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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第2章
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第20話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第20話



 俺達6人は旅の最後に、大厄災に見舞われる事になった。



 ジルヴェスター辺境伯領に存在する研究所は、第1郭内ではなく、第2郭内の東門近くに設立されている。


設立したと言っても地表の建物と地下に続く階段などを作っただけで、研究施設自体は地下数百フィートの場所に眠っていた墓地のような広大な遺跡を流用したものに過ぎない。


ここ百年以上に渡って碧翠大陸で最も優れた研究成果を上げているのは、ジルヴェスター辺境伯直轄の研究員たちであると言われていた。


切磋琢磨する事に熱心な辺境伯直轄の研究員たちに対して、足の引っ張り合いしかして来なかった王国直轄の研究員たちに出来る事は、ここでも他の研究員たちの足を引っ張る事だけであった。


 辺境伯直轄の研究員は、人間の半身に亜人の半身を移植する事にも成功したし、亜人の卵子に人間の精子を受精させる事にも成功した。


更に、生体兵器の完成型ともいえるキメラまで、2種類も作り出してしまった。


生体兵器の完成型を今後は『獣人』と呼称する事になり、ワーウルフとワータイガーはその第1期量産型の試作体として雄雌2匹ずつ計8匹も複製された。


これらの『獣人』は、知識や技術を脳にプリインストール出来るので、促成後すぐに軍事訓練を始められるし、人間に見えない事もないという程度ではあるが、人間形態へ変化する事も可能である。


終には、制御装置さえ完成すれば、実戦テストを開始出来る状態にまでなっていた。


 それに対して王国直轄の研究員は、転移門を使用して人間と亜人の融合を行ったものの、千体の亜人と千人の人間を材料にして生き残ったのは僅か9匹だけで、しかも全てが虚弱な生物だったために見世物小屋に売り飛ばしてしまった。


王都にいる上司から早急に成果を示すようにと再三に渡って脅されていた彼らは精神の均衡を失い、「辺境伯直轄の研究員がいなくなれば、全てが丸く収まる」との結論に辿り着いた。



 彼らは先ず、辺境伯直轄の研究員の生み出したキメラを暴走させたが、各ギルドからの出向研究員たちを皆殺しにしただけで、キメラは逃げ出してしまった。


この混乱が収まるのに数年を要したお陰で、上司からの督促が激減した事に味を占めた彼らは次に、キメラの変異体を何とかして入手し、これを暴走させようと目論んでいた。


そこへ丁度、俺達が確保してきたワーウルフの変異体の死体が競売に出されてしまった。


彼らはこれを何が何でも手に入れるために、査定価格の5倍の金額で競り落とし、即金で支払ってまで、即日に入手した。



 この世界では、知性や記憶の回復を無視すれば、脳ミソや心臓に損傷がない状態の死体なら蘇生は難しい事ではなくなっており手段も確立している、それこそ王国直轄の研究員たちにさえも気軽に出来るほどに。


但し、ワーウルフ第3形態は、脳ミソが冷凍と解凍を経ているので、本来なら蘇生は不可能だった。


だからこそ彼らは、ワーウルフ第3形態が暴走したとしても、自分達が買取った個体だと思われることはないと考え、過剰な栄養と様々な刺激を与え続けた。


そして、ワーウルフ第3形態は、王国直轄の研究員たちの希望通りに蘇生を果たす事になる。


しかし、実際に動き出したのはレベル258のワーウルフ第4形態で、レベル260の下等竜と大差ない厄災であった。


王国直轄の研究員は、レベル192のワーウルフ第3形態を蘇生させるつもりだったので、自分達を守るためにレベル200までの生物なら隔離できる試作品の結界発生装置を用意してはいたが、全くの無駄に終わった。


