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とあるわが家の王女さま!  作者: 華凜
2章:魔王、現る!
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第9部 姫ちゃん、激おこぷんぷん丸になる! ☆挿絵アリ☆

 姫ちゃん、絶対怒ってるだろうなぁ。



そう容易に想像できたのは、何と言っても我が家を席巻するドス黒いオーラとラスボス戦のようなBGMが自然と僕の耳に届いたからだろうね。


2学期開始も間近となり、晩夏を謳歌する蝉たちの声が響く街路。耳を澄ませばショパンの『仔犬のワルツ』でも聞こえてきそうな陽気な朝―――


――なのだが。


周囲のタッタラ~という軽快なリズムに対し、我が家だけデーデン、デーデンデーデンデンという音楽。

僕の家から地球崩壊の危機と思しき重低音が聞こえてくるのはなぜでしょう。



 家の門に近づくに連れ、音はさらに大きくなり、元々重かった音はついにパイプオルガンに変わってしまった。


僕の耳も末期だ。


なんとか門をくぐって異様な空気を纏う我が家のドアに手を掛ける。

なんて言い訳しようか。うーむ、こんな主張はどうだ。


「ちょっと魔王宅に」

殺される。


ちょっ!じゃあこの怒りのオーラをどう鎮めたらいいのさ!

何でポカポカした陽気の中で僕の家だけが闇に覆われてるんだよ!魔王の部屋でさえ麗らかな日差しが降り注いでいるのに!!


くぅ、こうなったら股下蹴り上げ数百発を覚悟しなくては。

今から学校の剣道部に行って防具借りてこようか。


なんてことを考えながらドア前で押し問答している間に、家の中からドスンドスンという怪獣のような足音が聞こえてきた。


魔王宅でさえ気さくに入れたのに、何で我が家に入ることをここまで臆さなければならない。


どうやら僕が帰ってきたことに気づき、“目を覚ました奴”が玄関で仁王立ちしていると見た。


夫の浮気に気付いた嫁並みに怖い。マジで。


「あ、あの、姫ちゃん様?」


なぜか『ちゃん』のあとに『様』を付けてしまう。でも恐怖が先行してそんなことに自分でも気づかない。


ドアに耳を澄まして5秒ほどすると、「何かしら」という野太い声が返ってきた。


「お、怒っていらっしゃいますかね」


『かね』ではなく『よね』の方がよかったと後悔した。


しかしいくら待っても応答が無い。

再度同じ質問をすると、


「……怒ってないわ」


やや躊躇した部分が尋常でない怒りを体現している。

でなければこんなに地響きのする声にならないからね。


「ほほ、ほ、本当に怒ってない?」

「ええ。 ……怒ってなくてよ」


実に心もとない。


「た、ただいま」


勇気を振り絞って「えいやっ」とドアを開け、魔界と化した我が家への上陸を試みる。

ドアを開けて真っ先に飛び込んできたのは玄関の花瓶?靴箱?はたまた金魚の水槽か?


……いや、激おこぷんぷん丸姫ちゃんだ。


「お、怒ってないよね?」


訊くまでもない質問を口にする。


それだけ物騒な顔をして両手に包丁を持っているからさ。姫ちゃんに無断で家を出たことがここまで大事(おおごと)になるなんて。


「怒ってない――」


ふう、助かった。


「――というのは社交辞令でしてよっ!」


死にました。


「ちょっ、タンマ姫ちゃん!!!! あ、こら、包丁振り回さないで!! 何で僕のアソコばかり狙って来るのさ!! 下半身だけじゃなくて上半身も―――ってそれじゃあ逆に狙って欲しいみたいじゃないか!!」

「お父様がおっしゃってましたわ!! 男は女より急所が一か所多いと」

「くぅ、男なら弱点は教えるもんじゃないよ姫ちゃん’sパパ!!!」

「わたくしを放置した罰として素直に切られなさい!!」

「嫌だよ!! スカイツリーが古墳になるなんて僕は絶対反対だからね!!」

「古墳と言わず砂丘にしてやりますわ!!」

「実家に帰らせていただきます!!」


しまった、実家はここだった!


実家に帰ると言っておきながら結局行き場所は庭くらいしかない僕を、刃物を持った姫ちゃんが端っこに追い詰める。


絶体絶命かと思いきや、彼女は僕の半歩手前で止まり、振り上げていた拳ならぬ包丁を下した。


「ぐすっ………怖かったのに」


え?

