TURN25 VSオラクル右腕〜time traveler〜
サイとレイモンドが《儡々魁座{ライライカイザ}》を発動させた頃
右腕と激戦を繰り広げる神歌隊は敵の新たな攻撃に苦戦していた。
銀色の右腕は分裂し、三体の人型オラクルになったのだ。力は本物に劣るが、三体で襲い掛かられた神歌隊はランス ハル・アルマ シド・アザブル に別れて応戦しなければならなかった。
さらにシドはオズマを葬った人型の姿に再び激しい憎悪が芽生えていた。
《また現れやがった……!》
《うむ、消し去ってくれる!》
シドの韋駄天は瞬間移動で人型の頭を掴み、アザブルへ放り投げた。その先では鉄騎が巨大な刀を構えている。
《両断!》
振り抜いた刀は人型の身体を真っ二つにした。姿形は本体と同じとはいえ、戦闘力が違いすぎたのだ。
が、オラクルの右腕は甘くはなかった。
《なっ、こやつ!》
《アザブル!!》
真っ二つにした身体が液化し、アザブルの機体の右半身に張り付いたのだ。シドとアザブルが引き剥がそうとするが、びくともしない。
他の面々も同じ状態に陥っていた。ランスは圧力を発生させる機関に張り付かれ、ハルにへばりついたのをアルマが高温で焼き払おうとしても効果はなかった。
《ぐぅ、こやつ装甲を溶かしている!》
アザブルがモニターで機体ダメージをチェックすると、張り付かれた右半身の装甲が融解しはじめているのがわかった。
《神歌の装甲が溶けるわけないじゃないか!》
アザブルの機体にへばりついた銀色の膜を引き剥がそうと努力しながらシドが叫ぶ。
《……相手は創世神だ。結合法則なんて関係ないんだろう》
もがくランスの機体の中でスティングが言った。
《どうすれば……このままじゃ》
シドが打開策を練るためにキーボードを叩いていると、レーダーに異変が起こった。
《時空の歪み?何で?》
身動きができるアルマもそれに気付き、シドの隣に立った。二人は空を見上げ、暗い空の一部が渦巻いている。
《シドさん、あれ!》
《ワープゲートじゃない。時空列系統の技術はまだ発展していないから人類ではないね。ってことは新手かな?だとしたらちょっと厳しいよね》
渦を巻く部分は丸く開き、中から何かが出てきた。新たな敵に備え、シドは韋駄天のブースターをふかし、アルマは極皇の身体に炎を纏った。
だが
《は?》
《え?》
シドとアルマは目を疑った。そして次の瞬間、二人同時に別方向を見た。そこではオラクル目玉と戦闘する悪魔ザックがいる。
シドとアルマは再び時空の歪みによって発生したゲートに視線を戻した。
《い、意味がわかんないよアルマ……》
《シドさんがわからなかったら私にわかるはずないです!》
二人はただ茫然とゲートから出てきたものを見つめている。
黒い身体に蹄を持った脚、翼、肩からも生えた計四本の腕、それらはすべて影で構成されているはずである。
何故なら現れたのは悪魔だったのだから。
つまり、今も目玉と戦闘しているはずの《ザック》である。
『ナルホド、そういうわけか』
二人目のザックは独り言を呟きながら地上に降りた。
《ザック!?》
シドは二人のザックを韋駄天の顔を動かして見比べる。
そんなシドの姿を見たザックは
『よぅ、シド!』
と片方の二本の腕を上げ、さらに
『……えーと、あの時シドはなんて言ってたっけ?あっ!そうそう、確か変なのに張り付かれて困ってたとか言ってたな!あ、お前等からすればこれから言うのか?』
シドは時制の一致しないザックの発言に首を傾げたが、しばらく考えた後、一つの仮説を立てた。
《君は未来から来たザックだね?》
ザックはシドの機体を巨大な手で叩いた。
『さすがシド!ご名答!!』
アルマは状況が理解できていないらしく、頭に疑問符を浮かべている。
『オレはほんの少し未来から来たザックだ。細かいことはよくわかんねぇけど、まぁ後々お前等にもわかるだろ』
そう言うとザックはオラクル右腕の溶解攻撃に苦しめられるアザブルの機体に近付き、右半身を
全力で殴った。
《ぐぉ!ザック!?何故!?》
アザブルは凄まじい勢いで吹き飛ばされた。
《な、なにやってんだよザック!》
『なにって、お前がこうしろって言ったんじゃねぇか』
《僕が!?》
ザックは同様に、ランスとアルマの機体の張り付かれた部分を殴り飛ばした。ディアボロスのパワーは凄まじく、アザブル同様二人も吹き飛んだ。
『打開策だ』
見ると、起き上がった三機から銀色の膜がずるずると下に落ちていく。
《すごいよザック!》
『いや、お前に言われたとおりにしただけなんだが……』
三つの液体は再び混ざり合い、右腕に戻った。
『じゃあ、あとはお前達でケリをつけろ。サイ達の方も片付く頃だろうし、オレは過去のオレを助けに行くとするよ』
そう言うとザックは翼をはばたかせ、もう一人の自分の元へ行ってしまった。
《アイツにもう力はない!》
シドはレンズを開く。アルマも手に火球を出した。戻ってきた三人もそれぞれ攻撃準備を整えた。
《一体何が何だかわからんが……》
《とりあえずエネルギー供給源撃破だ》
五機の神歌はフルエネルギーで一斉攻撃した。
穴だらけになった右腕は陶器のように崩れ落ちてしまったのだった。
シドはキーボードを叩き始める。
《サイ達もエネルギー供給源を片付けたみたいだね。よし、ここからが作戦の始まりだよ!みんな、能力者達を回収に行って!》
シドの合図で四機は飛び立ち、能力者の方へ向かった。残ったシドは最終作戦を発動すべく無線機のスイッチを入れた。
―――――
二つのエネルギー供給源を破壊されたオラクルはザックを睨み付けている。
『人間め、ここまでやるとは……』
宙に浮くザックはオラクルの言葉など耳に入っていない様子。背中に円を形作る球体が外側に円を開き、回転しだした。フルスピードになった時点でザックが肩の両腕を横に開き、右腕を前に突き出し、人差し指をオラクルに向けた。
『照準セーーット!』
ザックを囲んだ漆黒の筒がオラクルに向かって伸びていく。大きな柱がオラクルに突き刺さる感じである。
照準を定めたザックは、漆黒の筒の中で四本の腕を前に出し、筒を埋め尽くすほど太いレーザーを放った。
『《Shadow・Brust》!』
照準の逆側、目玉オラクルの後ろから漆黒の光線が飛び出した。
『我を貫通させる程の威力。つくづく興味深い生き物だ貴様は……む!?』
突然オラクルの横側にもう一本照準が当てられた。そして
『《Shadow・Brust》!』
漆黒の光線が反対側から飛び出した。ザックもまったく同じ攻撃に目を丸くする。
そこには自分と全く同じ姿の悪魔が浮いていた。
『よう、《過去のオレ》!助けに来たぜ!!』