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黒い夢と白い夢Ⅴ ――暗躍の悪夢――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1章 †始点† ――臨時政府首都ポートシティ――
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第1話 ファンタジア王国と臨時政府

 動乱の世界。


 それは苦痛に満ちた世界だ。


 命が散り果て、血が流れていく。


 愛する者を失い、悲しむ間もなく、次の戦いがやってくる。


 世界は、黒き夢で覆われていた。



 ――だが、明けない夜は存在しない。


 終わらないモノはない。


 どんなモノにも、終わりがやってくる――。


































 【幻想都市ファンタジアシティ】


 エメラルドグリーンやサファイアのクリスタルで多くの建物が造られたファンタジアシティ。美しい都だ。私はその都市の中心部にある巨大な建物の城壁から、街の方を見ていた。

 何百、何千人もの市民がメイン・ストリートの沿道に集まっている。多くの市民が、ファンタジア王国の国旗を手にし、それを激しく振っていた。


「ファンタジア王国万歳ーっ!!」

「ファンタジアの偉大なる衛士に祝福を!」

「クリスタルの恵みをーっ!」


 メイン・ストリートの中央を歩くのは、白色をした布製の服を身にまとい、クリスタルで造られた赤いヘッド・アーマーを被る兵士たち。メイン・ストリートの沿道から、大勢の市民が歓声を上げ、旗を振ってファンタジア王国の為に徴兵された兵士たちを送り出す。


「サファティ=ファンタジア閣下ーっ!」

「見ろよ、サファティ閣下もお見送りなさっているぞ」

「おお、なんと美しい方だ……」


 私は涼しい顔で、それでもどこか笑みを浮かべつつ、彼らに手をそっと振る。みんないいヤツらだ。市民も兵士も、な。

 ……あの兵士たち、何人戻って来るだろうな? あの兵士たちが我が国――ファンタジア王国の為に死んだら、次はお前たちが徴兵される。名誉なことだぞ? フフッ……。

 ファンタジア王国は僅か1年ほど前に出来た新興国家だ。大陸南東部を支配下に置くクリスタルの王国。この国は美しい。街も人も。


「サファティ閣下、どうか遠征する名誉な衛士に加護をーっ!」

「いつまでも美しいこの国をお守りください!」

「敵国にクリスタルの怒りが下りますよう……」


 みんないいヤツらだ。全て美しい。――私にとって都合のいいヤツらだ。私から見て美しい国だ。

 気が付けば徴兵された兵士たちは、その最後の隊が、私とファンタジア城に背を見せていた。さて、どれだけの兵士が戻って来るだろうな? せいぜい、私と国の為に死んでくれ。クリスタルの恵みとやらがあるように祈っといてやるよ。心の中でな……。


「サファティ閣下ーっ!」

「ファンタジア王国万歳ーっ!」

「世界一のクリスタル王国万歳ーっ!!」




◆◇◆



 【臨時政府首都ポートシティ】


 大陸南西部――サファティの支配するファンタジア王国首都ファンタジアシティからは遠く離れた臨時政府首都ポートシティ。この都市は商業が盛んな都市として繁栄していた。大勢の人口を抱え、都市として成長を続けていた。


「パトラー長官」

「……あ、はい、何ですか?」


 デスクの前から声をかけてきたフェスター議長に、私は返事する。私は新たに設立された臨時政府の長官だが、任命されてまだ日が浅い(僅か3日前に正式に設立された)。この生活に慣れるのは大変そうだ。


「国際政府マグフェルト総統の要請、どう致しますか?」

「そうだね……」

「問題ないさ」


 私たちの話に入ってくるのは、私のデスクの斜め前に置かれた椅子に座る女性軍人クラスタ。

 元々、私もフェスター議長もクラスタも国際政府の人間だった。そんな私たちが最近になって、国際政府の属国として臨時政府を設立した。法的な力関係でいえば、国際政府の方が上だ。


「マグフェルトの命令は、“臨時政府を設立するなら、ファンタジア王国を攻撃しろ”、だ」

「…………」


 ファンタジア王国とは戦争中だ。特にファンタジア王国の実質的なリーダーであるサファティは私を怨んでいる。いつか、必ず攻めてくる。私を殺すために、戦争を吹っ掛けるつもりだ。


「ファンタジア王国とも戦わなきゃダメなのか……?」


 私個人としては戦争はしたくない。これまで、私は政府軍人として幾つもの戦場で戦ってきた。その度に多くの仲間や市民が死んでいった。正直、これ以上は……


「……ファンタジアのサファティはパトラー、お前を怨んでいる。それに、彼女は市民を道具程度にしか考えていない。苦しむファンタジアの――」

「正義の戦争、とでも?」


 私はデスクに両肘を付き、手を組みながら言う(こんな仕草してると、政治家のおじさんみたいに見えるかも……。私は女性だし、まだ21歳だ)。


「正義の戦争なんてないさ。どんな形であれ、人が苦しむのだからな」


 クラスタは脚と腕を組みながら言う。彼女は臨時政府の軍事総督(筆頭将軍)だ。戦いになったら、彼女が兵団を率いる事になるだろう。彼女とて、戦争で故郷を焼かれている。


「私は人を殺す。人を不幸にする。そして、この泥沼化した戦争を終わらせる。それだけだ」

「クラスタ……」


 私も分かっていた。ファンタジア王国は絶対に和平をしない。以前、国際政府も和平を考え、何度も特使を派遣した。……みんな公開処刑され、1人も帰ってこなかった。


「フェスター議長、マグフェルトには承諾の返事を」

「……よろしいのですか?」


 私は無言で頷く。フェスター議長は何も言わず、さっと頭を下げて臨時政府長官室から去って行く。

 ……また、戦いだ。犠牲と流血を最小に。そして、戦いを終わらせよう――

  <<統治機構>>


 【国際政府】


◆1800年もの間、世界を統治してきた統治機構。パトラー、クラスタ、サファティもこの国際政府の軍人だった。内政は腐敗が進み、汚職と賄賂が横行している。


◇マグフェルト(男性/49歳)

 国際政府の総統リーダー。臨時政府設置を許可した。



 【臨時政府】


◆数日前に正式に設置された新しい統治機構。


◇パトラー=オイジュス(女性/21歳)

 臨時政府の長官。


◇クラスタ(女性/26歳)

 臨時政府の軍事総督(筆頭将軍)。


◇フェスター(男性/51歳)

 臨時政府議会の議長

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