TURN22 執念
「ならオズマさんは今も一人で戦っているんですか!?」
シドの機体に抱えられ、穴の中を凄まじいスピードで上昇する中、ファムはオズマが一人で戦っているという話を聞いて焦っていた。
《ああ。だからこうして急いでいるんだよ》
シドが答える。ボロボロのスティングを抱えたアザブルも後に続いていた。
《スティング、やはりシドの読みどおりお前はサイボーグだったか》
「さすが機械工学の天才、気付かれてたか。それよりオズマ一人で大丈夫なのか?」
《オズマは我々の中で一番強い。たとえオラクルでも奴の内部機関には苦戦させられるだろう》
ただ、シドだけは嫌な予感が頭の中で渦巻いていた。
《オズマ・・・》
「見ろ!地上だ!」
―――
《シド君・・・》
地上へ飛び出したシド達より先にランス達が到着していた。
だが全員は宙を見上げている。不思議に思ったシドも空を見上げた。
そこにあったのは宙に浮いて密着するオラクルと神歌の姿だった。
だが
神歌には首がなく、全身から火花を散らしている。そしてオラクルの腕は・・・機体のコクピット部分に突き刺さっていた。
ガラクタと化した神歌を見たシドは頭が真っ白になった。
「オ・・・ズマ?」
ザック達も目の前に映るものが信じられなかった。
「オズマが・・・負けたのか?」
オラクルは串刺しにした腕を上げ、止めの一撃を加えるべくもう片方の手に光を集めた。
シドはオズマを助けるべく飛び上がろうとしたが、アザブルに止められた。
《何で止めるんだよアザブル!このままじゃオズマが!》
《お前もわかるだろうシド!!コクピットが完全に破壊されている。オズマは・・・》
シドは歯を食い縛った。
オラクルのエネルギー収縮が止まる。
『人間がここまでやるとは正直驚いた』
手から放たれた光の柱は神歌を飲み込み、爆散させた。
《オズマぁぁぁぁぁ!!!うわぁぁぁぁぁぁ!!》
コクピットから飛び出したシドは散らばった残骸を手探り拾い集めた。
焼け焦げた装甲、ゴムの焦げたような臭いを放つ人工筋肉、ひび割れたヘルメット、そして
血だらけで、《OZMA》とロゴの入ったパイロットスーツの胸部分を砂の中に見つけたシドは砂をかきわけた。出てきたのは魂の抜けたオズマの上半身であった。下半身は・・・無い。
「オズマ・・・オズマぁぁぁ!嫌だよオズマ!!また一緒に帰るんだろ!また僕の悪口言うんだろ!ねぇ、オズマ・・・」
オズマの亡骸を抱いたシドは涙を流した。
後ろでは同じくコクピットから降りたアザブルが目を閉じて親友の死を悲しんだ。
「貴様ぁぁ!」
「ひどい!」
ジンとユノはオラクルへ飛び掛かった。二人とも我を忘れている。
『フン、生きていたか。貴様等も後を追って消えるがいい!!』
レイモンド、そしてランスも腹が煮えたぎる程怒っていた。
「眠らせるなんて生易しいもんじゃねえ!こいつは完全に消し去ってやる!」
《同感だ!!》
他の面々も後に続いた。
―――
ザック達がオラクルと戦闘する中、シドは尚も泣き続けていた。アザブルはシドの肩に手を添える。
「シド・・・」
「オズマはオーバードライブを使ったんだ・・・」
「オーバードライブ・・・。神歌の炉心を暴走させ、爆発的な能力を強制的に発動させる文字どおりの最終手段。だが中の人間の身体は一分で焼失する。」
「それでも・・・オズマは生きようとしたんだ。でもきっと脱出が間に合わなかったんだよ。焼け焦げても半分だけ残ったこの身体が何よりの証拠だ!!」
「シド、皆がオズマの為に怒り、戦ってくれている。我々も仇を討とう」
シドはアザブルの差し出した手を握って立ち上がった。
二人は神歌に飛び乗り、勢い良くスラスターをふかす。
《ぶっ殺してやる!いくよアザブル!!》
《うむ。内部機関起動!》
アザブルの機体は人工筋肉と装甲が増大した。巨大な鎧武者と化した《鬼神・鉄騎》は巨大な刀を肩に乗せた。
シドの機体《瞬神・韋駄天》は既にオラクルへ向けて飛び出していた。
