-不変の祈り-
小説を投稿するのは今回が初めてなので誤字脱字などの指摘、アドバイスなどして下さると助かります。
感想なども待ってます、よろしくお願いします。
朱に染まる空。夕方になると決まって流れる曲を聞きながら、七嶋七織、南條衣織、厳島雅人の三人は七織を間に並んで歩いていた。今は、夏休みの中頃に位置づけられている登校日の帰り道だ。
「七織先輩。この後何か用事あります?」
言葉から分かる通り、七織にとっての後輩に当たる、衣織がそう尋ねてきた。
衣織は所謂美少女と呼ばれる存在で、腰まであるシルクのような黒髪、陶器の様な艶のある肌、ヴィクトリアンドールの様な顔立ち。まるで神様によってオーダーメイドされたかのような少女である。
「いや、特にねーな。何、どっか行きたいとこあんの?」
そう答える七織の方といえば、こちらは平均よりも高い背に、鍛えられた身体によって少年と言うには些か精悍に過ぎる容貌である。
「いえ、そういう訳ではないんですが。明日から学校もまた夏休みですし、用事が無いなら遊んで帰りませんか」
「おー、いいっすね、ぜひ遊んで帰りましょう! 先輩」
衣織の言葉に賛同するのは、この場にいる最後の一人、雅人である。
こちらの少年は正に少年と呼ぶにふさわしく、幼さを残した容姿をしている。纏っている雰囲気は小生意気というか、やんちゃな子供といった感じだ。
「そうだな、せっかくだし遊んで帰るか。どこに行きたい?」
「う~ん、そうですね。無難にゲームセンターとかはどうですか」
「ゲーセン、いいっすね。そうしましょうよ先輩!」
元気よく言う雅人の声に鬱陶しそうな顔をして衣織が反駁する。
「うるさいわね、もう少し静かに話せないのかしら。そもそも、私は七織先輩を誘ったのであって、あなたを誘ったつもりは無いのだけれど」
「なっ、俺が誘われていないだと……!? はっ、馬鹿な。先輩あるところにこの俺あり、だ。お前に誘われなくとも付いて行くに決まってるだろ」
「……気持ち悪い。七織先輩に対する忠誠心は買っているけれど、そこまでいくとストーカーね。男のあなたがすると犯罪よ」
まるで汚物でも見たかのような顔をして、さも当然といった体で話す衣織に、七織以外に対しては粗暴な態度を取る雅人。そんな二人に振り回され、毎回のようにこの二人の諍いを止める羽目にあう、というのがこの三人の日常である。
「落ち着け二人共。雅人は直ぐに喧嘩腰になるのをやめろ。それと衣織、ストーカーは女がやっても犯罪だ」
「い、いえ、七織先輩。そういうつもりで言ったわけではないんですけど……」
困惑した様子の衣織に、七織に窘めらたことで少し気落ちした雅人。当の七織は、衣織の言葉に対して首をかしげている。
「じゃあ、どういうつもりで言ったんだ?」
そう七織が尋ねると、衣織は、はぁ、と一つため息を吐き、何でもないですと落胆を露わに呟いた。雅人は雅人でやれやれといった感じに肩をすくめて首を横に振っている。
まるで、自分が悪者にでもなったかのような居心地の悪さを感じた七織は、何だかよく分からないがこの状況は自分に不利だと悟り、早急に話題を変えることを決意した。この二人は、普段は仲が悪いくせにふとした折につけてこうして呉越同舟するかのように七織を責めるのだ。
「まぁ、あれだ、時間がもったいないしさっさと行こうぜ」
「……誤魔化すのが随分と下手ですけど、今回は騙されてあげます」
「先輩、ダメダメっすね。今回は完全に先輩が悪いんで俺もかばえないっすわ」
こいつらは、普段仲が悪いのは俺を責めるためなのではないか、とほんの少し思った。まったく、これでは自分は体の良いピエロではないか。第一、今のやりとりに何らかの“意味”があったのだとしても、あれだけで理解しろなどというのはどだい無理な話なのだ。かといってそれをここで確かめるのは憚れる。結局は当分の間、こいつらに振り回されることになるのだろう。しかし、そんな状況を嫌うでもなく、むしろ楽しんでいるというのだからまったく救われない。
そう考え、口元に笑みを浮かべる七織。そんな七織を見て、微妙そうな顔をする二人。それは失礼なのではないか、と思うものの、なるほど確かに人から見たら今の自分は罵倒された上で笑っているという完全無欠の変態でしかないのだから仕方がない。
好きだったのだ。気難しい猫の様で、平気な顔して毒を吐き、あまつさえ微笑みを浮かべる可愛げがないくせに可愛い後輩と、元気一杯の犬の様で、自分を慕ってくれて、調子に乗り過ぎたり、普段はバカなくせに妙な所で鋭かったりする後輩。この二人と共に過ごす時間、毎日の日々が大好きだったのだ。振り回されたり、時には喧嘩のすることもあったけれど、それさえも自分にとっては楽しかった。
故に、七織は願う。こんな日々がずっと続きますようにと。
叶うはずもない願いを、願う。永遠など、変わらないものなどどこにもなく、終わりや始まりはいつだって突然だ。後悔のないように生きていきたくても、それはとても難しい事で、誰もが後悔を抱えて生きている。この瞬間のこともいつかきっと後悔する日が来るのだろう。変化を恐れて、安寧を享受し、こんな関係を続けていられたら幸せだ、なんて。それはどこもでも独りよがりで、とても残酷な選択だった。
――あぁ、これは始まりだ、終わりへと続く物語の始まりだ。