第14話 VSクローン兵
※パトラー視点です。
【クロント城 廊下】
クローン兵と別れ、薄暗い廊下をしばらく歩いていたときだった。
「いたぞ!」
「パトラー=オイジュスだ!」
「侵入者だ!」
「仲間の仇!」
4人ものクローン兵が私の前に現れる。全員が似たような顔をしている。まぁ、当然か。それにしても、仲間の仇とは……?
私は剣を抜く。白い刃が月明かりの光を反射する。これはデュランダルと呼ばれる名剣だ。クリスタルから作り出された世界唯一の剣。
「消えろッ!」
アサルトライフルを持ったクローン兵の1人が、私に銃口を向け、発砲する。銃弾が飛んでくる。私は銃口が向けられると同時に横に飛ぶ。飛びながら、自身にシールドを張る。
「チィ!」
別のクローン兵が発砲する。私は手にしていた剣で銃弾を防ぐ。そして、剣をその場で剣を振り降ろす。その途端、横に長い斬撃が飛ぶ。それはクローン兵2人を襲う。
斬撃を喰らいつつも、彼女たちは私に飛びかかってくる。やはり、そこそこ身体の頑丈なクローン兵はアレだけじゃ怯まない、か。
「4対1で勝てるかなっ!?」
私は迫ってくるクローン兵相手に、黒色をした特殊な装甲ハンドグローブを装備した右手を振る。その途端、大型の火炎弾が飛び、爆音と共に炎が花のように勢いよく開く。クローン兵は火傷を負いながら、弾き飛ばされる。
私は素早く倒れたクローン兵たちに走り寄り、次々と手にしていた剣で彼女たちを斬りつけ、また元の位置に戻る。あっという間の動きだった。
「勝てそうだ」
「ぐっ……」
「痛いっ……」
「クソッ!」
フラフラになりながら、1人のクローン兵が起き上がる。腰に装備した剣を引き抜こうとする。私はその動きの隙を突いて、彼女に素早く接近する。
「…………!」
私は勢いよく彼女を剣で空中に斬り上げる。追い撃ちで真っ赤に燃える火炎弾を飛ばす。空中で爆発。火の粉が舞い上がる。彼女は近くに落ちてくる。
これで残り2人だ。
「この女、こんなに強かったのかっ……!」
「まだ負けてはない!」
別のクローン兵が床に転がったアサルトライフルを拾い上げ、私に向けて連射して来る。私は後ろに何度も飛びながら、銃弾を避ける。そして、空中で彼女に手をかざす。
「…………!」
アサルトライフルを持った彼女の両腕が肩から斬れ落ちる。血がべっとりと石造りの床に飛び散り、悲鳴が上がる。両腕を失った彼女はその場で倒れ込み、痛みに暴れ、泣き叫ぶ。
私は床に着地し、再び彼女たちに近づいて行く。さすがに戦意を消失したのか、もう彼女たちは戦おうとしなかった。私はそのまま、サファシアの元へと行こうとする。
「うぐっ!」
「うぎぃっ!」
後ろであの2人のクローン兵が苦痛の呻き声を上げる。それと共に何かが切れ飛ぶ。私はさっと背後を振り返る。……2人の首が床に転がっていた。そして、その先には、血まみれの装甲服を着たクローンがいた。
「テラ・クローン……!」
「ナイトメアと呼べ」
……頭は割れていなかった。あの裂けた頭部から出ていた気色悪い触手もなくなっていた。いや、身体の中に引っ込んでいるだけか?
「喜べ、パトラー。階下の劣等クローン共は始末しておいたぞ」
「…………!?」
「1000人以上は始末しておいた。その戦闘で電力供給システムもぶっ壊れたが……」
「急に城内が暗くなったのは、そういう理由か」
「フフ、戦闘が激しすぎて至る所で火災も起きたし、一部崩れたが」
そういえば、武器庫に隠れている間も、ここにまで来る途中も、何度も激しい爆音が鳴り響いた。その音の正体は、この異常なクローンとクローン兵との戦いの音か。
「…………ッ! だが、ちょっと戦いすぎたな」
「…………?」
「フフ……」
一瞬、苦しそうな顔をした血まみれのテラ・クローン。彼女の血塗られた紫色の装甲服は激しく傷つき、一部は砕けていた。
そのとき、私の目線の先にある廊下の角から数人のクローン兵が現れる。
「いたぞ!」
「食人クローンだ!」
「パトラー=オイジュスの仲間!」
仲間? まさか、テラ・クローンと私は仲間扱いされているのか?
「まとめて片付けろ!」
彼女たちの後ろから床から少しだけ浮かんだ浮遊戦車が現れる。砲身がこっちを向いている。あの浮遊戦車、連合政府が使うヤツだ。恐らく、ビリオン=レナトゥスから購入したんだろう……。
浮遊戦車から勢いよく砲弾が放たれる。それは空気を切り裂きながら、一直線に飛んできて、テラ・クローンの身体に、正面から直撃する。爆音と共に吹き飛ばされるテラ・クローン。爆風が舞い上がる。彼女は奥の壁に叩き付けられる。
「…………ッ!」
「やったぁ!」
「残りはパトラーだけだ!」
浮遊戦車の砲身がこっちを向く。見たところ、クローン兵は6人。浮遊戦車1台。大した相手ではない。私はサブマシンガンを手にし、彼女たちを倒そうとした時だった。背後で背筋が凍るような殺気が放たれる。それを私は肌で感じた。
「…………!?」
砕け、燃える背後の一角。そこから何かがむくりと起き上がる。人型をした何かが。――テラ・クローンだ。
「え、ええっ!?」
「うそ……」
動揺するクローン兵たち。そのとき、再び砲撃音が鳴り響く。砲弾が私のすぐ真横を飛ぶ。それはテラ・クローンに再び当たる。
再び辺りを揺らす程の爆音。今度の攻撃で壁も崩れ、恐らくテラ・クローンもその先にまで吹き飛んだだろう。
「そぅら、くたばれ! その先は武器庫だ!」
再び砲撃が行われる。しかも、1発じゃない。2発、3発と連続で砲弾が撃ち込まれる。武器庫へと通じる壁の穴に何度も砲弾が突っ込み、爆音が鳴り響く(どうでもいいが、この城は武器庫がいくつもあるようだな)。
そのとき、武器庫で城全体が揺れるような爆発が起こる。残っていた石造りの壁が全て吹き飛ぶ。爆風が襲い掛かり、私は吹き飛ばされる。武器庫の砲弾や火薬、ハンドボムに着火したのだろう。それで連鎖的な爆発が起きた。
「…………ッ!」
私は浮遊戦車に叩きつけられ、床を転がる。辺りには石や燃えた武器、石、小道具が散乱していた。さっきまで冷たかった廊下は、強い熱気が立ち込めている。
クローン兵も吹き飛ばされたらしく、1人もいなくなっている。3人のクローン兵が飛んできた石や小道具を身体に受け、倒れている。浮遊戦車にも、色々な物が突き刺さり、完全に壊れてしまっている。
武器庫は激しい炎に包まれていた。爆発の影響で一帯は崩れてしまっている。床と天井まで崩れてしまったらしく、燃える瓦礫の山と化している。
「…………」
回り道するしかなさそうだ。本当は武器庫の横の階段を使って上に上がろうと思ったのだが、あれだけ炎が激しいと、上れそうにない。それに、炎がますます強くなっている。早いところ、逃げた方がいい。
私はサブマシンガンを拾うと、未だに爆発が起きている武器庫から離れていく。その炎の中で、何かが動いているのに、私は気が付かなかった――。