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インモータルッ!!  作者: 小元 数乃
第一部 おふざけはここからや!!
9/21

8話

 太陽が最も高く上ったころ。すなわち昼休み。校舎から興味本位でグランドを覗く生徒たちの視線を感じながら、今回の決闘の審判を申しつかった三人の生徒が、どんよりとした雰囲気を垂れ流しながらグランドにでてきた。


 審判は健吾・紅葉・紗奈。これが今日の決闘を何とかできないかと奔走した三人の、精いっぱいの援護だった。


「結局どうにもできなかったわね……。取りあえず審判にはなれたから、転校生が死ぬ前に勝負を止めてやることぐらいはできるでしょうけど……」


「決闘自体を止めることはできませんでしたね……。《第一》の圧力がありましたからね……。『留学生とはいえそれ相応の実力を持っていてもらわないと、こちらへの引き抜きは考えないといけません!!』とか平然と言いやがりましたからね。引き抜きしようとしていることを隠そうともしていないうえに、おめがねにかなわなかったら切り捨てっていったい何さまのつもりですかあの学園都市!!」


「それやって許されるから『貴族気取り』って呼ばれてんだろ。まぁ、なんにしても……」


 健吾は苦痛に満ちた表情をしながら、遅れてグランドにやってきた四人の生徒に視線を向ける。


 片方は静謐な闘志をその身に宿した、クラス5とそのメイド。王者の余裕か、彼女の能力がもともと戦闘時に動く必要がない能力だからかは知らないが、あまり派手な運動ができそうにない女子制服姿での参戦だ。


 対するシシンは少し服装が変わっていた。


 黒の詰襟は昨日と同じだが、その上からは白い着物に黒の染色によって模様を描かれた羽織を羽織っている。背中には松壊領の領紋である《陰陽》と言う文字をデフォルメされたマークが刺繍されているところを見るとどうやら故郷の戦闘服らしい。


 そして、何よりも異様に映るのがシシンの腰に刺さっている前時代的武器。……黒鞘に包まれた長大な刀だ。


「あんなもの……どうして持ってきたのよ」


「宣戦布告か挑発か……。どっちにしても、もう後戻りはできないな」


 シシンが持ってきたのは紛れもない武器だ。徒手空拳で挑むならレインベルも何かしらの温情をかけてくれたのだろうが、シシンが戦いう気満々で武器を用意したのだったらもはや彼女が手加減することはないだろう。


 いくら学生でもレインベルはクラス5。狙われることもねたまれることも多かっただろうし、その分修羅場に巻き込まれたことも、両手の指の数どころではないはずだ。戦う意思を持った人間に、手加減をするような甘い考えは持ち合わせてはいないだろう。


「ところでシシンの隣にいる人だれよ?」


 まぁ、いまさら心配しても仕方がないとわね。と、割り切ったのか、紅葉はこれから地獄を見るであろうシシンに黙祷をささげた後、彼の隣を歩いている優しそうな顔の巨漢に視線を向けた。


「ああ……誰ですか?」


 紅葉の疑問に紗奈は自分の脳内に展開されている全校生徒のデータを見て見るが、あてはまる人間はいなかった。一応このデータベースは紗奈が出会った人間しか収録されていないため、完全に全校生徒を網羅しているとは言い難いが、それでも紗奈は役職上かなりの生徒たちに会っている。それにひっかからないところを見ると、よっぽど《法律(ルール)》の世話にならないほど平和な日々を送ってきた生徒なのか、


 それとも……。


「はっ!! ま、まさかあいつは!?」


「知っているの!?」


 ワナワナと戦慄きながら何かを思い出したらしい健吾に、紅葉と紗奈は『まさかこの状況を打開できる助っ人的な人ですか!?』と期待を込めた視線を向け、


「俺らが入学した直後に行われた実力テストで『くっ……鎮まれ俺の右腕!! くそっ、右腕の暴走を抑えるのに必死でテストが解けないんだな!! け、決して難しくて解けないとかじゃないんだからね!!』とか騒ぎ出して《GTA》にボッコボコにされて教室叩き出されたあげく、不登校になっていたオタクやろう!!」


「「……」」


 紅葉と紗奈は同時に能力を解き放ち、シシンの隣を歩いていたデブに向かって打ち放った!!




