第2話 連合政府
【連合政府首都ティトシティ ヴォルド宮 連合政府上院議会】
「ったく、ティワードはまだか?」
俺は円卓に足を乗せ、椅子にふんぞり返りながら連合政府のグランド・リーダーさんを待っていた。大陸西部に出来た臨時政府の件で話があるらしい。
この世界には3つの勢力がある。まず1つが国際政府系の勢力。パトラーの率いる臨時政府もこれに区分される。元々、1800年もの間、世界を統治していたのは国際政府だった。
もう1つが女将軍サファティ率いるファンタジア王国勢力。こちらは最近、徴兵や物資回収を行い軍事力を上げるのに必死になっている。正直、末期症状だな。
そして、俺たち連合政府勢力。6つの大企業と俺のバトル・ラインを支持母体とした新興勢力だ。……パトラーのおかげで企業は残り1つとなった。それが――
「行儀のない男ね。さすが、野蛮な国の王……」
俺の正面に座る若い女が言う。オレンジ色の髪の毛に、同色の瞳をした女――連合政府リーダーの1人、ヒライルーだ。彼女の率いるビリオン=レナトゥス社が最後に残った1つ。
「おー、おー、ヒライルーじゃねぇか。姉貴はいい女だったぞぉ? 夜は可愛い声で泣くからなぁ。また一緒になりてぇよ。なんてな、もう死んだか」
「……姉上がお前のような狂犬の下半身をお世話するなんて、夢の見過ぎよ。真っ黒な汚い夢の、ね。あなたはアヴァナプタとかいうメス豚と寝てればいいのよ」
ヒライルーの言葉に、俺の右隣に座っていた黒髪の女――アヴァナプタの目つきが鋭くなる。膝の上に乗せられた手がぎゅっと握られる。
「オイオイ、うちの猫を怒らせると、虎になってお前の喉を切り裂くぞ」
「どうぞご勝手に。私はビリオン=レナトゥス社のリーダー。すなわち、この連合政府最大の支持者。私を殺せば、そこの猫とやらは裸にされて拷問死でしょうね」
ヒライルーは高らかに笑う。21歳のガキにしちゃ口が悪りィな。本気で斬り裂きたくなってくるわ。とはいえ、彼女は連合政府を支えるビリオン=レナトゥスの総帥。消すと後々厄介になる。
しばらくすると、議会場の扉が開き、2体の鋼の鎧をまとった騎士型ロボット――バトル=パラディンを引き連れ、1人の男性が入ってくる。連合政府のグランド・リーダーだ。
「諸君、お待たせして申し訳ない」
そう言いながら、ティワードもまた椅子に座る。これで、この円卓に付くのは8人。
「諸君も知っているであろうが、遂に大陸西部を制圧したパトラー=オイジュスが臨時政府を設立した。彼女の立てた臨時政府には、国際政府軍の兵団10つが加わり、強大な力を持っておる」
だいぶ強力だな。国際政府兵団は全部で15だ。その内、10つが臨時政府に加わったのか。こうなって来ると、国際政府より厄介だ。
……パトラーってのは中々よさそうな女だ。少なくとも、ヒライルーよりかはいいと思うわ。まぁ、ヒライルーのような気の強い女を屈服させるのも、面白そうだが。
「3年に渡って我らは国際政府と戦ってきたが、今や臨時政府、ファンタジア王国と新興国家の姿もある。だが、我らの夢は変わらぬ」
連合政府による世界の支配、か。かつては破竹の勢いがあったのに、今や風前の灯状態だ。ビリオン=レナトゥスが支持を辞めたら、間違いなくこの国は亡ぶだろう。
「そこで、近年、徴兵を繰り返し、勢力を徐々に伸ばすファンタジア王国から攻撃しようと思うが、諸君の考えはどうかな?」
「反対ですね」
ビリオン=レナトゥスのヒライルーが真っ先に意見を出す。おっ? 俺と同じ立場か。実は俺もファンタジア王国と戦うのは反対だった。
「今の臨時政府が大陸西部を制圧した時に、我が軍は大幅に兵力を失っています。何百隻もの軍艦や上陸艦、何百万体もの戦闘用ロボットを彼らに奪われています。圧倒的に兵力が足りません」
「ふむ……」
性格の捻じ曲がった女の意見。確かに一理あるな。臨時政府による制圧作戦だけでなく、これまでの戦いで多くの兵力を失っていた。今の連合政府に他国を攻めるほど軍事力はない。
その後も、様々な意見が出されたが、結局、いい意見はなかった。連合政府上院議会の出した結論は、“しばらくの間、軍を動かさない”だった。戦争の休憩ってヤツか?
<<統治機構>>
【連合政府】
◆3年前に台頭し、行政・司法・立法において腐敗した国際政府に変わって世界の統治を狙う。その統治機構の実態は強者優先。絶対的な市場主義・資本主義を掲げ、弱者を奴隷とする。
<<連合政府支持企業と連合政府リーダー>>
◆製薬会社「テトラル」/ララーベル(死亡)
「夢Ⅰ」で組織崩壊。子どもを実験台にした製薬会社。
◆軍事産業企業「ビリオン」/コメット(死亡)
「夢Ⅱ」で組織崩壊。ロボットの女王と呼ばれたコメットに率いられていた。コメットの妹にヒライルーがいる。
◆金融連盟「ギルティニア」/パラックル(死亡)
「夢Ⅲ」で組織崩壊。リーダーのパラックルは仲間を売って、莫大な利益を得ようとしたが、事前に発覚し、殺害された。
◆次世代科学技術開発企業「ナノテクノミア」/メディデント(死亡)
「夢Ⅳ」で組織崩壊。人工知能や新型兵器を造り出す企業。少年セネイシア率いるクローン兵に裏切られ、組織は崩壊。メディデントも殺害された。
◆世界銀行「マネー・インフィニティ」/ディランス(死亡)
「夢Ⅴ」で組織崩壊。貪欲な連合政府リーダー・ディランスの行動によって半ば自滅した。
◆製薬連盟「ヒーラーズ・グループ」/ヴァイス(死亡)
組織としては残っているが、その実態はすでに“製薬連盟”ではない。ヴァイス率いる「ヒーラーズ・グループ」はセネイシアのクーデターによって崩壊。彼の息子、セネイシア率いる「ヒーラーズ・グループ」は、事実上、別の組織である。
ちなみに、セネイシアは連合政府リーダーではない。
◆軍事国家「バトル・ライン」/ホフェット
パトラーたちのいるコスーム大陸(中央大陸)から見て南方にあるアポカリプス大陸北部を支配する強大な軍事国家。実は隠された強大な兵団が存在する。
◆総合企業「ビリオン=レナトゥス」/ヒライルー
最大規模を誇っていた「ビリオン」社の副リーダー・ヒライルーによって設立された新興企業。「ビリオン」をベースに、「ヒーラーズ・グループ」・「テトラル」・「ギルティニア」・「ナノテクノミア」・「マネー・インフィニティ」を完全に統合した企業。