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World Decline  作者: 猫野 銀介
revival goddess
6/19

ヴァンパイアの最後

「おーい! チビ無事かぁ?」

「……ヒドいよ、おじちゃん」


  冷めた目でアリスが見てくるが、とりあえず無視する。

  ヴァンパイアは、すでに全身氷付けになっていた。辛うじて顔はでている。動けない中でオレをにらみ殺そうとしていた。なかなかの睨みっぷり。だが残念。オレが軍にいた頃の教官の睨みの方がもっとヤバかった。ビビりすぎてぶっ倒れるヤツもいたほどだ。

  オレはその視線を軽く無視しながら、アリスをヴァンパイアから引き剥がし、目の前に堂々と座ってやった。もちろん、ある程度の距離はとってある。

 

「どうよ、ヴァンパイア。人間に負けた気分は?」

「私は負けていない!!」

「……強情」


  流石は数万種のエネミー、ミュータントの中で高位にある種族なだけはある。気位が無駄に高かった。それがまたウザ……鬱陶しい事この上ない。


「ヴァンパイアたるこの私が負けるはずがない!!」

「ハイハイ……ったく、年寄りは頑固だな」

「おのれ、人間!! 下級種族ごときが図に乗るな!!」

 

  いまだワアワアわめく元気な爺さんに呆れながら、先程怪我をした腕をみてみる。出血は多くないものの、服に流れ出た血が染み着いていた。アリスが一瞬複雑そうな顔をした気がした。


「あーあ、洗濯しないといけねーな。いや、穴も塞がないとダメか」


  針はリュックの裁縫セットの中にある。糸もまだ残っていたはずだ。落ち着ける場所があったら縫っておこう。……ついでにアリスの服を作っても……いや、それは面倒だやめておこう。


「買いかえるのは?」

「却下だ! そんな金はねぇ!!」


  これでも生活費を切り詰めてるんだ。不味い携帯食料で我慢してきたんだぞオレは。その苦労はアリスに台無しにされたが。

  するとアリスは哀れむような目でオレを見てくる。


「……ビンボーなんだね」

「それを言うな」


  あれこれ言っていると、ヴァンパイアが先程より大人しくなったのに気がついた。死期が近いのかもしれない。サッサと死んでくれて構わないが。


「……死んだか?」

「まだ死んどらんわ!!」

「……デスヨネー」


  ちょっと……いや、かなり残念だが、まだ生きていた。

  服をやられた仕返しを今のうちにしてしまおうかと考えていると、地震と間違えるような地響きがした。地面は大きく揺れ、砂が滑り落ちてくる。


「なっなに!?」

「……やーな予感」


  オレはとっさにアリスを掴み、未だに揺れている砂の斜面を滑り落ちそうになりながらも駆け上がる。もちろん、ヴァンパイアは放置だ。願いを三つ叶えてやると言われてもオレは放置する。


「待て! 人間!! 下等生物!! 私を置いていくな!!」

「やなこった」


  吠えているヴァンパイアに舌をつき出す。

  悔しそうな声が聞こえたと同時に、砂が高く舞い上がった。オレはなんとかあの青く光っていた棒に掴まり、体を引き上げる。振り返れば、巨大な茶色い芋虫いもむしがヴァンパイアがいた所から気色悪い顔を突き出していた。


「きっ気持ちワルい」

「昆虫型突然変異体 No.032 巨大種、通称ワーム。流石のヴァンパイアも食われりゃお仕舞いだな」


  丸呑みにされていて、胃の中で生きていたら知らないが。

  オレが半ば呆れながら馬鹿でかい口を見ていると、アリスが服の端を引っ張ってきた。


「なんであのいもむしはここに来たの?」

「普段地中で生活しているから嗅覚が鋭いんだ。おそらく地面に染み込んだ血の匂いを嗅ぎつけてきたんだろうよ。ちなみにアイツは肉食だが、何でも食う」


  相手が自分より高位の種族でもな、と付け足す。

  ヴァンパイアを捕食したワームは近くにあった“荷馬車”を食べ始めた。バリバリと凄まじい音を立て、木製の荷馬車が粉々になってワームの口の中に吸い込まれていく。アイツの口ってどうなってるんだ……知りたくはないが。


「……退散しますか」

「……おじちゃん」

「あ゛?」


  振り返れば、うつむいてモジモジしているアリスがいた。可愛くはない。こいつの正体はオレの天敵大食らいだ。可愛いはずがない。


「あっ……ありがとう」

「ん? 何の事だ?」

「助けにっ来てくれた」


  つっかえながらも必死になって礼を言い切るアリス。オレはそれを横目に置いてあったリュックを背負う。文字が刻まれた棒は……使い道がないから置いて行こう。荷物は増やしたくない。


「気にすんな。ほら、行くぞ」

「……うん!!」


  オレはさっきより重くなった気がする荷物を背負いなおし、歩き出す。アリスは駆け足で追いかけてきて、オレの腕に飛び付いた。

  オレは振り払う事はせず、好きなようにさせておいた。ここで泣かれても困る。

  太陽は沈みかけ、肌寒くなってきていた。もうすぐ夜だ。


「あっ!! 今日、晩飯抜きだった……」

「えー!?」

「お前のせいだろうが!!」


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