第02話
■2015/08/15 誤字・脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。
第02話
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ほとんどのトカゲは毒を持っていないし、持っていたとしても人を即死に追いやるほどの強い毒ではない。
しかし、何かしらの病気を持っている可能性は高い。
そして俺は、相棒がアホな事をしたせいで、手榴弾の爆風によって小さな傷を幾つか負っている。
勿論傷口は、ヒップフラスコにいれて持ち歩いているブランデーでアルコール消毒してあるが、未だ塞がった訳ではない。
そこで、ドラゴンに対して行った戦力調査の結果を検証するために、簡易化学防護服を着る事にした。
これは、麻薬精製プラントを襲撃する際に、揮発した薬品類から身を守るために渡されていたモノで、サウナスーツみたいなペラペラの服だが、頭の天辺から爪先まで覆うことが出来る。
ジャングルの中でこれを着るのは辛いが仕方ない。
検証するのは、ドラゴンの後頭部、鼻の穴、眼孔、口内の4箇所である。
先ずは1箇所目だが、後頭部を目視する限り、鱗は一枚も割れていないし、銃創もない。
血のたれた跡のある鱗の上の鱗を持ち上げて根元を見てみると、銃創があった。
後頭部を撃った時に見えた血飛沫は、この銃創から飛んだものだと思われる。
後頭部の鱗を全て剥いだのだが、鳥の羽みたいに毟る事など出来ず、岩牡蠣を剥ぎ取るみたいに、銃剣を鱗の根元に突き刺して、1枚ずつ抉り取るしか無かった。
硬質プラスチックみたいな感触の鱗を剥いだ後に、銃創を数えてみると6個だけだった。
鱗を剥いだあとの円形部分の皮を剥ぐために、銃剣を突き刺したのだが、まるでトラックのタイヤにナイフを突き刺したみたいな感触である。
剥ぎ取った皮を触診しながら弾丸を探し、切開して取り出したのだが、やはり6個しかなかった。
皮を剥ぎ取ったあとの頭蓋骨には、銃創が無いどころか、傷ひとつ無い。
つまり、24発もの7.62×51mm NATO弾が、あの偏向シールドみたいなものと鱗に、弾き飛ばされた事になる。
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次に2箇所目だが、鼻の穴周辺を目視する限り、血痕もないし、銃創もない。
顔面部分には鱗がないので、もし銃創があるとしても、鼻の中だけだと思われる。
案の定、後頭部と同様に皮を剥ぎ取ったあとの頭蓋骨には、銃創が無いどころか、傷ひとつ無い。
頭蓋骨には全く歯が立たないので、口の中を切開して、鼻の部分をブロックごと切り出した後、細切れになるまで切り刻んだが、弾丸は1個も見つからなかった。
つまり、7.62×51mm NATO弾は、鱗ではなく、あの偏向シールドみたいなものに、全て弾き飛ばされた事になる。
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続いて3箇所目だが、眼孔周辺や目玉を目視する限り、血痕もないし、銃創もない。
分かっていたことだが、鼻っ面と同様に皮を剥ぎ取ったあとの頭蓋骨には、銃創が無いどころか、傷ひとつ無い。
目ん玉も鼻と同様に抉り出して、細切れになるまで切り刻んだが、弾丸は1個も見つからなかった。
やはり、7.62×51mm NATO弾は、鱗ではなく、あの偏向シールドみたいなものに、全て弾き飛ばされたと見て間違いない。
余談になるが、このドラゴンも鰐と同じように、透明な膜が眼球を覆っていたのだが、厚さが約1インチもあった。
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引き続き4箇所目だが、口の中には、先ほど切り出した鼻付近にしか傷がない。
喉から血が流れ出しているので、榴弾は口の中ではなく、食道か胃の中で爆発したと思われる。
あの偏向シールドみたいなものが、全身に張り巡らされているのかどうかは判らないが、榴弾か手榴弾を飲み込ませれば殺せる事は分かった。
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俺が過去に仕留めた野生動物には、手負いの個体が何頭かいたので、念のため最後に後頭部と顔面以外も調べる事にした。
ドラゴンの太腿や脚の甲にあった傷口を切り開いてみると皮膚がナイフで簡単に切開出来るくらいに柔らかい。
この状態だと未だ全快した訳ではない筈なのに、時速25マイル以上の速さで大きなイノシシを追いかけていた事になる。
翼の付け根にも中程まで斬り付けられた様な傷痕があるので、ドラゴンは飛べないから走ってイノシシを追い掛けていたのかも知れない。
頸部と胸部の境目に月の輪熊みたいな三日月形の白い斑紋が入っているとばかり思っていたが、これも傷跡だった。
このドラゴンは、首を切り裂かれても生き残る事が出来る程の強靭な生物である事が分かった。
そして、あの偏向シールドみたいなモノ、銃弾では傷も付かなかった鱗、トラックのタイヤみたいな皮膚、これらを切り裂いて怪我を負わせる事が出来る生物がいるという事になる。
このドラゴンに大怪我を負わせられるほどの生物では、榴弾や手榴弾を飲み込ませても殺せない可能性や、そもそも飲み込ませる事が出来ない可能性も考慮しておく。
大きなイノシシの毛皮は、大腿部の一部分しか確認していないが、俺が地元で獲った猪よりは分厚いものの、ナイフで簡単に剥ぎ取れたので、大した強度ではなかった。
検証が終わったので早速防護服を脱いだが、これをもう一度着られるようにするのは無理があるので、周囲に落ちていた石でカマドを作って固形燃料に火を付けてから、放り込んだらアッと言う間に溶けて消えた。
<続く>