第24部 魔王の嫁、現る!
「魔王の……お嫁さん?」
「そ。 あたしはフィア。 単身赴任の夫の家に電撃訪問したねん」
「異世界からはるばるご苦労様です」
「ありがと」
これで異世界から我が家に来た人間は3人目か。
なんで決まって我が家に集まるんだろう。変なフェロモンでも出てるのかな。
「ていうか、何で魔王をそこまで追い詰めるんですか?」
家を破壊してまでさ。
「そりゃあ、夫が淫らな生活しとったからや」
「淫ら!?」
「電撃訪問したら、部屋中にエロ本とDVDの山があったさかいに、問い詰めたら夫が逃げ出しよったねん」
なるほど。
そして魔王は僕の家に緊急避難し、僕まで被害に遭ったと。
そんなことなら僕の家にエロ本置いておけばよかったのに。
そうすれば僕も魔王もムフフなことができたのにさ。
「と、とにかくフィア! 我に向けているバズーカを下ろせ!!」
「下ろせ?」
「下ろしてくださいお願いします!!」
フィアさんにマントを掴まれる魔王が必死に叫ぶ。
彼女はしばらく考え込んだ後、僕の家ということもあってか武器を床に下ろした。
その瞬間、ゴ○ゴ13さながらに強張っていたフィアさんの剣幕は取れ、くりんとした目が特徴的な美顔になった。
どうやらこれが平常モードらしい。
「ご、ごめん! あたし武器持つと興奮して、つい破壊してまうねん!」
うむ。実におっかない。
というか、「ついうっかり」で玄関のドアを破壊されたこちらの気持ちを考えて欲しいところだ。
「そ、そうなんだ……ははは…」
「玄関の壊れたとこは夫に直させるから許してっ」
「ちょっ、おまっ! 何故我が直さなければいかんのだ!!」
「だ、だって…あたし修復術使われえへんし……それに――ん?」
姫ちゃん、バズーカ砲をフィアさんにパス。
「あたしが直されへんさかいに、てめえが直せって言うとるやろがッ!!!」
「ひぃぃ!! 直す!! 直すから我を殺すでない!!!!」
やっぱおっかねえ……。
武器を持つだけで人格さえ変貌する方もどうかと思うが、その体質で遊ぶ姫ちゃんもおっかない。
「ご、ごめんなさい! あたしったら、またついうっかり」
ついうっかりでバズーカ砲を撃たれたのではこちらもたまったものではない。
早く異世界にお引き取り願わねば男性陣の命が危うい。
その日は夜分とあって、魔王とフィアさんは大人しくマンションに帰った。
幸いにも家にレジャー用のブルーシートがあったので、玄関の穴はそれで応急処置。
よく外交で『対話のドアは常に開かれている』という表現があるが、我が家の場合、『玄関のドアが豪快に開かれている』状態だ。
というかドア自体が塵になっていて存在しない。
(魔王って結婚してたんだな)
壁にブルーシートを張りながら向かいのマンションを見ていると、3階の302号室から火柱が2~3発上がった。
魔王に明日がやってくるのか疑問を呈する光景だ。
――☆――☆――
翌日、午前8時。
全裸の王女さまを起床させてからご飯を食べさせていると、ドア修理に魔王がやってきたのがわかった。
「ひひーん」
って家の前でセルフ鳴きするから。
「ああ、魔王? 入って」
ドアが無いのでガチャッと開ける動作がなく、スムーズに外に出る。
僕が外に出ると、チャイムを押そうとしていた魔王が見えた。
よほどの拷問を受けたのか、顔にはムチの痕、頭にはロウソクのロウが垂れている。
SM拷問プレイでもさせられたらしい。
「なぜ我が来たとわかった?」
「いや、その馬らしき声で」
「むぅ。 我が愛馬の声で分かるとは、敏感なやつよのう」
あくまで馬が鳴いた設定らしい。
まあ玄関を修理してくれればなんでもいいが。
魔王は「よっこらせ」と言いながら勢いよく落馬し、工具箱を持って玄関にやって来た。
短足過ぎて上手く降馬できず、毎回転げ落ちるのである。
格好から見てアナログ式に修理するのかと思いきや、彼はドアの周りに円陣を描きはじめる。
そしてチョークをマントにしまい、あとは「せいやっ」と祭りの掛け声のような声を出すだけ。
見事にドアは破壊以前の姿に戻った。
――って、
「工具箱必要なくない!?」
「うむ。 しかし嫁が『とりあえず持って行け』とライフルで脅すのでな」
「なるほど」
昨日の火柱を見たからどういう脅し方をされたのかは大体想像がつく。
イキナリ302号室が「ちゅばどーん」と爆発した時は焦ったからね。
「ああ、それとだな」
「?」
魔王は去り際にマントから何かを取り出して僕に手渡した。
「株主様ご優待切符?」
渡された4枚の切符の文字を読み上げる。
どうやら近くを走る私鉄の沿線無料切符らしいが。
「昨日嫁が康介の家を破壊したからな。 嫁からの贈り物だ。 ああ、あと今週の水曜は空いておるか?」
「水曜? 一応夏休みだからオールフリーだけど」
我ながらビールの説明みたいな言い方。
「空いておるなら、嫁が親睦を兼ねて旅行に行きたいと申しておるのだが」
「僕たちと?」
「うむ」
「どこ行くの?」
すると魔王はムフフと笑い、僕に耳打ちした。
(時に康介よ。 水着のお姉さん見放題の絶景スポットとはどこぞ)
(水着のお姉さん……海!?)
(さよう。 海ならば嫁の目を気にせずナイスバディなお姉さんを見放――)
「海ですって!?」
窓から姫ちゃんご登場。
これだけ小声で話しているのに彼女には聞こえていたらしい。
「海! 海行きますわ!! ね、こーすけ!」
「う、うん」
「連れて行ってくださらないと暴れますわよ?」
「連れて行くから!!」
姫ちゃんを放置プレイして外出したらどうなるかはすでに経験済みだ。
これ以上家で暴れられたら、我が家が取り返しのつかなくなる可能性が非常に高い。
かくして僕と姫ちゃんは、魔王夫妻と共に海に行くことになったのである。
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