表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第1章
1/78

第01話

■2015/08/30 誤字・脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第01話




 受け身を失敗した時のような背中への衝撃で俺が目を覚ますと、周りの風景は先程まで俺が行動していた南米の山岳地ではなく、ジャングルへと一変していた。


「此処は何処だ?」


俺はそう呟くと、むせ返るような樹木の濃密な匂いと突然の高温多湿に辟易しながらも懐かしさを感じつつ、混乱する記憶を整理しようとしていた。



 5年間の任期を終えて円満に退役し、ヨーロッパ観光でもしてから日本へ帰国しようとしていた俺は、友人でもあり命の恩人でもある元軍曹から「この仕事だけ頼む」と懇願されて、とあるPMC《民間軍事会社》と契約した。


そのPMCで俺は、麻薬撲滅の一翼を担っている特殊作戦に参加したものの、左翼ゲリラと手を組んでいる麻薬組織カルテルであるせいなのか、銃弾を使う必要が無いくらいに敵は油断し切っており、ナイフを血に染めるだけで片が着く程度のヌルい状況が続いていた。



麻薬組織カルテルのメンバーを殲滅する事よりも、潜入して内偵している捜査官を殺さない様にする事の方が遥かに難しい程度のミッションである。


そんなある日、始末した敵の歩哨の近くに立てかけられていた、金色のアサルトライフルを掴もうと相棒が手を伸ばす姿が目に入った。


「やめろ!」


俺が怒鳴った時には時既に遅く、手榴弾の転がり落ちる音がした。


「グレネード!!!」


叫びながら、手榴弾に背を向けてスライディングした直後に破裂音と爆風に襲われた。


耳鳴りに耐えながら中腰の姿勢で周囲を警戒し始めた途端に、今度は地面の喪失感に見舞われた。


「ブービートラップ?!」


見張り番の詰め所の真ん前なのに落とし穴の罠が作動したのだと判断して、違和感を感じながらも咄嗟に俺は地面に銃剣を突き立てて落下を防ごうとしたのだが、急に激しい頭痛に襲われて意識を失った。



 記憶の整理が終わったところで、起き上がろうと手の平を地面に置いたら、固くて冷たいものに触れた感触がした。


反射的に手を引っ込めて確認すると、ほんの少し顔を出して埋まっている大きな石の塊であった。


周囲の状況確認をしながら膝立ちになったところに、大型トラックが遠くでクラクションを鳴らしたかのような動物の鳴き声が聞こえてくる。


続いて、何かが走り回っているような音が微かに聞こえてきたので、双眼鏡で確認すると北東の方角1マイルほどの距離に、猪が鳥から逃げようと此方に向かってくる姿が見えた。


森林地帯なら樹木の密度が低いのでそこら中に日の光が差し込み、背の低い樹木も大量に生えているために見通しが悪いのが一般的だ。


しかし、ここみたいに鬱蒼と樹木が生い茂るジャングルの中は、木漏れ日が少ないせいで殆どの場所が昼でも薄暗く、所々樹木が朽ちて倒れたりした箇所にだけサーチライトみたいに眩しい日の光が地面まで届いており、その周辺には背の低い草木も沢山生えているが、その他の大木は背が高く、枝葉もかなり高い部分にしか存在していない。


そのお陰でかなり遠くまで見通せるが、代わりに樹木の根っ子が地表にも大きく迫り出しているせいで、人間くらいの大きさの生物だと凸凹に足をとられて、移動が大きく阻害されてしまう事になる。


数ヤードほど離れた場所に丁度、縄梯子みたいな形状の蔓が絡まっていて、登り易そうな大木が聳え立っていたので、俺は周囲を警戒しながら走り寄ってその木に登り、猪たちが近寄ってくるのを観察する事にした。


 俺が座っている枝の真下を通過したのは、時速25マイル以上の速さで、大きなイノシシを追いかけている翼の生えた巨大なトカゲである。


目測だが翼の生えたトカゲは、体長約33フィート、体高15フィートほどで、足跡の深さからして体重も1万ポンド以下ということはない。


翼の生えたトカゲの本体自体の大きさは、ガキの頃に博物館で見たティラノサウルスの全身骨格くらいだと思われる。


「おいおい!カトゥーンかよ、全く。」


その大きさよりも、ティラノサウルスの腕が巨大な翼に替わり、背中に羽毛が生えたような、そのドラゴンとしか思えない姿に呆れながらも、そいつとの遭遇に俺の心は躍っていた。



