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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第2章
18/78

第18話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第18話




 休暇明けの早朝、ハンターギルドに寄って情報を確認する前に、ヘレナの薦めで工業系ギルドにて砥ぎ師を雇って武器を預けた。


俺もヘレナも、メインウエポンとサブウエポンを各5本以上所有している。


この世界では包丁も槍も剣も消耗品でしか無いので、ある程度切れ味が鈍くなったら砥ぎ直し、それも出来なくなったら新規で購入するのが一般的である。


ここで紹介された職人が面白い事を言う奴だった。


「家宝でもない武器なんか、薙ぎ払い、突き刺し、叩き斬る事が出来ればそれで良いのさ。

メンテナンスは勿論必要だが、装飾に凝ったり、依存するなどナンセンスだな。

武器は戦うためのモノであって、武器を振るために戦いに行くモノじゃない。

使い物になるなら、鹵獲した武器でも十分だよ。」


俺もそう思う。


俺は戦うために武器を振るっているのであり、武器を振るうために戦っている奴なんか理解したくもない。



 ギルドに所属するハンターは仕事を受注した場合でなくとも、狩猟に出発する前には予定の狩場と日程をギルドに告げ、帰還した後には負傷具合などをギルドに告げる事が規則となっている。


この規則は、行方不明者が出た場合に捜索隊を出す為などではなく、そちらに何らかの脅威が存在するいう情報になるからである。


そしてヘレナは、こういった未確認情報の確認という仕事を好んで請け負っているらしい。


通常よりも強力な生物である場合が多いので、その脅威を単独で狩る事が出来ればレベルアップに繋がるし、狩る事が出来なくても情報さえ持ち帰れば金になるので、何方に転んでも損はないからである。


自分よりもレベルが高い生物を殺さないとレベルは上がらない。


しかし、ランク5の生物が群れで居る時にはそうでもないが、少数で居る時には亜竜などのランク6の生物が捕食に現れる場合が多い事もあって、ヘレナは単独での行動は慎重に行ってきたらしい。


ヘレナが俺とツーマンセルで行動する事になったので、ヴィクトリアもこの仕事を受注する際には特に何も言って来なかった。



 俺たちは今回、東門から深淵の森へ向かうことになる。


この門の周辺を俺は偵察した事がないので、図書館やヘレナたちから仕入れた知識しかなかったが、ヘレナに教えられた第4郭の作りかけが本当に放置されていた。


城壁都市の東門から約3マイル直進した場所で垂直に交わる様に通っている外周道路の森側に、高さ約9フィート、厚さ約6フィート、全長約300フィートの壁が立っているが、物の見事に何の役にも立っていない。


俺たちが今回確認すべき未確認情報は、「毛も羽も鱗もなく全身が内臓みたいな剥き身で、目鼻耳や角や尾もなく、体長くらいの長さの舌を触角のようにゆっくり振りながら四つ足で歩く生物が数匹掛かりで、デイノニクスの群れを襲っていた」というモノである。


聞いているだけだと、まるでビデオゲームのレジデントエビ○に出てきたリッカ○みたいな外見をした生物と出くわしそうな気がする。


 そして、深淵の森へ入って数マイルも進まない内に俺は、バジリスクを食っているリッカ○みたいな生物を2匹も本当に見つけてしまった。



【名称】

 ヒト型哺乳類 キメラ型セリアンスロゥプ科 ワーウルフ第3形態

【レベル】

 192



 パッと見た感じだとシルエットがリッカ○にソックリでワーウルフの面影なんか何処にも無いし、小さい乳房が6個もあるし、ステータス上の名称が第3形態になっているし、ワイバーンよりレベルが高いしで、突っ込みどころが多すぎる。


以前ヴィクトリアから聞いた話しの通りなら、こいつは即死しなかったワーウルフが周囲の魔素を急激に取り込んで強靭な生命力を持つ化け物に突然変異したモノなのだろうが、こいつも認識を阻害する毒を放っているらしく、バジリスクの肉体が減っていく光景を見つけなければ存在に気づけなかった。


