TURN16 参の扉・1〜知能〜
一方、参の扉へ入ったトガス、メアス、ユノ、ライア、レイモンドは都市部へワープした途端に魔鬼に囲まれていた。
さらにその魔鬼は今まで戦ってきた魔鬼とは違った。デモン型の様に翼も生えていない。蟲型の様に足が何本も生えているわけでもない。
それは人型だった。鋭い牙、黒い皮膚、赤い目。魔鬼の特徴を備えたそれは五人がワープしてくることを予測していたかのように、既にその場所にいたのだ。
「なによこいつら・・・。」
『君達と似ているようだが?』
目を見張るユノの肩を青い鎧を纏ったトガスが叩いた。
「魔鬼には違いねえ!始末するぞ!」
『おうよ!血が騒ぐぜ!』
「メアスだっけ?新資源であるあなたに血が流れてるとは思えないわよ。」
あきれ顔のライアは赤い鎧の背中に言ったが、レイモンドとメアスは目の前の敵へ突撃して行った。
ライアは後ろを振り向くと既にトガスとユノも魔鬼と戦闘を始めており、ライアもその中に加わった。
「《インヴィジブル・アルマダ》!」
『《空間転移》!』
レイモンドは機械の触手と重火器でなぎ払い、メアスは瞬間移動で魔鬼の死角に回り込んで首を切断した。
『フン、人間の身体能力は生物の中で弱小の部類に入るはずだが、何故わざわざ人型になど・・・』
「否定はできねぇな。」
確かに、魔鬼ではあるがデモン型程に力が強い訳でもなく、蟲型程に機敏でもない。
「だがな、てめえも惑星の具現体なら覚えておくことだ。」
『何をだ?』
「人間の潜在能力と適応力の高さ、そしてズル賢さをな!」
そう言った瞬間、後ろで爆発音が響いた。二人が振り替えると、突如現われた巨大な竜型魔鬼の火球を受けたユノとライアが膝をついていた。竜型魔鬼の上には人型魔鬼が立っている。
さらに竜型魔鬼を引きつれた人型魔鬼が続々と都市部のコンクリートでできた地面を押し破って現われ、同じく人型を乗せた鳥型魔鬼も空から飛来した。多数の竜型は人型の指示で綺麗な隊列を組んで五人に迫ってくる。それは人間の危険性を理解したレイモンドの読み通りだった。
五人は都市部のメインストリートで魔鬼の大軍隊と対峙する形となった。しかも魔鬼が立ちはだかっているのは都市部を抜けるための進行方向である。
「強行突破しかねぇのか?」
レイモンドは目の前にずらりと並ぶ竜型魔鬼に顔をしかめて睨んで言った。だが後ろで戈を構えて立っていたユノとライアが抗議する。
「強行突破って言っても数が多すぎるわ!」
「それにあの竜型の巨体で道はほとんど塞がってるわよ。」
レイモンドは良い案が浮かばないことに唸り声をあげた。
『ならどうするんだよ!』
『敵は着々と距離を縮めてくる。案が無いなら道はそれしかないぞ?』
メアスとトガスも剣を構えて魔鬼の大群を睨んだ。
その様子を見ながらユノはため息混じりに口を開いた。
「誰も案が無いなんて言って無いじゃない。」
その言葉に他の四人は一斉にユノの方を向く。
近づいてくる魔鬼はレイモンドが高層ビルの側面に大量のレーザー兵器を精製し、光の雨を降らせて足止めしている。
「簡単なことよ。見たところこの都市部はCROWNの都市部と全く同じ構造をしているわ。」
メアスが
「それがどうした?」
というように首を傾げる。
「メインストリートを避けて裏道を進みましょう。道は私とレイモンドが知っているわ。」
ユノの提案にレイモンドが納得した顔を見せた。確かに、この都市部ではCROWNをまだ殺人ゲームだと思っていた時代に魔鬼から逃げるためによく裏路地に隠れたりしていた。
「なるほど。しかも裏道なら巨大な竜型も多数で攻め込むことができないからな。なら二手に別れたほうが更に得策か。」
ユノが頷く。
