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インモータルッ!!  作者: 小元 数乃
第一部 おふざけはここからや!!
7/21

6話

「は~。ホンマどないしょ……」


 すっかり日が暮れ、LEDの目に突き刺さる光が、暗闇を引き裂いている商店街をシシンはだらりとした足取りで歩いていた。


 結局あの会議の後、「「「葬儀屋に連絡入れておく~」」」という現実逃避じみた結論に達した三人に苦笑を浮かべたシシンは「了解。ほな、俺は今のうちに戒名もらってくるわ~」といって、さっさと家路についた。


 まぁ、シシンが部屋を出て行った後も、紗奈は高速で電話番号をプッシュしてくれていたみたいだし、紅葉と健吾は額を突き合わせて何か相談していたところを見ると、完全に諦めたわけでもないようだったが。


「それにしても、初日から痴漢に間違われるわ、この国の《最強》にケンカ売ってまうわ、さんざんやな~。魔法使われへんからって、神様がおれのこと祟っとるんちゃうやろか?」


 自分でそんなことをつぶやいたあと、シシンは「なんでやね~ん」とむなしくツッコミを入れる。空元気も甚だしい……見るものが見たら逆に痛々しさすら感じる光景だった。


 どういうわけか松壊シシンは事件に巻き込まれやすい体質だったりする。


 シシン自身は、オタク文化を知ってから「それなんてフラグ!?」と言いながら鼻息を荒くしたものだったが、それから数カ月間、美少女の出会いなんておいしいイベントが降ってくるわけもなく、タダタダめんどくさい事件だけがシシンに降りかかってきた。


 不良に絡まれている人を助けたら、不細工なツラしたオタクだったり(それでも助けたことに後悔はしないが、若干の失望感があったことは否めない)、病弱な少女のために必死になって働いて、父親に薬を調合してもらい彼女の病気を治したはいいが、実はもう彼氏持ちだったり(シシンよりイケメンだった。初恋だったのでこの事実を知った時は号泣していたりする)、夕食を作るためにスーパーに買い物に行ったら、なぜか自分が故郷で通っていた中学校の校長(男)を人質にとった、たてこもり強盗が起こったり(ちなみに店内にいた人たちはいち早く逃げ去り、残った人質はシシンと校長だけだった。さらに最悪なことに、吊り橋効果でも働いたのか事件解決の後、校長がシシンをストーキングし始め、若干人間恐怖症になったり……)、なんというかもう、真剣に神様に嫌われているとしか思えないような経験ばかりを、シシンはしていた。


 別に美少女が助けられるなら事件に巻き込まれてもいい、などと中二臭いことを言うつもりもないが、それにしたってあんまりだ。シシンは常々そう思っていた。


 って、あれ? よくよく考えたらこれフラグちゃう? イベントちゃう? この国、最強のイケスカへん能力者ブチ倒して俺ヒーローになれるんちゃう?


 と一瞬血迷った思考が頭に浮かんだが、


「……ああ、無理やな。俺たいていの勝負で死に戻りやし……」


 ゲームの話だろうか? リアルであったら若干こわいことになりそうな冗談を吐きながら、シシンはのんびりと商店街を進んでいった。


 その時、


「あ? なにおまえ? チョウシのってんじゃね~ぞ!? あん!?」


「いいから金出せっつってんだよデブ!! このナイフが見えないんですか~?」


 ……通り過ぎかけた裏路地からそんな声が聞こえてきて、シシンは思わず半眼になった。


 おいおい……エライ典型的なカツアゲやな。そのうちどっかの事典の『カツアゲ』の説明覧に例として出てきそうなカツアゲやで。


 内心でそんなことを考えながらも、シシンは自分の脳内にエロゲのような選択肢覧を展開する。この(オタク)道に片足を突っ込んでから早5年。シシンの脳みそはもう大分取り返しのつかないところに来ていたりする……。


『選択肢1:助ける』

『選択肢2:やめないか君たち! その子が嫌がっているだろ!!』

『選択肢3:いまどきカツアゲなんて、はやらへんでお兄ちゃんたち?』


 ……あれ? なんでやろ? 初めから選択肢があるようでない気がするんやけど……。


 内心で激しく首をかしげながらも、シシンは黙って裏路地に足を踏み入れる。


 そして、


「今どきカツアゲなんてはやらへんで、お兄ちゃんたち? もっと建設的にアルバイトとかしたらどうや?」


「「あ!?」」


――シシンが事件に巻き込まれやすいのは……結局のところ、彼がお人よしだからというのが一番の理由だったりするが。




…†…†…………†…†…




 さて参った。真剣に参った。


 髪の毛を緑と青に染めたあげく、ごついピアスや指輪をじゃらじゃらつけ、顔に入れ墨入れているように見えるシールを張り付けた、『全身全霊で不良やっています』といった雰囲気を醸し出す年上と思われる二人の男が、裏路地に入り込んだシシンを濁った眼で睨みつけている。


 シシンの故郷ではこういった人種は珍しかったりするのだが(夜回り警備をしている《修験者》の暑苦しいジジイたちがマジで化物なので)、いないわけではない。


 つまり喧嘩することはシシンにとって初めてではなかった。残念なことに父親からもらった《護身用》の道具は部屋に置いてあるが、コブシ一つでも十分戦える自信がシシンにはある。


 相手が異能の力を使わない場合に限るが……。


 そして、ここは超能力者がとんでもない勢いで量産され続ける学園都市。この二人が超能力者でない可能性の方がむしろ低いくらいだ。


 あれ? よ~考えたらこれ死亡フラグ? いや、待つんや、シシン! 健吾も言うとったやん! この第六は高レベルの能力者の生産があんまできひんから、財閥からの援助が少ないって! こいつらが超能力者やない可能性の方が実は高いかもしれへんやん!!


