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『CROWN plus』  作者: 是音
23/27

TURN23 最終決戦開始

 エネルギーフィールドを飛び出した能力者達はまず周囲の光景に驚いていた。エネルギーフィールドがあった場所以外、スパムの地面は深く巨大なクレーターになってしまっていたのだ。

 その中心で宙に浮く銀の目玉と地面に突き刺さって星のエネルギーを吸収する二本の腕。どれもザック達から見れば巨大で、とても太刀打ちできるような相手ではない。

が、シドの作戦の元、全員は希望を抱きつつこの長きに渡る、人間を超越し、無敵の神を相手にした無謀とも思われた戦いに決着をつけるべく身を投じるのであった。


 右腕を破壊する為に向かったのは神歌達機動兵器隊である。戦闘不能に陥ったスティングはランスの機体に乗り込んでいた。


 一方、左腕へ向かったのはサイ、レイモンド、ジン、アンカー、ユノ、ライア、ファムである。つまり本体と思われる目玉へ向かったのはザック一人だけなのだ。


「奴に再生能力はもう無い。目的はエネルギー供給源となっている両腕の破壊だ。目玉はオレが引き付けておいてやる。絶対破壊しろよ!」


 走りながらザックは他の能力者達に向かって言葉を投げ掛けた。


「私達を誰だと思ってるのよ!・・・ザック、死なないでね。死んだら駄目だからね!」


 ザックはユノの頭をポンと叩くと、一人進路を離れて目玉へと向かった。他の能力者達は地面に突き刺さっている左腕へと向かう。遠くでは既に内部機関を起動した神歌隊が右腕と戦闘を開始していた。


「さあ、我々もやるぞ!」


 レイモンドを筆頭に全員がトランプから能力を発動させた。皆の絵柄は全て同じ。《JOKER》である。


 左腕は地面に手首まで埋めた状態で直立していた。その肘部分の切断面から銀色の触手が溢れだし、能力者達を襲った。


「ハハハ!なんか野菜みたいだな!」

「この状況で冗談を言えるのは世界中でもあなたくらいよ。アンカー」


 触手の一本一本を切断しながら冗談を言うアンカーにほとほと呆れるライア。ゆっくりだが確実に前進していた。無数の触手攻撃に対応できるのは、地下世界でオラクル戦闘体第三形態と戦った経験があるからである。斬り続ければいつかは触手が無くなる。諦めない事が大切なのである。

事実レイモンドは効率の良いように新たな兵器を精製し、牙隠、邪混沌と共に触手が密集している根元へ攻撃を加えていたし、ユノとライアは爆破エネルギーを触手から内部へどんどん流し込んでいる。ファムは特大の影の刄で触手を寄せ付けない攻撃を繰り出し、ジン、アンカー、陽斬は避けきれない攻撃から皆を守っている。それぞれが能力を活かし、絶妙な連携を見せていた。


―――


 こちらは右腕と戦闘を繰り広げる神歌隊。


《遅い遅い!!》


 シドの瞬神・韋駄天は襲い来る触手を擦りもせずに避け、シドを仕留められなかった触手は再び右腕へ戻ることはなかった。


《でりゃぁぁぁぁ!》


 アザブルの鬼神・鉄騎は凄まじい重量の大刀を軽々と振り回しながら突き進む。さらには大刀を投げてブーメランの要領で大量の触手を一気に切断していった。


《アルマいくよ!》

《うん!》


《せぇの・・・》


 ハルとアルマの炎神・極皇は二機で巨大な火の玉を作り出し、放った。触手が触れるだけで焼失する。炎を操る二人の内部機関は装甲も炎に包まれ、攻撃を受け付けない。


《スティング君、捕まっていろよ》

《ああ。すまないなランス》


 ランスの滅神・災羅は圧力場と重力結界を巧みに操り、触手を叩き落としてはまとめて圧縮していた。それを見たスティングは納得した表情で


《そうか、ハルとアルマの機体はアウスの能力を。ランスの機体はメーヴェの能力を参考にしたんだな》


《シド君の案らしい。それより一つ聞いてもいいか?》


《なんだ?》


《先程エネルギーフィールドの中でシド君に聞いたんだが、その身体は昔ミシェル・B・クラウンによってもたらされた物らしいね?》


《それが?》


《だが君はその後彼にCROWNで会った。ザック君達と仲間になった頃に。そして彼らはまだミシェルという男の正体を知らなかった。だが君は……知っていた筈だ。彼がイリュージョン社の人間だということを》


《オレが知ってて黙っていたと?》


《わからない。けど腑に落ちないんだ》


《……ミシェル・B・クラウンという人間は確かに知っていた。が、ダラム基地で見たミシェルは全くの別人だった》


《なに?》


《身体的特徴が違いすぎた。同じだったのは金髪と眼鏡と名前だけ。なぜならオレに手術を施したミシェルは60歳のジジイだったからな》


《……若返ったというわけか》


《奴が最終決戦で本性を表した時は腹の底が煮えたぎる思いだったさ。奴は手術を施したオレの事を知っていながら近くで密かにオレを観察していたのだから。意外な所で再会できた研究用モルモットの成長をな!》