『だが、奴らから逃げて都市部を抜けてもまた追われることになるぞ?』
『倒しながら進むかは自由だよメアス。だが忘れちゃいけない。我々はいち早くオラクルの本体へ辿り着かなければ、地球という同胞が消えてしまうのだよ。』
『チッ、んなこたぁわかってるよ。』
見兼ねたライアが全員を急かす。
「ほら、急ぐなら早く二手に分かれて!」
素早く分かれた結果、レイモンド、メアス、ライアとユノ、トガスの二チームで行動することになった。
「レイモンド、迷うんじゃないわよ!」
「・・・保障はできん。」
レイモンドの返事を聞いた同じチームの二人は、ナビゲーター選びを間違えたと苦笑いした。
そして五人はそれぞれメインストリートを挟んだ両側の裏道へと走り去っていった。
メインストリートよりも少し暗い裏路地を走るユノは同じく隣で走る青い甲冑を見た。ガシャガシャと重そうな音を立てながらもトガスは余裕でユノに付いてきている。もしかしたら更に早く走れるのかもしれない。
「まさか新資源と一緒に戦うとはね。」
『・・・フッ、同感だ。』
トガスは中身が空っぽの自分の正体が、惑星を司るただの高エネルギー物質だということに自嘲ぎみに笑った。
時々路地の横から飛び出してくる竜型、鳥型魔鬼を素早く倒す。ユノが後ろを振り向くと、後ろには続々と自分達を追ってくる魔鬼達の姿があった。
必死で走る中、トガスの意識内にテラから念波通信が入る。
ユノは一瞬興味を示したが、空から急速に落下してくる鳥型に気付いて爆殺した。トガスは通信に集中している。
「ちょっとトガス!しっかり撃破しなさいよ!」
『すまない。だがテラからとんでもない情報を聞いた。』
「とんでもない情報?」
『うむ。蜘蛛型の生命体に襲われたらしい。敵は物凄い戦闘力を備えているらしい。撃破には失敗したみたいだ。』
「ファムはともかく、ザック、スティングまでいたのに!?」
『ああ。ところで、ザックという男の強さは知っているが、あのスティングという背の高い男の強さは期待していいのか?』
必死に走っていたユノはトガスの言葉を聞いた途端、真剣な表情になった。
「・・・スティングはね、未だにその本当の力を私達に見せてはいないみたいなの。」
『なるほど。巨城周辺での戦闘ではその速さに目を見張ったが、あれでも序の口だったとはな。』
ユノはうつむき気味に一人つぶやく。
「アウスさんとメーヴェさんと同等の・・・いいえ、それ以上の力を隠し持っていると言われている男。前異世界大戦でメーヴェさんがそう言っていたけど、結局見せなかったし。本当なのかな。もしそうだとするなら、真の最強の男はザックではなく・・・」
スティングの秘密は全員知ってはいたが、アウスとメーヴェに口止めをされていたのだった。
それからしばらく順調に距離を稼いでいたユノとトガスだったが、突如鳥型魔鬼から飛び降りた人型が多数、二人に襲い掛かってきた。更に後方の竜型も火球で二人の上のビルを破壊し、瓦礫を降らせて行く道を塞いだ。
『戦法を変えたか。知能が加わった魔鬼は恐ろしいな。』
「そんな事言ってる場合じゃないわ!これじゃあメインストリートに戻らなきゃいけないじゃない!」
後方からは竜型魔鬼と鳥型魔鬼が迫って来ている。
ユノは所狭しと大通りに立ち並ぶ竜型魔鬼の姿を思い出して背筋が震えた。
『仕方ない、応急手段だ。ユノ、君の戈を借りたいんだが。』
ユノは首を傾げたが、状況が状況なだけに用途をいちいち聞くわけにもいかず、大戈を手渡した。
トガスは大戈を受け取ると空間転移でどこかへ消えてしまった。
その直後ユノは自分の命と等しく大切な武器を、簡単に手渡すという浅はかな行動に激しく後悔した。
(嘘!武器を奪って逃げられたの!?しまった、信用しきっていた!)
