第17話
■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。
第17話
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翌朝、俺とヘレナが鎧の装着などの身支度を終えたところで、玄関に人間の気配を2つ感じた。
俺の住む第1郭内の全ての家屋は約十年前の災害の教訓から、外壁を厚さ1フィート以上のコンクリート製にする事に加え、窓も格子付きか縦横1フィート以下の大きさにしなければならず、更にガラスを使っている場合は厚さ1インチ以上のハメ殺し窓しか許されていないし、玄関口と裏口の扉に至っては鉄板を挟んだ厚さ2インチ以上の頑丈なベニヤ板を使わなければならない。
約14万人の住民が、僅か1週間後には約10万人しか生き残っていなかったのだから仕方ないといえる。
俺の未熟な『探査』の魔法では、厚さ2インチの鉄板入りの扉も、厚さ1フィートの壁も透視する事は出来ないし、俺の頭よりも高い位置に並んでいるハメ殺し窓からも外部の音は聞こえない。
しかし、俺よりも優れた『探査』の魔法を使えるヘレナの、如何にも「面倒臭いのが来た」と言いたげな顔を見たら、ヴィクトリアが来た事くらいは察しがついたが、もう1つの気配は誰なのか気になる。
ノックが3回聞こえてきたので、玄関口の扉を開けると案の定ヴィクトリアが、もう一人50代の女性を連れて立っていた。
ヴィクトリアと挨拶を交わし、紹介された女性はヴィクトリアの母親であるヴェネッサだった。
ヴェネッサはヘレナの叔母でもあるから、2人が親子の様に似ているのは未だ理解出来ない事でもないが、ヴィクトリアにヴェネッサの面差しが全くないのは父親似なのかもしれない。
それにしても、ヴェネッサまで義母さんにソックリである。
ヘレナがケイと違うのは、肌の色と瞳の色と口数くらいのモノで、彼女が何かする度に周囲が慌てふためく様子や、周囲を混乱に陥れる様な行為を平然と行う様子などからすると、「悪意のない愉快犯」と言われた性格まで似ている気がする。
そのせいでヴィクトリアは、普段は理知的なキャリアウーマン風の女性なのに、ヘレナが何かすると反射的に慌てふためく様になったのかもしれない。
まさかとは思うが、ヴェネッサの性格まで義母さんに似ているとかは、正直勘弁して欲しい。
ヴェネッサとヘレナのやり取りを見ていると、嫌な予感しかしない。
◇
2階の部屋でヘレナが育ての親であるヴェネッサと親子の親睦を深めている最中に俺は、ヴィクトリアから指導というか助言を貰っていた。
ヘレナと同棲している俺へのヴィクトリアなりの親切心であろう。
「良いですか?ソード。ヘレナは個人のハンターだから、技術力や好意だけでソードのことを信頼してくれています。
でも、ハンターギルドは営利団体なので、当然ながらソードが成功率や成果物などの実績を示した後に初めて信用できると判断します。
確かにソードはランク5になりましたし、レベル80以上です。
しかし、言うなれば『ランク』とは技術力を測るための道具でしかないので、ランクの値と実際に仕事が出来るかどうかはイコールにはなりません。
また、『レベル』も単に身体能力を等級で表したものに過ぎないので、戦闘技術を身に付ければ、2倍程度のレベル差までならひっくり返すことが出来ます。」
例えるなら、『ランク』とは空手何段とか、簿記何級みたいな資格でしかないということか。
確か図書館で調べたときにも、レベルとはパワー・スピード・スタミナと云った身体能力の限界を数値で表したモノで、強さを表すモノではないと書かれていた。
武術もパワー・スピード・スタミナに優れる相手に勝つために生まれたモノなので、戦闘技術を身に付ければ多少の身体能力の差ならひっくり返せる事も理解できる。
「逆に、低ランクの仕事での実績が沢山あっても、高ランクの仕事を任せられるほどの技術力があるかまでは推測出来ません。
例えば、ウサギくらいの大きさの食用ネズミを専門に狩るマウスハンターは、毎日数十匹をコンスタントに持ち込むので信用は高いのですが、彼らが虎や熊を狩れるかは不明です。
そこでギルドはハンターの適正な技術力を測るために、ランクが高くなるほど得になる特典をつけて、自主的に昇格したがる様に仕向けている訳です。
かといって、ランクが高くなっただけでは重要な仕事など任せられませんが。―――」
要するにヴィクトリアは「実績を示せ、さすれば道は開かれん!」と言いたかった様である。
◇
ヴィクトリアとヴェネッサは結局昼過ぎに帰っていった。
「なあ、ヘレナ。
ヴィクトリアが今日は休暇になったと言っていたが、彼女はフリーランスではなく、ハンターギルドの職員なのか?」
「そう。上級職。
普段は遅番・早番・休暇の2勤1休。
昇格試験の立会人をすると翌日は休暇になる。」
「じゃあ、ヘレナも傭兵ギルドの職員なのか?」
「少し違う。傭兵ギルドとは教育専門の契約。
普段はフリーランスで、ハンターギルドにも所属してる。」
嘱託職員みたいな立場という事か?
