TURN5 未知
『・・・《END OF WORLD》を確認した。』
ランスからの通信を受けたシドはすぐさま館内放送を流した。
『待機中の社員達に告ぐ。こちら社長代理の技術班長シド、予想していた最悪の事態が起こった。《END OF WORLD》の復活だ。少し予定を早めて大至急CROWNへ侵入する。本社部隊は格納庫へ集合、技術班は試作型の起動実験を中止して《ARIS 2》の発進準備にかかれ。通信班もARIS2へ乗り込んでくれ。僕とオズマとアザブルは試作機で出撃する。ただしARIS2の目的はCROWNの市民の救出だ。よって僕達とは別行動になる、頼んだよ。』
シドは通信を切ると格納庫へ急いだ。
ワープゲートへ入ったファムとシドはある世界にいた。地面はやや白みを帯びており、所々で紫色の水晶がきらめいている。シドはこの光景に見覚えがあった。
「ここは・・・テラ?」
驚き固まるシド。
「テラって、兄やシドさん達が戦ったその・・・異世界ってやつですか?」
「ああ、ここはテラと何一つ変わらない。そしてここがもしテラだとしたら・・・」
〈ギシャァァァァ〉
「ほら来た!」
地中から二人を囲むように四体の巨大なムカデ型魔鬼が飛び出してきた。
「でかい!これも魔鬼!?」
「ファム、お前ならできるよ。」
ファムは影槍を伸縮させて魔鬼を斬り付けた。数本の足を落とされた魔鬼が逆上してファムへ牙を向ける。ファムは辛うじてそれを避けるとムカデ型魔鬼の頭上へ飛び乗り影槍を突き刺した。
「散!」
ムカデ型魔鬼の頭部から無数の影の針が突き出し、魔鬼は倒れた。
「やるじゃないか。」
声を聞いたファムはジンの方を向いた。そこには二体の魔鬼が倒れていた。もはや原型すらとどめていない。
「ジンさん後ろ!」
最後のムカデ型魔鬼がジンへ体当たりしてくる。ジンは振り返ると身体を硬質化させて構えた。
「さぁ、絢爛舞踏を御覧あれ・・・」
ムカデ型魔鬼の体当たりがジンの目の前まで迫ってきていた。
「剛拳弐式・瞬撃の型、《閻葬{エンソウ}》!」
ジンは構えたまま動かない。が、魔鬼の動きも止まっていた。ジンはムカデ型魔鬼に背を向けると再びファムの方へ歩きだした。
次の瞬間、ジンの後ろでムカデ型魔鬼の身体が凄まじい打撃音と共に衝撃で激しく振動する。その姿はまるで踊り狂っているかのようだ。ついにムカデ型魔鬼は打撃痕で穴だらけになり、最終的に粉々に崩れ落ちた。ファムはただ呆然とそれを見ていた。
「さぁて、この世界にいるザック達を探しに行こうか。」
「はい。」
二人が歩きだそうとしたその時、地震が起こった。
「また魔鬼か?」
ジンの予想は外れた。目の前にワープゲートが開いたのだ。それはまばゆい光を放ち、見たことの無いタイプのワープゲートだった。そして中から三つの人影が見える。
「誰だ!?」
「兄さん達なの!?」
しかしそれは人ではなかった。中から出てきたのは青い光を放つ三つの人型のエネルギー体だった。二人は唖然とする。
「何だこいつら?」
「魔鬼じゃないんですか?」
「魔鬼にこんなタイプはいない。気を付けろよ。」
青いエネルギー体の一体が手にエネルギーの塊を作り出した。そしてファム目がけて高速で放つ。
「避けろ!」
ファムは飛び退いたが足元に炸裂したエネルギー球はファムの足ごと周囲を一瞬で凍らせた。足を凍らされたファムは背中から倒れた。
「あっ!」
他の二体も手にエネルギーを集める。
「いいかげんにしやがれ!剛扇・連撃!」
ジンの回し蹴りがエネルギーを集める二体を襲うがエネルギー体は一瞬で移動して回避してしまった。
「ハッ、意外に速いんだな。」
(まずいぞ、敵は三体。しかもファムは身動きがとれない。こんな時みんながいたら・・・!)
今度は二体がジンへ向かってエネルギー球を連射してくる。さらに別の一体が倒れたファムにエネルギー球を放った。ジンは助けに行こうとするがエネルギー球がそれを阻む。
ファムは影槍を盾に変化させて辛うじて防いだ。が、炸裂した冷気でさらに身体が凍った。
そしてついにジンもエネルギー球を足に受けて動きを止められた。二人とも身動きがとれなくなってしまった。三体が一斉にファムへエネルギー球を放つ。
「ファム!」
「うわぁぁぁぁ!!」
球体がファムに直撃した。白い煙が立ちこめる。
「う・・・あれ?」
ファムは無事だった。彼女は目の前にエネルギーシールドを張って立つ赤い人影を見た。
(・・・人形?)
