛いみたいでヘレナもヴィクトリアも唸っていた。


この世界の治癒魔法は肉体を高速再生している訳ではなく、治癒魔法使いが知っている範囲で修復しただけなので、負傷箇所の内部構造にまで詳しくないと治療出来ない。


表層の傷口は簡単に塞げるし、単純骨折も直ぐに治るが、基本的に神経組織は自然治癒任せなので、複雑骨折の治療や切断面の接合などは見た目が元通りでも、痛みは結構な期間続く事になる。


ヘレナたちの枕元には芥子の実なども置かれているが、ヴェネッサによると2人は痛み止めがあまり効かない体質なので、余程の激痛にならない限りは使わないらしい。


対策本部が設置されているこの公園だが、地下隔離施設が崩落した際には陥没する予定の土地なので、作戦開始となった1100時から周辺住民の避難が行われていた。


この世界にはスタンピードという災害が頻繁に発生する事もあって、住民も避難には慣れており、既に周囲は静まり返っている。


最後に、対策本部の場所を移せば、避難は完了となる。


移設された医療用の天幕で、痛みのせいで眠れないヘレナに付き添って徹夜した。


日の出から数分が過ぎた頃、体感で震度4くらいの地震があり、同時に研究所周辺が地盤沈下した。


偵察隊により、地下隔離施設まで続く縦穴も崩落して埋まっている事が確認されたので、状況終了となった。


あの陥没地帯を何とかするのは土木系ギルドの仕事なので、手続きの終わった俺達はやっと自宅へ帰る事を許された。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。


ケイ……主人公の嫁。本名は、惣田恵子。


ヘレナ……傭兵ギルドの教育担当。ヴィクトリアの従姉妹。ソードと同棲中。


ヴィクトリア……ハンターギルドの契約担当。ヘレナの従姉妹。


マティアス……ハンターギルド、ジルヴェスター辺境伯領支部のマスター。ヴィクトリアの父方の祖父。


オリンピオ……傭兵ギルド、エスパダニャのマスター。ヘレナの母方の祖父。


ヴェネッサ……ヴィクトリアの母親。ヘレナの叔母。



【地名紹介】

ジルヴェスター辺境伯領……主人公が住む街。アドルファ王国の最南東。



【魔法紹介】

『突撃』……カノン砲での砲撃の着弾を再現したもの。対象を吹き飛ばす。威力は個人の力量に比例し、火の玉を投擲後に対象との接触で無音発動するが、手元を離れると10秒程で霧散する。


『強化』……亜人の頑丈さとパワーやスピードを再現したもの。実際に筋力や筋肉を強化している訳ではない。


『衝撃』……水中爆発を再現したもの。指定位置に衝撃波を発生させる。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『氷湖』……物体が湖の氷に閉じ込められている光景を再現したもの。対象を凍らせる訳ではなく、指定位置周辺の動きを止める。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『爆裂』……手榴弾の爆発を再現したもの。対象を爆破する。威力は個人の力量に比例し、火の玉を投擲後に対象との接触で無音発動するが、手元を離れると10秒程で霧散する。


『風の槍』……空気を固めて投げ槍の一種であるピルム・ムルスを再現したもの。軽いので威力が弱い。空気を圧縮したのに凍結しないし冷たくもない。質量は個人の力量に比例し、コンクリートくらいの強度を有するが、手元を離れると10秒程で霧散する。


『泥沼』……底なし沼を再現したもの。対象は地面や床に限らず、指定位置周辺を融解する。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。

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