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佳子と本屋を後にした後、私たちは一緒に帰宅した。
ここで「ん?」と首を傾げる人もいるだろう。私たちは同じ屋根の下に住まう姉妹なのである。義理の、が付くがまあ今となってはだいぶ慣れた。
私は19歳。佳子は17歳である。
ご覧の通り2歳違いなのだが、姉である私には威厳もへったくれもない。なぜなら私は過保護な妹に大学からの帰り道送迎してもらっているようなものであるのだから。逆ならまだしも、姉が妹に送られるってどうよ。と思わないわけでもない。
どういうわけか妹は私に固執している。それはもう盛大に。初めはこれが俗に言うシスコンかと思ったものだがどうやら違うらしい。
佳子は過去に、俗にオネエな格好をしている義父のせいでとても大変な目にあったらしい。これは後に母が教えてくれたのだが、一般的に顔の整っている義父は女装をするとそれはもう見目麗しい美女へと変貌する。そこで義父の職場の客が義父を女性と思って惚れ込んでしまったというのだ。
なにそのとんでもない話。と私も聞かされた当初は目が点になった。
もちろん義父に惚れ込んだのは女性、ではなく男性だという。義父もこれを知った当初「ヤローに恋愛対象で好かれたって嬉しかない」と、罵ったそうである。
男性は義父が同性であると何度も言ったにも関わらずそれを冗談としか受け取らず、その猛烈アタックは3ヶ月に渡って続いた。そして男性はまったくなびくことのない義父にしびれを切らし、実力行使を行ったというのだ。どうやら佳子を小学校まで迎えに行く姿を偶然目撃されていたらしい。
バツイチということは男性は知っていたらしいのだが、当時の義父は24歳。子持ちとまでは思っていなかったらしい。
そこで諦めてくれていれば良かったものを、男性はこれはチャンスだと思ったらしい。
佳子を利用し、交際を取り決めようとしたらしい。詳しいことは誰も教えてはくれないが、そこで誘拐及び監禁までとはいかずとも軟禁されたのではないのだろうかと私は予測をたてた。おそらくは父の迎えに来れない日の下校中を狙って。
そう考えれば妹が私を迎えに来ることにも繋がる。が、私に異様に固執するにはいささか謎ではあるが。
この度義父の娘になることで似たようなことが私にも起きることがないようにとの配慮だと、私は無理矢理結論付た。
そう考えれば佳子のこの配慮も無下にはできなかった。
しかし私は後に知ることになった。佳子の過保護具合はそこからくるものだけだはなかったことを。
「きょーの晩御飯はなーにかな」
「シチューがいいな…」
「えー、この前もシチューだったよー」
「美味しいからいいの」
「たしかにママのシチューは美味しいけどー…」
じゃあいいじゃない、と言い切った私にまたも口を膨らます佳子。
そんなやり取りを玄関先でしていれば背後から声をかけられた。
「んもー、なあにやってんのアンタたち。玄関先で立ち止まらないの。それに今日の晩御飯は炊き込みご飯に決まってるわ!」
「あ!パパ」
「義父さん。今日は早かったんだ?」
どうして?と首を傾げたら義父はいささか疲れた顔を見せた。
「なんだか面倒な案件がうちん所に舞い込んできたみたいでね、今日は早く帰れる代わりに明日は残業すはめになりそうなの」
「そんなこと言ってるけど、逆でしょー!明日残響する代わりに、今日は早く帰らせろって伊坂さんに行ったんでしょ」
伊坂さんとは義父の上司兼仕事上のパートナーである。
うわあ。伊坂さん可哀想。義父に逆らえれないのね。
佳子の背後でまだ見ぬ伊坂さんに同情を飛ばしてると矛先が私へと向いた。何故。
「そんな事より芽依ちゃん、昔幼馴染がいたって聞いたんだけど」
しかも振られた会話は、今の私にはとても苦い思い出である彼のことであった。さっきの本屋での雑誌の事もあるけど、今日という今日にこんなに関連した会話ばかりが私の耳に入るのは何故なのか。
一気に急降下する私のテンションにいち早く気付いたのは佳子だった。メーイ??どうしたの?と声を掛けてくるが私にはそれに答える余裕がない。
「…確かにいたけどどうして?」
「あーうん。確認なんだけどそれってメンズ雑誌で最近良く活躍してる薄桃色の髪の子で合ってる?」
それって…と、なにかに勘付いた佳子は顎下にふむと、手を当てる。この子の中では今頃私が雑誌を見て不機嫌になった理由の推測でもしているのだろう。
「あってるよーーー」
ーーーでもどうして?
ことばを発する前に義父はありがとねと、私の頭に手を置いて先にそくさくと家の中へと入って行った。
その場に残された私達は顔を見合わせる。
「……」
「……」
「…中、入ろっか」
「うん」
次回は時間軸がすっとぶ予定←
と、追記として小説の説明書きの主人公の現在年齢を15歳から19歳へと修正。