 数百ヤードほど離れた場所で、ドラゴンが大きなイノシシを仕留めたみたいなので観察する為に俺は近寄っていく。


登り難いものの高さ60フィート辺りで二股に分かれていて観察するのに適した樹木を見つけたので、そこからドラゴンがイノシシを食らっている光景を見ているのだが、あのイノシシも大きさがおかしい。


大学生の頃に親父と一緒に行った狩猟で仕留めた猪は、体長約5フィート、体重約350ポンドだったのだが、それでも地元のテレビニュースで取り上げられたほどの大物だった。


最初はドラゴンの姿に驚いて気にしてなかったが、あのイノシシの体長は18フィート以上あるので、アジア象なみの大きさだと思われる。


その巨体にも関わらずあのイノシシは、時速25マイル以上の速さで追いかけるドラゴンから、同じくらいの速さで逃げ回っていたのだから、実に興味深い。


 ドラゴンが食事をしている場所の奥の方をふと見上げると、地平線までジャングルが続いている様に見えたので、その他の方角を双眼鏡の最大ズームで眺め回してみると、南西方向に小さな五円玉みたいな形状のモノを発見した。


「街か?」


人間が住んでいる街だとは思うが、もしかしたら誰も住んでいない廃墟や遺跡かもしれない。


何れにしても、ここからだと最低でも30マイル以上は離れている。


昔、祖父から「熊の縄張りは36平方マイルくらいある」と教えられた記憶があるが、あのドラゴンの縄張りなら最低でもその10倍くらいは広いと予想できる。


その範囲内なら、流石にあのドラゴンほどの生物は存在しない筈だし、ここからあの街までの距離から考えると恐らく多くとも2~3匹くらいしかあのドラゴンには出会さない可能性が高い。


 ドラゴンの身体を見ていて俺が思い出したのは、任務中に大きな鰐や犀に突然襲われて反撃した際に、角度が悪かったせいで、頭部に命中させたスラッグ弾を撥じかれた嫌な記憶である。


「問題は、あのドラゴンの強度だな。」


体力の残っている内に、犀よりも分厚そうなあのドラゴンの頭蓋骨や、鰐よりも分厚い鱗がどれだけ頑丈なのかを調べる事にした。


現在俺が所持している武器は、支給品のハンドガン、ショットガン装着済みアサルトライフル、銃剣、ナイフ、それと鹵獲品のグレネード・ランチャー装着済みアサルトライフルだけである。


ライフル弾の口径が違うのが残念だが、支給品については予備の弾薬や食料などが背嚢に入っている。


「まぁ、これだけの弾が残っていれば、ドラゴンの1匹くらい何とかなるだろ。」



 周囲の索敵を行った後に樹上から地面にゆっくりと降りると、食事中のドラゴンへ向かって俺は慎重に近づいていった。


ドラゴンから数十ヤードほど離れた場所に生えている大木の影から覗きみると、分かってはいた事だが圧迫感が凄まじい。


俺はアサルトライフルを3点バーストに切り替えると、ドラゴンの後方から頭部を狙って引き金を引いた。


「!?」


水面に沢山の小石を投げ込んだ時に出来る波紋みたいなモノが、後頭部の真後ろの空間に浮かんだ後に、ほんの少しだけ血飛沫が飛び、ドラゴンは鼻先から地面に激突した。


「まったく、とんでもねえ場所に来ちまったなぁ。イカれてるとしか思えねえぜ。」


7.62×51mm NATO弾を30発も打ち込んだのに、ドラゴンは直ぐ様起き上がると、俺に向けて咆哮をあげ、突撃してきた。


「だが、面白い。ヤったろうじゃねえか!」


俺はドラゴンと8ヤードくらいの距離を保ちながら、正面からは鼻の穴を狙い撃ち、側面からは眼孔を狙い撃ち続けた。


「ファ○クしてやるぜ、ベイベー!」


ドラゴンが再び咆哮をあげようと大口を開いたところへ、グレネード・ランチャーを打ち込んでやった。


流石に口の中にまでは偏向シールドみたいなものはない様で、最期は呆気無く、その巨体を横たえた。


「これって、食えるのか?」



<続く>

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