自分に武器はない。助けもない。前方を塞がれ、目の前には迫り来る魔鬼。ユノは初めてCROWNへ送られた日以来二度目の絶望を感じていた。
そして竜型から火球が放たれようとしたその時、竜型は上から降ってきた大量の瓦礫に埋もれ、同じく鳥型も巻き添えをくらった。
ユノは壁と瓦礫に囲まれた状態となり、瓦礫が降ってきた場所の上を見上げた。
そこにはビルの上で尚も戈を突き刺して爆破し、瓦礫を降らせるトガスの姿があった。
『大丈夫か!?とりあえず安全は確保できたぞ。』
トガスがこちらへ手を振るのを見たユノは、安心して瓦礫の上に座り込んだ。
ビルの上ではトガスが一息ついてユノの所へ戻ろうとしたが、ヴァルガからの念波通信が入ったことでとどまった。
内容は新たな形態の生命体の情報と、それが戦闘を繰り返すことによって進化するという事だった。トガスは次に襲われるのは自分達だろうと予測し、ユノの元へ戻ると同じく腰を下ろして通信の内容を話した。
「今度はサイ達が・・・。しかもだんだんと戦いにくい相手になるなんて。」
『ああ、全くタチの悪い敵だ。最初は蜘蛛、次は触手だらけ、しかもだんだん強さを増す。全員でかかれば倒せるだろうが、しくじればいずれ倒せない存在になってくるだろうな。』
「あなた達新資源と私達能力者が力を合わせればきっと倒せるわよ!」
『・・・そう、だな。』
なぜかその時、トガスは顔を背けて返事をした。
メインストリートの方で爆音が響いた。よく耳を澄ますとその爆音は連続しており、ユノはそれがライアの攻撃によるものだと気付いた。
「レイモンド達も追い詰められてメインストリートへ戻ったのね!」
『ならば援護に向かわねば。・・・しかし妙だ。』
「何が?」
『先程から魔鬼共の動く音が聞こえない。鳥型も上からなら我々を狙えるはずなのに。』
話し込んでいたために気付かなかったが、確かに瓦礫でバリケードを作ったものの、それを壊そうとする音も叫び声も聞こえてこない。
「とりあえずメインストリートに出ればわかるわよ!」
ユノはビルの壁を爆破して穴を開け、二人はメインストリートへ出た。
しかし穴から出た二人はその場に立ち尽くした。
「何?これ。」
『何があった?』
目の前には至る所に竜型魔鬼や鳥型、人型の死骸が転がっており、すべてズタズタに引き裂かれて生きている魔鬼はいなかった。
再び爆発音が聞こえ、二人は正気に戻って音の聞こえる方へと向かった。
「ぐぅっ、なんだコイツは!?」
「魔鬼とは違うみたいね。」
レイモンドが膝をつき、ライアはその前に立って襲い来る触手をすべて爆破して防いでいる。そしてメインストリートの道幅の大半を占拠している巨体を睨んだ。
『突然魔鬼がメインストリートに戻って静かになったから出てきたものの、こんな化け物がいたとはな・・・!』
前を見上げるメアスの赤い鎧には所々に傷が見られる。
三人の目の前には紫の目を一つ持った生命体が立ちはだかっていた。
上半身は巨大な人型で、前かがみになり腕を地面に付けている。四つんばいのような形で紫の目がついた顔らしき部分を三人へ向けていた。下半身は木の幹のように地面に繋がって巨体を支えている。恐らく地下から現れたのだろう。背中からは触手が無数に生えて無造作に振り回している。その力は凄まじく、触手が当たったビルは簡単に崩れ落ちてしまった。
苦戦していると、後ろからユノとトガスが走ってきた。
『一旦退け!そいつは何か策を持って挑まないと倒せない!』
合流した二チームは路地裏に隠れ、トガスがテラ、ヴァルガから受けた通信の内容を話した。
「ならアイツは進化し続ける生命体の第三の形態だって言うの!?」
「第一形態でもザック達は撃破できなかったんだろ!いくら弱点があるからといって、近づくことさえできねぇよ!」
ライアとレイモンドが溜め息を吐く。
『だが、進むためにもヤツを撃退しなければ。行動、出現パターンから予測するに、おそらくヤツの目的は我々の足止め、又は抹殺だろう。オラクルの本体を撃破するためにはヤツの撃破も避けては通れないのかもな。』
『だが、策が無いぜ?』
メアスがお手あげだという仕草を見せ、ユノも何も思いつかない様だった。
「・・・五人で一斉にかかるしかないか。」
結局良い案は浮かばず、力押しで巨大生命体を撃退することになった。
五人は一斉に路地裏から飛び出した。