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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第2章
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第11話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。


第11話




 図書館での調べ物を終えた俺は、正々堂々と西門から城壁都市に入り直して正規の手続きを行い、暫くのあいだこの街を拠点にする事にした。


 人目に付かない様にしながら、この街へ最初に忍び込んだ際に乗り越えた城壁まで戻り、荷物を載せてあった橇を回収してから西門へ向かった。


1つ目の西門の外側に2名の衛兵が立っていたが、西門の内側からも2名の衛兵が外を監視していた。


衛兵の1人は俺をチラ見したが、他の衛兵は俺など眼中になく周囲の警戒をしていたので、彼らが見張っているのは人間ではない可能性が高い。


西門の前には馬車が1台止まっていたが、気にせずに俺は1つ目の西門を通り過ぎ、南側で入市手続きを待っている数名の人たちの後ろに大人しく並んだ。


俺から少し離れた場所にも2名の歩哨が立っている。


北側の東屋みたいな壁の殆ど無い建物の下には、2個のスピーチ台みたいなテーブルが置いてあり、各テーブルには役人2名と衛兵1名が立っていて、入市手続きを待っている人たちとの間にも4名の衛兵が立っている。


役人と衛兵は、税関や入国審査みたいな厳しい態度だが、入市手続きを待っている人たちは、テーマパークなどの入場待ちをしているかのように楽しそうに歓談している。


役人と役人に張り付いている衛兵だけは人間を観察しているが、他の衛兵は人間など眼中に無いかのように城門の外を警戒をしていたので、やはり彼らが見張っているのは人間ではないのかもしれない。


1名の役人が、身分証や滞在許可証の確認、もしくは滞在許可証の発行と代金の徴収を行っている横で、もう1名の役人は、手続きを受けている人をじっと観察していた。


俺の前に並んでいた人たちは手続きが終わると、西門の前に止まっていた馬車に乗り込んで、街の中へ入っていった。


「次の者!」


漸く、俺の番が回ってきたので、テーブルの前まで進み出る。


「身分証か、滞在許可証は持っていないのか?」


右側の役人から差し出された掌に、俺が何も載せないでいると確認の声が聞こえた。


「滞在許可証の発行を頼む。」


俺がそう返事をすると、左側の役人から息を吸い込む音がしたので、そちらへ視線を動かすと目を見開いて俺を凝視している姿が見えた。


「1ヶ月間の滞在許可証は、大銀貨1枚だ。」


右側の役人に言われた額の硬貨を渡した。


大銀貨とは1オンス銀貨の事なので約100ドルになるが、テーマパークの1ヶ月間のフリーパスとして考えれば安いものだ。


「名前は?」


「シングル・ソードだ。」


「期限が切れる前に役所で延長料金を支払わないと、この街では問答無用で不法滞在者認定されて、1ヶ月間の労役刑を課される事になるから気をつけるんだな。」


役人は、何かの書類と滞在許可証だと思われる羊皮紙に、俺の名前などを記入しながら俺にそう説明してくれた。


「ありがとう。」


滞在許可証を受け取った俺は、橇を引き摺りながら徒歩で街の中を進んでいく。


2つ目の西門の外側にも内側にも其々2名の衛兵が立っていた。



 事前に評判の良い宿屋を調査しておいたので、俺は今その宿屋を目指して歩いている。


宿屋と言っても、マンスリーアパートみたいなもので、1ヶ月間で大銀貨4枚、約400ドルである。


格安ホテルでも1日最低小銀貨3枚、約30ドルは掛かるし、部屋を勝手に掃除されるのも好きではないので、レンタル系の宿屋にした。


宿屋の端にある管理人部屋で契約を済ませ、代金を先払いしてから自室へ荷物を持ち込んだ。


このアパートはメゾネットタイプなので2階にも部屋があり、内階段で行き来できる。


備え付けの家具は、ベッドとテーブルセットと棚が上下の階に各1つずつだけしかない。


埃よけとして家具を覆っている布を全て剥がすと、ベッドを2つとも2階に移動し、事前に購入しておいた厚手の毛布2枚と薄手の毛布2枚を出しておく。


鹵獲品のグレネード・ランチャー装着済みアサルトライフルは、バジリスクとの戦いで既に弾薬が尽きているので、分解して麻袋に詰め込み、埃よけの布と一緒にクローゼットに放り込んだ。


支給品のハンドガンとショットガン装着済みアサルトライフルの弾薬は未だあるが、盗まれても使用されないように、一部の部品だけ外して、銃剣やナイフと一緒に棚に仕舞った。


この世界には中折式単身散弾銃が存在しており、薬莢ではなくペレット状にした火薬と、9本の釘を固めた弾頭を使用してフレシェット弾みたいなモノを発射するが、28ゲージのバックショットを使用したショットガンと同程度の威力がある。