オラクルへ波状攻撃を繰り出す能力者達。しかしスティングには戦う力が残っていない為、ランスの指示でハルとアルマが彼の護衛にあたっていた。
レイモンドの援護射撃に合わせて突撃したのはザックとファムの兄妹だ。
「影走り・轟!」
「影走り・連!」
ファムはとてつもなく巨大な影の刄を一本放った。地面から天を突くように伸びたその黒い刄は地面や空気を切り裂きながら空中のオラクルへと向かっていく。さらにザックが放った無数の刄が回転しながら巨大な刄の周囲をばらばらと飛ぶ。
それをオラクルは残像を残しながらヒュンヒュンと躱した。
続いてユノとライアが二人で弾いた時間差爆弾と化した岩が避けたオラクルの真横で炸裂し、細かい破片がオラクルの装甲に突き刺さった。
『・・・計算し尽くされた時間差か。こんな傷、我にとって修復は造作も・・・む?』
オラクルの様子が変わった。なかなか傷が塞がらないのだ。ゆっくりと完治はしたものの、その治癒速度はかなり遅いものだった。
首を傾げたオラクルは不思議そうに手を持ち上げたり自分の身体を眺めた。
ザック達はその光景を不思議そうに見ていた。そしてオラクルは自分で自分の異変に気付いた。身体中を走っていた青白い雷がいつの間にか消えていたのだ。
『これは・・・まさかあの人間!』
オラクルは爆散したオズマの機体の方へ振り返った。だが宙に浮く創世神の目に入ってきたのは残骸が散らばった地面ではなく、異常に近い位置に迫った特殊装甲の板。
《死にやがれクズ野郎!!》
凄まじい金属音と共にオラクルはシドの機体に頭を蹴り飛ばされた。
空中で縦に回転しながら吹き飛んだオラクルは体勢を立て直す。
『ぬぐっ・・・おのれぇ!』
オラクルは反撃しようと突き進んだが、途中でがくんと止まった。足にサイの大塊儡《邪混沌》の鋼鉄のワイヤーが巻き付いていた。
気付いたときにはもう遅く、アザブルの機体がワイヤーを掴み
《地に這いつくばるが良い》
鬼神・鉄騎の怪力で引っ張った。
バランスを崩したオラクルはそのまま地面に激突し、加えてランス、レイモンド、牙隠がレーザーで神の身体を穴だらけにする。
『さ、再生が・・・追い付かぬ・・・!』
さらにジンとアンカーが両側から突撃する。二人共地面に腕を突き刺し、地面を削りながらスピードを上げている。
「閻帝の怒声、大地揺るがし響き渡る・・・」
二人の超硬度の両腕が摩擦によって赤く輝きだした。
「深淵の業火、漆黒にて最大の苦痛・・・」
そしてついに拳に漆黒の炎が纏った。削れた地面には火柱が上がっている。
「《閻魔・断罪弾》!」
ふらつきながら起き上がったオラクルの身体に二人の炎を纏った両拳が炸裂した。
四つの黒い炎の拳はオラクルの頭部を粉砕し、身体を漆黒の炎で包んだ。
ゆっくりと、頭を無くしたオラクルの大きめな身体が燃えながら前へ倒れた。
本来無敵の創世神が再生しきれなかったのには理由があった。
オズマである。
彼は皆が到着するまでの短時間で、オーバードライブを起動させて戦いながらもオラクルの膨大なエネルギーを吸い上げていたのだ。《光神・覇轟》の能力は凄まじかった。凄まじすぎたのだ。
あまりに急速なエネルギー吸収。そして放出。オーバードライブによって暴走した炉心には負担がかかりすぎた。結果、オラクルのエネルギーをほとんど吸い出してしまった代償が、予定よりも遥かに早い炉心の限界だった。オズマは脱出に失敗。代償は・・・大きかった。
その説明をシドから聞いたザックは、横たわっているオズマの亡骸の元へ歩んだ。
「お前のお陰だよオズマ。お前が皆を、地球を守ったんだ。心から・・・感謝する!」
ザックは仮面を外して頭を下げた。
同じく一同が敬意を表したその時だった。
『我に死は無!消滅も不可!』
全員を黒い影が覆った。
惑星スパムの地面がぐにゃりと波うち、山のように巨大な銀色の目玉が盛り上がってきた。それは地面から離れると宙に浮き、さらに両側から同じように銀色の腕が盛り上がってきた。肘から下の部分だけで浮かびあがり、指を自在に動かす。目玉は下の能力者達を見下ろしている。三つの、空で銀色に輝くオブジェを見上げたザックは息を呑んだ。