…†…†…………†…†…




「なんで戦いの時に羽織なんて羽織っているんだな。おまけに袖に腕とおしていないし……。動き難いにも程があるんだな」


「うっさいな!! わからへんか、このロマンが!? 黒いロングコートとか、風にはためく羽織とか!! そう言ったもんをバサバサ風にはためかせながら戦うんがかっこええんやんけ!! あと、この羽織はそのためだけに作られた羽織やから、実は内側に、肩と張り付かせるための強力マジックテープがやな……」


「果てしない技術の無駄遣いなんだな!!」


 シシンと信玄がくだらない会話を交わしているときだった。


「へブラっ!?」


「って、シンゲェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエン!?」


 どういうわけか、突然やってきた衝撃波と小石の弾丸が信玄の巨体を吹き飛ばし、ゴルフボールのように打ち上げてしまった!!


 突然やってきた理解不能な事態に慌てふためくシシンを見て、隣を悠然と歩いていたレインベルは顔を引きつらせる。


「……黒江。ほんとに彼との戦いは、私の為になるんですの?」


「……お嬢様。私もちょっと自信なくなってきました」


 戦いのときはこうしてやってきた!!




…†…†…………†…†…




 それなりの敷地面積を誇るグラウンドの中央に、レインベルとシシンは向かい合うように立ち会っていた。


 レインベルは真剣な表情で。シシンはいつものへらへらした顔で。


 双方それぞれの雰囲気は違うが、やってきた目的は同じ。相手を打倒すために、この場に立っている。


「ちょ……さっきから土埃が顔に飛んできて鬱陶しいんやけど……。イッタ目に入った!?」


「なんかここのグラウンド、砂の粒子が小さいからよく風に乗って飛ぶんだな……。あんま派手に暴れまわると靴の中にその砂が入ってくるし……。ほらハンカチ」


「うぅ。すまん信玄……」


 そ、そのはずだとレインベルは思っている。


「双方。決闘の準備は大丈夫ですか?」


 ゴホン。と咳払いをしながらシシンと信玄の二人に集中を促したあと、紗奈は鋭い視線を二人に向け確認をとる。


 特にレインベルに向けられた視線には『やりすぎないでくださいよ?』という、殺気交じりの忠告の視線が飛ぶが、レインベル本人はそんな視線などもせずに傲然とした笑みを浮かべながら羽毛の扇子と取り出し、自分の口元を隠すように配置した。


