第26部 姫ちゃん、ヤキモチをやく!
5分後。
杖をつきながらフラフラ帰ってきた魔王の顔には、数え切れないほどのタンコブができていた。
スズメバチの巣を防護服無しで蹴り飛ばした後のよう。
魔王が地獄を味わっている間に姫ちゃんを女子更衣室に強制送還し、下着の方はフィアさんに任せた。
これで一件落着かと思いきや、
『あら、フィアさんってお胸が大きいのね』
『そんなことあらへんで。 まだGやから』
『Gですって!?』
女子更衣室とは壁一枚を隔てただけの男子更衣室。
あのバカ王女さまは壁際のロッカーにいるらしく、フィアさんとの会話がこちらまで飛んでくる。
無視しよう。
こんな公衆の面前で興奮していてはだめだ。
……というか大きさの方はGだったのか。Fと勘違いしていた僕はまだまだ修行が足りないな。
『フィアさん、ちょっと失礼していいかしら?』
『え? っちょ、あんっ、やめて姫さん!』
『一体どんな生活をしたらこんなに“たゆんたゆん”になれるのかしら』
『ああっ、もう!』
くそう!もう我慢できん!!
男子全員そろって壁に耳を張り付けます!!!
『どうやって大きくしたの? 秘訣を教えてくださいな』
『あたしにも分からへんけど、毎日夫を痛めつけてると自然に』
『夫を痛めつける?』
ハッ!嫌な予感!!
『わかりましたわ! こーすけを痛めつければよろしいのね?』
ダダダダッ
「いかん! あの怪物がやって来る!!」
ダダダッ、キキーッ!!
「見つけましたわよ、こーすけ!」
「待って! 僕を痛めつけても胸は大きくならないからね!?」
「問答は無用ですわ!」
「暴力は反ぎにゃあああ!!!!」
――閑話休題――
理不尽な理由で姫ちゃんに暴力を振るわれ、着替えを終えて出てきた時には魔王も僕も満身創痍。
RPGのように残機がいくつかないとヤバい。
「こーすけ! 浮き輪を膨らませて頂戴」
姫ちゃんが家から持ってきた浮き輪を差し出す。
仕方なく僕が口で膨らませていると、更衣室からやっとフィアさんが登場。
「ほいよっ」
「やったぁ!」
膨らませた浮き輪はやや小さめで、穴もそれなりの大きさなのだが、貧乳の姫ちゃんにはスッポリおさまった。
それに比べ、フィアさんは――
「どう、こーすけ?」
浮き輪を両手で持ち、可愛さをアピールしてくる王女さま。
可愛いことは可愛いが、やはりお胸の点でいうとフィアさんとは雲泥の差。
二人を見比べているとどうしてもフィアさんの方に目が行ってしまう。
男の性というものだ。
「まあ可愛いんじゃない?」
「ぷぅーっ!! なんでわたくしの方を見て言ってくださらないのかしら!」
「いや、別に変な理由があったわけじゃ――ぶべしッ」
ほっぺたを膨らませる姫ちゃんから顔面パンチ。
「ちょっ、なんでイキナリ殴るのさ!!」
「男は女の水着を見ると、鼻血を出さなければいけなくてよ!」
「それ義務じゃないからね!? 物理的かつ強制的に出させるなんて酷過ぎるよ!!」
まったく、いつからこんな暴君になっちゃったんだろう。
姫ちゃんの屋内統治も屋外統治もロクなことがない。
「ったく! 姫ちゃんにどうにか言ってやってよ魔……王?」
あれ、魔王が見当たらない。
まさか僕に内緒で水着のお姉さんの撮影に行っちゃったのかな。
まあアイツのことだから、「記念撮影はどうか」とか言って胸の方をアップで撮っているんだろうが。
なーんて思いながら、ふと横を見る。
――魔王、すでにフィアさんに駆逐され、満身創痍。
手元にバラバラになったデジカメがあることから、彼が水着のお姉さんを撮影しようとしていたことだけはわかった。
しかしその野望も恐妻のフィアさんによってカメラと一緒に砕かれたらしい。
「さ、泳ぎに行きますわよ! こーすけ!」
「えっ、僕も!?」
「あ、当たり前ですわ! わ、わたくしをエスコートするのはあなたのお役目でしてよっ」
また姫ちゃんのデレが始まったぞ。
逆らうとまたアッパー30発喰らわされそうだし、ここは大人しく付いて行くとするか。
まあ泳ぐ前から血だらけの魔王が気になるところだが。