いや、アイツの存在は認識出来ているから、認識阻害とは違うな。


認識阻害というよりは擬態みたいに色調が変化しているが、色素メラニンではなく、カメレオンみたいに皮膚に含まれるナノ結晶を調整して体色を変えるのに似ている。


面白いモノが見れたので俺はもう満足なのだが、当然ヘレナは狩る気満々である。


殺せるのなら第4形態とかに変異されても別に構わん、というか是非見てみたいのだが、今でさえ俺の倍以上のレベルなのに更にレベルアップされると、逃げることも出来ない。



 現在、俺たちの正面、東の方向に居るリッカ○モドキは、南北方向に並んでいて、風は北から南へ吹いている。


「撤退する」と伝えようとヘレナをみたら、俺に向かって「自分が囮になるから仕留めろ」というハンドサインを一方的に送ってきた後、俺の返事も待たずに風上方向へ進んで行った。


迷っている暇はないので、即座に俺もリッカ○モドキの風下へ進み始める。


バジリスクが居たお陰で爬虫類や両生類などが殆ど居ないし、居ても冬眠したみたいに大人しいのは有難い。


 リッカ○モドキたちが何かに反応して、風上へ長い舌を伸ばして探り始めたので、俺は即座に北側にいるヤツを『氷湖』の魔法で周囲の空気ごと固めた。


獣頭人身の生物なら『氷湖』の魔法だけで窒息死させる事が出来たが、手応えからしてリッカ○モドキは無酸素状態でも長時間動けるに違いない。


もう1匹が風上へ歩き去った隙を突いて、固まっているリッカ○モドキに近づき、俺は『凍結』の魔法を使って凍らせようとする。


『凍結』の魔法も獣頭人身の生物なら10秒程で脳ミソを冷凍肉みたいに凍らせる事が出来るが、リッカ○モドキの頭部は、熱い石が少しずつ冷めるような感じでしか凍らせる事が出来ず、心臓を止めるまで10分間ほど要した。


リッカ○モドキの死体を『収納』の魔法で格納すると俺は直ぐ様、ヘレナへ向かったもう一匹を追って行く。


 どうやら『泥沼』の魔法で足止めしてから、『氷湖』の魔法を使って周囲の空気ごとヤツを固めて、『突撃』の魔法で頭部を滅多打ちにしていたみたいで、ヘレナは無事であった。


リッカ○モドキの頭部が少しずつ削り取られて行くに従い、ヘレナは『突撃』の魔法を更に激しく放っている。


「やめろ!ミンチになっちまう。一体どうしたんだ?」



「膨らんできた。壊れそう。」


俺の問いかけにヘレナは、『突撃』の魔法を止めて、『氷湖』の魔法で周囲の空気ごと固められているリッカ○モドキを指差して答えた。


俺がポールアックスをフルスイングして叩きつけても傷すらつかないヘレナの『氷湖』の魔法の囲いを、第4形態への変異なのか巨大化なのは分からないが、リッカ○モドキは膨張力だけで壊そうとしているらしい。


「頭部も固めろ!心臓を凍らせるぞ。」


どんな毒性があるか分からないので血まみれの頭部を素手で触るのを避けて、心臓を『凍結』の魔法で凍らせるべく俺が指示した内容を、ヘレナも理解したらしく、リッカ○モドキの頭部を『氷湖』の魔法で周囲の空気ごと固めると同時に心臓部分周辺の『氷湖』の魔法を解除した。


 15分間ほどかけて、2人でリッカ○モドキの心臓を『凍結』の魔法で凍らせる事には成功した。


「膨張は止まってない。」


ヘレナの感触では、どうやら未だ生きているらしい。


「膝を凍らせて破壊してから転移門で逃げる。いいな?」


ヘレナは頷いてから、『収納』の魔法で格納していた簡易転移門を取り出した。


簡易転移門は、対となる転移門との間のみでの移動を可能にする道具だが、大金貨100枚、約100万ドルもする品なので、当然使い捨てにする様なシロモノではない。


登録者しか起動出来ないし、1度に移動出来るのは最大で裸体の成人男性2名ていど、1度使用する毎に数十分間のクールダウンが必要で、起動中は金切り音がするなど、簡易転移門は問題も多い。