「ええ。かまいませんわ」


 もとよりわたくしがまけるわけありませんもの。


自信あふれるレインベルの態度を見て、紗奈は少しだけ視線をそらし残念そうな雰囲気を流した。


 大方あの無礼な庶民に手加減してもらえなさそうだと思ってがっくりきているのでしょう。レインベルはそう判断したが、


「ところで信玄。お前なんか痩せてへん? さっきメッチャ打ち上げられた癖に五体満足やし……」


「……ギャグ補正?」


「リアルで働くとは知らんかったわ~」


「ちょ、お前らもうちょっと真面目にやれ!!」


 その残念そうな雰囲気を放つ視線が、相変わらずふざけきった態度をとる二人に向けられているのに気づき、レインベルの堪忍袋の緒がプチっと切れた。


「……いい加減にしなさい!!」


「「うぉ!?」」


 目を吊り上げ怒鳴ってくるレインベルの剣幕にようやく気付いたバカ二人は、彼女があげた怒声に思わず飛び上がった。


「今回は、あ・な・たがっ! わ・た・しにっ! 売った決闘ですのよ!? なのに何なのですかその不謹慎な態度は!?」


 そして、怒りのオーラを放出しながらシシンに詰め寄ってくるレインベルに対し、シシンはいつものへらへらした笑みを浮かべながら、人差し指をレインベルに突きつけた。


「え~。せやかて俺、一回も戦闘で決闘しようなんてゆーてへんで?」


「……ハィ!?」


 そして、レインベルはシシンの口から告げられた信じられない一言によって、いきなり出鼻をくじかれることになる。




…†…†…………†…†…




 口をあんぐりとあけ驚愕の意を示すレインベルを見つめながら、シシンは内心冷や汗を流していた。


 うわ~。これマジでキレさせてもうたかもしれへん……。


 自分でもこの手段は正直ないやろ~と思う……。なんちゅーか、見た感じせこいし……。まぁ、これもハッピーエンドの為やゆーことで許してもらえへんやろうか?


 内心の冷や汗が移ってきたのか、いつのまにかダラダラ流れはじめていた冷や汗に気付かれないように、シシンはさらに言葉を重ねた。


「あ~。そーゆーたらゴメンな? 決闘するするゆーとったけど、よーよー考えてみたら決闘の内容告げてへんかったわ~。これは完全にこっちの伝達ミスやったからほんま悪かった思てんねん。いや~。メンゴメンゴ」


「なっ、なっ!!」


「も~う。シシンったら~。相変わらずおちゃめさんなんだから~」


「はははは!! おいおい信玄。そういう口調は冗談でも吐きそうになるからやめてくれへん?」


「自覚はしているけど他人に言われるともの凄い腹立つんだな!?」


自分に向かってこぶしを振り上げてくる信玄は健吾に任せて、シシンはヤレヤレまったくと言わんばかりに肩をすくめる。


「ごめんな~。昨日知り合った友達なんやけどなんかやたらテンション高くてウザかってん」


 そんなシシンの冗談交じりの発言に答えたのは、呆然としているレインベルではなく傍らに控えていた漆黒の少女だった。


「その原因のほとんどはあなたではないでしょうか?」


「おいおい。そんなわけないやんけ!! 6:5で俺の方がまだましやろ!?」


「算数もできないんですかあなたは?」


 割合を占めすらなトータルで10にならないとだめでしょう? と、平坦な声で言ってくる黒い少女の言動に『あれ? 俺もしかしてかなり恥ずかしい間違いした?』と、シシンは冷や汗を流した。


「ま、まぁそれはともかく。決闘内容の説明にうつろか!!」


「ちょ!! 待ちなさい!!」


 小学生レベルの算数を間違ったという事実を必死に押し隠すため、シシンはさっさと話題の変更を狙いポケットに突っ込んでいたメモを取り出した。ジトッとした目で黒い少女がシシンを見つめてくるがシシンは全力で無視する!!


 しかし、その話題は再びさえぎられることになった。当然その相手は今までぱくぱくと口を動かしながら呆然としていたレインベルだ。


「なんや? 質問やったら競技説明の後にしてくれへん?」


「ふ、ふざけるんじゃないですわ!! 決闘と言えば戦闘でしょう!? それを勝手に土壇場で変えるなんて……恥を知りなさい!!」


「おいおい……笑わせんなやレインベル・ヒルトン」


 ここが正念場や!! 


 シシンは内心で自分に活を入れつつ、少しだけ凄味が出るような笑みを意識的に浮かべ、レインベルを威圧する。


「っ!!」


「決闘が戦闘やと? 自分一体何時代の人間やねん? そんな原始的かつ野蛮な時代はとうの昔に過ぎ去ったやろうが。おまけに恥を知れやと? こっちのセリフやアホ。ガチンコの戦闘したら軍隊相手取れるようなお前に、戦闘で勝てるような奴が何人おると思とんのや。強いくせにさらに自分の土俵でケンカさせろやと? それこそ恥知らずのセリフちゃうんか?」


 シシンの堂々とした発言に、レインベルは一瞬にして飲まれたのか、何度も口を開き反論の言葉を紡ごうとするが、そのたびに失敗するという工程を繰り返していた。


 金魚みたいやと思うんは俺だけやろか?


