第20話 シェアシティ
かつて、世界は平和だったという。
そう、3年前までは平和であった。
だが、今は違う。
今は動乱の時代だ。
なぜ、動乱の時代は始まったのか。
今は過ぎ去ったあの安定の時代。
そこに答えがある――
【ファンタジア州中部 シェアシティ 会議室】
ファンタジア州の中部にあるシェアシティ。臨時政府とファンタジア王国の国境だ。クロント州制圧戦から1週間。私たちはこの都市にいた。
「首都ファンタジアシティへ攻め込むルートは全部で3つある」
そう言ってシールド・スクリーンを使い、説明をするのはクラスタ。この会議室にいるのは、私とクラスタ、ホーガム将軍、スロイディア将軍の4人だった(ルーシー将軍はコマンダー・ヴィクターと一緒に、クロントシティにいる)。
シールド・スクリーンに映し出されているが、首都ファンタジアシティはここから北西にある。そこに行くためのルートは3つ(空飛んでけばまた話が違ってくるケド)。
まず、王道ともいえるのが、東部ルート。ここから北上し、降水都市プレリアシティにも通じるファンタジア・プレリア=メイン・ラインに出る。そこから西進し、ファンタジアへと向かう。
一番近い道となるのが、中部ルート。ここからほぼ直進的に首都ファンタジアシティへと向かう。ただ、サファティの想定ルートといれば、それまでだ。事実、ファンタジア特殊軍の将兵3万人が待ち構えている。
やや遠回りになるが、西部ルートもある。ここから西進し、大きく迂回して首都ファンタジアシティへと向かう。
一番の問題点はどのルートも歩いていくと、かなり時間がかかることだ。例えば、中部ルートから行くと見せかけて西部ルートを進んでも、すぐにファンタジアの軍勢が先回りするだろう。
飛空艇で首都まで行くと、確実に首都決戦となる。ファンタジア軍VS臨時政府軍の戦いが首都市街地で行われる。すると、かなり多くの市民が巻き込まれ、死ぬことになる。私はそれだけは避けたかった。
……かと言って3方向から進むと、各方面の兵力が少なくなる。臨時政府の軍勢は、とにかく人手不足。今現在、動かせる兵力は20万人程度。
臨時政府首都ポートシティもそうだけど、私たちの本来の領土は大陸西部・中部(ファンタジア王国は南東部)だ。
臨時政府特殊軍全軍となると250万人以上はいるケド、その大部分が大陸西部の復興・防衛に回している。こっちにまで人員を割く余裕が全くない。
そもそも、わざわざ臨時政府が設置された目的は、連合軍との戦争によって徹底的に破壊された大陸西部・中部の7州復興だ。戦争するためじゃない。
ところが、国際政府は臨時政府設置と引き換えに、軍事力が急速に増強され、脅威が増すファンタジア王国を攻めろと条件を付けてきた。
だから、今こうやって戦っている。簡単な話、これは国際政府と連合政府の代理戦争だ(そういえば、また連合政府はファンタジア王国に何か送ったらしい)。
「――そこで、ジェルクス将軍はプレリアシティから東部ルートを通って、ホーガム将軍はここから中部ルートを通って攻め込むフリをしてくれ」
おーっとと、また話を聞いてなかったぞ。攻め込むフリってなんだっ?
「サファティとファンタジア軍が中部・東部ルートからの攻撃を警戒している間に、私たちが西部ルートから首都ファンタジアシティに向かう」
私たち? まぁ、たぶん、私とクラスタだな。
クロント城でサファシアがサファティの身体に細工をしたとか言っていた。またナイトメアのときのような目に合いたくはないな……
会議が終わると、私たちは会議室から出ていく。1週間前、クロント城で重症を負ったケド、それもだいぶ治ってきた(魔法による治療が功を奏したようだ)。
西部ルートから首都ファンタジアシティへ行くとなると、3週間ぐらいかかる。その間に、この前のケガも完治すると思う(まだ身体が所々、痛む)。
会議から3日後、ジェルクス将軍は降水都市プレリアシティに戻り、臨時政府軍7万人を収集。攻撃準備にかかった。ホーガム将軍はシェアシティに、同じように7万人の軍勢を集め、攻撃準備を始める。一方、私とクラスタはシェアシティから西部ルートを通って首都ファンタジアシティへと出発した。
首都ファンタジアシティに上手く潜り込み、サファティを倒せば、この代理戦争は幕を閉じる。また、ラグナロク大戦そのものの終わりも近くなる。この戦いは決して無駄じゃない。
◆◇◆
【連合政府首都ティトシティ ヴォルド宮】
スーツを着た男性――ローリングが私のところにやってくる。彼は私の部下にして、ホフェットと同じ連合政府リーダーの1人。
「ヒライルー閣下、お喜びください。パトラーとクラスタは西部ルートより首都ファンタジアシティへと向かいました」
私はローリングの報告にニヤリと笑う。これで上手くいきそうだ。私の狙いはパトラー・クラスタがサファティと直接戦うこと。集団同士の戦いなんか望んでいなかった。これであのクスリのデータが得られる。
「フフフ、良好な戦闘データが得られるといいわね……」
私はイスに座りながら、薄暗い部屋で呟くように言った。私の視線の先にあるのは、手に持った小型端末。生物兵器アサシンとイェーガーの姿が映し出されていた。
アサシンもイェーガーも人型トカゲだ。鋭い爪でターゲットを始末する生き物。役に立たない劣化クローンに無理やり産ませた生物兵器。1体1体が少し高価なのも、特徴の1つだ。
「私たちはいいわねぇ。現地で戦う人や巻き込まれる人は大変ね」
「ほう、ヒライルー閣下がそのようなことをおっしゃるなんて…… 明日は何が降るというのですかな、ははははっ」




