1話
『昨日起きた銀行立てこもり事件を解決したのは、またもあの《魔法大陸》天草からやってきた勇敢な留学生の方々でした。これで彼ら留学してきてから解決した事件は20件を超えましたね』
『いや~。まったく頼りになる子たちですよ。まさしく《魔法使い》といった感じですね。今のところ彼らはいずれ故郷に帰る人間ということで《法律》入所は見送られていますが、次の国家間交渉で彼らの《法律》入りが許可されるかもしれないという噂もありますし……今後の彼らの活躍に期待したいですね!!』
むやみやたらにハイテンションな声で、留学生を賛美するテレビ画面内のナレーターたち。彼らを苦笑交じりに眺めながら松壊シシンはリモコンを操作し、テレビの電源を切った。
ごくごく一般的な2LDKの学生寮の室内には、無数の段ボールが積まれておりシシンがここに来てまだ間もないことを示している。
こいつら、俺らが留学してきたときには『魔法なんて……はっ!! 非科学的ですよ~。げらげら~』とか言っとったのにえらい掌返しよったな~。
といわんばかりの雰囲気を醸し出し、シシンは朝食に使った紙製の食器たちをごみ箱に捨て、食卓の近くに設置してある安物の輪ゴムが入った箱の中に手を突っ込む。
六つの魔法と一つの奇跡が支配する《魔法大陸》天草から、六つの都市と一つの財閥が支配する《学園国家》日ノ本にシシンが留学してから早一週間がたった。今のところ彼は、彼の友人たちが遭遇したような、ブラウン管に映るような非日常的な事件に遭遇したことはなく平和な生活を送っていた。表向きには……ではあるが。
まぁ、あの事件も最後はみんな笑っとったし……万々歳ゆーたら万々歳なんやけど、なんや事件の遭遇率高すぎひん、俺?
コ〇ン君も真っ青やで~。とくだらないことを考えつつ、シシンは輪ゴムを咥えながら髪を後ろでまとめる。そして、上方の最終調整をするために実家から持ってきた鏡の前に座った。
白銀の長髪に、血のように赤い瞳。肌は抜けるような……というか白いペンキでもぶっかけられたんじゃねーの? といわんばかりに白く、ともすれば病的な印象を受けてしまう。日ノ本ではアルビノと呼ばれる色素異常だそうだ。天草にいたころは『小麦色の肌を俺にくれ~』と日光浴を一日中していたのだが、結局肌がひりひりしただけで色が変わることはついぞなかった。おまけに、それを聞いた彼の主治医が、ものすごい勢いで怒ってきたのでもう二度とやらないことを心に誓っている。
そんな色素が抜けた容姿は天草や日ノ本でも非常に珍しく、いろいろと質問攻めにあってしまったが、いまは懐かしい昔話だ。
「まったく……。うちの一族はホンマ難儀なみためしとんで~。おかげで日光浴するだけであんな怒られれるし……。こんな容姿を授けた親父を呪い殺したろか?」
まぁ、そんなんできたら苦労し~ひんけど。と、呟きながら、シシンは腰まで届く長い銀髪を、先ほど箱からつかみ取った輪ゴムを使い肩のあたりでまとめながら台所に向かう。髪をまとめる道具が輪ゴムのところを見ると、あまり見た目には気を使わないたちのようだ。着ている服は制服。一般的な黒の詰襟。シシンは色の中では黒い好みなので、この国では野暮ったいといわれ絶滅しつつあるこの制服に喜んで袖を通している。
シシンはガスの元栓がしまっているのを確認。流しにおいてあった弁当を引っ掴み、台所に立てかけるように置いてあった鞄の中に放り込む。
「ほな、そろそろ時間やし……いってくるわ~」
誰もいない学生寮の一室に、一人さびしく挨拶をしながらシシンは靴を履き部屋を飛び出す。
本日の日時は5月10日。一週間の入学研修を終え、松壊シシンは初めて、高校へと登校する。