 内心で、知られたら間違いなく決闘云々すっ飛ばしてレインベルに殺されそうな感想を抱きつつシシンは最後に締めくくる。


「弱者が強者とケンカするんや。多少の卑怯卑劣は目をつぶってくれや。なぁ、貴族様?」


 ギリッという歯ぎしりの音を響かせながら、レインベルはとうとう口を閉じシシンに殺気交じりに視線をぶつける。


 ヤバ……。マジでキレさせたかも。


 内心で戦々恐々としながらシシンはそれでも余裕の態度を崩さない。ここで失敗したら、ハッピーエンドになど持っていけるはずがないのだから。


 そんなシシンの態度を見て、このまま怒り続けるのは得策ではないと判断したのか、やがてレインベルは二回ほど深呼吸をした後、


「いいですわ。庶民の悪戯を寛容に許すのも貴族の役目です。決闘内容……聞かせなさい」


 再び静謐な闘気を宿す冷静な顔に戻りながら、シシンに話を次へと進ませろと促した。


 レインベルからの譲歩を手に入れたシシンは、『ウッシ!!』と内心でガッツポーズをとりながら後ろで健吾に取り押さえられている信玄にサムズアップを送る。


 しかし、サムズアップを送られた信玄は黙って首を横に振った。


 まるで、戦いはこれからだといわんばかりに……。




…†…†…………†…†…




「勝負内容は簡単や。この時間……つまり昼休み中にこの学校の外にでて近くのコンビニで昼飯を買ってくること。種類はなんでもええけど……できれば焼きそばパンな? ホンで先に昼飯勝手無事に帰ってきたほうが勝ちっと」


「や、焼きそば?」


 え? と聞いたことがない料理に首を傾げるレインベル。


 焼きそばパンも知らんと過去いつどんなブルジョワ生活送ってきたんや!! と、シシンは戦慄しつつも信玄に目配せを交わす。


 信玄はその視線に素早く頷いた後自分を取り押さえていた健吾から素早く抜け出し、自分の携帯端末にコンビニの所在地を映し出す。


「いちばん近いコンビニはここなんだな。べつにほかのコンビニ行ってくれてもいいけどシシンはめんどくさがり屋みたいだから多分ここを目指すんだな」


「いいんですのそんなこと教えて?」


「騙したせめてものお詫びだとシシンはいっていたんだな……。ああ、これオフレコなんだな」


 一応騙したことは認めるのですのね。と、若干レインベルの表情が呆れた感じに……しかし、確実に怒気が薄れたのを見てシシンは少し安堵の息をもらす。


 そうそう……。やっぱこういう勝負は楽しんで何ぼやしな。もっとも、


 そこでシシンは自分の周囲にいる人々へと視線を向ける。


 ……どいつもこいつも戦慄をした様子で、恐怖で引きつった顔で自分たちから離れていた。


 し、信玄から聞いとったとったけどそんなにやばいん!? と、シシンも思わず顔を引きつらせる。


「し、シシン……ごめんなさい。私たちがちゃんと止めることができていたら、あなたがこんな無謀な戦いをすることもなかったのに!!」


「すまないシシン……。今日ほど俺のふがいなさを後悔したことはないぜ」


「シシン……生きて……帰ってくるのよ!!」


「ちょ……昨日より反応が酷いんやけど!?」


 クラス5以上の恐怖ってことかいな!? と、シシンが審判三人の涙ながらの応援を聞き慄く中、決闘の進行は信玄へと移されていた。


「審判はここで先に帰ってきたほうの判定を頼むんだな。ゴールラインはここ。この線を先に越えた方が勝者なんだな。一応レースは一対一。黒い女の子も僕もここに残ってレースの推移を見守ることになるんだな。 問題ないかな?」


「ありませんわ」


「ちょ、みんなの反応を見てるとこの勝負そのものが無謀に思えてくんねんけど……」


「では始めるんだな!!」


 聞いてぇや信玄!! 悲鳴交じりのシシンの言葉を無視して、信玄はどこからか取り出した空砲装展済みの拳銃を取出し、その引き金を引いた!


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