 内心で若干の動揺をしながらも、シシンは呆れきった感情を声に乗せて男たちを諭してみる。


「いや……ほら。金がほしいんやったらな……働いたらええんちゃうかな~って」


 若干及び腰になっていた……。顔も引きつっていたりする。それはそうだ。今朝捉えた痴漢は丸腰で襲ってきたが、どうやらこの男たちは武器を持っているらしい。徒手空拳でそんな奴らと戦うなんて、正直シシンは遠慮したい。


 そんなシシンの弱気な態度に気付いたのか、男たちはにやにやと下卑た笑いを浮かべながらナイフを取り出した。


 残念なことにこの大陸にも、シシンの故郷の大陸にも、銃刀法違反という言葉は存在しない。そのため彼らが持っているナイフは、若干刃渡りが長めの殺傷能力が高そうなアーミーナイフだった。


 《護身用》の道具もってくるべきやったかな~。


 今朝の自分の失態を恨めしく思いながら、シシンはいつでも行動を開始できるように足に力を入れる。


「ああ? なんだお前? 俺たちに募金しに来てくれたのかな~」


「今なら財布の中の金、全部おいて行ったら許してやらないこともないぜ~。それとも財布ごとおいてく~? ギャハハハハハハ!!」


 うわ~。いまどきあんな笑い方する人初めて見たわ~。漫画の中だけやと思ってたで……。


 男たちのちょっと壊れきった笑い声にドン引きしながら、シシンはすっと男たちにつかまっていた人物に視線を移した。


 男たちにカツアゲされていたと思われる人物は、どうやって裏路地に入ったんやろ? と思わず首をかしげてしまうほどの巨漢の男。


 腹の脂肪の塊がタプタプ揺れており、顔は丸みを帯びて何となく優しそうな印象を受ける。身長が190cmぐらいありそうで、かなり威圧感があるが、その愛嬌のある顔でその威圧感は相殺されていた。


 はぁ~。またフラグは立たへんへんかったか……。内心で自分の運のなさに大きくため息をつきながら、「はよ、にげてー」という意思を込めた視線を飛ばす。


 別にアイコンタクトが通じなくとも、獲物が自分に移ったことで勝手に逃げていくだろうとシシンは踏んでいた。今までの経験から、普通の人たちは必ずそうしていたからだ。


しかし、


男はどうやら普通の人ではなかったみたいで、


「せっかく助けてもらったのに、助けに来たのが可愛いヒロインじゃないとかどんだけ~」


「こっちのセリフや!?」


 男のあまりに気の抜ける発言に、シシンは思わずツッコミを入れる。ツッコミ、ボケ、ツッコミと目まぐるしいジョブチェンジを遂げる自分に嘆息しつつ、シシンは男たちの様子を見るため再び視線を戻す。


「あ、そういやコイツいたな。おい、逃げないように見張っとけ!」


「りょうか~い」


 アホォオオオオオオオオオオ!? 思いっきり思い出しとるやん!? 俺が助けた意味ないやん!?


 シシンが内心でそんな絶叫を上げる中、巨漢の男はもそもそした口ぶりでこうつぶやく。


「え~っと……見知らぬ同級生。助けて?」


「同級生? え? マジで? 冗談ではなく?」


「君の襟についているのは高校一年のバッジなんだな~。それも第六学園都市立大学付属高校の。僕も同じ学校に通っているはずだから、だいたいの形は分かるんだな~」


 ああ、それで俺の学年……というかあの体格で俺と同い年かいな……。脂肪はともかく身長は若干分けてほしいな……。ってか、『はず』ってなんや?


 内心でそんなくだらないことを考えつつ、シシンはナイフを構えてニヤニヤ笑う男をへと視線を戻す。


「で? どうすんだよ? 俺たちに金を置いて帰るか? それとも痛い目を見て金を置いていくか?」


「そんなん決まってるやん……」


 男の発言を聞いた後、シシンはにっこりとした笑みを浮かべて一言、


「おまえをしばいて金を巻き上げる」


 その言葉をシシンが告げた瞬間、シシンの体はナイフを構えた男の前に突然出現しており、男の顎をアッパーカット気味に振りぬいたコブシで、見事に打ち抜いた!

念のため方言解説。


「しばく」とは「殴る」「たたく」または「痛い目にあわせる」という意味で使います。


 もし違ったら本場の方、教えてください。


 主人公の性格の大幅改定を行いました!!


 いやいや……。めんどくさがり屋とかいらんやろ、コレッ!!


 といわんばかりに、芸人的性格一極型の性格にしてみました!!


 少しは改善されていると思っていただけたら嬉しいんですけど……。

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