第19部 魔王、アリさんから逃げる!
フローリングの床に、顔面からのめり込む魔王の元に辿り着いたのは1分後。
墜落現場には無数の鼻血が飛び散っていて、彼は床に血文字で『我が生涯に一片の悔いあり』とか残していた。
「大丈夫、魔王?」
「な、なんとかな」
鼻を押さえながらムクッと起き上がり、苦笑する男。
なぜ先に手をつかなかったのか疑問を覚える怪我の仕方である。
「ま、何はともあれ魔王が不死身でよか……った……」
「?」
魔王の背後に大きな何かが……。
「どうした、康介よ」
「う、ううう、うし、うし」
「牛? 我は肉牛も乳牛も好きだぞ。 性的な意味でな」
「誰も18禁なこと訊いてないからね!? まさかアダルト以外お断り展開にする気!? 後ろ見て頭を冷やして!!」
「なぬ?」
くるっ。
「…………。」
そっか。
家の中に、アリを放出しちゃったんだっけ。
「「……………(3歩後退)」」
シュタタタタ
「「いやぁぁああ!!!!!」」
只今、絶賛エスケイプ中です!!
「ちょ、魔王!! どうにかして!!」
「無理に決まっておろう!!」
「このままじゃ捕まっちゃ―――のぁああ!!」
「ぎゃああ!!!」
左右から2体のアリ出現!!
(囲まれた!!)
「ど、どうしよう魔王!」
「どうにもこうにも……。 ここは敵意が無いことを示さねば」
アリに向かって一応両手を挙げ、投降する。
まさか天下の人間様が昆虫如きに屈する日が来ようとは思わなかったなぁ。
つか、魔王がこうもあっさり戦いを放棄して負けを認めるなんて。
うーむ、これは絶体絶命のピンチ!
このままでは喰われてしまう可能性が非常に高い。
何せアリは自分の数百倍もの重さを軽々と持ち上げる強靭な顎を持っている。 一旦捕まれば二度と逃げ出せない。
(康介、様子を見て逃げるぞ)
(わかってるよ)
お互い両手を挙げながらアイコンタクトで会話する。
少しでもアリの陣形が崩れた時点で逃げ出す算段だ。
睨みあいが続き、僕らの額に汗が流れる。
と、前方のアリが右方に移動したその時、
「逃げろ!!」
わずかにできた包囲網の穴を縫うようにして冷蔵庫の奥へGo!
「まずいよ! 気付かれた!!」
アリは不意を突いて逃げ出した獲物を物凄い勢いで追跡し始めた。
無論、その獲物とは僕らに他ならない。
もっと小さいアリを選ぶべきだったのに、魔王がクロオオアリなんか選んだからトンデモなく足が速い。
「走れ康介!! あの樹海まで逃げ切れば奴らは追って来れぬ!!」
逃げる場所も隠れる場所も限られている。
その中で唯一逃避可能な場所は、冷蔵庫下部分、通称『ホコリの樹海』。
「飛び込めっ!!」
「とりゃあ!!」
ホコリで埋め尽くされた冷蔵庫下部分にダイビングヘッド。
ここまで来れば流石のアリも追って来ることはできず、諦めて去って行った。
「ふぅ、助かった」
「いや、まだ助かってはおらぬ。 この樹海を抜けなければ、捕らわれの姫の元には辿り着けぬだろう」
「ナレーションがなんかRPGっぽくない!?」
「康介! あの夕日に向かって競争だ!!」
「まだ午前7時です!!」
まったく。朝だというのに気の早い魔王だ。
とりあえずウキウキして進撃する魔王の後ろに付いて行く。
掃除なんてまともにしないから、ホコリだらけで目が沁みて痛い。
なのに彼はお構いなしにドンドン突き進む。
やっとのことで樹海を抜けた時、魔王はその先で立ち尽くしていた。
「………出た……」
ご感想やポイント評価等頂けると幸いです。