「な・・・に」
目玉から声が響き渡る。
『人間を甘く見すぎていたのだな・・・我は。もはや貴様達は神々にまで危害を加えかねない存在となった。我は我の身体でもあるこのスパムのエネルギーを全て使い、貴様達を滅ぼす!』
目玉が激しく回転しだす。その動きはランダムで、質量等を考えてもありえない速度の回転である。そして次の瞬間目玉が輝きしたのを見たサイが陽斬へ指示を出した。
「みんな!陽斬のエネルギーフィールドへ入るんだ!陽斬が読み取った磁場、粒子圧からしておそらく広範囲攻撃が来る!」
その言葉で全員が陽斬の元へ走る。
《アルマ早く!》
《うん!》
アルマの機体は動けないスティングを手に乗せてスラスターでハルを追った。
シドはオズマの方を振り返ろうとしたが、ぐっと耐えて陽斬の元へ向かった。
《さよなら。オズマ・・・》
全員が球状に形成されたエネルギーフィールドへ入ったのを見たサイは精神力を振り絞って最大級のエネルギーを注ぎこんだ。
目玉の回転が不気味なほど突然ゆっくりになり、瞳を地面に輝く球状のエネルギーへ向けた。
『《ヨグ・ソトース》・・・』
目玉がそう呟いた瞬間、エネルギーフィールド内にいた能力者達は周りが見えなくなった。フィールドの外は真っ黒に覆われ、激しい振動が攻撃の凄まじさを物語っている。
サイは歯を食い縛った。
「うぉ・・・や、やべえ!このエネルギー量ならドゥームズデイをも防げるはずなのに・・・!」
クラス《JOKER》のサイが操る防御用大塊儡《陽斬》。その陽斬が誇る最硬のエネルギーフィールドは軋み、悲鳴をあげていた。
「サイ」
口を開いたのはスティングだ。
「オレの人工新資源を使え」
サイは歯を食い縛りながら陽斬の背中を押して前を向き、スティングへ話す。
「なんだそりゃ!?お前がサイボーグだったってこと自体が驚きだってぇのに」
「説明している暇は無い。シドならわかるな?」
ミシェルの文献を読み尽くしていたシドは人工的に造られた新資源の存在も知っていた。
《う、うん》
「頼む」
コクピットから出たシドは急いでスティングに走り寄ると、胸の部分を持っていたレーザーメスで切り裂き、皮膚の下から表れた鉄の板を強引に外す。
中からコードが大量に生えた新資源とは似ても似つかない立方体のチップを取り出す。
「サイ、陽斬のコネクタを!」
「お、おう。腰の部分だ!」
サイは目線で教える。シドは人工新資源を陽斬のコネクタへ接続した。
陽斬の身体が小刻みに震えだす。
「す、すげぇエネルギーの量だ!」
エネルギーフィールドが銀色に変わり、振動も無くなった。
サイがホッと一息ついて陽斬から手を離した。安全を確保したところで作戦会議をする。
「そもそも倒せるのか?」
「倒すしかないでしょ!」
ユノがレイモンドを小突く。
「大丈夫ですかスティングさん」
「ああ。ありがと」
ファムはスティングの心配をしている。
「やっと倒したと思ったのによ!」
「しつこい神様も考えもんだぜ」
とジンとアンカー。
皆それぞれが言いたい事を言い合っていたが、内心はオラクルを倒す案が見つからなくて困っているのだ。
「強行突破・・・は通用しないだろうなぁ」
「一撃一撃がドゥームズデイ並の破壊力よ?」
ザックとライアがため息を吐く。
《でも困った時はそれでなんとかなったろ?》
《もう!楽観的過ぎます隊長!》
《バカなんだから!》
《何ぃ!》
赤と黒の最新鋭兵器が身体全体を使って怒りをあらわにする姿は異様だった。
《ヨグ・ソトース》という名の攻撃は止まり、オラクルは両腕をスパムの地面に突き刺した。エネルギーを星から吸い出しているのだ。
それを見たザックは
「今の攻撃は溜め込んだエネルギーをすべて使う程の攻撃ということか。なら奴が身動きできない今がチャンスだ」
そこで、シドが計画を立て、皆に説明した。
―――
「よし、それで行こう」
サイは陽斬のエネルギーフィールドを外した。
能力者、そして神歌達は一斉に三方向へ散開した。