第17話 ナイトメア
※パトラー視点です。
私は大きく飛んで後方に下がる。テラ・クローンがどの程度の実力か、分かっていた。クローン兵の最上位といっても、もはや兵としてのレベルを遥かに超えている。
「うぁぁぁぁッ!」
雄叫びを上げるナイトメア。彼女は(もはや人型をした怪物にすぎないが)、こっちに走ってくる。鋭く長い爪で私を刺し殺す気だろう。
私は玉座の背後に隠れる。ナイトメアは構わず玉座ごと突き刺す。強烈な爪は、宝石や黄金で造られた玉座の背もたれを砕き貫く。私は頬にかすりながらも、なんとか避ける。血が右頬を伝う。
「おおお! おおおおッ!」
狂気的な声を上げながら私を睨むナイトメア。私はサブマシンガンの銃口を彼女に向け、発砲する。何十発もの銃弾が怪物を襲う。
ナイトメアは飛んでくる銃弾を避けず、全弾を身体で受ける。銃弾を受けながら走ってくる。私は銃撃をやめ、走って部屋内を逃げる。
「ビリオン=レナトゥスはアレを量産すれば世界を制圧できるんじゃないかなっ!?」
私は魔法発生装置を内蔵した特殊ハンドグローブを振る。白色をした魔法弾が飛び、怪物の胸に当たると同時に爆発を起こす。普通の人間なら、あれを喰らうと弾き飛ばされる。最悪、体内の骨が砕けて死に至る。
ところが、ナイトメアには全く効いてなかった。怯むことさえなかった。そのまま、こっちに走ってくる。
「クッ!」
私のお腹を貫こうとする槍のような爪。私はそれをギリギリ避ける。貫かれそうになると同時に身を屈め、ナイトメアの足元に転がり込む。
「喰らえっ!」
ナイトメアの足元から、ソイツに向けて手をかざす。電撃の槍が、ナイトメアの下腹部から首元にかけて貫く。更に追撃で衝撃弾も飛ばす。至近距離からの衝撃弾。破裂音と共に私自身もその場から吹き飛ばされる。身体が砕けそうな衝撃が走る。
「カッ、ハ――」
何度も床を転げまわる私の身体。ナイトメアから離れる。……あの至近距離からの攻撃にも、ナイトメアはビクともしてなかった。自慢の爪で身体を支え、片膝を付いただけだ。まだ生きている。
私は再び立ち上がらぬ間に、何度もハンドグローブを振る。火炎弾や電撃弾、電撃弾、衝撃弾、破壊弾といった魔法弾、魔法攻撃がさく裂する。ナイトメアはそれらの攻撃を全て受け止める。爆音や電撃音が鳴り響き、部屋全体が何度も揺れ、砂埃が舞う。
「…………!」
砂煙から走ってくる大きな身体をした怪物。あれだけの攻撃でも生きているのが信じられない。こうなったら、倒れるまで攻撃あるのみ!
私は懐からハンドボムを取り出し、ピンを抜く。それを勢いよく投げる。ハンドボムは床に当たり、ナイトメアの胸元にはじき返る。その途端、それは爆発する。
続けてさっきと同じように魔法弾や魔法攻撃を連続して起こす。それぞれの威力を倍近くまで上げ、数も多くする。何色もの魔法弾が無数に飛んでいく。着弾と同時に爆発を起こし、あらゆる効果を発生させる。
「うぉぉぉッ!」
黒煙に消えたナイトメアが再び走ってくる。爪が砕けてはいるが、まだ生きている。どうなっているんだ……!?
だが、爪は砕けている。もう攻撃方法はないハズだ。こうなったらコッチのもの。私はハンドグローブを使い、右腕にエネルギーを溜めていく。黒いエネルギーが集まっていく。これは自身の精気を使って放つ魔法弾。つまり、使い過ぎるとその先に待つのは――死!
「これで最後だ!」
接近してくるナイトメア。右腕全体が黒と青のエネルギーに覆われる。もう充分だ。消えろ! 私は勢いよく右腕をナイトメアに向かって突きだす。
槍のような黒と青の魔法弾――ラグナロク・キャノンが飛ぶ。飛んでいったと同時に私は力を失い、がっくりとその場に膝をつく。
ラグナロク・キャノンは黒い尾を引きながら、ナイトメアの腹部に突っ込む。その瞬間、今までにない爆発が起こる。その爆発の衝撃で私の身体も吹き飛ばされる。部屋の窓ガラスが砕け散る。天井の大きなガラスも砕ける。
「クッ……!」
あまりに強烈なエネルギー派に身体を引き裂かれそうになりながらも、私はなんとか床に無事に落ちることができた。下手したから外にまで弾き飛ばされていたかも知れない。
一方、ナイトメアは上半身と下半身を引き裂かれていた。下半身はバラバラになり、上半身も右腕が千切れ飛んでいた。頭部も左半分がなくなっていた。左脇腹も抉れていた。
上半身が私の近くに落ちてくる。私は激しい痛みが襲う中、フラフラと立ち上がる。さっきの衝撃で大きく鋭いガラス片が、右脚を貫いていた……。
「さ、さすがに、もう再起はムリそうだな」
私は立ち去ろうとするが、あまりの痛みと疲労で意識を失いそうになる。フラリとその場に膝を付く。クッ、これじゃ帰れない……
そのときだった。背後で何かが裂ける音がした。それと同時に、何かがこっちへ伸びてきた。
「な、なにが……。――――!」
死んだと思っていたナイトメアの左腕が裂け、そこからあの捕食触手が伸びていた。木の実のように膨らんだ触手の先端が裂け、それが私の右肩に噛み付いた。しかも、千切れた右腕からも捕食触手は伸びてきて、それは私の左脚に噛み付く。
「お前、道ずれ。終わらない悪夢、味わう――」
鋭い牙で噛み付かれた右肩と左脚。ガラス片の刺さった右脚。3箇所からおびただしい量の血がどくどくと流れ出る。
あまりに強い痛みが、これまでの戦闘とさっきの攻撃の疲労でボロボロになった身体を駆け巡る。消えていく意識。終わらない悪夢――死が私に歩み寄ってきた。