第14話
■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。
第14話
◇
俺達は今、『探査』の魔法を使いながら深淵の森の中を進んでいる。
ヘレナから教えて貰った魔法は、理屈を知らなくとも結果を想像できるモノは簡単に修得出来たが、下手に理屈を知っているモノは修得に手子摺ったし、今でも拙い。
特に、『探査』の魔法は、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こして視るというモノなので、俺の場合は既に体得している聴覚でのエコーロケーションと似過ぎていて、デフォルトだと聴覚と共感覚を起こしてしまい、感覚を切り替える事が上手く出来なかった。
本来なら『探査』の魔法は、可視光線以外の肉眼では見えない磁力線や電子線などの映像を視ることも出来るし、裸眼視力など比べ物にならないくらい遥か遠くを視る事が出来るらしいが、今の俺では近視みたいにボヤけて視える。
但し、全ての魔法の中でも『探査』の魔法は、個人の適正による力量差が最も大きいらしい。
レントゲン写真や偵察衛星からの写真を分析する際には識別するだけでも技能を要する場合が多いが、『探査』の魔法に映る映像も同様である。
数マイルほど進んだ所で、ヘレナからハンドサインがあった。
俺の『探査』の魔法では何かが居る事しか分からないので、もう少し進んで物陰から確認すると、体高5フィートほどでワシの前半身と翼、ライオンの後半身を持つ生物であるグリフォンが、獣頭人身の生物を貪り食っている姿が視えた。
【名称】
猛禽類 ネコ科 グリフォン
【レベル】
81
この【名称】というのは生物の分類に見えて、実は単なる仕分けではないかと思えてきた。
ヘレナが右手で石を拾い上げ、左手でグリフォンを指さしながら、「グリフォンへ向かえ」とばかりに顎を振った後、石をグリフォンに投げつけた。
ヘレナからは、居場所の特定とだけしか聞いてないが、恐らく序に何か体験させる事にしたのだろう。
言葉が足りないもののヘレナの考え方は、ケイと大差ない気がする。
俺は足元の地面に両手を触れ、ヘレナから教わった『土の槍』という魔法で投槍を2本作った。
『強化』の魔法を発動してから、こちらを威嚇しているグリフォンに向けて槍を投擲した。
グリフォンが1本目の槍を避け始めた瞬間に、予想した未来位置に向けてもう1本の槍を投擲した。
槍は狙い通り眼球を貫いて脳ミソに命中し、一撃で仕留める事はできた。
しかし、まるで炎天下に置かれた氷柱が解ける様子を高速再生したかのように、飛んでいる槍がグリフォンに近づいた途端に解け始めた光景に驚いて、結果を気にしている余裕が無い。
投擲速度がもっと遅かったら、グリフォンに刺さる前に消滅していたかもしれない。
「見えた?」
「あぁ。あれが魔法の霧散か。」
ヘレナからの問いかけに俺は呆然としながら答えた。
その後、襲いかかってきた危険生物を始末していて分かったのは、地球に実在していたのと同系統の生物は魔法で攻撃して来ないし、此方の魔法攻撃を防げないが、地球に実在していなかった系統の生物は魔法で攻撃して来る場合が多いし、此方の魔法攻撃を防ぐ場合が多い、という事だ。
とはいえ、地球で絶滅した生物を全て知っている訳でもないし、骨格的に幻想生物でないと有り得ない生物でなければ、地球に実在していなかったとは断言できないので、ヘレナに伝える程の価値がある情報ではない。
◇
始末した生物は全て、『収納』の魔法で格納している。
しかし、グリフォンて美味いのか?
鷹の唐揚げは地球で食った事があるが、大して美味くなかった。
地球には年に数百万匹の猫の胃腸と腿肉を食べる猫食文化があると聞いた事があるから、ネコ科の生物でも食えるのだろうが、美味そうには見えない。
地球に居た頃の俺は自宅で猫を飼っていたので、猫科の動物など食った事など無いし、今後も自分から求めて食う事は無いが、グリフォンもこのまま廃棄されるよりは誰かの飢えを満たして血肉となった方が良いとは思う。
それとも街中で、何の肉の串焼きを売っているのか分からない屋台で扱っていたのは、こういった生き物の肉なのか?
