第21部 魔王、背水の陣!
気付きました。最近、「魔王、~する!」が多いと。
早いこと姫ちゃんをカムバックさせます。
「ぎゃああああ!!!」
フェラーリは迷わず右方にハンドルを切り、キキーッとドリフトを伴って魔王を追撃!
最初から狙いは彼だったらしい。
「康介の薄情者!! 腐れビッチ!! おぬしの7代先まで祟ってやろうぞ!!」
「恨みっこアリかよ!!」
走りながら罵詈雑言Maxの魔王。
まだまだ無駄口を叩けるだけの余力があるらしい。
まあどうせその内捕食されて「助けてぇ」とでも言うんだろう、と高みの見物をしていた僕だったが、
「あ、ちょっ! こっちに来ないで!!」
魔王が再接近。
折角二手に逃げたのに奴を伴ってこちらに逃げられてはたまったものではない。
「何でこっちに来ちゃうの!?」
「アリの軍隊に道を阻まれた!!」
「なんだって!?」
忘れてた!
すくなくともアリは10体以上この家にいるんだった!
彼らは個別ではなく集団行動を得意とする昆虫ゆえか、僕らが出てくるのを待ち伏せしていたらしい。
「「みぎゃああああああっ!!!!」」
またまた絶賛エスケイプ中です!!
「ヤバいよ魔王!! もう逃げるところが無い!!」
「オウッ!?」
行きついた先は台所の隅。
しかも正面にいるのは超大型フェラーリ。 たとえ魔王を生贄にして切り抜けたとしても、その奥にはアリのバリケードが立ちふさがっている。
追い詰められた!!
「どうしよう!!」
「むぅ、こうなったら戦うしかあるまい!」
魔王はついにダークソードを抜いた。
ちなみに僕が貰ったダークソードはまだ玄関の靴箱上に放置プレイ状態だ。
「康介よ。 短い間だったが、世話になった」
「嘘だろ…じ、冗談だよね!? 僕を置いて逝ったりしないよね!?」
魔王は剣を持ったまま僕に背を向けると、自らフェラーリの方へ一歩踏み出して言う。
「これが、冗談に見えるか?」
「そんなっ……」
いつになく真剣な眼を見て僕はハッとした。
彼は冗談で言っているのではない。
小心者の僕と違い、流石は魔王と名乗るだけの凛々しさと勇ましさ、そして男らしさを持っている。
「おぬしを護るためなら、我は喜んで命を奉げようぞ」
「そんなっ……!! 魔王だけ死ぬなんてずるいよ!!」
「泣くでないッ! 男の涙というのはな、大人になるまで取っておくものだ、康介よ」
魔王は僕の肩をポンッと一度だけ叩くと、にっこりとほほ笑んだ。
――それはまるで、天運を全うしようとする男の最期のようだった。
「生きろ、康介。 そして後世に伝えてくれ。 ……ここに、我が存在したことをッ!」
「魔王!!」
「さらばっ!!」
魔王は果敢にも剣を携えて飛び出した。
「うぉおお!!」と叫びながら、自らを鼓舞して勝率の無い賭けに挑む。
魔王からの宣戦布告を受け、ついにフェラーリが猛加速する。
―――僕は思い出していた。
彼と一緒に過ごしたわずかな日々を。
いきなり家にやって来てはダークソードを土産として手渡し、さらには信号無視でドライバーさんから罵声を浴びせられたこと。
姫ちゃんに恐喝されて有り金を奪われたあと、泣きながら一緒にカレーを食べた夜。
どこかおバカで抜けている彼だったけど、魔王と云いながら根はとっても良い奴だった。
あの日々が走馬灯のように映る。
今までありがとう、アレクサンポポス大王。
そして、さようなら。




