第25部 姫ちゃん、お着替えする!
家から歩いて10分ほどのところに比較的大きな私鉄の駅がある。
その駅から特急列車に2時間ほど乗り、各駅停車に乗り継いでしばらく。
「こーすけっ」
「げふぁ!!」
電車でうとうとしていると、窓の外をじぃっと見つめる姫ちゃんからビンタが飛んできた。
しかも強烈な一発が。
「いきなり何すんのさ!!」
「ご覧になって! 海よ!」
「海?」
さっきまでの山ばかりの景色が一変し、長いトンネルを抜けるとそこは一面の大海原だった。
海岸線に沿うようにレールが敷かれていて、内側にカーブを描いているので窓から先頭車両が見える。
今日は魔王、フィアさん、姫ちゃんと一緒に親睦旅行に来ている。
朝から泳いだりして一日を過ごし、夜には家に帰る日帰り旅行。
――なのだが。
「ポポ君? 水着のお姉さん撮るためのカメラとか持ってきてへんよな?」
「う、うむ……」
「ホンマ? 嘘ついてたら針1万本飲ますで」
「待て! 一桁多い!!」
魔王はすでにフィアさんから銃を突き付けられており、日帰りのはずが日帰りできるか分からぬ状況。
彼の受け応えから察するに、どうやら彼の命は午前中までのようだ。
ちなみにフィアさんが言う『ポポ君』とは魔王のことで、アレクサンポポス大王の『ポポ』から来ているらしい。
「こーすけ! 早く泳ぎたいわ!」
「はいはい、泳ぐのは海の家に着いてから――」
泳ぎたくてウズウズする姫ちゃんのお胸に視線を落とす。
今日の王女さまは大人っぽく黒のチュニックに赤のショートパンツ。
一見普通そうに見えるが、いくつか問題点を指摘しておきたい。
「姫ちゃん、水着が透け透けだけど」
泳ぐ前からブラの代わりに水着を着用し、やる気満々な姫ちゃん。
男としてビキニを着ていただけるのは大変嬉しいことだが、柄が透け透け。
サービス精神満載でよろしいが周りの視線(特に男)が痛い。
姫ちゃんは少し恥ずかしそうに、腕で胸を押さえながら言う。
「見ないでくださる? 変態さん」
「見せないでくれる? おバカさん」
「あーっ! またわたくしのことを『バカ』って言った!」
「今日が初めてだよ!!」
ったく。
あえて日頃からバカって言わないであげてたんだよ!
「それと姫ちゃん。 ちゃんと前を向いて座ろうね」
思いっきりパンチラしてるから。
窓の方を向いて座るため、どうしてもお尻の方からピンク色のアレが見え隠れ。
上を向けばビキニ、下を向けば下着という男性受けがヤバそうな姫ちゃん。
「いいじゃない。 別に減るものじゃないでしょ」
「電車の中ではちゃんと前を向いて座るものなの! お行儀よくしないと、後でアイス買ってあげないからね!」
「ぷぅーっ!」
ぷくっと頬を膨らましながら渋々前を向く王女さま。
こうしている間に電車は小さな駅に着いた。
無人の駅で看板はボロボロ。
辛うじて木造の駅舎がぽつんと建っているだけで、これといって目を引くものもない田舎駅である。
しかし一旦海側に出ると広いビーチには海水浴を目当てに集まる客でにぎわっていた。
「早く行きましょう、こーすけ!」
「はいはい。 ちゃんと着替えてからだよ」
海に向かって駆け出す王女さま。
しかしダイレクトに大海原にダッシュするので、慌てて海の家に強制連行。
ちゃんとお着替えさせてからであります。
「じゃ、また後でね」
海の家で姫ちゃんとフィアさんに別れを告げ、魔王と僕は男子更衣室に行く。
「姫ちゃん大丈夫かな」
「何がだ?」
「いや、あの王女さまって一人で着替えできないからさ。 上はともかく、下半身露出しながら『パンツ穿かせなさい』とか言って男子更衣室に来そうだし」
「こーすけがいるから大丈夫ですわよ?」
「だよねー! はははは」
―――え?
「なんで姫ちゃんが男子更衣室にいるわけ!?」
ちょうど更衣室で着替えている男性の方々はもう大慌て。
幼女ならともかく、明らかに10代後半の金髪美女がやってきたから、どえらいことになっている。
「わたくしの服を脱がせるのは、こーすけのお役目でしてよ?」
「姫ちゃんは女子更衣室! 何でフィアさんは向こうに行ったのに姫ちゃんはこっちなのさ!!」
「ぐすっ……。 いつもならわたくしの裸を見て喜んでいらしたのに……」
「頼む姫ちゃん!! 公衆の面前でそんな事実を赤裸々に語らないで!」
僕を遠くからそっと見守るオジサン達の視線が痛いから。
「とにかく―――」
「まあ、待て康介」
姫ちゃんを女子更衣室に連行しようとすると、魔王が僕の腕をガシッと掴んだ。
「康介よ、姫がそう申しておるのだ。 姫の下僕ならその願いを叶えてやるものぞ」
「僕は下僕じゃないからね!? つか何でカメラを用意して―――って、盗撮する気満々じゃねえか!!」
「本人公認なら盗撮とは言わぬ! 『盗』ではなく、むしろ『公』ッ!!。 公撮と言うべきであろう!!」
『ポポ君~? ちょっと外に出てきてくれる~?』
壁一枚を隔てて女子更衣室からおぞましい空気が。
おっと、これはヤバいな。
核シェルターにでも入らないと、ここら一帯が吹き飛ぶ恐れがある。
避難避難。
「まだ我は着替え中ぞ! 辛抱致せ」
『でもな~、ポポ君に伝えたいことがあるねん』
壁の向こうから、フィアさんの怨嗟に満ち溢れた声が流れてくる。
僕なら何としてでも籠城戦に持ち込むが、魔王はかなり鈍感らしく、「全く、あの小娘は」などと抜かして外に出て行こうとする。
「あ、今は出て行かない方が……」
「む?」
バキッ、ゴキッ、ドドドッ、グシャア!!
『何あたし以外の女の裸見ようとしてんねん!!』
「ぐぶっ、いや、これは立派な身体検査――☆○×◆+♪ッ!!」
只今、大変残虐な刑が行われております。
終了するまでの間、のどかな牧場の風景をお楽しみください。