食の安全という概念が無いせいで、街中の食料にすら未知の物が溢れていて、この世界は本当におもしろい。
◇
どうやらヘレナは、グリフォンの巣の位置を特定しようとしているらしい。
更に数マイルほど奥へ進んだ所で、ヘレナからハンドサインがあった。
双眼鏡で確認すると、地面に枝で作った鳥の巣の様なものがあり、その中に1匹のグリフォンが座っているのが見えた。
「帰る。」
ヘレナはそう言うと踵を返し、城壁都市の南門へ引き返し始めた。
明日、もう一度ここへ来て、試験を行うことになる。
帰路で襲いかかってきた危険生物の中に、正面から見たらグリフォンにソックリの生物もいた。
体高約5フィートで身体の前半身がワシ、後半身がウマとなっているヒポグリフである。
【名称】
猛禽類 ウマ科 ヒポグリフ
【レベル】
69
当然狩って『収納』の魔法で格納したが、今度はウマ科なので、少なくともネコ科のグリフォンよりは美味そうな気がする。
◇
ハンターギルドの解体場に到着したらヘレナは、如何にも職人と言った雰囲気の60歳くらいの男性に声を掛け、2つの作業スペースを借りた。
その片方のスペースに、ヘレナは『収納』の魔法で格納しておいた自分で狩ってきた獲物を取り出して並べた。
俺も同じ様に、もう片方のスペースに『収納』の魔法で格納しておいた獲物を取り出して並べる。
暫くすると先ほどの爺さんに連れられて中学生くらいの少年が6人やってきた。
爺さんが俺たちの獲物の種類と数と状態を書類に記入し、ヘレナがギルドカードを見せた後で署名した。
少年たちは、爺さんの号令で一斉に俺達の獲物に向かい、協力して吊るし上げて、血抜きをしたり、手際よく毛皮を剥ぎ取り始めた。
ヘレナは、爺さんから受け取った書類を受付にいる買取担当者へ渡し、引き換えに硬貨と紙切れを受け取って、署名した。
「半分。」
そう言ってヘレナは、硬貨を何枚か乗せた掌を差し出した。
どうやらヘレナは、獲物をハンターギルドに買取って貰い、代金と明細を受け取ったので、俺に分前を半分くれたらしい。
明細を見せて貰うと、毛皮は別計算になっているため毛皮を剥いだ状態だが、オークが1匹当たり大銀貨3枚、約300ドル、オーガが1匹当たり大銀貨4枚、約400ドル、ヒポグリフが1匹で小金貨1枚、約千ドルで、グリフォンが1匹当たり銅貨2枚、約2ドルだった。
オーク1匹を豚1匹と同じ食肉と考えれば、重量も同じく位なので妥当な気もするが、オーガ1匹を牛1匹と同じ食肉、ヒポグリフ1匹を馬1匹と同じ食肉、と考えたら買い叩かれた気がする。
グリフォンは、羽や毛皮などの素材は一番高価だったが、食肉部分は約千4百ポンドもあるのに二束三文で買取られる事になった。
グリフォンをネコと同じ食肉と考えたら、買取って貰えるだけマシなのかもしれない。
買取り額から税金約2割と手数料約1割を差っ引かれた残りが手取りだが、1人当たり小金貨5枚、約5千ドルの稼ぎになった。
北西の森林にはハンターが沢山居たのでたった16匹を探すのも大変だったが、深淵の森ではハンターを全く見かけなかったし、数分に1度は危険生物に襲われたので、獲物の数が桁違いである。
「一度、家に戻る。」
ヘレナはそう言うと俺の返事も待たずにハンターギルドから出て行ってしまったので、俺も帰宅する事にした。
「ただいま。」
食材や日用品などを買ってから帰宅し、俺が夕食を作っているところへ、ヘレナがそう言って入ってきた。
「ただいま?」
俺の問いかけにヘレナは頷いて答えると、『収納』の魔法で格納していたトランクケースくらいの荷物を2つ取り出した。
「今日から一緒に住む。」
そう言うとヘレナは水場へ行って手を洗い、俺が調理するのを手伝い出した。
何か言おうと口は開いたが、部屋に余裕があるし、ルームシェアすると割り切れば波風も立たない、と諦めて俺は口を噤んだ。
結婚する前にケイと同棲を始めたときと状況がよく似ており、何を言っても無駄な事は予想出来る。
<続く>
【人物紹介】
ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。
ケイ……主人公の嫁。本名は、惣田恵子。
ヘレナ……傭兵ギルドの教育担当。ヴィクトリアの従姉妹。
【魔法紹介】
『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。
『土の剣』……土を固めて大剣の一種であるバスタード・ソードを再現したもの。重いので体力を要する。質量は個人の力量に比例し、鉄くらいの強度を有するが、手元を離れると霧散する。
『強化』……亜人の頑丈さとパワーやスピードを再現したもの。実際に筋力や筋肉を強化している訳ではない。
『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。




