第100話 夢の終わり
黒い夢と白い夢。
黒と白が激しく対立するこの世界。
でもね、世界には血みどろの赤い夢や、私のような悪い夢もあるのよ。
フフッ、黒が勝つか、白が勝つか。
答えはどちらか1つ。
そんなにあり得ないわ。
赤い夢が勝つかも知れない。
私の悪い夢が勝つかも知れない。
はたまた、別の色をした夢が勝つかも知れない。
私にも、答えは分からないわ。
明日も、この天空要塞が浮かんでいるのか。
それすら、分からない――
私はぼーっと目の前の風景を見ていた。誰もいない、何もない、死んだような世界…… 私はゆっくりとそこを歩いていた。
空を見上げれば、いつも飲んでいるワインと同じ色をした赤色。でも、その大部分が黒い雲で覆われている。普通じゃあり得ない空の色。――そう、ここはパラレル・ワールド。夢の世界。現実の世界じゃない。
「――夢が死んだ、のね」
私は、ボロボロの廃墟へと入っていく。死んだ町。当然のことながら、誰もいない。何も存在しない。あるのは、かつての記憶――かつてここに誰かいたという証拠だけ。
こんな感じの町や都市は、ほかにもたくさんある。――いえ、全ての場所が、こんな感じになった、と言った方がいいかしら?
死んだ世界。そんな風に呼べばいい。この世界は、全ての夢が滅び去り、消え去った世界。もう、二度と夢を見れない。
「…………」
あのラグナロク大戦から100年。黒い夢も白い夢も、全ての夢が破れた。数えきれないほどの夢が勃興し、その全ての夢が消え去った。
僅かに生き残った者が、苦しみの夢を見続け、最後には“終わらないナイトメア――死”を迎える。残念な話ね。
世界を統治した巨大な国家はすでに亡い。黒い夢を果たせず、戦争に敗れ、ナイトメアに沈んだ。
黒い夢に立ち向かい、白い夢で世界を包もうとした希望。戦争に敗れ、同じくナイトメアに沈んだ。
かつて、驚異的な力を誇り、世界を空から睨んだ悪夢も、最後には堕天し、ナイトメアに沈んだ。
その他の多くの夢も、全て現実とならず、夢で終わった。ことごとく、ナイトメアに沈んだ。
戦争は全ての夢を焼き尽くし、全てを消し去った。誰の夢も、叶わず、ただ単に滅ぼしていっただけだった。そして、世界は二度と夢を見れなくなった。
「つまらない結末ね……」
私は片手を上げる。すると、目の前の光景が紫色の煙となって、消えていく。意識が揺らいでいく。
「ローリング」
「はい、ヒライルー閣下」
私はそっと目を開けながら、ローリングの名を呼ぶ。私のいるところは、ウロボロス要塞の王座。私自身はイスに座っていた。
「“つまらない結末”を迎えることってあるのかしら?」
「ええ、可能性としては決して低くありません」
「全ての夢が死に、二度と夢を見れなくなる。今の科学力じゃ、それが可能よね」
全てが消えれば、黒い夢は二度と誕生しない。それと引き換えに、白い夢もなにも存在しなくなる。
「……ヒーラーズ軍は?」
「さきほど、コスーム大陸北部のグリード州に攻め込んだそうです。国際政府の軍勢は敗北。臨時政府に援軍を求めたそうです」
「計画は順調ね。……焼き尽くされないことを祈っているわ」
私はそっとイスから立ち上がり、イスの後ろにある小さな扉に向かって歩いていく。あの扉の向こうは、自室だ。
「人が終わるとき、夢も終わる――」