治安が良すぎるこの地域で不安になる要素がありましたかね。


「こ、怖かったの?」

「こんな狭くて暗い場所に女を一人にして、許されるとお思いかしら!」

「暗いならカーテン開けたらいいじゃん」


広くすることはできないけど。


「ばかぁ!!」

「げふぁ!!」


姫ちゃんはパーではなくグーで僕の頬を殴った後、泣きながら二階に上がった。


というか夜ならともかく、100歩譲って何で鍵をかけた家の中で危険が生じるっていうんだよ。


でも姫ちゃんことだ、と思ってあえて追いかけないでいると、二階から「追って来てもよろしくてよッ」などと言うので渋々追跡開始。



 二階に上がると僕の部屋のベッドで布団に包まる美女を発見。

これより慰め体勢に入ります。


「あの、姫ちゃん?」

「……ぐすっ………」


わざとらしく涙するところは特別に無視してあげよう。


「その、ごめん」

「わたくしとの約束をお破りになってどこに行っていたのかしらね!」

「えっとね、魔王の家」


ざけんな!とか言って殴られそうだったけど、意外なことに彼女は「魔王の家ならそうと言いなさいよ」と予想外の返事をしてくれた。


「姫ちゃん寝ちゃってたからさ、起こすのも可哀想かな、と思ってあえて起こさなかったんだけど。 ダメだった?」

「そういうのは置手紙の一つでもしておくべきですわ!」


ごもっとも。

回覧板やゴミ捨てと違って数時間家留守にしたんだから、確かにそのくらいはしないとね。


「起きたらこーすけがいなくなってて……。 わたくし以外の女と一緒に出て行ってしまったのかと心配で」

「嫁か!」

「不安でしかたなくって、」

「うんうん。 ごめんね」

「残りのお皿を全てクラッシュさせてしまいましたわ」

「だぁあああ!! なんてことしてくれるのさ!! 何で不安になったら食器棚の皿を取り出して割る奇怪な行動をとれるの!? ねえ!?」

「だってこーすけが勝手に出て行ったんですもの」

「僕が勝手に出て行ったら皿が割れちゃうの!? 共通点なさすぎだろ、おい!?」

「それではおさまらず……」

「まだやらかしたの!?」

「ノスト○ダムスの大予言が、」

「的中して家のどこかが大洪水になっちゃったわけ!? 場所は水道付近で間違いないよね!? トイレは勘弁しておくんなまし!!!」

「キッチンが海になったけど」

「のぉぉおおおおおおお!!!」

「わたくしはノ○の方舟を」

「貴様だけ家畜と一緒に助かったのか!!」

「買い忘れましたわ」

「事前購入しとけっ!!」


さも旅行に行くときに「クルーザーを買い忘れましたわ」というようなセレブ発言が鼻に付く。


「そういうのは預言の時から用意して作っておこうよ……ってそもそも何で我が家の屋内で大洪水が発生しちゃうのさ!! 神よ、哀れな僕が一体何をしたというのでしょうか!!」


とにかくこうしちゃいられない!。

とりあえず教会に行って神の怒りを鎮めてもらわないと我が家の大洪水はおさまりそうにないぞ!

月末に来る水道代の請求書が楽しみだなッ!


「ちなみに、すべて嘘よ」


階段を5段ほど踏み外しました。


「う、ウソなの?」


なんとか階段を這い上がり、ベッドの上で冷笑する姫君を睨む。


「これで女の恐ろしさを思い知ったかしら」

「別の意味でね」


今の妄言を実際の事象と捉えることができたのは、明らかに彼女の行動力と恐るべき低能力(スキル)ゆえだ。


「反省していらっしゃる?」

「はい。 大変反省しております」

「本当かしらね」

「うん」


言うだけでは信じてくれそうにないため、形で証明しようと彼女の前でペコッと頭を下げる。


「頭を下げたからといって、わたくしの気が収まるとお思いかしら?」

「じゃあ何をしたら許してくれるの?」

「“まずは”土下座よ」


挿絵(By みてみん)


まだ他に何かさせられるらしい。


居候させてくれと頼み込んだ相手に土下座するのは甚だ心外だが、姫ちゃんが怒ったままだとどうなるか分からない。


ここは言うとおりにすべきだろう。


「ごめん」

「……い、意外と正直ですのねっ。 つ、次はわたくしに対する…ちゅ……ち、ちゅう」

「ちゅう!?」


姫ちゃん大沸騰中なう。


「ちゅ、忠誠の証として足を舐めなさい!」


くそ、なんて惜しい。

正直に言ったらキスくらいしてあげたかもしれないのに。


顔中の穴と云う穴から湯気を吹き出す姫ちゃんは、僕が貸したジャージの裾をめくって白い脚を露わにすると、僕の方に美脚(それ)を投げ出して座った。


「早く舐めなさい」

「う、うん」


勢いに負かされ、右手でそっと彼女の足を手の平に乗せる。


まるで白雪のような白くて小さな足と贅肉の見当たらない太もも。その奥に見える黒い下着がチラホラすると、理性で押さえつけても本能的な部分が作動して興奮してしまう。


ダメだ、紳士になるんだ!!


「ほ、本当に舐めるの?」

「反省する気が無いならしなくてよろしくてよ」


遠回しに誠意を見せろ、と訴えている模様。

うーむ、男のプライドは一旦捨てて、後で屑箱から回収しとくとしよう。


「……舐めさせていただきます」

ゴクッと生唾を呑み、舌の先端を彼女の親指に近づける。


「あひゃぁっ」

舌が指先に触れると一瞬姫ちゃんはビクッと震え、掛け布団を強く握りしめながら変な声を出した。


「だ、大丈夫?」


返事は返ってこなかった。

代わりに喜びと羞恥が入り混じったような赤い顔をして彼女は僕の腕にしがみつく。


「ちょ、ちょっとくらいは反省なさったのかしらッ!」

「だから謝ってるじゃん。 ああ、そう言えば今日の晩御飯は向かいの魔王と一緒に食べるんだけど、いい?」

「魔王?」


怪訝な顔をしてその呼称を口にする。

やっぱり魔王はダメかな。


「よくわかりませんけど、勇者以外ならだれでもよろしくてよ」

「なんだ、よかった。 じゃあ今から買い物に行くけど、一緒に行く?」

「あ、ああ、当り前ですわ! ちゃんと今度こそはエスコートしなさいよね豚さん!」



下僕から豚に格下げとなりました。




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