手榴弾も存在しているが、炸薬を詰めた大砲の砲弾を小型化したモノで、威力は軍で使用していた手榴弾と大差ない。


これらは魔法での代用が可能なので、全くと言って良いほど普及していないが、一応何とか入手してある。


取り敢えず、サーベルだけ携帯して、ハンターギルドに赴いた。



 ハンターギルドは、俺の郷の小学校みたいな2階建ての建物で、入り口は扉が開きっぱなしになっており、内部が丸見えになっている。


入り口から見て左手には掲示板が数十列ほど並んでおり、ディズニ○ランド内みたいに人混みで溢れている。


正面奥には運動場みたいな空間が広がっているが、吊るした動物を解体している姿や、人間同士で戦っている姿が垣間見える。


右手奥には銀行の窓口みたいな受付が並んでおり、ディズニ○ランドの入り口みたいに混雑している。


右手手前は酒保みたいな売店になっているが、此処もディズニ○ランドのフードコートみたいに繁盛している。


事前調査によると左手の掲示板には、害獣や危険生物などの駆除依頼や、食肉や毛皮等の狩猟依頼、獲物の買取価格などが書き出されており、ハンターはこの中から好きなモノを選択し、受付で受注手続きをする事になっている。


正面の運動場は、訓練場と狩ってきた獲物を解体する場所で、中学生くらいの子供たちが慣れた手付きで、毛皮を剥ぎ、内臓を取り出し、肉をブロックに切り分けている。


ここでも魔法が活躍しており、この蒸し暑い気候にも関わらず、冷凍マグロみたいに凍りづけにされた獲物が解けること無く吊るされていた。


俺は一番手前の唯一空いてる受付へ向かって進み、受付の50歳位の女性に要件を告げた。


「新規登録の手続きを頼む。」


「はい、分かりました。そちらに座ってお待ち下さい。」


俺が受付の横にあるテーブル席に座って暫く待っていると、メガネをかけた20代後半くらいに見える褐色の肌をした女性が話しかけてきた。


この世界の一般的なガラス製品は透明度が低いから、メガネに使っているのは高度な精製を施した高級品の筈だ。


しかも、端から覗き見える感じからして伊達メガネの様だが、まさかウエアラブル端末みたいな魔道具って事はないよな。


「新規登録希望のハンターの方ですか?」


「ああ、そうだ。」


「私は契約担当のヴィクトリアです。

今から業務内容や契約内容などについて説明します。

判らない事や疑問などがありましたら随時お尋ね下さい。」


「俺はシングルソードだ。宜しく頼む。」


ヴィクトリアは1時間ほどに渡り、事前に俺が図書館で知らべておいた内容よりも、詳しく丁寧に説明してくれた。


「説明は以上となります。契約内容に異存はございますか?」


「特に無い。」


「では、この契約書に記載された内容をご確認の上、承諾されましたら、必要事項をご記入後、署名と血判をお願いします。

『実名』、『称号』、『呼称』の欄だけは記入が必須です。

『年齢』、『レベル』、『加護』、『格闘技の流派』、『魔法の流派』等の欄の記入は、任意ではありますが出来れば記入して頂けると、ギルドとしては助かります。

勿論、契約書に記載されている通り、賞金首にならない限り、通称以外をギルドが公開する事はありません。」


「了解した。」


「ステータスを読取れる係の者を呼んで来ますので、暫くお待ち下さい。」


「え?ステータスなんて誰にでも読み取れるんじゃないのか?」


「え?あぁ!

確かに、魔素を感じる事が出来る者の約7割ほどは、【名前】と【レベル】を読み取る事が出来ますが、【称号】が読める者は約百人に1人くらいしか居りません。

今から呼んでくる担当者は、各城門に居た審査官と同じで、【称号】が読める者です。」


「そのメガネにはステータスを読み取る機能は付いてないのか?」


「え?これは単なるオシャレです。そんな機能はありません。」


「何だ、そうなのか。了解した。」


どうやら、ステータスの読取り能力は個人差があり、読取れる項目数が異なるとの事だが、読取れる距離なども異なっている可能性がある。


 それに、家屋の窓に使われているのが曇りガラスばかりだった事から、この世界のガラスの精製技術は低いと思い込んでいたが、透明なガラスをオシャレなんかに使用出来るという事は、精製技術が低いハズがない。


