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とあるわが家の王女さま!  作者: 華凜
1章:姫ちゃん、移住する!
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第6部 姫ちゃん、お手伝いする! part 2

 普通ガラス系の物が床に落ちて壊れる時、ガシャン!という音がするのは皆さんもご存じのはずだ。

しかし『ドガッシャァーン!!!!』という爆発に似た怪奇音が聞こえてきたらどう思うだろうか。


僕なら間違いなく戦慄するね。


さらには姫ちゃんと思しき女の子の「ああっ」というやらかした声まで聞こえてきたら、切腹に臨む武士の最期のような気持ちになる。



 盛大な爆発音のあと、無音に変化したことから大体の察しはついた。

どうせ我が家で一番大きな皿を割ってしまったのだろう、ということくらいは容易に想像が付く。

だからあまり焦らないで台所に向かおうとしたが、同時に「痛ぁ!」という悲鳴のような声が聞こえてきてすぐさま駆けつけた。


「だ、大丈夫姫ちゃん!?」

「え、ええ」

「怪我はな………い?」


なんということでしょう。

フローリングの床に割れたお皿が散らばって白く染まっているではありませんか。


しかも僕のいるリビングの方まで破片が来ている。

まるで投げつけたかのような飛距離だぞ、おい。


「のぁあああああ!!!!」


割れた皿は間違いなく2桁。ここまで一気に割ることができるとは彼女はなんてすごい才能の持ち主なんだ。


でもそんなことは二の次。さっき姫ちゃんが痛がる声が聞こえてきたから、怪我しているなら早く手当してあげないといけない。


「ご、ごめんなさい」

「もういいから! とにかく怪我の手当てが先だよ!」

「怪我……してないわ」

「はひ? でもさっき『痛ぁ』って」


どうもおかしい。

本来怪我をしてもおかしくない状況で無傷であったことは素直に喜ぶべきだろう。

だが疑問が生じる。

無傷ともなると、さっきの『痛ぁ』はなんだったのか。


「無傷?」

「え、ええまあ」

「てか何でこんなに割れちゃったの?」

すると姫ちゃんはぎこちない動きで床を指差し、


「このお皿が悪いのよ!」

「どの皿だよ! もはやどの皿を指して言ってるのかわからないからね!?」

「わたくしはちゃんとスポンジに洗剤を含ませて全てのお皿をこすったわ!」

「うん。 そこまでは正解だよ」

「それで、洗おうとお水を出したの」

「うん」

「面倒だから一気に洗おうと思って全部のお皿を持ち上げたわ」

「はいそこで由々しき間違いが生じています!!!」

「そしたらお皿に水が跳ねて“ぶぁあっ”てなったの」

「お、おう」

「そのお水が目に入って、思わず全てのお皿を“後ろに”放り投げてしまって……」

「なんで皿洗いするだけでイナ○ウアーしなきゃいけないのさ!! 荒川○香さんもビックリ仰天の偉業だよ、もはや!!」

「でも、」


この偉人の言い訳にはまだ続きがあるらしい。


「でも、割っちゃったのはわたくしのせいですし、せめても、と」

「うん?」

「割れたお皿をアテレコして『痛い』と言ってみましたわ」

ほう。


つまりさっきの悲鳴は姫ちゃんがダメージを受けたことによるものでなく、単に割れた皿たちの気持ちを代弁したものだと。


「ねえ姫ちゃん。 そこは痛いじゃすまないと思うよ?」

「『ぐはぁッ』の方がよかったかしら?」

「こんだけ一気に割れたらもはや阿鼻叫喚の地獄だよっ!! 『ぐぎゃああああ!!!!』とかだよ!!」


自分でも何を言っているのかわからなくなるほど僕は今苦痛に苛まれている。


「……思ったんだけどさ」

「はい?」

「姫ちゃんって、まともに家事したことある?」

「あ、ああああ、あるに決まってますわ!」


冷や汗ダラダラ。

ウソ発見器にかけてやりたいところだ。


「ここは……いや、“ここも”僕が片付けとくからさ、姫ちゃんはそこのモップで洗面所を拭いておいてくれる?」

「え、ええ!」


拭くだけでいいから余計なことはするな、と10回くらい念押しするも、その後が心配になって密かに見守る。


が、予想は的中し、



つるっ、どったぁん……。


目も当てられないくらい盛大に滑って転びました。


「うぐ……、こーすけぇ! 転んだ!!」


子供の如く泣き叫ぶ。


「はいはい。 もう姫ちゃんはソファーの上でお休みになっていてよろしいから」

余計な手間を増やさないためにもね。


 僕が姫ちゃんの腕を引っ張り、ソファーに連れて行く間彼女は終始涙目だった。


「……こーすけ。 怒らないで」

「怒ってないよ。 姫ちゃんだとこうなることはすでに予想済みだからさ」


弾丸をかわす映画マト○ックスの体勢で皿を割られた上、屋内で水上パレードを披露されることまでは予測困難だったが。


「ごめんなさい」


彼女は目を赤くしてそう言うと、僕に背を向けてソファーの端でガックリ肩を落とした。


あんな上級な言い訳をしておきながらちゃんと素直に反省しているらしい。

できることなら慰めてあげたいけど、これ以上感傷的にしてはいけないと思い、あえて僕はその場を離れた。


その時、家のチャイムが鳴った。




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