冷気の煙が晴れる。ジンもファムの無事を確認すると赤い大塊儡{おおくぐつ}を見た。
「《陽斬{ヨウザン}》!お前がここにいるって事はサイが近くに?」
『戦闘する音を聞いたんでね。』
『無事で安心したぞジン!』
「サイ、レイモンド!会えて良かった!」
ジンが丘の上に立つ頭にバンダナを巻いた男と筋肉質の男に向かって叫んだ。
青いエネルギー体は陽斬が守るファムを諦めてジンへ標的を変更した。
しかし一体が振り向いた時にはジンは既に黒色の大塊儡《牙陰{ガイン}》に助けだされていた。さらに他の二体は地面から伸びた強化繊維に絡まっている。続いて地面から深緑の大塊儡《邪混沌{じゃこんとん}》が姿を現した。繊維を引っ張って一気に二体をバラバラにする。
「やった!」
ジンがバラバラになって液体に変化したエネルギー体を見た。だが様子がおかしい。バラバラに散った液体が再び一点に集まり、人型を形成していく。
「さ、再生!?」
「ジン!奴らの心臓部にある球体を破壊しろ!」
ジンがエネルギー体をよく見ると胸部に青い球体があることがわかった。ジンは再生しかけている二体の心臓部にある球体を破壊した。
再生は止まり、エネルギー体は消滅した。残った一体が隙を突いてジンに襲い掛かろうとしたがファムの《影縛り》によって動きを封じられた。
「トドメだ。」
遠くのレイモンドが地面にグローブをはめた手のひらを当てた。すると地面から巨大な機械の触手が大量に現われ、エネルギー体を囲んだ。触手の先端にはレーザーやミサイル、ロケット、マシンガンなどの重火器が付いている。
「《インヴィジブル・アルマダ》!!!」
全方向からの一斉射撃でエネルギー体は心臓部にある球体ごと粉々になった。
ジンとファムは牙陰のヒートブレードで氷を溶かしてもらい、これまでの事を話した。
「ほぉ、ザックの妹か。どうりで影縛りを・・・」
「全然似てないよな!」
サイはケラケラ笑う。ジンは座ったままレイモンドを見上げた。
「ところでレイモンド、他のみんなはどうした?」
「それがわからないんだ。オレとサイは同じ場所に飛ばされたんだが、スティングとアンカーは別の場所に飛ばされたらしい。ザック達が来ていることも知らなかったしな。」
「そうか・・・。アンカー、どこにいるんだ。」
「スティングが一緒なら心配ないさ。」
ジンは暗い表情を見せた。それを見たファムは隣に立つサイへ尋ねた。
「あの、サイさん。ジンさんが言うアンカーって人は?」
「ん?ああ。アンカーはジンの双子の弟だ。やっぱり兄として心配なんだろう。」
ファムはジンの方を見た。暗い表情を見せたのは一瞬だけで、レイモンドとこれからのことについて話し合っているようだった。
(ジンさんはお兄さんなんだ・・・。)
M・A社発進セクター
私設兵士達が乗り込んだ巨大な戦艦が轟音をたてて発進の時を待っていた。
要塞戦艦《ARIS 2》だ。移動都市をコンセプトに造られた《ARIS》と違い、高機動用として改善されたその戦艦にはやはりワープゲート発生装置が組み込まれ、シャープな形状をしている。十分に巨大な船体には多数の砲門が備わっていた。一番の変更点はキャタピラによる移動方法からホバー移動に切り替えた点である。
《ARIS 2》の前には三機のブルーメタルの機体が立っていた。虎駝とも龍怒とも違う機体だ。試作機に乗り込んだシドに技術班から通信が入る。
『シド様《神歌{シンカ}》の調子はいかがですか?それぞれオズマ様、アザブル様用に調整しておきましたが。』
シドはコクピット内で機器の点検をする。
「うん、いい感じだよ!オズマ、アザブル、どうだい僕の自身作は!?」
『クハハハ!最高だぜこいつは!!《END OF WORLD》なんか目じゃねえ!』
『うむ。良い仕上がりだ。・・・フ、《龍の怒り》から《神の歌》へ・・・か。』
「あと三機用意したからCROWNでランス達にも渡そう。彼等なら使いこなせるよ、きっと。ちゃんと黒色と赤色に塗装済みだし。」
シド達は神歌{シンカ}のスラスターを起動した。大出力による高音がセクター内に響き渡る。
『シド様、発進準備完了です。指示をお願いします!』
「わかった。」
シドはスピーカーと通信のスイッチを入れた。
『総員に告ぐ。これからCROWNへ向かうが最後に作戦の確認をする!
まずはダラム基地へ向かい、《END OF WORLD》と交戦中のランス達を援護に行く。《ARIS 2》は《神歌》発進後戦闘領域を離脱し、海上のZ・E隊基地に避難中の市民を救出に行ってもらう。さらにまだ多くの他の市民がおそらく《ARIS》に避難しているだろうから合流してくれ。
僕達は何とかして《END OF WORLD》に《doomsday(最終審判)》を出させないように食い止める!あの攻撃を出されたらCROWNが消えちゃうからね。もしもの時の為に《ARIS》《ARIS 2》はCROWNを離脱して。
それからランスの報告では魔鬼が多数出現しているそうだ。戦いは想像以上に過酷なものとなる。みんな、生きてまた会おう。
・・・ワープゲート開放!《ARIS 2》発進だ!』
皮肉にも《アリス》と名付けられた戦艦は再び《不思議の国》へ足を踏み入れることとなった。