TURN11 邪神VS魔神
ブラックホールが閉じると天空から魔神がゆっくりと降りてきた。
エンドオブワールドの二倍はあるその巨体は紫色の鎧に包まれ、右手には漆黒の剣、左手には純白の盾を携え、額には菱形の青い宝石が輝いていた。それはまぎれもなくヴァルガで朽ち果てた魔神の姿だった。だがミシェルの龍怒が上半身を出していたはずの胸は堅い装甲に覆われているだけだった。シド以外の面々は魔神の事を話に聞いていただけだったのでひどく驚いていた。
『あれが新資源の集合体・・・』
『宇宙さえ滅ぼすといわれた最強の魔神。』
アザブルとランスは始めてみるその姿に圧倒されていたが、シドは自分のパソコンに強制アクセスしてきた謎の侵入者に驚いた。パソコン画面には《YOUR SIDE{加勢する}》という文字が無数に現れていた。
『《メサイア》が・・・僕達の味方!?』
シドは目を疑った。だが確かにアクセスしているのは新資源の周波数をもったメサイアからだった。それならブラックホールでドゥームズデイを防いだ理由もわかる。しかしシドの頭には疑問が残った。
(エンドオブワールドとメサイアが対立するということは・・・勢力が他にも存在するってこと?くそ!サッパリわかんないよ!)
天才少年といえどもこの状況を把握するには情報が足りなさすぎた。だが強力な味方がついたことは確かである。
『みんな!《メサイア》は僕達の味方だ!』
それを聞いた一同は目を丸くした。
『はぁ!?魔神が味方!?どういうことだ!!』
『わかんないよ!でもメサイア自身がそう言ってるんだよ!』
『わけわかんねぇな。』
オズマは混乱しつつも急速にエンドオブワールドの集団から後退した。
他の面々も後退する。エンドオブワールドの集団は後退する六機を追おうとした。
しかし先頭に立っていた七体が一瞬で消滅した。六機の前に立ったメサイアの口部分からは煙が上がっていた。
『よし、今のうちに体勢を立て直すぞ!』
ランスを筆頭に六機は後方からエンドオブワールドを狙撃した。
しかしいくら倒してもワープゲートから次々と新たなエンドオブワールドが現れる。それに反応したメサイアは漆黒の剣と純白の盾を持ち上げて重ね合わせた。紫色の磁場が広がる。次の瞬間、メサイアは紫色の特大レーザーをワープゲートへ向けて放った。紫色のレーザーを飲み込んだワープゲートはだんだんと歪み始めた。
そしてなんとワープゲートが小さくなったかと思うと、奥から現れた時空の裂け目がワープゲートを吸収したのだ。ワープゲートから出かけていたエンドオブワールド達は物理法則を完全に無視した現象によって圧縮され、消え去ってしまった。それを見ていたシドは息を飲み、冷や汗を流しながら笑った。
『は、ははは・・・《最強の魔鬼》は《最強の魔神》には到底及ばないってさ・・・。』
残ったエンドオブワールド達はメサイアへ向けて一斉に《death punish》を放った。が、純白の盾を前に出したメサイアは盾から発生した純白のエネルギーシールドで黒いレーザーを全て弾いた。
シドの言う通り、《世界を終わらせる》だけの邪神では《宇宙を終わらせる》魔神には歯が立たなかった。メサイアもまた、ミシェルの操作が無くなったことで真の力を発揮していたのだ。
そしてついに残った数十体のエンドオブワールドは一斉にドゥームズデイを作り出した。周囲一帯の空間が水面に石を落とした時の波紋のように歪む。
『・・・メサイアに任せるしかないのか!』
『無力だよね、僕達。』
何もできない腑甲斐なさにランスは唇を噛み、シドはコクピットの壁を叩いた。
メサイアは宙に浮き、空を見上げて両腕を高くあげた。同時に額の宝石が青く、剣が黒く、盾が白く、鎧は紫に輝き始め、さらに全身を金色の光が包む。たまらずオズマが尋ねた。
『おいチビ、ありゃなんだ?』
『僕が知るわけないよ!メサイアについてはミシェルしか知らないんだから!』
ハルとアルマは羨望の眼差しでメサイアを見つめている。二人共強い味方が現れたことで気持ちが高ぶっていた。
光り輝くメサイアは自分の目の前と、エンドオブワールド達の真上の二ヶ所にワープゲートを開いた。
そして胸の前で凝縮した金色に光る超高エネルギーの球を目の前に開くワープゲートへ無数にたたき込んだのだ。次の瞬間エンドオブワールド達の真上から光の雨が降り注ぎ、爆発することもなく触れた物体を分子レベルに分解した。これはミシェルの文献にあった《カオス・インパクト》と呼ばれる攻撃である。
砂煙が晴れるともはやそこにエンドオブワールド達の姿は無く、ダラム基地周辺に残ったのは荒野に吹く風と、メサイア、そして六機の神歌だけであった。
六人は神歌から降りてメサイアを見上げた。シドの手にはノートパソコンが抱えられている。
「本当に恐ろしいくらいに強いな。」
「うむ。無数のエンドオブワールドが手も足も出なかった。」
ランスとアザブルが感心してメサイアを見つめ続けている。
「だけどよぉチビ、何でメサイアがオレ達の味方をしたんだ?」
オズマが珍しくもっともな発言をした。わからないと答えようとしたシドはメサイアの異変に気付いた。
「メサイアが・・・石化していく!」
メサイアは脚部から灰色の石になっていた。石化はどんどん進んでいく。アザブルも驚きの表情だ。
「何で隊長!何でメサイアは石になるの!?」
「私達を助けてくれたんだよ!?」
ランスは黙ってメサイアが石化していくのを見つめている。その時、驚くシドのパソコンに再びメサイアがアクセスしてきた。慌ててそれを開き、全員でモニターに映る文章を読んだ。そこには短い文章が一つあった。
「《Be careful of〈GOD〉{神に気を付けろ}》!?一体どういうこと!?メサイア!神って何だよ!君は何を知っているんだ!?メサイア!!!!」
シドが叫びながら懸命にキーボードを叩くが、ついに石化が全身に行き渡り、メサイアは石のオブジェとなった。
本来宇宙を破壊するために作り出された魔神は《CROWN》という小さいたった一つの世界を守って朽ち果てたのだった。
シドはパソコンを閉じ、後ろで画面を覗いていた五人の方を向いた。
「ワープゲートは壊したし、エンドオブワールドも消えた。他の魔鬼も後で駆逐すればいい。とりあえずこれでCROWNの安全は確保できたわけだね。メサイアが最後に言ったことが気になるけど、これからどうする?」
だが既に五人の姿はそこにはなく、代わりに五機の神歌のスラスターが轟音をあげていた。
『クハハハハ!決まってんだろうが!』
『異世界へ侵入して・・・』
『ザック君達を追う!』
オズマ、アザブル、ランスが順番に言った。
『シド君も早く神歌に乗りなよ!』
『早く早く!』
ハルとアルマは元気いっぱいだ。戦闘の疲れなど微塵も感じさせていない。
シドはため息混じりに笑顔を見せた。
「やれやれ、どうせそうなるだろうと思ってちゃんと神歌にはワープゲート発生装置を組み込んでおいたよ。」
シドは神歌《瞬神韋駄天》に乗り込んだ。