TURN18 予想外
小休止した能力者一同は、先にオラクル討伐へ行ってしまった新資源達を追うために都市部を抜け、巨大なトンネルの中を走っていた。ザックとファムは先頭で走りながら話している。
「兄さん、新資源達は無事かしら?」
「ファム、お前はまだ裏切った連中の心配なんかしてんのか?」
ザックは仮面の下で呆れた顔をする。後ろからスティングが話に加わった。
「確かに。ファム、テラ達は敵なんだ。誤った仲間意識は身を滅ぼすぞ。」
「スティングさん・・・。」
「お前は知らないだろうが、奴らが合体した《魔神メサイア》は最悪の強さなんだ。アイツらがオラクルを撃破した後、今度は俺達を撃破しにくるはずだ。」
「メサイアって、異世界大戦で兄さん達が倒したっていう怪物?でも復活してシドさん達を助けた後に石化しちゃったんじゃ・・・。」
「あれは新資源達が力を少し集めただけの不完全体だ。新資源が本格的に集合したメサイアは相当ヤバい。」
ザックとスティングの脅しにファムの顔は引きつる。見兼ねたジンがフォローする。
「大丈夫だファム。一度は撃破できたんだから。それより今はオラクルの事だけを考えろ。」
「はいっ、ジンさん!」
ファムはCROWNで出会ったときからジンのことを慕っていた。最初は圧倒的な強さからだったが、比較的行動派な双子の弟アンカーの面倒をみる兄ジンの姿を見ていると、超行動派のザックと自分に重なる気がしたのである。
と、突然サイが前方を指差しながら叫んだ。
「おいみんな見ろよ!でっけぇ扉だ!」
前方には明らかに人工で作られたような巨大な鋼鉄のシェルターが行く先を阻んでいた。
「きっとこの先に何かがある・・・。」
「でもこの扉どうやったら開くの?」
ユノとレイモンドが扉を調べる。すると、どういうことか扉が轟音を響かせながらゆっくりと横へ開いていった。
「《入ってこい》ということか?」
先頭のザックが中から溢れ出る光に目を細めながら言う。
「行くぞ。」
全員は中へと入った。
そこは巨大なドームのような場所で、見えないほどにとてつもなく高い天井にはやはり強力な光を放つ光源が多数設置されており、直径1キロ程もありそうなその空間に建物などは一切なかった。
ただ
中へ入った一同の目には信じられない光景だけが映っていた。
『ぐっ・・・の、能力者達・・・か。』
空間の中心にいたのは、なんと両脚と右腕を切断された《魔神メサイア》だった。
地面に這いつくばり、切断面や身体の傷からは黄金の光が溢れ出ていた。
「なっ・・・何!メサイアが!?一体何があったんだ!?」
ザックの声にメサイアはゆっくり頭を持ち上げた。ヴァルガとヒラリスのエネルギーで構成された剣と盾は完全に破壊され、砕け散っている。
『フッ・・・君達を・・・、ギッ、裏切ってまで辿り着いたというのに、な、情けない・・・姿だ・・・。』
「メサイア!」
メサイアは口から何もない上へ漆黒のレーザーを放つ。が、的らしき物はなく、天井にぶつかっただけだった。
それでも、倒れた状態で残った左腕を額の宝石に当て、自分の目の前と、空間のあらゆる箇所に無数のワープゲートを開く。そしてメサイアは《カオスインパクト》を目の前のゲートにたたき込んだ。
無数のゲートから光の玉が多数ばらまかれるが、これも何に当たるということはない。
ザック達はその様子を奇妙に感じた。
次の瞬間、何もない筈の真上から巨大な金色の光の槍が放たれ、メサイアの巨体を貫いた。
「メサイア!?」
身体に大きな風穴を空けたメサイアはもう動くことができず、内側から光を放ち始めた。
『ぬ、ぐぅ・・・!地球を護るのは我々の使命だ・・・と、そう、思っていたが・・・偽物はどうやら我々だったようだな・・・。』
ザック達は黙っている。
『我々新資源はもう・・・滅びるだろう。図々しい話だが・・・オラクル討伐の任務・・・君達に任せても良いだろうか・・・?』
「もちろんだ!」
ザックが叫び、一同は頷いた。それを見たメサイアは顔を下ろし、重力に身を任せた。
『私の中のトガスが言っていたこと・・・正しかったのかもしれないな・・・。実は他の皆も人間と触れ合ったことで少し、決意が揺らいだ・・・。正直、我々全員は君達を裏切りたくなかったのかもしれない・・・。』
メサイアの全身が光りだす。完全消滅の刻である。
『いいな人間よ!!地球に住む者として、地球を護るのはお前達だ!!役目を果たせ!!!』
「ああ、わかった。」
『後は・・・任せ・・・た。』
メサイア、つまり全新資源は光の粉となり完全に消滅した。
「メサイアを殺ったのはおそらく・・・何!!?」
残されたザック達は突然凄まじい殺気に包まれて動揺した。
全員はメサイアがいた場所の上を見上げた。
そこには最終形態へと進化し、魔神メサイアを完全に破壊した《破壊神オラクル》が能力者達を見下ろしていた。