「それで、2人とも昇格試験の立会人が出来たのか。」
「そう。」
「ヘレナは傭兵ギルドにも毎日通っているのか?」
「教育の仕事があれば遅くとも前日の夕方には連絡がある。
少数精鋭だけど変わり者の集団として有名だから、滅多に教育の仕事は来ない。」
ヘレナはこう言っているが、実際には恐らく、あの海兵隊式みたいな訓練方法が埴猪口どもに避けられているのだと俺は思う。
「何でヘレナは、そんな変わり者の集団に所属してるんだ?」
「マスターのオリンピオは祖父。
オリンピオの手伝いを10歳頃から行ってる。
ヴィクトリアもマティアスの手伝いを10歳頃から行ってた。」
確か、オリンピオが傭兵ギルドのマスターで、マティアスがハンターギルドのマスターだったよな。
ヘレナが嘱託職員みたいな立場なのは、孫の扱いに困った末の苦肉の策であろう。
「ヘレナとヴィクトリアが従姉妹って事は、マティアスとオリンピオも血縁なのか?」
「違う。
ヴィクトリアの母親のヴェネッサは、私の父親ヴィンセントの妹。
マティアスはヴィクトリアの父方の祖父。オリンピオは私の母方の祖父。
マティアスとオリンピオは親友。」
「なるほどな。
普段はヴィクトリアと一緒に行動出来してないのか?」
「ヴィクトリアが休暇の日だけ一緒。
1人では無茶出来ないので普段は大人しくしてた。」
大人しくしていたというのは、あくまでも本人視点だろう。
「ヘレナと同年代で同ランクの者はヴィクトリアくらいしか居ないって聞いたが、そうなのか?」
「そう。
丁度良く、ソードが仕事とプライベートで相棒になった。」
「なるほどな。
ヘレナ。1つ聞いておきたいんだが、傭兵ではなく、ハンターを普段の仕事にしているの何故だ?
生活費のためか?狩猟が好きなのか?」
「目的が在る。」
「その目的ってのを聞いても良いか?」
「最盛期の状態に戻る事!」
「最盛期の状態に戻る?どうやって?」
「レベル100を越えると身体が最盛期の状態に戻る。」
「そりゃあ、凄いな。」
要するに若返りたいという事か。
そう言えば、俺やケイと同じ28歳くらいにしか見えないが、ヘレナやヴィクトリアは未だ21歳だった。
実は結構気にしてたんだな。
確か、レベルアップするには自分よりもレベルが高くて、同種族ではない生物を殺す必要があるからハンターを普段の仕事にしている、ということか。
「ソードの目的は何?」
「俺の目的は、未知との遭遇だな。
俺とヘレナが一緒に行動すれば、お互いの目的を達成し易くなる。」
2人で一緒に深淵の森などの強力な生物が生息している場所へ行けば、ヘレナは最盛期の状態に戻れる。俺は未知との遭遇が出来る。ヴィクトリアはヘレナが単独で行動するよりは安心できる。
お互いの目的を達成し易くなって、何もかもが丸く収まる。大団円って事だ。
午後から深淵の森へ行ったら日没までには帰れないので、ヘレナと俺も本日は休暇にして親睦を深めた結果、目的や手段について意識を共有することが出来た。
<続く>
【人物紹介】
ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。
ケイ……主人公の嫁。本名は、惣田恵子。
ヘレナ……傭兵ギルドの教育担当。ヴィクトリアの従姉妹。主人公と同棲中。
ヴィクトリア……ハンターギルドの契約担当。ヘレナの従姉妹。
【魔法紹介】
『土の槍』……土を固めて投げ槍の一種であるピルム・ムルスを再現したもの。重いので体力を要する。質量は個人の力量に比例し、コンクリートくらいの強度を有するが、手元を離れると10秒程で霧散する。
『爆裂』……手榴弾の爆発を再現したもの。対象を爆破する。威力は個人の力量に比例し、火の玉を投擲後に対象との接触で無音発動するが、手元を離れると10秒程で霧散する。
『突撃』……カノン砲での砲撃の着弾を再現したもの。対象を吹き飛ばす。威力は個人の力量に比例し、火の玉を投擲後に対象との接触で無音発動するが、手元を離れると10秒程で霧散する。
『衝撃』……水中爆発を再現したもの。指定位置に衝撃波を発生させる。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。
『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。
『強化』……亜人の頑丈さとパワーやスピードを再現したもの。実際に筋力や筋肉を強化している訳ではない。
『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。




