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黒い夢と白い夢Ⅴ ――暗躍の悪夢――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第3章 †理由† ――クロント州――
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第15話 緊急記録

※パトラー視点です。

 【クロント城 廊下】


 武器庫から離れた私はクロント城の廊下を歩いていた。電力システムがテラ・クローンによって破壊され、明かりはほとんどない。窓から入ってくる月明かりと炎ぐらいだ。


「酷いな……」


 あちこちでクローン兵が殺害されている。胴体が斬り裂かれた死体。食い荒らされたかのような死体。絵画や壺などの小道具が突き刺さった死体。首や腕がおかしな方向を向いた死体……。

 テラ・フィルド=トルーパーの仕業だろう。なるほど、悪夢ナイトメア、ね。確かに悪夢のような光景だ。ナイトメアという名前にも頷ける。

 こんな調子じゃ殺されたクローン兵は2000人近いだろう。どこもかしこも死体ばかり。血の臭いが城中に充満している。それと、火災で発生している煙もすごい。


「あの子、無事かな……」


 私が入った武器庫。あそこで別れたクローン兵。彼女は無事だろうか? すでにナイトメアによって殺されたのだろうか……?

 ナイトメアもクローン兵もよく似た顔をしている。見分けを付けるのは難しい。ナイトメアとクローン兵の違いは服装だ。もし、ナイトメアが裸で私の前に現れたら、きっと分からない。


 私は薄暗い階段を上がって行く。その途中に机やイスなどで作られたバリケードがある。すでに壊されている。辺りには、アサルトライフルが散乱している。そして、4人ほどのクローン兵の死体。血が飛び散っている。

 私が武器庫に隠れている間に、何度戦いが行われ、何人ものクローン兵が死んだのだろうか……? 本人は1000人と言ったけど……。


 階段を上り終わる。再び薄暗い廊下を歩く。また死体が所々に転がっている。ずいぶんと歩いてきた。この城に入ってから9時間近くがすでに経過している。

 廊下を歩いていると、腹部を食いちぎられたクローン兵の側に、ノートが落ちている。表紙に大きく、“緊急記録”と荒い字で書かれている。私はそれを手に取る。



『EF2014年4月10日 晴れ

 プレリア州は臨時政府軍によって完全に制圧された。サファティと2枚看板だったグレゴリウスも死んだという。それで、サファシア将軍の機嫌が悪い。

 ヤツら臨時政府軍はやがてこのクロントシティにもやってくるだろう。緊急事態だ。私はこの歴史的、緊急事態の記録を付けよう。


 EF2014年4月17日 曇り

 メートル平原で75万人の大軍を誇ったファンタジア軍は敗北した。クラスタとはなんと恐ろしい戦術士だ。あれだけの兵力を誇る大軍が、たった2日で負けたのだから。

 私はコマンダーという指揮官的階級にいるが、クラスタとは絶対に戦いたくない。戦うぐらいだったら、降伏した方がマシだ。


 EF2014年4月22日 晴れ

 メートル平原から逃れたファンタジア一般軍はダムテムシティにまで落ち延びたらしい。キャルアが指揮官だという。その兵力は10万だと思われる。ファンタジア王国の広報庁は50万の兵が健在と言っているが、それはウソだ。

 ウソと言えば、クラスタがプレリア州で降伏した兵士を人体実験にかけ、大量殺戮を計ったという情報がある。ウソの代表だな。首都以外の市民はこの情報が虚偽だということに気づきだしている。洗脳の強い首都民は哀れだな。


 EF2014年4月24日 晴れ

 クロント州北部・西部・南部とファンタジア州南部は臨時政府の手に渡ったらしい。抵抗せずに降伏する都市も多いとか。それだけサファティの無茶な国家運営に対する不満が溜まっていたのだろう。

 クロント州東部もダムテムシティを残して全域が制圧されている。ルーシーという槍使いの将軍が指揮官だという。

 クロント州はクロントシティとダムテムシティしか残っていない。どう考えても、もはやファンタジア王国に勝算はない。

 広報庁は勝利のニュースばかり流しているが、ファンタジア王国はもうダメだ。


 EF2014年4月25日 曇り

 パトラー=オイジュスがクロントシティに侵入した。それと同時になにかが来たらしい。ビリオン=レナトゥスの生物兵器といわれている。

 サファシア将軍が購入したとのウワサがあるが、その割にはなぜか仲間のクローン兵も数人殺害している。おかしい。


 EF2014年4月26日 

 怖い、こわい。

 ビリオン=レナトゥスは怪物を送ってきた。アレはテラ・クローンだ。

 死にたくない。

 ビリオン=レナトゥは私たちみんな殺す気だ。

 アレは取り扱えずに、製造を急きょ中止したクローン。

 さっきからいろんなとこで戦いが起きてる。

 部下がバリケード作ってる。無理。すぐに壊される。

 死にたくない。助けて。わるいことしてたら、謝るから』



 私は血に濡れたノートをそっと戻す。書いた主と思われるクローン・コマンダーは腹部に穴をあけて死んでいる。

 胸ポケットにまだ手帳が残っていた。そっと取り出し、中を見る。――コマンダー・キャッパー少将。ここのクローン軍の長官だったらしい。

 手帳を戻し、私は再び歩き出す。この有り様じゃサファシアも逃げ出したかも知れない。だからといって私がここを去るワケにはいかない。あのテラ・クローンを放置できない。クロントシティ市街地にアレが出て行ったら、大惨事になる。


「…………」


 ビリオン=レナトゥスが取り扱えずに製造を中止した怪物、か。ここに放り込んだ目的は、恐らく戦闘実験と私を殺すためだろうな。ビリオン=レナトゥスも人の命を道具程度にしか見ていないのか……。

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