《……なるほど》


 ミシェルという狡猾な男は厄介事ばかりを作り上げ、見つけ出し、この世を去った。


『CROWN』という殺人ゲームに始まり


能力者を媒体としたDNA計画の『キメラ』


謎の生命体『魔鬼』


『異世界テラ、トガス、メアス、ヒラリス、ヴァルガ』の存在


人工魔鬼『END OF WORLD』


『新資源』の存在


魔神『メサイア』


機動歩兵シリーズ等の数々の兵器


そして現在のこの状況。ミシェルの『宇宙消滅』という危険な思想、行動が神々を怒らせ、今回の事態を引き起こしたのだ。


《ミシェルの尻拭いは癪に触るが……》


《我々人類が引き起こした事態だ。いた仕方あるまい》


―――


「ようオラクル。一騎打ちだ」


 目玉の前に立ったザックは上を見上げた。目玉は瞳を下ろし、一人の男に視線を集中させる。


『貴様等の目的はわかっているぞ。我が両の腕を破壊し、エネルギーの供給源を断とうという魂胆だな。考えは良い。が、我がそれを黙って見過ごすとでも思ったか愚か者。さらには我を一人で相手しようという始末。無謀・・・』


 目玉に影の刄が三本突き刺さる。


「長ったらしい御託はいいんだよ。てめぇは消す」


 辺り一帯がざわめきだし、目玉の、そしてクレーターによってできた膨大な量の影が一斉にザックの元へ集まり、ザックは全身でそれを吸い込んでいく。

 ザックの身体は影の殻に覆われ、どんどん巨大化していく。まるで影でできた黒い繭である。


『なんだ・・・?それは・・・』


 目玉はぐるぐると回転し、繭の周囲を回りながら観察している。中のザックがどうなっているのか見えない。ただ繭だけは影を吸収しつづけ、巨大化を続けていた。



―――


 エネルギー吸収を中断した両腕は地面から手首を引き抜いた。


「ようやく相手をする気になったかい」


 レイモンドは自分達に手のひらを向ける左腕に砲撃を開始した。 他の者も後に続く。

 左腕は指を反らし、大きく手を開いた。

腕は微妙に震えている。次の瞬間、周囲に散らばっていた岩石が宙に浮かび、能力者を襲った。岩石は散らばっていたものだけでなく、左腕の特殊な力で地面から削りだしたものもある。宙に浮いた無数の岩石は能力者を取り囲み、ランダムに降ってくる。そんな避けるのが精一杯な状況で、それを弾き飛ばす二人がいた。


 ユノとライアである。二人に弾かれ、爆弾石と化した岩は右腕に激突しては爆発している。左腕は岩石を操っている間は行動できないらしく、ジンとアンカーに防御を任せたユノとライアにとっては絶好の攻撃目標となっていた。


 そんな中、ファムは遠くで目玉と戦っている兄の異常に気付いた。ザックの姿はどこにもなく、代わりに妙な黒い球体が地面に発生している。


「レイモンドさん!兄が!」


 ジン、アンカー、ユノ、ライアだけを外側に残して発生させたエネルギーフィールドの中で、レイモンドも同じく目玉の方に顔を向けた。そして口の端を上げて一言


「出たな」


「出たって?アレは何ですか?」


「ザックがお前にはまだまだ負けないと自負する理由さ」


―――


 右腕は指を目標に向け、先端から五本の光線を放って神歌隊を攻撃していた。触手と光線という、動き回らなければ即やられてしまう攻撃をシドが先だって回避し、引き付けていた。

 アザブル、ランスは後方からレーザーを放って応戦し、ハルとアルマは触手を焼き尽くさんとばかりに高熱の火球を連射している。

 コックピットの中で膨大なエネルギーの反応を感知したランスは発生源へ視線を送った。巨大な目玉の前には黒い球体が影の渦のなかに発生していた。


《アレは・・・ザック君か?》


 コックピット内のランスの後ろで同じくそれを見ていたスティングは不敵な笑みを見せた。


《なぁランス・・・身体能力も人間を超越し、人工新資源なんて代物を取り込んだオレが何故アイツに最強の座を渡したかわかるか?》


 ランスはモニターに釘づけになっていた視線をスティングに向けた。


《アレのせいか?》


 スティングは頷く。


《もし前異世界大戦でアイツがアレを完成させていたら一発でケリはついていただろうな。・・・しかし本気を出したオラクル相手にどこまで通用するかな》


―――


 山のように超巨大な目玉には到底届かないが、それでもメサイア程度には大きくなった黒い繭に変化が表れた。中から黒い光を放ち、一部がひび割れたのだ。中から漏れ出た圧力に目玉は明らかに動揺した声を発する。


『こ、このエネルギー量は・・・!まさか・・・人間が我々に匹敵するなど・・・!』


 まず始めに繭を突き破って表れたのは手であった。大きく、漆黒に染まり、指には長く鋭い爪を持ったその手は明らかに人間の物では無かった。しばらく繭から突き出していたその手はすぐに中へ引っ込んだ。


 遠くでそれを見たファムは目を丸くした。


「い、今のが・・・兄さん・・・?」


 レイモンドはファムの右腕に備わった影槍を指差して言う。


「たとえ同じ『JOKER』クラスでもまだまだお前とザックでは質が違うということさ」


「え?」


 レイモンドは内部から光を放つ黒い繭をじっと見つめ、ファムの肩を叩いた。


「しっかりと見てその目に焼き付けろ」


 繭は内側から刀で一刀両断されたかのように一気に真っ二つに割れた。中から黒い光が大量にあふれ出てくる。


「あれが影完全支配能力の真骨頂・・・」


「悪魔『diabolus{ディアボロス}』だ」

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