簡易転移門の最大の問題点は、起動する際には登録者が魔力で全力操作する必要があるため、10秒間ほど身動きの取れない無防備な状態を曝す事である。


番いの簡易転移門は、俺達の部屋のベッドの下においてあるし、俺がランク5になった日の夜にヘレナから簡易転移門を所持している事を教えられた際に、20回ほど転移を繰り返して、実際に転移可能な容量や要する時間などの使い勝手も調査しておいた。


腰帯を外してトーガだけを着ている状態なら、ギリギリだが俺とヘレナの2人が同時に転移可能ではあったが、確実に2人同時に転移するためには全裸になるしか無い。


リッカ○モドキの膝を凍結破壊しながら、俺とヘレナは全ての装備や衣類を『収納』の魔法で格納した。


「俺が抑える。ヘレナは起動させろ!」


四肢の膝を全て破壊したタイミングで、リッカ○モドキを固めていた『氷湖』の魔法をヘレナから引き継いだ。


その僅かな時間でリッカ○モドキは1周り近く巨大化していた。


質量保存の法則はどうなってるんだ!?


あっ、魔素で補っているのか!


ギィィィィィィ~


約10秒間が経過した頃に、フォークで皿をひっかいたような音がし始めた。


俺の斜め後ろにある音源の方を見てみると、地面に敷いた直径約3フィート、厚さ約1インチほどの輪っかの上に立っている全裸のヘレナが、俺に向けて両腕を伸ばしていた。


 俺がヘレナに抱きついた瞬間、目の前が暗転し、数秒後に俺たちは自室のベッドの上に放り投げ出された。


「壊れた。」


転移を終えて1呼吸もしない内に、ヘレナが簡易転移門を指差してそう言った。


魔法は魔力の供給を止めると大体10秒間ほどで霧散するし、転移中に簡易転移門が壊れると転移中の物体は消失するらしいので、ほんの僅かな時間の差で俺達は命を拾った。


「なあ、ヘレナ。勝てないと知っていて噛み付くのは勇者だけだ。そんな奴に賭けても面白く無い。」


「羨ましい。」


俺が今回の問題行動について糾弾しようとしたら、ヘレナが睨みながらそう呟いた。


「ん?」


「ステータス。」


俺が自分のステータスを読取ってみると、レベル90になっているし、加護は別に増えていないが、称号に『人類の後始末をせし者』というのが追加になっている。


今回はワーウルフ第3形態以外は雑魚しか狩ってないから、アイツを始末した事が、イコールで人類の後始末をした事になる。


自分よりもレベルが高い生物を殺さないとレベルは上がらないので、あれだけ苦労したのにも関わらず、レベルが上がらなかった事をヘレナは嘆いている振りをしながら、謝罪しているつもりなのだろう。


「はぁ、もういい。状況終了だ。」


既に反省している人間を叱責しても無意味なので説教は止めた。


「今後の行動方針として、ヘレナの2倍までのレベルを標的とする。相手が俺の2倍以上のレベルだった場合には即時撤退する。これなら良いか?」


「ん。」


「ヘレナの目的はレベル100になって最盛期の外見に戻る事で、俺の目的は未知と遭遇する事だ。無謀な戦闘で死んだら元も子もない。死ぬほどの目に合わなくてもレベルアップは出来るだろ?」


「ん!」


ヘレナを慰めた後、俺達は調査結果の報告と、成果物の売却、簡易転移門の購入のため、ハンターギルドへ出掛けることにした。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。


ケイ……主人公の嫁。本名は、惣田恵子。


ヘレナ……傭兵ギルドの教育担当。ヴィクトリアの従姉妹。主人公と同棲中。


ヴィクトリア……ハンターギルドの契約担当。ヘレナの従姉妹。



【魔法紹介】

『氷湖』……物体が湖の氷に閉じ込められている光景を再現したもの。対象を凍らせる訳ではなく、指定位置周辺の動きを止める。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『凍結』……豪雪地帯で雪解け時に出てくる凍死体を再現したもの。対象を凍らせる。威力は個人の力量に比例し、接触している対象に発動する。


『衝撃』……水中爆発を再現したもの。指定位置に衝撃波を発生させる。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。


『泥沼』……底なし沼を再現したもの。対象は地面や床に限らず、指定位置周辺を融解する。


『突撃』……カノン砲での砲撃の着弾を再現したもの。対象を吹き飛ばす。

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