光源を背にする人型の身体は人間よりふたまわり程大きいだけで、背中には機械のような羽が四本生えている。白と黄色、青の線がおり交ざった身体は光に反射して金属のような輝きを放おり、胸には紋章が刻まれ、手足には鋭いカギヅメのような指が光り、ジャリジャリと嫌な音を出しながら動かしていた。
しかし、やはりメサイアは強敵だったのか、身体の所々に傷がみられる。
『ククク、何が新資源だ。我に歯向かうからこういう事になる。貴様等人間も同じ道を辿るか?遅かれ早かれ地球は破壊するがな。ククククク。』
ザックは憎しみの籠もった目で破壊神を睨んだ。そんなザックの隣でスティングが囁く。
「ザック、奴はただの守護者にすぎん。本体を消せば奴も消えるだろう。」
「・・・何が言いたいスティング?」
「お前なら冷静な判断ができるだろう?破壊神の相手をしていては時間が足りなくなる。オレがこいつの相手をする。」
密かに二人の会話を聞いていたファムは耳を疑った。ザックはスティングの言葉に動揺する素振りも見せない。
「・・・まぁそれだけ自信があるということだろ?お前はまだ実力を見せていないからな。」
スティングは少し驚いた顔を見せた。
「知っていたのか。まぁ、大方メーヴェかアウスあたりが口を滑らせたんだろ?」
「まあな。・・・任せていいのか?」
「ああ。その代わり、なるべく早く始末してきてくれよ。」
二人は目線で合図すると、スティングは破壊神へ向けて走りだした。ザック以外のメンバーはその突然の行動に目を丸くした。
「スティング!一体何のつもり!?」
「いかん!俺達も援護に・・・ぐぅ!」
全員は《影縛り》で動きを封じられた。
「ザック!お前まで一体どういうつもりだ!!」
「くそ!離せよ!」
ジンとアンカーがもがく。が、サイとレイモンドはこの行動の意味を理解した。
「・・・俺達に本体を倒せということか。」
「スティングだけおいしいなぁ。」
もがくジンとアンカーも観念したのか、おとなしくなった。全員はスティングの意思を理解し、彼の秘められた能力に賭けることにしのだった。
影縛りを解かれた一同は、浮かぶ破壊神のさらに奥、反対側に位置する扉目指して全力で走りだした。
破壊神は上空から自分を迂回して走る人間を見下ろしていた。兜のような装甲の奥で紫に光る眼がザック達を見据える。
『我を無視する気か?舐められたものだ。』
破壊神は手のひらに光を集めた。
「心配すんなって、相手はオレがしてやるからよっ!」
突如目の前に現れたスティングに強烈な一撃をもらう。人間にしてはありえない衝撃ではあったが、ダメージは一切無い。
『貴様一人で何ができる?』
破壊神はスティングの両肩を掴んで動きを封じ、自分の顔をスティングの顔に近付けた。
破壊神の口が開き、ほぼゼロ距離で凄まじいエネルギーのビームを放った。
しかし、ビームはありえない軌道で屈折した。スティングの面前で上に曲がり、天井に爆発が起こった。
破壊神もこれには驚き、スティングと空中で離した。スティングは地上に着地して笑みを浮かべながら驚愕する破壊神を見上げた。
一方、スティングが破壊神を引き付けている隙にザック達は開かれたシェルターに辿り着いた。しかし、扉は破壊神の意思によって両側から閉まっていく。能力者は全員、急いで空間から出た。
ファム以外。
「どうしたファム!早く来い!」
ザックが後ろへ振り替えって手を伸ばす。が、扉の厚さから考えてもファムを引き出すのは不可能だった。皆はファムの行動が理解できず、ザックとファムのやりとりを見ていた。
「ごめんね兄さん。スティングさんだけじゃ無理よ。」
「馬鹿言うな!スティングは十分に強い!お前が行かなくても大丈夫だ!!」
「兄さん、同じように強いから大丈夫だと言っていたメサイアは結局どうなったの?見たでしょ、あの無残な敗者を。予想は裏切られるものよ。私が残ったほうが効率が良いわ。」
「しかし、お前が行かなくても・・・」
扉の隙間から見られるファムはとても生き生きとしていた。
「たまには無鉄砲に突っ走るのも悪くないわね、兄さん。じゃあ皆さん、兄をよろしくお願いします!」
お辞儀をした姿のままファムは見えなくなった。
再び暗いトンネルに立ったザックは黙って先を進んだ。
「おい、ザック。」
「中身はしっかりしていても、いつもオレの後ろをついて歩いてたアイツが、やっと一人で歩き始めたんだ。こんなに嬉しいことはない。」
レイモンドが隣で言うと、ザックは意外にも嬉しそうな声で返事した。
「彼女は強いぜ?ザック、お前を越す程に。」
「まだまだ負けないさ。」
ジンも後ろからザックに話すと、本人も気付いているようだった。
破壊神はスティングとファムに任せ、
ザック、レイモンド、サイ、ジン、アンカー、ユノ、ライアの七人は最後の戦いへ向かうべく足を進めた。