曇りガラスしか家屋の窓に使わないのは単なる風習という事なのか。


取り敢えず此の書類には、読取った自分のステータスと同じ内容を記入すれば済む。



【名前】

 シングル・ソード

【年齢】

 1

【レベル】

 87

【称号】

 下等竜を殺めし者

 下等竜を喰らいし者

 亜竜を殺めし者

【加護】

 下等竜からの被ダメージ削減

 亜竜からの被ダメージ削減



久しぶりに見た自分のステータスは、いつの間にかレベルが上っており、称号と加護が増えていたが、偽装も隠蔽も出来ないので、今更どうしようもない。


俺が書類を書き終わったのを見計らったかのように、ヴィクトリアが連れてきた30代半ばくらいの冴えない男性が挨拶をしてきた。


「審査担当のペドロです。

これから【名前】と【称号】を読取らせてもらいます。

不愉快かもしれませんが、殺人鬼や重犯罪者では無い事を確認するだけですので、ご容赦下さい。」


ペドロが俺を数秒ほど凝視してから、目を見開いて驚愕した。


「称号に犯罪歴はない。

しかし、彼はドラゴンスレイヤーだ。」


ペドロは、ヴィクトリアの耳元にそう囁いたら、俺に軽く挨拶して駆け足で去っていった。


「俺の称号に何か問題でもあるのか?」


「いいえ、問題ありません。

責任者に報告してきますので、暫くお待ち下さい。」



ヴィクトリアはそう言うと俺の返事も待たずに早足で、ペドロが入っていったのと同じ2階の部屋の扉をノックもせずに開いた。


もしかして此の街では、下等竜や亜竜は益獣とか絶滅危惧種扱いで、殺したら拙かったのかもしれない。


俺に気配を感じさせないほどの手練が居る可能性を除いて、この建物の中に俺よりも強い者の気配はないので、最悪の場合は全員叩きのめして一旦撤退し、ステータスの偽装方法を探す必要がある。


10分ほど待っていたら、再びヴィクトリアが俺の前に現れた。


「ご足労をお掛けして申し訳ありませんが、2階の執務室で責任者との面会をお願いします。」



 執務室ではロマンスグレーの渋い老紳士が出迎えてくれた。


彼は、ジルヴェスター辺境伯領にあるハンターギルドのギルドマスターで、マティアスだと名乗った。


要件は、「下等竜や亜竜の肉や血液が残っていたら相場より高値で売って欲しい」と言うもので、お咎めではなかった。


俺が「竜の縄張りに偶然迷い込んだが、命からがら逃げ出しただけで、素材を持ち出す余裕はなかった」と告げると、「もし入手出来た際には、商業ギルドや貴族ではなく、ハンターギルドに持ち込んで欲しい」と懇願された。


治癒魔法は怪我を治せても病には大して役に立たないので、「大病にも劇的に効く、下等竜や亜竜の肉や血液は貴重」と強調していたが、ギルドマスターの身内か知り合いに大病を患ってる者が居るのかもしれない。


商業ギルドや貴族に買い取らせると実入は良くなるらしいが、税金の計算がかなり面倒になるので、元より素材は全てハンターギルドに買取ってもらうつもりだった。


マティアスとの面会が終了した後、再び受付の横にあるテーブル席に戻った。



 滞在許可証と引き換えにヴィクトリアから、身分証となる緑色のギルドカードを受け取る。


緑色のギルドカードの両面には、『ランク1』と俺の通名である『ソード』と識別番号だけが刻印されていた。


ヴィクトリアの説明によると、ギルドカードは身元を保証するモノというよりも、社会保障番号として税収を管理したり、パスポート番号として入出国を管理したりするなど、個人を特定するだけのモノらしい。


しかも、傭兵ギルドで登録する際の識別番号も、商業系ギルドで銀行口座を開設する際の口座番号も、ハンターギルドで与えられたこの識別番号と同じモノになる。


俺が契約書に記入している際中には複数の監視の眼を感じたし、血判も要求されているという事は恐らくDNA解析みたいな事を行っているのだろう。


何せ、幹細胞を使用して欠損部位を再生する技術すら実用化されているらしいからな。


もしかしたらギルドマスターに呼ばれたのは単なるカモフラージュで、その間に俺の前科を照会するなどの調査を行っていたのかも知れない。


当然ながら犯罪者は、何らかの手段を用いて複数の識別番号を所持しているだろうが、各識別番号毎に税金が徴収されるし、整合性に矛盾が生じると即座に捕まるそうだ。



「ブロンズカードをお渡ししましたが、レベルと称号から、ランク5以上の実力である事は分かっておりますので、明日以降の日付であれば、いつでも昇格試験をご予約できます。

先ほど説明しました通り、受注や買取などでも常に上級ランクが優先されますし、ランクが上がる毎に、買取価格や討伐報酬などが増額され、税金や手数料などが減額されますので、早い内に昇格されることをお勧めいたします。」


「そうしたいのは山々だが、魔法が未熟なので、本格的に狩猟に出掛けるのは、魔法を何とかしてからになる。」


「そういう事でしたら、ハンターギルドと懇意にしている傭兵ギルドで教師を雇って、短期集中で魔法を修得する、というのは如何でしょうか?」


「是非、紹介してくれ。」



<続く>

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