これはエネルギータンクに比べると出力が高過ぎて、フルチャージするのに結界の持続時間の数倍にも及ぶ時間を要するという欠陥品である。


ワーウルフ第4形態が研究所に居た人間を文字通り皆殺しにしたので、王国直轄の研究員たちは当初の希望通りに上司から二度と督促される事も、諂う必要もない状態になる事が出来た。



 研究所の地下隔離施設で何かが起こっている事がジルヴェスター辺境伯の耳に届いたのは、賄賂を届けに来ない研究員に憤った役人が研究所を訪れ、緊急事態を告げたまま戻ってこなかったからである。


ジルヴェスター辺境伯領には、約2千人の王国駐留軍とは別に、約5千人の辺境伯諸侯軍が存在する。


辺境伯は即座に諸侯軍の百人隊を送り込んだが、誰1人として戻ってこず、音信不通となっていた。


300人ほど送り込んだ所で、流石にこれ以上雑兵を逐次投入しても無駄だと判断した辺境伯は、ランク4以上の者だけで再度偵察部隊を編成して送り込んだ。


辛うじて生きて戻った2名の偵察部隊員によって、ワーウルフ第4形態が研究所の地下隔離施設で暴れている事が判明した。


辺境伯は散々悩んだ末、駐留軍とハンターギルドに支援を求めた。


辺境伯が国王に正式に報告したときには、既に駐留軍経由で王都にも噂が広まっていたし、ハンターギルド経由で周辺都市に厄災警報と支援要請が広がっていた。



 ハンターギルドの職員であるマティアスとヴィクトリア及び傭兵ギルドのオリンピオは、スタンピードの救援要請に応じた報酬としてギルドから1週間の有給休暇が与えられているし、俺やヘレナやヴェネッサはフリーランスなので、王都周辺の観光を楽んでからジルヴェスター辺境伯領に帰ることにしていた。


 ジルヴェスター辺境伯領での出来事など知るはずもない俺達は、偵察部隊が研究所での偵察を行っていたときには王都で観光や買い物を楽しんでいた。


支援要請があったときには、珍しい生物がいると評判の王都周辺の森林で、野営して狩猟を楽しんでいた。


深淵の森と比べれば大して危険ではないので、森林の中を時計回りにグルっと探索しており、動物園を見て回っているような感覚だった。


森林から王都に戻ったときに街中の騒然とした雰囲気で何か起きたと気づいて、王都のハンターギルドに駆け込んで事情を理解したときには、討伐隊の第1陣が研究所へ突入した後だった。


 ハンターギルドや傭兵ギルドは、例えギルドマスターや数名の職員が居なくなったとしても、機能不全になるような軟弱な組織ではないので、マティアスやオリンピオだけでなくヴィクトリアも休暇を楽しんだことを後悔などしていないが、自分達が住む街なので早く帰りたがっていた。


 今回はランク5の優先権を強引に行使して直ぐにジルヴェスター辺境伯領へ戻り、ハンターギルドで情報を更新してから、研究所の向かえ側の公園に設置された対策本部に赴いた。


取り敢えず、討伐隊の第2陣に加わる事になった。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。


ケイ……主人公の嫁。本名は、惣田恵子。


ヘレナ……傭兵ギルドの教育担当。ヴィクトリアの従姉妹。ソードと同棲中。


ヴィクトリア……ハンターギルドの契約担当。ヘレナの従姉妹。


マティアス……ハンターギルド、ジルヴェスター辺境伯領支部のマスター。ヴィクトリアの父方の祖父。


オリンピオ……傭兵ギルド、エスパダニャのマスター。ヘレナの母方の祖父。


ヴェネッサ……ヴィクトリアの母親。ヘレナの叔母。



【地名紹介】

ジルヴェスター辺境伯領……主人公が住む街。アドルファ王国の最南東。


ミクローシュ辺境伯領……アドルファ王国の最北東。


アドルファ王国……ジルヴェスター辺境伯領が所属する国。碧翠大陸の中央辺りに存在する。


碧翠大陸……アドルファ王国が存在している大陸。

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